おまけ01.新作ゲームを買いに行く!
奈津子さんがエステル嬢に転生するまでのオマケ話(1/3)
少し長くなりそうだったので、現代パートはおまけという立ち位置にしてみました。
ソードファンタジー大好きっ子の春奈津子さんがエステル嬢に転生するまでの話です!
仕事を終えた私の足取りは軽かった。
それは今日は残業が少なかったからだとか、明日から土日休みだから家でゴロゴロ出来るとか、まぁ色々と理由はあるのだけど、一番の理由は……
「今日は新作の発売日ー♪」
待ちに待った新作ゲームの発売日だからだ!
鼻歌交じりに会社を後にした私はそのまま某家電量販店に向かった。
某家電量販店は駅前に建っているので、会社から帰るついでに来れるから凄い便利だ。
時刻はちょうど19時を過ぎたところ。
閉店までまだ時間はあるけど、少しでも早く目当ての商品を手に入れたかったので、私は早足気味で向かった。
「早く帰ってやりたいなー」
家電量販店に着いた。
私はすぐさま4階のゲーム売り場に向かい、そのままレジ待ちの列に並んだ。
待っている間に私はサイフに入れていた予約券を取り出しておく。
「いらっしゃいませー。お次にお並びの方、こちらのレジへどうぞ。」
店員さんに呼ばれたのでレジに向かった。
「あ、予約した物を取りに来たんですけど、これお願いします。」
そう言って店員さんに予約券を渡した。
「ご予約ありがとうございます。FS5用ソフトのソードファンタジア初回限定盤ですね。只今商品をお持ちしますので、少々お待ちください。」
そういって店員さんはレジの奥に行き、数十秒後に大きな箱を持って帰ってきた。
「お待たせしました、こちら初回限定版となります。そしてこちらが店舗特典のタペストリーとクリアファイルとなりますね。」
(きたきたきたああああああ!!)
商品説明をしながら紙袋に入れていく店員さんを見ながら、私は心の中でガッツポーズをした。
もちろん現実でやったら痛い奴に見られちゃうから心の中でだけね。
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1年前、深夜0時。
―ついにあのファンタジアシリーズが帰ってくる!―
「・・・は?」
私は深夜アニメを作業用BGMにしながら、仕事で使う資料の作成をしていた。
資料作りに集中していたのだが、そのCMが流れてきた瞬間キーボードを動かしていた手が止まった。
そしてそのままテレビの画面をじっと見つめた。
―全てのRPGファンに向けた王道RPGゲーム!―
「おいおい待て待て待って!二年近く音沙汰無かったのにいきなり新作!?」
―ファンタジアシリーズ20周年記念作品 ソードファンタジア―
「え!?ファンタジアシリーズってもう20周年になるの!?いやそんなことどうでもいい!」
―来年冬発売予定!―
「き、きたあああああああ!新作きたああああああああ!!」
私、春奈津子は深夜にアパートの中で発狂していた。
「「ドン!!」」
その結果隣の部屋から壁ドンを貰った。
26歳にもなって初めて壁ドンを貰うとは思わなかった。
小声で「す、すいません……」と言って静かにした。
でも私のテンションがこんなに上がったのには理由がある。
(きたよ新作!!この日をどれだけ楽しみにしていたことか!!)
ファンタジアシリーズの最新作が出るなんていう話は今まで一切話題に出ていなかった。
それが唐突にCMで告知してくるとかサプライズすぎるだろ!
ファンタジアシリーズは日本で大人気を誇っているロールプレイングゲームだ。
最初に発売した1作目の「ブラックファンタジア」は、私が小学一年生の時に発売された。
そして私が生まれて初めてプレイしたゲームでもある。
そこから見事にドハマリしてしまい、新シリーズが出る度に初日に購入し、寝る間も惜しんでプレイしてきた。
学生の頃は発売日当日に購入して、そのまま連日徹夜でプレイしていたのが懐かしい。
流石に社会人になってからは徹夜でプレイする事は無くなったけど、それでも未だにファンタジアシリーズの新作が出たら発売日に購入するくらい好きなゲームなのだ。
ファンタジアシリーズのゲームシステムは、4人パーティのターンバトル制で、武器や魔法を駆使して戦うファンタジーゲームだ。
人気の理由はゲームの難易度がそれなりに高く、隠しダンジョンやクリア後の追加コンテンツなどのやり込み要素も多いので、ゲーマーにとってはかなりやり応えのあるゲームになっているからだ。
またゲームシステム関連以外でも、イラストやBGM、ゲームシナリオにも凄い力を入れているので、あまりゲームをやらないライト層からも評価は高い。
メインシナリオは主人公が悪のボスを倒しにいくという一本道のストーリーだけど、サイドシナリオも充実していて、全クリを目指すには相当な時間を要するゲームとなっている。
そんなわけで昔から根強い人気を誇っているファンタジアシリーズなのだが、その20周年記念作品が発売される、という発表がいきなりされたらそりゃテンションも爆上がりするわけで!
「というかもう20年も経つのか……」
……いや考えるのはよそう、今は新作についてだけ考えようじゃないか!仕事の資料作りなんてもうヤメだ!
