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12.未来の魔法少女は夢を見る③(ソフィア視点)

ソフィア視点です(3/4)

「ふざけるなぁああああああ!」


私はその拳をおおきく振りかぶって、蛇の化物の頬に目掛けて全力で殴りつけようとした。


「……あはっ……!」


その瞬間、化物は不気味に笑いだしていた。 でも私は怒りでそんな事は気にならず、そのまま私は全力で化物の頬を殴りつけた。


バキンッ!!


大きな音が鳴った。 でもそれは頬を殴った時に鳴るような打撃音ではなかった。 それは、何かが壊れるような破壊音だった。


「ぐぁっ……!」


私の拳に激痛が走った。 拳からは血がポタポタと流れだした。


その大きな音というのは……私の指の骨が折れる音だった。


「ぅぁ……っぅ……」


私は手を抑えてうずくまった。 足と手の痛みで私はもう動けなくなってしまった。


そんな私の苦痛に悶える姿を見て、蛇の化物は大声で笑っていた。


「ぷ、ぷぷぷ……ぷはは、はは、はーはっはっはははははは! ……はぁ、面白かった……」


ひとしきり笑ったあと、化物はうずくまっている私を見下ろしてきた。


「いやぁごめんねぇ、そういえば良い忘れてたよね。 アタシってさぁ、周りからは“石の蛇姫”って呼ばれてるんだよねぇ。 あ、別に覚えなくていいよ? どうせすぐ死んじゃうんだし。 それでさぁ、なんで“石”って言われてるか……わかるかなぁ?」


パキッ……パキッ……


変な音が鳴っていた。 パキパキと、何かが固まるような、そんな音が蛇の化物から聞こえていた。


私は体の痛みを我慢しながら顔を上げて化物の方を見た。 すると、私が殴りつけた化物の頬の部分が……石化していた。


「……い、いし……?」

「あはは、そうなんだよねぇ。 アタシってさぁ……自分の事を石に変える事が出来るんだよねぇ。 そこら辺に転がっている石っころから、綺麗な色の原石や鉱物にまで自由自在に変える事が出来るんだぁ」


そう言いながら蛇の化物は、石化している自分の左頬を優しく撫でていた。


「それで石ってさぁ、脆い石っころもあれば、すんごい硬い石もあるんだよね、凄いよねぇ! アタシはよくわからないんだけど、そういうの人間達が凄い勉強してるよね、綺麗な宝石を作るためにさぁ。 ふふふ、アタシが唯一尊敬している人間の凄いなって思う所だよ。 ……それで、えーっと、この石の名前何て言うんだっけなぁ」


そう言いながら蛇の化物は目を閉じてウーンと悩みだした。


「アタシらは石っころにいちいち名前なんて付けないからわからないんだけど……あ、そうそう! 人間達はこの石の事を“金剛石”って言ったっけなぁ? なんだかわからないんだけどすんごい硬い石らしいね!」

「こ……金剛石……」


子供の私でも知っている。 それは最も硬いと言われている鉱石だ。


「でもこの技さぁ、かなり魔力を消費しちゃうんだよねぇ。 アタシそんなに魔法適正無いから、あんまりこれ使いたくないんだよねぇ。 でも妹ちゃんのパンチがさぁ、す、すんごい強そうだったからさぁ……ぷ、ぷぷぷ、アタシも自分を守らなきゃ! って思って、防御のために使っちゃったぁ。 それに避けないとは言ったけど、防御しないとは言ってなかったよねぇ。 だからアタシ嘘はついてないよ? って、え!? 大丈夫!? 妹ちゃんの手……ドンドン赤くなって腫れていってるよぉ……あらあら、痛そうだねぇ、あはははは!」


私の事を見下ろしてケタケタと笑う蛇の化物。 もう私の体はボロボロだった……手足からは血が溢れ出している。 そんな弱った私の姿を見て、蛇の化物は大喜びで笑っていた。


(こ……こいつ……!)


