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35話 鍛冶師たちの歓迎会


「親方に会いたいだって?」


 私とロッキナを上から下までジロジロと見詰めたのは、鍛冶見習いの少年だった。

 胡散臭い目つきが『一体何の用だよ?』と問いかけている。


「私達は本気で鍛冶について学びたいと思っているの。愚民ごときにこの気持ちが理解できるかしら?」

「お姉ちゃんはー、口が悪いけど本気なの~」


「はぁ?」


 少年は『なんなのお前ら』と呆れた様子だ。


「まあいいや。戦争が始まって剣の注文が殺到してんだ。だから親方は少しでも人手が欲しいって言ってたし、女でも使いっ走りぐらいになるかもな」


 少年はブツブツと独り言をこぼしながらも、私たちに鍛冶場を案内してくれた。

 事前情報でいくつかの鍛冶場にアタリをつけていたのだが、ここは特に私が求める条件に適した鍛冶場だと思っている。

 第一にそれなりに鍛冶技術が高く、鍛冶師の評判も良い。

 第二に規模が中堅以下。

 第三に少人数で技術の相伝している。


 この三つの条件が整っていれば、事を秘密裏に動かしやすいと思っている。私の正体が伯爵令嬢とわかったところで、少人数であればその事実を隠蔽しやすい。そして私たちが鍛冶技術を学ぶ上で、自分たちではとても【魔剣】や【精霊剣】を作れないと判断した場合、それらの制作依頼や研究を頼もうと思っている。

 ならば小規模の方が情報漏洩もしにくいと考えたからだ。


「あー、そういや自己紹介がまだだったな。俺の名前はロン。お前らは?」


「マリアよ。私の名を知れるなんて光栄に思いなさい」

「ロッキナでーす」


「はあ。なんかやたら偉そうだけどさ、親方の前でそういうのはやめてくれよ。親方は怒ると雷神トールよりもおっかねえ雷ゲンコツを落としてくるからさ」


「そんな簡単に落とすなんて安い雷ね」

「私、石アタマ~、ゲンコツ砕いて飾る~」


「ああ、ダメだこりゃ」


 なんて悪態をつきつつもロン少年は私たちを親方に紹介してくれた。


「親方~作業中にすんません! この子たちが門弟になりたいって言ってきました! 使いっぱしりでもいいそうなんでちょっと話を聞いてやれませんか?」


「使いっぱしりなんてごめんだわ。それはロンの役割ね」

「私たちは剣鍛冶を学びにきたー」


 ロン少年に話しかけられた大柄の男は作業を中断し、ギロリと私たちに視線を寄越す。


「おい……ロン。人手が欲しいとは言ったが、女は(・・)連れてくるもんじゃねえ」


「なぜですの?」


「……嬢ちゃん、俺はロンと話している」


「ロンの様子からして女性を呼んではダメだと知らなったのでしょう? でしたら私たちも含めて、納得のいく説明をした方が効率的ではなくて?」


「……ちぃっ。いいか、鍛冶場は剣を打つ場所なんだよ。男たちが戦場で命を共にする相棒を鍛え、打つ。そこに混じりっけはいらねえ」


「混じりっけですの? 女性を不純物とでも言いたいのかしら?」


「ああ、邪魔だな」


「あら? 鍛冶師ともあろう者が、女子の一人や二人加わっただけで邪念に惑わされたり、集中力が乱されると言いたいわけ? 無様なのね」


「……そういうわけじゃねえ。女が足を踏み入れていい場所じゃねえと言っている」


「だから、なぜですの?」


「……そもそも女は非力だから鍛冶の役に立たねえんだよ」


「非力じゃなければいいのですわね?」


「はん。威勢がいいのは嫌いじゃねえが、寝言は寝て言えや」


「寝言ではありませんわ。少なくとも、この鍛冶場の誰よりも力があると自負していますわ」


「ああ? そりゃあ、あれか? 権威や財力っつう意味での力を言ってんのか?」


 親方さんの眼力が先ほどよりもさらに鋭くなる。

 まるで獲物に狙いを定める猛禽類のごとく苛烈だ。


「いいえ? 腕っぷしのお話ですわ」


 ちなみに【岩飾りの娘(ドワーフィン)】はその特性上、人族の男性より腕力がある。しかし見た目も身長もだいぶ小柄なので、リーチという点においてはひどく劣ってはいる。


「吠えるじゃねえか嬢ちゃん。そこまでいうなら、もし俺等に腕相撲で負けたらそれなりの覚悟はできてんだろうな?」


「そちらこそ、腕相撲で負けたら私たちに鍛冶の技術を教え込みなさい」


「ぶっはっはっは! 聞いたかお前等! このちっちぇえやんごとなき訳アリ嬢ちゃんが、おもしれえ挑戦状を突き出してきやがったぞ!」


「おうおうおう俺らと腕相撲で勝負ってか! 細っこい腕ごとへし折ってやるぜえ!」

「親方ァ……また面倒事を抱え込まないでくださいよ。この子の綺麗な銀髪は、どう見たって下町の娘って感じじゃないですよ? 服装はアレですけどかなり手入れされてますよ?」

「おらああああああああ! 腕がなるぜええええ! 生意気なクソガキは売り飛ばす!」


 親方の周りには三人の屈強な鍛冶師たちが集まってくる。

 その傍らで、ロンは顔面を蒼白にして私たちを見つめていた。


「……な、なあ……マリア、だっけか? や、やめておいた方がいいって。ほんとに。親方たちはやる時は本当にやる人たちだから……」


「有象無象がいくら集ったところで何の足しにもならないわ。弱者は所詮群れても弱者でしかないのよ」


「おいおいまじかよ。萎縮するどころか挑発とか……マリアたちがこの(あと)どうなるかと思うと……俺は寝覚めが悪すぎるよ。ロッキナだっけか? 姉ちゃん止めなくていいのかよ」


「お姉ちゃんは聖女さまですー負けるはずありませんー」


「はあ? 聖女? もうダメだこの姉妹」


 ロン少年は呆れているが何も心配する必要はない。

 なぜなら仕込みは万全だからだ。


 といのも私はロッキナとお忍びで城下町へ出る際、自らの身体に【王葬界(おうそうかい)の英霊】を降ろしている。

 先日、師匠(パパ)と模擬戦をやり合った時に、マリア(少女)の足りない身体能力を補うために発動した鍵魔法の一つである。

 万が一の危険に備えて、自己強化をしておくのは基本中の基本だ。


「よぉーっし、先手はこの俺! ダグっちゅうもんだ! 嬢ちゃんの腕をへし折る男の名だから、そのちっこい身体によーく刻んでおけよ!」


 腕をまくり、威勢よく腕相撲の姿勢をとるダグさん。

 今の私には、大人が束になっても吹き飛ばせる程の力があるとは知らずに息巻く姿は滑稽だった。

 簡単に彼の胴体ごとねじ切れる腕力なので、ここは手加減をしっかりしておこう。仮にもこれから鍛冶を教えてもらう相手でもあるし。


(わたくし)も楽しみですわ。不遜な貴方に、恐怖を刻みこめるのが」


 私は冷笑で(もっ)て、ダグさんの挑戦を受け入れた。




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