私は資料作りをしていたパソコンをそっと閉じた。
そしてスマホを取り出して、すぐさま気軽に呟けるサイトでお馴染みのトイッターを開いた。
予想通り、トレンドの上位に「ソードファンタジア」の文字が出ていた。
タイムラインもファンタジア関連で埋め尽くされていた。
「ふへ、ふへへへへ。」
オタク特有のニヤケ面をしてしまったが仕方ない。
だって私はファンタジアシリーズが本当に本当に大好きなんだから!
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そんなわけで発売日当日。
仕事を急いで終わらして予約したソードファンタジアを受け取りに来たというわけだ。
そりゃあ足取りも軽くなるわけです。
店員さんが商品を全て入れた紙袋を私の方に寄せてくれた。
「ありがとうございます。」
顔もニヤケそうになってるけどなんとか堪えた私。
平然を装いながらそう言って店員さんから紙袋を受け取った。
「あと、こちらもどうぞ。」
そう言って店員さんは抽選箱を出してきた。
「これは……なんですか?」
「こちらは早期購入者特典のランダムアクリルキーホルダーとなります。箱の中に入ってますので、この穴から一つだけ引いてください。」
へぇ、そんなオマケもあったんだ。
抽選箱の周りにはデフォルメ二頭身の可愛らしいキャラ達が描かれている。
きっとこれらのアクキーが当たるんだろう。
ゲームの予約が開始された時に速攻で予約しちゃってたから、早期購入特典があるなんて知らなかった。
(ランダムだから無理だろうけど、どうせなら主人公のアーク君が当たって欲しいな。)
主人公のアークは16歳の田舎の村に住んでいる心優しい少年。
アークの住んでいる村には、かつて存在した英雄とその英雄が所持していた聖剣が祀られている。
ひょんなことからアークは祠に向かい英雄の所有していた聖剣を手にして、そこから冒険者の道が始まる、というのが今回のあらすじだ。
アークのキービジュアルはちょいショタが入った感じの可愛らしい少年だった。
CVもビジュアルにピッタリだし性格も良い子なので、公式サイトのキャラ説明を眺めてた時に「へへっ」とニヤケたのは内緒話だ。
(どのキャラでもいいけど、どうせ当てるなら主人公がいいなぁ。)
そう思いながら、私は抽選箱に手を入れて一つ引いた。
剣を片手に持った軍服少女だった。
(これは確か……エステルだっけ?)
公式サイトのキャラ紹介では3人目に紹介されていたから主要キャラだと思っている。
アークが最初に訪れる都市で出会う軍人の女性で、確か年齢は18歳。
軍からの命令を受けて魔王討伐を目標にしているアークのパーティに加わる事になり、主人公達のことをサポートしてあげるお姉さん。
軍服を着ていて凛々しいように見えるが、笑顔が絶えない子で、都市に住んでいる住民からも愛されている、という感じの説明だった気がする。
このアクキーもデフォルメ二頭身になっていて非常に可愛らしい。
(この子も可愛くて良いね!)
手にしたアクキーも紙袋の中に入れて、店員さんにぺこりと頭を下げてレジから離れた。
「ありがとうございましたー!お次にお並びの方――」
さぁ、早く帰ってゲームを楽しむぞ!
ウキウキしながら私は急いで自宅のアパートに帰った。
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アパートに帰ってきた私は、仕事用のカバンと紙袋をリビングに置いて今後の予定を考えた。
今日は金曜日、そして土日は休みで予定も一切無いからずっと引きこもれる。
ということは、今から月曜日の朝出社するまではずっと自由な時間だ。
大体……55時間くらい?
いやそんな不眠不休でゲームをやるわけじゃないけど。
長時間ゲームをやる程の気力は無いし、集中力も続かないだろうし。
多分頑張っても20~30時間くらいが限界かな。
「まぁ、それだけあればクリアするだけならいけるでしょ!」
サイドシナリオとかやり込み要素とか周回要素とかはひとまず置いといて、まずは一直線にシナリオクリアを目指す。
それが終わってから、色々なやり込み要素に挑戦しよう!
今後の方針は決めたし、今すぐにでもゲームを始めたいけど、まずはその前に……
「よし、それじゃあまずは引きこもるための非常食を買ってきますか。」
私は自炊はする方だけど、この土日だけはご飯を作る時間すら惜しい、外食も絶対に嫌だ。
この土日だけはソードファンタジアのみしか考えないで済む環境を整えたい。
でもカップラーメンやゼリー飲料、エナジードリンクなどの類を私は常備していない。
ということでアパートに帰ってきてすぐだけど、今度は近くのコンビニに向かうことにした。
さっきから顔がニヤニヤしっぱなしだけど、今後の方針を決めた私は頬を両手で叩いて気を引き締めた。
そしてゲームの入っている紙袋に右手の人差し指をビシっと突きつけてニヤっと笑った。
「待ってろよ……すぐにエンドロールまで行ってやるからな!」
そう言って私はすぐにコンビニに向かうのであった。