私の事を簡単に殺せる力があるのに、それをすぐにしようしない理由が今ようやくわかった。 この化物は、私の事をオモチャにして遊んでいるんだ。


この化物は、私の事をわざと怒らせたり痛めつけたりして、それで私が苦しむ姿を楽しみたいだけなんだ。


「あははは、でも本当に君も馬鹿だねぇ。 アタシが強いなんてもうわかってたじゃん? それなのによくアタシを殴る気になったよねぇ?」

「……」


きっとこれも私の心をボロボロにしたいためだけの口撃なんだと思った。 だから……


「ねぇ、なんで逃げるの止めちゃったの? お兄ちゃんに教えて貰わなかったの? ヤバそうな奴と遭遇したら逃げろってさぁ?」

「……」


だから私はこの化物が喋る事に対して無言でいることにした。 実際には私は悔しいし怖いし、涙も流しそうになっていたのだけども、それでもなんとか我慢して私は無言を貫いた。 最後までこの化物の思い通りにはさせたくなかったから。 これは私の小さな意地だった。


「……ねぇ、聞いてるのかなぁ!」

「……」


予想した通り、化物は次第にイライラとしだしてきた。


「ねぇ妹ちゃん、少しは私のお喋りに付き合ってよ、なんで私の事を無視するの? そんな酷い子だったの? もっと妹ちゃんは優しい子だと思ってたんだけどなぁ。 まぁあの馬鹿の妹だし……仕方ないのかもしれないねぇ!」

「……ぐっ……!」


私から思っていた反応が得られなかったのが相当ムカついたらしく、化物は笑顔のまま私の胸倉を掴んできた。


「それにしても本当に……人間って馬鹿ばっかりだよねぇ? 君のお兄ちゃんもそうだし、今日アタシが殺った人間は全員馬鹿ばっかりで……本当に苛つくよ……本当に、イライラするなぁ!」

「……ぐ……ぐはっ……」


胸倉を掴む力は徐々に強くなっていき、私はどんどんと息苦しくなってきた。


「弱いのは仕方ないよ、だって人間って非力だもん。 でもさぁ弱いクセにアタシに喧嘩を打ってくるのは何なの? アタシが弱いと思ったわけ? それとも何? 本当に皆死に急いでたの? それこそ本当にただの馬鹿なん……」

「馬鹿なんかじゃ……ない……」


胸倉を掴まれた時、私はついにこの化物に殺されるんだと思った。 本当は一矢報いてやりたかったけど……実力差が違いすぎて、私にはどうする事も出来ない。


でも最後に……私は殺される前に、この化物が先ほどから何度も言い放っていた……あの言葉だけは“違う”と、はっきりと言ってやりたかった……!


兄は……それに他の人達も皆……馬鹿では決して無いんだと!


「……はぁ? 何言ってんの?」

「馬鹿なんかじゃ……ないんだよ!」


私が言い返してくるなんて思ってもいなかったようで、化物は少しだけビックリしたような顔をした。


「……どこが? どう考えても馬鹿でしょう? 力の差がわからないで戦いに来てる時点でさぁ! 弱いなら弱いらしくアタシに見つからないように最初から視界に入らないようにコソコソとみすぼらしく逃げ回っていればいいのにさぁ!」


化物はどんどんと苛ついた表情になっていった。 私が言い返してきた事が相当気に喰わなかったようだ。


「ねぇ、そう思わない? 君のお兄ちゃんもさぁ、妹ちゃんを逃がすためとかカッコつけるのは良いけど弱すぎて話になんなかったわ。 いい? 頭の悪いアンタのために、最後にもう一度だけ言ってやるよ!」

