魔力測定
「ところで異界でどうやって稼ぐんだ?」
「え? 知らずに集めてたんですか?」
俺の問いに有栖が「今更何言ってるんですか」というような表情をしながら問い返してきた。
「はい…この魔石を売るだけ?」
「基本的にはそうですねー」
「基本的にはってことは他は?」
「魔物の素材ですね。まぁゴブリンに使えるところはないので、ゴブリンのゲートの場合は魔石ですね」
それは残念だが、前の世界でもゴブリンは同じような扱いだった。
どこでも変わらないんだな。
「あ、でもウォリアーとかジェネラルの装備は?」
「あぁ、棍棒はさすがに売れませんが、ウォリアーとジェネラルの装備は売れますよ」
「まぁ今回は佐伯が倒したってことになったから佐伯のってことになるのかな?」
「いえ、最終的な討伐者としてはそうですが、四パーティでレイドを組んでいたので分配されますよ。ハンター協会経由で事前にお互いが指定した割合で勝手に入ってくるはずです」
「なるほどなー……ん? 事前ってそんなの決めたっけ?」
「あの後決めましたよ。聞いてなかったんですか?」
「ごめん…」
どうやら佐伯が倒したことにすると決まった後に分配率を話し合って決めていたらしい。
今回は俺が倒したんだけど、佐伯が倒したことにするってんで怪しまれないように佐伯のパーティが40%、俺たち以外の二パーティが25%ずつ、で俺たちが残りの10%。
人数が他のパーティは五人に対して俺たちは二人だし妥当な割合だと思う。
そんな話をしていると扉がノックされた。
「どうぞー」
声をかけると、会社の黒服が入ってきた。
「ハンター協会の獅童様がお見えになられています。お通ししてよろしいでしょうか?」
来たか。個別に確認したいと言っていたしな。
有栖とアイコンタクトをとって、設定通りに答えることを確認する。
「はい。お通ししてください」
黒服と入れ替わりで獅童が部屋に入ってきた。
相変わらずの高身長イケメンっぷりだ。
「失礼します。蔵屋敷 蓮さんで間違いないでしょうか?」
「えぇ、俺が蔵屋敷 蓮です。どうぞそちらへ」
部屋の壁際に設置された応接用のソファへ誘導し、対面に座る。
「それでは……まずはこの測定器に触れていただいてよろしいでしょうか」
獅童が差し出したのは、魔力測定器という機器だ。
覚醒したものは須らく魔力をその体に備えていて、常に一定の魔力を纏っている。
その魔力の多寡で力量を測って大凡の実力、ランクが分かるそうだが……それは俺以外の覚醒者の話だ。
魔力操作を理解しておらず、与えられたものを使っているだけなら、魔力の操作もできないものがほとんどだろう。
勿論全員がそうだとは思わないが。
魔力を抑えて、ブロンズ級と判定される量に調整してから測定器に触れた。
獅童が測定器に表示される数値を注視しているが、その数値は獅童の求める値を示すことはない。
そうなるように調整しているからだ。表示された数値は461。ブロンズの魔力範囲に収まっている値だ。
「ふむ……蔵屋敷さん」
「何でしょう」
「どうやら私の勘違いだったようです。失礼しました」
「いえ、お分かり頂けたのであれば問題ありません」
「それではご協力ありがとうございました。私はこれで…あ、そうそう最後に一つ…」
「何で…」
何でしょうか、と声を発しきる前に、殺気とともに獅童が殴りかかってきた。
なるほど、これを避ければ実力を隠しているのがバレるというわけか。
当然避けない。当てる気がないのも見れば分かる。
そして現実もその通りに、紙一重のところで拳は止まっていた。
「うわーびっくりした。 何するんですかー!?」
「蓮様……」
有栖が可愛そうなものを見る目で俺を見ている。
何故だ。
「フフフ。その分かりやすい芝居だけでも十分ですが、今ので瞬きもしない。蔵屋敷さん、あなたは魔力操作ができますね?」
あ……色々と手遅れらしい。
「何故隠しているのかは分かりませんが、それが希望ということであれば、協会としても公開する気はありません」
「あれ、そうなんですか?」
実力相応のランクに強制的にされるのかと思っていたんだけど、違うのかな。
「えぇ、虚偽はよくありませんが、個人情報も重要視されている時代です。協会として正しい情報が登録できていれば、そのままのランクでも構いませんよ。逆を許可したことはありませんけどね」
実際より高いランクでの登録をしたことはない、ということだろう。
確かに何の意味もないし、どちらにとっても良いことにはならないだろう。
「そうですか。それなら良かったです」
「ご理解頂けたところで、本当の数値を測らせて頂けませんけ?」
既にバレているようだし、隠したままでもいいと許可ももらっている。
協会も協力してくれるようだし、まぁいいだろう。
「分かりました」
「ありがとうございます。では、今度は本来の魔力で触れてください」
せっかくだ。全力の数値を測ってもらおう。
「それでは……」
基礎魔力を解放ーー
魔力器官に魔力を流して増大ーー
上記手順を繰り返しーー
途中で部屋の窓が震え始めた。
急激な魔力上昇による魔力風が室内を渦巻いているようだ。
まだ上がるけど、これ以上は部屋が持たないと判断した俺はそのまま測定器に触れた。
◆
この蔵屋敷という男、私の攻撃を涼しい顔をして見切っていた。
間違いなく、私と同じダイヤモンド級か、それ以上……。
さて、一体どれだけの数値が表示されるのか。
「それでは……」
その瞬間だった。
蔵屋敷の体から魔力が溢れ出した。
いや、そんな生易しいものではない。
これは…魔力の暴風だ。
部屋の窓が震える、現実に影響を及ぼす程の魔力。
私と同等?
馬鹿な、その程度のはずがない。
これはまるで……
表示される数値が急激に上昇していく。
ダイヤモンドの基準である4000などとうに通り過ぎた。
私の魔力値である6200も今通り過ぎた。
それでもまだ勢いは変わらずに上がり続けている。
一体どこまで……と考えていたが、終わりは唐突に訪れた。
ボンっ
と小さな破裂音が測定器内部から響き、画面の表示は消えてしまっていた。
「ありゃ…? すいません!? 壊れた!?」
「…いえ、問題ありません」
「そうですか?」
「はい。ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ事情を理解していただいて助かりました」
「いえ。それでは、またご連絡させていただきます」
「また? はい、分かりました」
部屋を後にした後も、私の心臓の鼓動は早くなったままだった。
測定器が壊れる直前示していた数値……測定不能だったということなら、少なくともあれは最低値。
「急いで会長に報告する必要があるようですね」
獅童は足早にハンター協会の帰路へ着いた。
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