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16.元奴隷少女は到達する。

「わ……わわっ!」


意識を取り戻したソフィアは急に抱きしめられてビックリした顔をしていた。


「あ、ご、ごめんっ……!」

「う、ううん、大丈夫……って君!? 一体どうやって!? いやというかここ何処? それに、えっ、君喋れたの!?」


ソフィアは色々と混乱しているようだった。


「聞きたい事は沢山あると思うけどあと少しだけ待って。 もうすぐヤマウスに着くから」

「え? ……あっ……!」


私はここから見えているヤマウスの外壁の方向に顔を向けた。 それにつられてソフィアも外壁の方向に顔を向けた。


「ヤ、ヤマウスだ……」


ソフィアはそう一言だけ呟いた。 今もまだ信じられないような困惑した表情を浮かべていた。


「な、なんで!? ……っつぅ……!」


でもすぐにソフィアは辛そうな表情になり、自分の足を抑えだした。 そうするのも当然だ……私は石化を解除しただけであって、ソフィア自身の体はボロボロのままなのだから。


「って、そ、その手! ど、どうしたの!?」


私はソフィアの手を見てぎょっとした。 右手が大きく腫れており、血もポタポタと流れ落ちていた。 ソフィアは足以外にも大きな傷を負っていた。


「え? あ、い、いや気にしないで、大丈夫だから……!」


ソフィアはそう言って答えをはぐらかした。 でもこんな事が出来る奴なんて私は“アイツ”しか思い浮かばない……


「で、でも……まだヤマウスまで距離があるけど……ど、どうしよう……?」

「それは大丈夫。 よいしょっと……!」


不安そうな顔をしているソフィアの事を私は両手でを抱き上げた。


「え? わわっ……!」

「落とさないから私に摑まっててね」


私はソフィアを抱き上げながらヤマウスを目指して駆けだした。 私のこの身体能力なら、ヤマウスまではもうすぐに到着出来るはずだ。


「き、きみ、自己強化が出来るんだね……! す、すごい……!」

「え? ……あ、あぁ……うん、そうなんだよ」


自分の今のステータス状態をどう説明すれば良いかわからなかったので、ソフィアが言ってきた言葉にそのまま頷く事にした。


(そういえば私って、今のステータス状態でバフ技をかけたらどうなるんだろう?)


ふとそんな事を思った。 でもダークナイトは強化技を覚えないから試す事は出来ない。 せっかく大量のアビリティを覚える事が出来たのにそれが試せないのはちょっと残念だった。


(何のアビリティを取得出来たのかも、あとでちゃんと確認しておかないとね)


ヤマウスについたら自分のステータスやアビリティなどの状況確認を早めにする事を決めた。


(あ、そういえば……)


ヤマウスについて、ソフィアに聞いておかないといけないことが一つあった。


「ねぇ、ヤマウスにはソフィアの知り合いとか、誰か頼れる人とかいる?」


私は走りながらソフィアにそう尋ねた。 おそらくだけど、ヤマウスにはあの人がいるはずだ。 ソフィアは痛みで辛そうな表情をしながらも答えてくれた。


「え? あ、うん、お母さんの友達がヤマウスに住んでるよ。 だからお母さんには、ナインシュを抜けたらヤマウスにいるその人の所に行きなさいって言われてたんだ」

「あ、そうなんだ……!」


私はこれで確信した、あの人はこの時代にもヤマウスに居る。 そしあの人はきっとソフィアの事を助けてくれるはずだ。


(そこまでソフィアを送り届ける事が出来れば、きっとソフィアはそれで大丈夫だよね)


私は内心そう喜んでいると、唐突にソフィアが私に話しかけてきた。


「ねぇ……」

「な、なに? どうしたの?」


ソフィアは額に汗を浮かべながらも、ぷくっと頬を膨らませながら私を見てきていた。


「名前……君の名前教えて貰ってないんだけど……」

「……あっ……」


私は苦笑いをした。 もう教えていたつもりだったけど、そういえば私はソフィアに名乗ってなかった。


それに私にとってソフィアは今も頼もしい相棒だと勝手に思っているんだけど、ソフィアにとって今の私はただの変な少女でしかないんだよね……


私にはそれがちょっと悲しくも思えたけど、でもソフィアとの絆はこれから8年後もずっと続くはずだ。 だから悲しくなんかない。 これからの事を考えたらワクワクと嬉しい気持ちになるよ。


「私の名前はエステル。 伝えるの遅くなってごめん」

「エステル……うん覚えた。 じゃあ改めて……ありがとう、エステル」


ソフィアは辛そうな顔をしながらも小さく微笑んで私に感謝を伝えてきてくれた。 これがこの世界での私とソフィアとの出会いだった。


(あぁ、私はソードファンタジアの世界に本当にいるんだな)


