表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

003有栖の準備

 紅い閃光が走った。


 岩山の頂上付近に、紅の魔力が凝縮されていく。


 そして臨界を迎えたそれは、摂理に従うように甚大な破壊の権化へと姿を変えた。


 空に浮かぶ紅点から、烈火の勢いで紅炎が岩山へと降り注ぐ。


 それはさながら世界に破滅を齎す地獄の炎。


 降り注いだ衝撃で岩山が削れ、吹き飛ぶ。


 そしてそのまま紅炎に焼かれてドロドロに溶けていった。


 巨大な岩山の高さが半分を切った頃、その役目を終えたかのように、空に浮かぶ紅点が消えていった。


「……」


 有栖は茫然自失といった様子で、遠方の岩山を見つめている。


「有栖? ……有栖ー?」


「は、はいぃ!」


 幾度目かの呼びかけで有栖の精神を呼び戻すことに成功したようだ。


「秘密にして欲しいのはこういうことなんだ」


「へっ? あ、いや? でもこれだけ強かったら……!!」


 言いたいことはわかる。


 隠さずにハンターとして活動でもすれば相応の地位も評価も得られるだろう。


 だけど、俺はこの世界のハンター達の力を知らない。


 今の俺は、言ってしまえば上位ハンターにとってはとるに足らない一般人。


 ハンターになったとしても下位ハンターなんて、上位ハンターの目にも入らないだろう。


 だけどもし力があれば興味を持たれることもあるだろう。


 その相手が好意的であればいい。


 または敵対するとしても自分より弱いのならば問題はない。


 この世界でそこまで気にする必要はないのかもしれない。


 それに前の世界では大賢者と呼ばれる程の実力があるという自負もある。


 しかしそれでも、常に最悪を想定する必要がある。


 俺はそういう生き方で生き残り続けてきた。


 そしてだからこそ魔法を研究し続けることができたんだ。


「今は余計なリスクを減らしたいんだ。ずっと隠し続けるわけじゃない。だけど今は秘密にしていてほしい」


 有栖がぷぅっと頬を膨らませる。


「もぅっ! 蓮様にそんなこと言われて断れるわけないじゃないですかっ」


「すまないな」


「謝らないでくださいっ」


「あぁ、すまない」


「だからぁ〜!」


「ははは」


 俺は有栖に酷い扱いをしてきたと思っている。


 だからこれからは、帳消しにできるとは思わないけど、出来る限りのことはしてやりたいと思っていた。


 だけど、俺は楽しいのかもしれない。


 有栖と過ごすこの生活を。


 大切にしたいと思っている。


 だから、遠慮をする気はない。




「異界攻略ぅう!? 隠す気あるんですか!?」


「いや、だから異界攻略の参加だって」


 異界に入ってただ魔物を狩ることと、攻略することとはまるで違う。


 異界の主、単純にボスとも呼ばれるが、その門に対して強力な魔物が必ずいるからだ。


 勿論その強さもピンキリなので、ブロンズパーティで倒せることもあれば、複数パーティの連合でも厳しく上位のハンターでなければ倒せないこともある。


「参加とはいっても戦うんですよね?」


「当然手加減はするさ」


「はぁ……いつまでに準備すればいいですか?」


「準備? なんの?」


 準備とはなんだろうか。


 勿論一般的にハンターが常備するものは用意するつもりではあるけど。


「私、今は蓮様のお世話が主なんです。ハンター時代の装備とかももうボロボロで使えないですし」


「え?」


「え?」


 有栖の装備がボロボロ……それが何の関係が……


「もしかして、有栖も行くつもり?」


「え? むしろなんで行かないと思ったんです?」


「……」


「……」


 有栖の瞳は真剣だ。


 まぁ、俺と一緒なら大丈夫だろう。


「…分かったよ。行こう」


「当然です。それで、いつまでですか?」


「いつまで…あぁ、準備の話か。明日の朝七時出発予定だよ」


「…はぁ!? 今何時だと思ってるんですか!? 夜の八時ですよ!? お店ももう閉まってるんですけど!?」


「あ、はい。えっと、じゃあこれを……」


創造(クリエイト)


 魔力が凝縮されていき、イメージ通りの剣が現れた。


「あとはこれとこれとーー」


 有栖が動きやすいようにレザーの素材を主に使った防具なども作成していく。


 レザーの素材はフレイムアリゲーター。


 確かこの世界だとゴールド級の門に出る魔物だったか。


 前の世界だと普通に森の奥にいたりしたんだけど。


 ちなみに創造は何でも作れるわけじゃない。


 一度はその素材を手にとって鑑定で詳細を知る必要がある。


 倒す必要はないので素材を買うか、創造は前の世界でも知られていない魔法だったので店で手に取れる素材なら取り放題だ。


 さて、有栖はというと目を丸くしてまた精神がどこかへ旅立っているようだ。


「有栖? ほら、これでいいだろ?」


 ついさっきまで何もなかった机の上には、フレイムアリゲーターの素材を使った防具に、ギガントタートルの大牙が素材の西洋剣だ。


「あれ? もしかした刀とかのほうが良かった?」


「いえ、これでいいです……じゃなくて!? これどこから出てきたんです!?」


 机に置かれた装備に身を乗り出して迫る有栖。


 その瞳には困惑、混乱などの感情が入り混じっているようだ。


「作った」


「作った!? ……あ、なんか今私悟りました。蓮様のやることに驚いていると身が持たないと」


「えー……」


 まぁ確かに?


 この世界の覚醒したハンターってのは基本一人に一つの能力が覚醒するみたいだし。


 魔法系ハンターといっても火の魔法しか使えなかったり、水の魔法しか使えないらしい。


 恐らくだけど、覚醒でいろんな手順を飛ばして使えるようになってるから、何故、どういう原理で魔法が発動しているか分かってないんだろうな。


 だから自分で魔法を構築することができなくて、与えられた魔法しか使うことができない。


 ちゃんと見たことはないけど、多分そんなに外れてないと思う。


「ま、まぁこれで明日は問題ないね」


「はい。じゃあ朝六時に迎えに来ますね」


「分かった」


 何かを考えないようにしながら、有栖は俺の部屋を出ていくのだった。

お読みいただきありがとうございます。

すこしでも面白いと思っていただけましたら、下の☆☆☆☆☆をクリックして★★★★★にしていただけるとまた書く力になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