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20.元奴隷少女は散策する。

ソフィアが目を覚ましてから数日が経過した。 その間私はマリーナの好意に甘えて、マリーナの屋敷に泊めてもらっていた。


ソフィアの容体については、マリーナの治癒技のおかげで怪我は無事に治り、今では元気に歩き回れる程にまで回復していた。 そんなソフィアの元気な姿を見ることが出来て、私とマリーナは本当に良かったと心から安堵した。


「ほら、こっちだよ!」

「うん」


そして今日はソフィアと一緒にヤマウスを散策しているところだった。 私はヤマウスに訪れたのは今回が初めてだとソフィアに言ったら、ヤマウスの道案内を引き受けてくれたのだ。


でもソフィアはまだ病み上がりだから遠くに行くの駄目だとマリーナに止められたので、今日は露店通りまでの案内をソフィアにお願いした。


あの露店通りならマリーナの屋敷からそこまで離れてはいないし、私自身とても興味がある場所だったのでちょうど良かった。


「あともう少しで着くからね」

「うん、ありがとう」


ソフィアに道案内をしてもらい、私は辺りの街並みをキョロキョロと見渡しながら歩いていた。


(やっぱり私の知っているヤマウスとは違うんだなぁ)


ヤマウスのマップ構造はソードファンタジアと同じなのだけど、建てられている建物やお店、住んでいる人々の層が全然違うというのが、私には何だかとても不思議で新鮮さも感じた。 いや、実際にはヤマウスに訪れるのはこれが初めてなのだから、新鮮に感じるってのはちょっと違うような気もするけど。


「あ、着いたよ! エステルが見たいって言ってた露店通り」

「わぁ……人が沢山いて凄い賑わってるね! 何だかお祭りみたい」

「あはは、そうだよね! まさに都会! って感じがして楽しいよね」


私達は露店通りに到着する事が出来た。 時刻は既に正午を過ぎていたので、露店通りは人で凄い賑わっていた。 私達はその露店通りで売られている物を眺めながら、周辺をぶらぶらと歩き回ってみた。


「へぇ、色々な物が売られているんだね」

「うん。 欲しい物があったらここに来れば大体は揃うって、マリーナさんが言ってたよ」


露店通りで売られている品物は、日常用品や食料、武器に回復用アイテムなど、本当に幅広い物が売られていた。 それと見ただけでは用途がわからない品物も沢山あったので、その都度ソフィアに色々と質問をしながら露店を見て回っていた。


(沢山の露店があるから見てるだけでも十分楽しいや)


私はお金を持っていないから何も買う事は出来ないけど、それでも売られている物を眺めているだけで十分楽しく思える場所だった。


「……懐かしいなぁ」

「うん? 何かあったのソフィア?」


露店通りを歩き回ってからしばらく時間が経つと、ふいにソフィアがそう呟いた。 懐かしそうに呟いていたのが気になったので、私はそれについて聞いてみた。


「あぁうん。 もうかなり昔の事なんだけど、私この露店通りで迷子になっちゃったんだ。 まぁすぐに兄さんが私の事を見つけてくれたんだけどね」

「あ、あぁそうなんだ」


やっぱりあの精霊の湖で見た不思議な夢はソフィアの夢だったんだなと、改めて私はそう思った。


「それでね、兄さんと一緒に帰る途中にこの露店通りで、その首飾りを買って貰ったんだ。 それも兄さんとお揃いでさ」

「え……?」


私は自分の首に着いている赤色の首飾りを思わず見た。 壊れかけていた留め具部分はマリーナに頼んで数日前に直してもらった。


「ふふ、でもそのせいで兄さんの財布がすっからかんになっちゃったんだ。 ちょっと申し訳ない事しちゃったかな」

「そ、そうだったんだね。 で、でも……本当に良いの? そんな大事な首飾りを貰っちゃって……」


私はこの首飾りを何度も返そうとしたのだけど、ソフィアは頑なに受け取ってはくれなかった。


「うん、いいの。 きっとこれは、これからのエステルに必要だと思うから」

「で、でも……それに、この真ん中に付いてるのって宝石なんじゃないの? これって高価な物なんじゃ……」

「そんなの気にしなくいいよ、私がエステルに持っていて欲しいって思ったんだから。 あ、そう言えば知ってる? 石にはね……不思議な力が宿っているんだってさ」

「不思議な力?」


私がそう聞き返すと、ソフィアは少し自慢げに喋ってきた。


「うん、そうなんだって。 それでね、その首飾りに付いている石の名前は“柘榴石”(ざくろいし)って言うんだけど、エステルはその石は知ってるかな?」


(柘榴石って確か……ガーネットの事だっけ?)


ソードファンタジアの世界でも同じ宝石の事を指しているのかはわからないけど、私が住んでいた日本ではガーネットという宝石の事を別名で柘榴石と呼んでいた。


(ってことはやっぱりそれなりに高価な物なんじゃないの?)


“お兄さんの財布がすっからかんになった” ってさっきソフィアが言ってたし……あれ? でも待って……?


(お兄さんと……お揃いで?)


私はその言葉に少し引っかかった。 それと……私はつい最近、青色の首飾りを身に着けた“化物”と遭遇した事も覚えている。 あれは……今まさに私が身に着けている赤色の首飾りの色違いだった。


(……え? ってことは……まさか!?)


私は酷く動揺しながら自分の首に着いている首飾りをもう一度見た。 そんな挙動不審な私の姿を見てソフィアは訝しげな表情でこちらを見てきた。


「ど、どうしたの?」

「あ……い、いや。 うん、名前だけは知ってるよ。 でも不思議な力って何なの?」


動揺している内容について考えるのはひとまず置いといて……今はソフィアの話を聞く事に戻った。


「あ、じゃあ教えてあげるね。 柘榴石は実りの象徴って言われているんだ。 だからこの石を身に付けて一生懸命頑張ると、その努力がちゃんと実るんだってさ」

「へぇ、そうなんだね」


それはまさにソフィアにピッタリな宝石だなと、私は思った。 でもソフィアの話にはまだ続きがあった。


「でもね、それだけじゃないんだ。 柘榴石は生命の象徴でもあるんだ。 だから、怪我とか死とか、命の危機から柘榴石が守ってくれるって言われているんだ」

「あ……」

「だから私が生きて君と出会う事が出来たのは、もしかしたらその首飾りのおかげだったのかもしれないね」

「ソフィア……」

「あはは、まぁ今言った話は全部、その首飾りを買った露店のお姉さんに言われた話なんだけどね。 だから不思議な力じゃなくて、本当はおまじない程度の話なんだろうけどね」


あはは、と、ソフィアはそう小さく笑っていた。


「エステルはこのあとゼヘクの方に行くんでしょ? 私はここでエステルの安全を祈っておくからさ……だから、その首飾りはお守りとして貰っておいて欲しいんだ。 まだまだこの世界は平和じゃないから……」


そういうソフィアの顔は悲しそうに見えた。 きっと死んでしまった家族の事を思っているのだろう。


「……うん、わかった。 それじゃあ、貰っておくね。 絶対に大事にするから」

「うん、そう言ってもらえると、私も凄い嬉しいよ。 ……よしっ! それじゃあもうそろそろ帰ろうか。 あんまり遅いとマリーナさんが心配しちゃうしね」


そんなやり取りをして私達はマリーナの屋敷に戻っていった。

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