出来る事なら、他の仲間キャラ達にも出会いに行く事が出来ればいいなと、私はそう思いながら走り続けた。


----


都市ヤマウスは円形の外壁で囲まれており、内部に入るためには正門から入る必要がある。 なので私はヤマウスの正門を目指して走っていた。


走っている途中にソフィアはまた気を失ってしまった。 先ほどからずっと辛そうにしていたし、額には汗をどんどんと滲ませていた。


ソフィアの石化を解除出来ただけで、ソフィア自身が危険な状態だというのは変わっていないんだ。 私は急いでヤマウスの正門を目指した。


何とか走り続けてヤマウスの正門の近くまで到着することが出来た。 しかしその正門付近にはナインシュから逃げ延びた人々で一杯だった。 すぐに正門を通るのは……難しそうだ。


門番による検問が正門で行われているようなのだが、門番の数が足りておらず、ナインシュから逃げてきた人々の対応がままならない状態だった。


(ここでずっと足止めされているわけにはいかない……!)


私は小さい自分の体と高い身体能力を利用して、人々の波を上手く掻きわけて無理矢理正門を突破した。


途中で門番から「オイッ!」と声がかけられたけど私は無視して逃げた。 緊急事態だから許してほしい。


「たしかあの人が住んでいる屋敷は……あっちなはず」


私はソードファンタジアの記憶を頼りに、ヤマウスの内部を走って行った。 もちろん私の知っているヤマウスとは雰囲気が全然違ったけど、それでも大まかな都市構造は同じなので、目的地には迷う事なく向かえそうだ。


(あれ、ここって……?)


私はヤマウスの内部を走っていると、何だか見覚えのある光景が見えてきた。 それは先日の夢で見た、露店が並んでいる通りだった。


(あぁ、夢で見た場所ってヤマウスだったんだ)


まだ朝早い時間だから人はまばらではあるけど、露店とか商売人の活気のある雰囲気は夢で見た光景そのものだった。


露店以外にも商業施設のような建物もチラホラと建っていて、私は少しビックリとした。


(まだこの時代のヤマウスは“防衛都市”っていうわけじゃないんだね)


私の知っている都市ヤマウスは、兵士や傭兵、冒険者などの戦う人々が大半を占める、戦闘拠点のような都市だった。


だからこういう露店や商業施設などで栄えている今の様子に私は驚いた。 この時代のヤマウスは“商業都市”という立ち位置なのだろう。


(今後、もっと戦争が激化していったら“防衛都市”に変わっていくんだろうね)


私はそう思いながら、露店や建物を後にして目的の場所へと走り続けた。


----


「着いた……!」


私が立ち止まった先には大きな屋敷が建っていた。


(ゲームで見た屋敷と全く同じだ……!)


その屋敷はソフィアのサイドシナリオで訪れる事になる場所だった。 ここに住んでいる人が私の想像通りなら、きっとソフィアの事を助けてくれる人のはずだ。


「……よし、行ってみよう」


想像しているのと違う人が出てくる可能性も全然あるので、私は少し緊張しながら屋敷のドア前に付いていたドアノックを叩いた。


ドンドンッ!


「……」


屋敷の中からは無反応だった。 こんな早い時間だし、屋敷に住んでいる人はまだ寝ているのかもしれない。


ドンドンドンッ!


今度はドアノックを強く何度も叩いた。 こんな時間に迷惑でしか無いだろうけど緊急事態だから仕方ない。


「…………」


やっぱり中の様子は無反応だった。 それでもめげずに私はドアをノックする事を止めなかった。


ドンドンドンッ!


何度かドアノックを叩き続けていると、ようやく屋敷の中から物音が聞こえてきた。 そしてドタバタと大きな音を立てて、扉の方へと近づいてきた。


「うるさい! 何時だと思ってるんだ!」


屋敷のドアは大きな音を立てて開かれた。 扉の先には20代中盤位の女性が苛立ちながら立っていた。


(やっぱり……居てくれた……!)


その女性はもちろんソードファンタジアに登場するキャラで、私達が会いたかった目当てのキャラだった。


「子供? 全く……悪ふざけなんて感心しな……え? そ、ソフィ!?」


それはソフィアのサイドシナリオでのみ登場するキャラの、ソフィアの母親の友人である“マリーナ・コーウェル”だった。

短編作ったりしてて、投稿が遅くなりました……

暇潰しによければ短編の方も読んで頂ければ幸いです

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