03.奴隷少女は確認する。
私は絶句した……自分のステータス値があまりにも高いことに。
(け、桁がおかしい!こんなんチートじゃ……)
そこまで思って私ははっとした。
(いや待って、これ……敵役のエステルのステータスになってるんだ!!)
私は興奮した。
興奮した理由は私がエステルに生まれ変わっているというのもあるけど、あともう一つ理由があった。
(こ、この展開見た事ある! 異世界物のアニメでよく見たチート展開だ!)
転生物の定番、神様から貰えるチート的なアレ。
私が神様から授かったチートは“高ステータスの付与”と言った感じか。
(いやこの場合だと神様じゃなくて、運営様から貰えた公式チートって所かな?)
私は異世界転生物とかのアニメも好きだから、チートを貰った状態でスタート出来るなんて、そりゃテンションも上がるわけで。
しかも貰えたチート能力は、高ステータスの付与というのが、シンプルかつわかりやすくて助かった。
強い能力でも複雑な能力だったり、使いこなすのが難しいとかだったら、多分私は理解出来なくて詰んでたかもしれないし。
私は開きっぱなしにしていたステータス画面をもう一度見た。
―――――――
名前:エステル
性別:女
レベル:1
HP:10000 MP:1000
力: 1000 魔力:1000
守備:1000 魔防:1000
敏捷:1000 命中:1000
ジョブ:ダークナイト
状態異常:サイレンス状態
―――――――
(うん、レベル1でこれはやばい)
実際のソードファンタジアのゲームだと、レベル1の力の数値なんて10もあれば良い方だ。
なのに、力が1000もあるって一体どういう状態なのだろう……と私は思った。
そして他のステータス値も同様だ、桁が2個は多くなってる。
(要はこれって「強くてニューゲーム」が出来てるような状態だよね)
ゲーム脳な私はそんな事を思いながら、ステータス画面を眺めていた。
まぁでも私のステータス値はプレイアブルキャラとしては桁がおかしいことになってるから、今の例えはちょっとおかしいのだけども。
この世界が本当にソードファンタジアの世界なのであれば、絶対にプレイアブルキャラが持ってはいけないステータス値だ。
これは確実に敵側のステータス……しかもこのステータスは最終シナリオのボス級の値なのだ。
ということはつまり、私のステータス値はラスボス前の幹部戦、毒の剣姫―エステルのステータスになっているのだと、私はそう思った。
前も軽く説明したが、ソードファンタジアのゲームシステムは4人パーティのターン制バトルだ。
そして各ダンジョンやシナリオのボス戦は、そのボス1人との戦いになる。
なので基本的に主人公パーティ4人VSボス1人の戦いになるため、ゲームシステム上、ボス戦のステータス値は主人公達よりも遥かに高い値に調整されている。
それだとボス戦メチャクチャ難しくない?? と思うかもしれないが、実際にメチャクチャ難しいのだ。
レベルを上げて物理で殴るという、ゴリ押しプレイは序盤までしか通用しない。
中盤以降は敵への攻防デバフや、味方への攻防バフ、敵の必殺技に合わせてガードアビリティやすぐに回復を使用出来るように準備したりと、ゲームシステムや敵の行動をちゃんと理解していないと余裕で負ける。
理解してたとしても、終盤のボス戦は少しでも気を抜くと必殺技とかで壊滅する事も多々ある。
この最後まで気を抜けない緊張感のある戦闘が、多くのゲーマーからファンタジアシリーズが支持されている理由の一つでもあった。
ちなみに私はエステル戦で5回ゲームオーバーを食らいました。
まぁそんなわけで、エステル戦は終盤に戦うボス戦だから、それに合わせてステータス値がとんでもない事になっているのかなと私は思った。
しかもレベル1ということは、ここからレベリングをしていけばさらにステータスが上がる可能性もあるわけで。
こんな状況、当然ワクワクしない訳にはいかないのだが……
(でも見た目は完全に子供なんだよなぁ……)
私は当然興奮してるし、ワクワクもしているんだけど……でも正直、この時点ではまだ半信半疑だった。
だって誰がどうみても、私はただの小さい女の子だったから。
だからこれで「ほら、ステータス見てください! 実はこの子終盤のボス並に強いんですよ!」
と言われても、それを鵜呑みに信じれる程私は子供じゃない。いや今の見た目は完全に子供なんだけども。
(ステータスで手っ取り早く確認出来るとしたら、やっぱり力かな?)
魔力とか守備が高いと言われても、正直今の私にはピンとは来ないので、一番わかりやすい力で確かめる事にした。
ステータス値を見る限り、私の力は人間離れをしている事になる。
(あとは確かめる方法だけど……)
私はキョロキョロと辺りを見渡すと、檻の中にいる奴隷達は皆横になって寝ていた。
(あれ、まだご飯食べ終わってないの私だけ?)
