15.元奴隷少女は取得する。
― レベルアップしました。 アビリティを取得しました ―
それは私のレベルアップとアビリティの取得を知らせる音だった。 そのアナウンス音が先ほどからずっと私の頭の中で鳴っていたんだ。
「で、でもそれなら、なんでこんなに何度も音が鳴ってるの……?」
アナウンス音は1回だけ流れればそれでいいはずなのでは、と私はそう思った。
私は急いでステータス画面を開いて、自分の今の状況を確認してみることにした。
「ス、ステータス、オン」
そう呟くと、私の目の前に自分のステータス画面が開かれた。
「なっ……!?」
そのステータス画面を見て私は一瞬で驚愕した。
―――――――
名前:エステル
性別:女
レベル:32
HP:10450 MP:1085
力: 1034 魔力:1036
守備:1030 魔防:1032
敏捷:1035 命中:1037
ジョブ:ダークナイト
状態異常:―
―――――――
「れ、レベル32!?」
私のレベルが一気に跳ね上がっていたのだ。 つい先ほどまで私のレベルは1だったはずなのに。
「さ、さっきからずっとレベルアップ音が鳴ってる理由はこれか……!」
私がレベル1→32に一気になったので、その回数分の音が鳴っているんだ。
そして状態異常の部分には何も表示されなくなっていた。 サイレンス状態が解除されたのだ。
「レベルアップボーナスだ……!」
それはレベルアップボーナスのおかげでサイレンス状態が解除されたようだ。
レベルアップで私のステータス値も昇していた。 でも上昇値はゲームのプレイアブルキャラの時と変わっていないようだ。
まぁ元のステータスが高すぎるし、今の私にとってこれの恩恵はあまり無さそうだった。
「でもなんで一体……」
そこまで考えてすぐに気がついた。 あのガーゴイルだ。
ガーゴイルとはマップやダンジョンの道中でエンカウントする通常モンスターだった。 言い方はちょっと悪いけど、道中に湧いてる雑魚モンスターの1体だ。
でも、ガーゴイルはただの雑魚モンスターというわけではない。 何故ならガーゴイルは、ナインシュ地方でしかエンカウントしないモンスターだから。
ナインシュ地方とはもちろんラストダンジョンの魔王城があるマップだ。 そしてゲーム内でナインシュ地方に行けるようになるのも、もちろん一番最後だ。
つまりガーゴイルは終盤に初登場することになる通常モンスターなんだ。
だからレベル1の私にとってガーゴイルは、経験値が非常に美味しいモンスターという立ち位置になってくれたのだ。
「だからレベルが一気に跳ね上がったんだ。 いやでもちょっと待って、確か私って……!」
そして同時に、私はとある事に気がついた。
今の私はレベル30台に一気に突入して、大量のアビリティを取得する事が出来たんだ。 ということはつまり……!
「アビリティ、オン」
私は急いでアビリティの画面を表示した。
そこには沢山のアビリティ名が並んでいた。 下級技から上級技まで幅広く技を私は取得してくれていた。
「こ、こんなに沢山……!」
数日前にこのアビリティ画面を開いた時は真っ白のだったのに、それが今では画面一杯にアビリティの名前でビッシリと埋まっていた。
そしてそこにはエステルの代名詞と言える上級毒技や、中級麻痺技などもしっかりと記載もされていた。
「違う……これじゃない……!」
でもそんなアビリティはどうでもよかった。 今私が探しているのは全く別のアビリティだったから。
「ダークナイトなら……私なら覚えてくれるはずなんだ……!」
私は今一番欲しいアビリティを必死に探した。 そのアビリティは高火力ダメージ技でもなければ、強力なデバフ技でもない。
どちらかと言えば……そのアビリティはゲーム本編では使い道がほぼ無い“死にアビリティ”だった。
「これも違う……」
だってその状態異常技を使用してくる敵なんて滅多にいなかったから。 それに、そのアビリティの上位互換をヒーラーが覚えてくれるし、そもそも私は途中離脱してしまうキャラだ。
だからソードファンタジアをやりこんでいた私でも、ゲーム本編中にエステルでそのアビリティを使用した事は一度も無かった。
「違う……」
でも今この瞬間……この場面で一番欲しいアビリティはそれだった。 そのアビリティを私が覚えられるのは、今この時のためとしか私には思えなかった。
「違う……これも違う……」
ソードファンタジアの世界でエステルはダークナイトというジョブだった。 それは剣士系の上位ジョブで、役割は戦闘補助役だ。
「これじゃない……これでもない……!」
ダークナイトが覚えるアビリティは攻防DOWNや、毒や麻痺などの状態異常技を覚えてくれる、デバッファーとして頼もしいジョブだった。
でもダークナイトの強みはそれだけでは無い。 覚える事が出来るアビリティはデバフ技以外にもあった。 それは……
「あ……!」
それは各種状態異常技に対応した“状態異常回復技”もダークナイトは覚えてくれるんだ。
だからダークナイトは敵のデバフ技にも非常に強く出れるキャラだったんだ。 つまり私は……
「あった……!」
私は石化を解除出来るアビリティを覚える事が出来るんだ……!
「石化解除!」
私はアビリティ一覧に書かれていた石化解除のアビリティを唱えた。
ピキッ……ピキッ……!
石になっているソフィアの体にヒビが少しずつ入っていった。 そのままどんどんと全身にヒビが広がっていき、そして……全身の石が砕け散った。 ソフィアの体は石から生身の体へと戻った。
「う……うぅん……あ、あれ……?」
ソフィアの石化は無事に解除する事が出来た。 そして、ソフィアは自分の意識を取り戻してくれた。
「……よ……よかった……本当に……!」
私はそう呟いてソフィアの体をぎゅっと抱きしめた。




