004ランクアップ
有栖と目的の門へ向かうと、既に複数のハンターが集まっていた。
ゴツゴツした鎧を纏っている者など、いかにもハンターといった様子だ。
魔法使いらしきハンターはローブを纏って杖らしきものを持ったりしている。
恐らく門で手に入れた物なんだろうけど、パッと見る限りどれも大した性能は無さそうだ。
「すみません、今日の攻略に参加予定なんですが」
「ん? 参加者か。ランクは?」
「ブロンズです」
「ブロンズか。で、見る限りあんたは後衛、後ろの姉ちゃんは前衛か?」
「そうですね」
装備を見れば誰でも分かることだが、念の為の確認だろう。
命をかける攻略なら、少しのすれ違いが死を招くこともある。
「……ってよく見たらその姉ちゃんの剣…は分からねぇが防具、フレイムアリゲーターか?」
「え? あ、はい」
「すげぇいいもん使ってんな……まぁ分かった。それなら十分な戦力だろ。あぁ、自己紹介がまだだったな。俺は佐伯 亮、前衛でタンクをやってる」
タンクってのはまぁ敵の攻撃を受けとめる役だ。
防御に長けた能力を得たんだろう。
「俺は蔵屋敷、こっちは日比谷です」
「中に入ったらパーティ単位で動いてもらうことになる。基本的には各個撃破だな。大物、異界の主が出たら全員でやるって感じだな」
「なるほど、分かりました」
随分大雑把な作戦だ。
まぁブロンズ級なら何かあっても何とでもできるだろうから構わないが……
「それじゃあんたらで最後だからな、もうすぐ出発すんぜ」
今回の攻略のリーダーはあの佐伯という男らしい。
まぁ何とかなるだろ。
◆
「前方からゴブリン5! 左右にも! 囲まれてんぞ! 固まれ!」
ブロンズパーティ4つが背中合わせでゴブリンに囲まれている状況だ。
「まぁそうなるよな」
警戒もせず視界の悪い森をずんずん進めばそりゃ囲んでくださいって言ってるようなものだ。
ゴブリンだし何とかはなってるみたいだけど、これがもっと強い魔物だったらどうするつもりなんだ?
「気になる」
「どうし……くっ! …たん……で…す…か!?」
有栖が戦いながら、大変そうに話しかけてくる。
「有栖、受けるばっかじゃなくて斬ってみな?」
「そ…んなこ…と…言われ…ても!!」
「その叩きつけられてる棍棒でいいからさ」
「むぅ……やぁぁ!!」
体勢を崩しながらも、向かってくる棍棒に剣を横一文字に振り抜いた。
「あれ?」
何の抵抗もなく振り抜けた剣に疑問を持った有栖だったが、目の前の棍棒が半分に斬れているのを見て目を見開いた。
「こ、これ斬れ!棍棒これぇ!?」
「落ち着け。よく斬れるだろ」
ギガントタートルの大牙を素材にしたあの剣、魔法的な付与は何もつけてないが、切れ味は十分だ。
少なくともブランズ級の門であれの相手ができる魔物は皆無だろう。
「よく斬れるなんてレベルじゃ……豆腐でも斬ったのかと思いましたよ!?」
「わ、わかってるわかってる! だから剣を振り回しながら近づいてくるな!」
魔法で対処しなきゃ俺の体だって豆腐みたいに斬れちゃうんだからな!
今回も一応撃退はできたようだ。
俺は後ろからものすごく手加減した魔法でゴブリンを一匹ずつ倒していた。
サボってるなんてことはない。
そうやって何度かゴブリンを倒していると佐伯が怪訝な顔をしながら全員を集めた。
「何か違和感を感じねぇか?」
ハンター達は目を見合わせて、一人が答えた。
「なんかゴブリンの数が多いような気がします」
そういえば佐伯ハンターはこの門に参加しているハンターの中で唯一のシルバー級だそうだ。
他のパーティメンバーがブロンズだから、パーティとしてはブロンズらしいが、実力はこの中では高いのだろう。
「私も思ってました」
ふむ、俺は特別多いとは思わなかったが、まぁまともに門を攻略すること自体はじめてだからな。
異世界と比べても仕方ないか。
何故か違う世界なのに同じ魔物ばかりだから、つい同列で考えてしまうんだよな。
「ランクアップ……」
ハンターの一人が呟く。
そして他のハンター達の視線が集まった。
「まだなんとも言えませんが、ランクアップの兆候の可能性を考えるべきかもしれません」
門のランクアップ。
通常は放置しすぎることで中の魔物が増えていき、進化することで起きるとされている。
「そうだな……じゃあ…」
佐伯が何かを言いかけたとほぼ同時、ゲギャギャ!とゴブリン特有の鳴き声が周囲から届いた。
「警戒!」
切り替えが早い。
戦術など未熟な点はあるけど、素質はありそうだ。
そして奥の木の影からゴブリンが現れるが、様子がおかしい。
「瞳が赤い…?」
距離を保ってゴブリンの様子を伺っていると、ゴブリンの体が魔物特有の赤い魔力光に包まれていく。
「何だあれ…」
光が収まったとき、そこには一メートル程だった体が二メートル程に、手に持っていた棍棒は剣に変わった魔物の姿があった。
「ご……ゴブリンウォリアー!?」
先程と同じゴブリン種ではあるが、強さは比較にならない。
体躯だけ見てもそれは明らかだろう。
「ランクアップだ!! 撤退するぞ!!」
早い判断だ。
無理に戦って窮地に陥るハンターなんていくらでもいるからな。
だけど、それでも少し遅かったようだ。
「ゲギャギャ!」
四方からゴブリンウォリアーが現れた。
さっきのような下位種は一匹もいないようだ。
こっちが十七人、ゴブリンウォリアーは十匹。
数は有利だが囲まれている状況は良くない。
「クソ! 背中合わせで対処しろ!」
これまでのゴブリンと同じ方法だ。
悪くはないが、個体の強さがこちら以上になった今は……思ったとおり、佐伯以外のハンターは防戦一方だ。
中央で守られている俺を含めた魔法系ハンターが攻撃はしているが、ゴブリンより耐久力の高いウォリアーを倒すのに苦戦している。
「ファイアスピアー!」
一発の魔法がうまくウォリアーの目に奥深く突き立った。
脳まで貫通したようで、その一撃でウォリアーは絶命したようだ。
「よしっ! その調子で削っていけ!」
佐伯が迫りくるウォリアーを防ぎながら希望を見出す。
しかしその希望はすぐに砕かれることになった。
「嘘……」
「な…何だよこれ! 何匹いるんだよ!?」
悲鳴のような絶叫をあげるハンター。
何とか耐えているが、後ろから更に増員されたゴブリンウォリアーが来れば、数秒と保たずに崩れるだろう。
「蓮様!? ちょっとさすがにやばそうです!」
「……分かってる。仕方ないな」
初めての攻略で、まさか放置しなければ滅多に起きないと言われてるランクアップに当たるなんて運がない。
隠すとは言ったけど、この状況を見捨てる程落ちぶれてもいない。
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