どうやら私は長時間考えこんでいたようで、私以外の奴隷達は既にご飯は食べ終わっていた。
私もさっさと食べきった方が良いと思い、先ほど握りつぶしてしまったパンを一気に口の中へ入れた。
モグモグと咀嚼している間に、今度は檻の外を眺めてみる。
この檻は魔王城の地下に作られており、この檻の先には地上に昇る階段があるだけだ。
なので私達がいるこの地下は、奴隷達を収容するためだけの場所ということになる。
(うーん、暗いなぁ……)
明りはその階段付近に設置されている蠟燭の灯のみなので、この地下は全体的にぼんやりと見えるだけだ。
でも、檻に入っている奴隷達を見張る看守役のような者は存在しないことはわかった。
まぁ監禁の仕方がこんなに雑な時点で、見張りもいない気はなんとなくしていたけども。
脱走をしようとする奴隷がいるなんて、魔族は微塵もに思って無いはずだ。
だからそんな無意味な所に見張りを立てるくらいなら、他の仕事をやってもらう、というだけの話だろう。
そして私にとっては、見張りがいないというのはかなり好都合だった。
(これなら少しくらい物音を立ててもバレないはず!)
私は口の中に入れたパンをゴクンと飲み込んで立ち上がり、檻の出入口の扉まで近づいた。
もちろん出入口には南京錠のようなもので鍵が施されているので、この扉から自由に出るというのは無理だ。
檻の形状は、丸い棒状の鉄格子で出来ていて、見た目は刑事物ドラマとかでよく見る留置場とか刑務所のような感じだった。
試しに私はその鉄格子を手で掴んでみたが、ぎりぎり手にはおさまらないくらいの大きさだ。
掴んでみた感覚的に、この鉄棒の太さは500mlペットボトルを一回り小さくした位の太さだと思う。
(結構太いなぁ……)
次にこの鉄格子の隙間がどれくらいの幅か、私は手を当てて確認してみる。
(隙間は……大体10センチくらいかな?)
私はもう一度は鉄格子を両手に掴んで、軽く左右に軽く引っ張ってみた。
ガチャッ、ガチャッ、ガチャッ
(うーん?)
左右に何度か引っ張ってみたけど、ガチャガチャと鳴るだけで、私の感覚としては普通に子供が鉄の棒を引っ張ってるだけの感覚。
もしこの檻を私の力でこじ開ける事が出来るのなら、脱走方法の一つとして使えると思ったのだが……
(やっぱりステータス値は見かけ上の数値なだけで、実際は見た目通りの子供としての力しかないんじゃないかな)
私はもう一度、鉄格子を軽く引っ張ってみる。
ガチャッ、ガチャッ、ガチャッ
金属音が鳴り響いてしまっているが、地上まで聞こえる程の音は鳴っていないので、魔族が地下まで降りてくる気配は一切感じなかった。
もし階段から誰か降りてくる音がしたら私は速攻で横になって寝たふりをしよう、と準備はしてたけど、その心配も無さそうだ。
周りにいる奴隷達も、誰一人として私の事を見たりはしてこなかった、皆横になって眠ったままだ。
(これならもう少し大きな音を出しても大丈夫そうだね)
私はそう思って、今度は鉄格子を全力で左右に引っ張ってみることにした。
(触ってみた感じは……普通の鉄だとは思うけど)
前世の記憶を持っている私としては、人間の手で鉄の棒を曲げたり、ましてや折ったりする事が出来るとは思えない。
しかも今の私は10歳の女の子なわけで。
だから、この鉄格子を少しでも曲げる事が出来るのであれば、私の力は異常になっているとわかる。
(よし! それじゃあちょっとだけ本気を出してみますか!)
私は一旦手を鉄格子から離してから深呼吸をして集中力を高める。
すーはー、すーはー
数回深呼吸をして、再度私は鉄格子を掴みなおして力を込めた、そして……
(せーっの!)バキッ!
全力で引っ張ろうとしたけど、一瞬で力を緩めた。
(……え?)
引っ張った瞬間に「バキッ!」っという……確実にヤバい音が鳴ったからだ。
私はかなり焦った、心臓もバクバクしている。
音もそれなりに大きかったから上から魔族が降りてくるんじゃないかと思い、私は掴んでいた鉄格子を離して、すぐに檻の奥側まで逃げた。
そしてそのままスライディング気味ですぐに横になって寝たふりをした。
(私は寝てます 何も見てません 聞いてません わかりません ぐーぐー)
数分経ったが、上から誰も降りてこなかった。
どうやら音は地上までは届いてなかったらしい。
(あ、あぶなかった……)
私は立ち上がり、先ほどの掴んでいた鉄格子の所まで戻った。
そして私は掴んでいた鉄格子を確認しようとした。
ただ確認しようにも辺りが暗いから、判断が難しい……と思ったのだが……
(暗くてわかりにく……いや、ちょっと待って……あれ?)
私が握っていた鉄格子の上側に亀裂の跡が見えた。
それもぼんやりと跡が見える……というわけじゃなくて、はっきりと亀裂の跡が見えたのだ。
亀裂の深さがどれくらいかは流石にわからないけど、どうやら折れてしまったわけではないようだ。
(よ、よかった……)
全力で引っ張っていたら確実に折っていた。
そんな事をしてしまったら、魔族は異常を察知して、これからは檻に見張りを付けるかもしれない。
そうなったら脱走方法の一つを台無しにしてしまう所だったので、そうならずに済んだことに私は安堵した。
そして先ほどの結論も出た。
今のは確実に人間離れをした力、そして視覚もそうだった。
これはつまり……
(私のステータス値……本物だ!)
先ほどまでは半信半疑だったけど、今はもう疑っていない。
私はこの地獄から抜け出すための最高のチート能力を手にしたのであった。