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11.再びの旅立ち


「ええと、獣を喰らうのは駄目なんじゃないのか?」

「駄目ってことはない。やたらめったら見境なしに襲い掛かるのでなければな。

 あと、言葉を使う奴はやめとけよ。話が通じるなら仲間だ」


 ドノドンの言葉に「そうか、わかった」とうなずく。


「我が喰らった獣に言葉を話す者はなかったな。皆ただ逃げるだけ……、いや、最初の奴だけは向こうから襲って来たっけ」

「なに、お前を襲ったのか? ずいぶん無茶な奴だな」

「ああ。四つ足で赤い体毛の、大きな牙を持った奴だ。

 素早い奴で、気付かぬうちに接近されて一瞬で喉を裂かれた」


 ドノドンとゴルガンが顔を見合わせる。


「それで、どうした?」

「捕まえて喰らった。小さい身体のわりに、強いゴウラだったな」

「そいつは多分、赤牙豹というやつだ。まさか、お前が仕留めてくれたとはな」

「へえ、赤牙豹か」

「そいつもお前と同じで、もともとこの森に棲んでいる者じゃない。つい最近どこかから流れて来て、好き勝手に暴れていたんだ。

 俺たちも手を焼いていた、やっかいな奴だ」

「なるほど」


「んで、お前はこれからどうすんだ?」

「ああ、森を出て行くよ。ここはドノドンの森なんだろう? それならそういうことだ。森のことはもうわかったから、先に進む」

「世界一周か」

「ああ。なあドノドン、良かったら一緒に来ないか?」

「そうだなあ。お前と旅をするのは面白そうだけど、やめとくよ。今はこの森を離れるわけにはいかん」

「そうなのか?」

「まあでも、途中までは送ってやるよ。俺もたまには気晴らしくらいしなくちゃな」

「あ、ああそうか。ありがとう」


 ドノドンの妙に沈んだ声に、ヴィーラグアもとまどう。

 意識を読もうと試みたが、不安と焦りは感じられたものの、明確な思考までは読み取れなかった。



      ―――※―――※―――※―――



 旅立ちといっても、とくに身支度が必要なわけでもない。

 二体の獣は、仲間たちに見送られて一路北の草原を目指して歩み始めた。

 森は広く、行けども行けども果てが見える様子はなかったが、進むにつれて植生が少しずつ変化してきていることに気付いた。

 多くの木々が生い茂っているのは変わらないが、森の中心部と較べて、葉が細く枝ぶりも真っすぐに伸びているものが増えて来たように見受けられる。


「もうそろそ、俺たちの縄張りが尽きるところだ。どうだ、分かるか?」

「ああ、なんとなく。草木の様子が違うし、気温も下がったように感じる。捷気のせいか?」

「そうだ。この森は広いが、進むにつれ少しずつ捷気が薄くなっていく」

「ああ、大地の裂け目から離れるとそうなるな」

「別に捷気が薄いからといって生きられないわけじゃないが、生えてる木には影響があるらしい。木の実の味が、俺たちの口に合わなくなるんだ」

「ドノドンは、肉は喰らわないのか」

「蜜たっぷりの蜂は大好物だけど、その程度だな。獣の肉なんかとても食う気はしないよ」

「そうなのか」


 ヴィーラグアにとって喰らうという行為は、栄養補給や嗜好というよりも、相手を理解し己と同化するという意味合いが強い。

 栄養という点で言えば、実は必要性をあまり感じていない。

 なぜなら、自分を形作っているのは、九十九の兄弟と母の肉、そしてゴウラそのものだからだ。

 今の彼の体格はドノドンと同等、高さおいてはわずかに劣るほどだ。だがそれは、あえて動きやすい体型を保っているに過ぎない。

 内に秘めたゴウラを解放し、肉体を自在に操る力を発揮すれば、母のような巨龍へ変化することも可能だということを、本能的に理解している。


「この先には、捷気をまったく感じない土地が広がっている。そこは、奴らの領域だ」

「奴ら?」

「人間どもさ」

「人間………?」


 その言葉は、妙に胸の奥をざわつかせる。母との対話には出てこなかった単語だ。

 いや、本当にそうだったか。

 かすかな記憶。何かを語っていたような気はするが、はっきりとは憶えていない。


「おいどうした、聞いているのか?」

「ああ、すまない。人間というのを、どこかで聞いたことがあるような気がして」

「ははっ、そりゃあるだろうよ。世界の半分を支配し、我ら種族を滅ぼそうと企んでいる悪鬼どもだ」

「我らを滅ぼすだって?」

「そうさ。これまでだって何度も攻め入ってきているし、つい数年前には、西の方で国を作っていた黒龍とその配下のならず者どもを相手に、大戦をやらかしやがって。

 そのとばっちりで、俺たちまでひどい目にあった。

 この森は大きな戦場からは離れていたので、まだマシな方だったが、それでも大勢の種族が、戦に巻き込まれて逃げ込んできたんだ。

 それを追って人間どもが攻め込んできやがって、追い払うのに苦労したぜ」


「そんなことが」

「あいつらは、一体一体は弱っちいもんだが、なにしろ数で攻めてくるからな。それに棒切れを振り回したり石を投げたり、あげくに火まで使いやがる」

「それはやっかいだな」

「ああ、人間どもに較べりゃあの黒龍なんか可愛いもんだったぜ。

 あいつもロクなもんじゃなかったが、それでもあの龍がはぐれ者たちをまとめてくれていたおかげで、無関係の俺達は平和そのものだった。

 けどあの野郎は、人間の縄張りで悪さをしてやがったんだな。

 そのせいで人間どもと戦争になって、あいつは殺され、西の王国は山脈ごと丸焼けにされちまったそうだ」


 ヴィーラグアは、ドノドンの話に耳を傾けながら黙考に沈んでいた。

 数年前か、ならば大地の亀裂に潜んでいた母は、その戦のことは知らなかっただろう。

 だが、自分の父親が死んだのもその頃のはず。

 もしかして、その戦で命を落としたのだろうか。


「さて、じゃあ行くか。人間どもはやっかいだが、世界を回ろうというのなら避けては通れない。進むかどうするかは、見てから決めればいいさ」

「ああ、その通りだ。ドノドンは賢いな」


 急に褒められて戸惑ったのか、口の中でモゴモゴと何かをつぶやく。それから、わざとらしく大声を上げた。


「さあっ、いくぞ!」

「ああ」







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