「……うぐっ……」


胸倉を掴まれていた私は、そのまま強い力で化物の顔の目の前へと引き寄せられた。


「てめぇの兄貴は馬鹿だから死んだんだよ!!」

「違う!!」


化物は私に怒鳴りつけてきた。 私は涙が出そうになった……それでも私は必死に涙を堪えた。 涙を堪えて私は喋り続けた。


「……お兄ちゃんは……馬鹿なんかじゃ……絶対に無い!」


私の頭の中は恐怖や悔しさ、悲しさ、それに手足の痛みによる苦痛など、様々な感情が巡り廻っていた。 でも私は決してそれらを顔には出さなかった。


「……ふぅん?」

「確かお前はとても強い魔族だよ。 それに比べたら私達人間なんて力は全然無いし、弱い存在でしかないよ……」

「よくわかってるじゃん。 それなのにそんなアタシに勝負を挑んでくるなんてただの馬鹿でしかないじゃん!」

「それでも……! 力が無いとしても……勝てないとわかっていても……! それても戦わないといけない時があるんだよ! それがお前にわかるか?」

「……へぇ、全くわからないよ。 それはどんな時だっていうの? アタシに教えてよ?」


頭の中の恐怖心や絶望感に必死で抗い、私は毅然とした態度でその化物に言い放った。


「……大切な人を守る時だよ。 それは家族かもしれないし、友達なのかもしれない。 大切な人っていうのは皆それぞれで違うから! だから今日お前に殺された人達は皆……誰かを守りたいという気持ちでお前に戦いに挑んだんだよ!」

「……何それ。 意味わかんないんだけど。 一番大切なものって、それは自分の命でしょ? それなのになんで他人を守りたいって思うわけ? それこそただの馬鹿って事だろうが!!」


「理屈じゃないんだよ!! 大切な人を守りたいと思う気持ちは!!」


胸倉を掴んでいる蛇の化物に向かって私はそう怒鳴り返した。 気が付いたら蛇の化物の顔はもう笑っていなかった。 先ほどまで下卑た笑みで私の事を見ていたはずだったのに、今ではそんな表情は一切していない。


「は、はぁ? 何それ? それこそ意味わかんないんだけど?」

「私達人間には絆があるから。 一緒に過ごしてきた家族との絆。 友達との絆。 それ以外にも大小沢山の絆が私達人間にはあるんだよ! そんな絆を持った人の事を守りたいと思うのは……理屈じゃあないんだ! きっとお前みたいな心の無い化物には一生わかる事はないんだろうね!!」

「……っ!?」


初めて蛇の化物が狼狽えた姿を見せた。


「だから! お前が今日殺した人達は……大切なものを守るために戦ったんだ! 殺されるとわかってもそれを守るために……皆命がけで戦ったんだ!」


化物は一瞬だけ狼狽えた姿を見せたが、それでもすぐに立て直してきた。 そしてまた下卑た笑顔を私に向けてきた。


「ふ、ふふふ! 弱い奴が一丁前に誰かを守りたいなんて笑っちゃうよねぇ! それにお兄ちゃんは妹ちゃんを逃すために命を捨てたのに……その妹ちゃんももうすぐ死んじゃうんだけど? あ、ねぇこれって犬死ってやつじゃないの? ぷぷぷっ!」


化物は再び笑いながらそう挑発するように言ってきた。 でも私はそんな事ではもう狼狽えない。


「お前からしたら犬死なんだろうね! でも私はそうは思わない! 死ぬとわかっていても私を守るために……お前に立ち向かった兄の事を私は尊敬するし誇りにも思う! そして今……私は私自身のことも誇りに思う!」


兄は命を捨てて私を逃がす時間を稼いでくれた。 そして私も同じように……命懸けであの女の子のために出来る事をする。


あの子は今日初めて出会ったばかりの女の子だった。 それなのにあの子は私の事を命がけで救ってくれた。 泣いている私を必死に慰めようとしてくれた。


それはまるで……あの子は私の事を大切な人だと思っているかのようだった。


あの子との付き合いは本当に本当に短い時間だったけど、それでも私はあの子からそんな優しい気持ちを感じとれた。 そして私には、それがとても嬉しく思えたんだ。


だから私もあの子を助けてあげたいと、そう思ったんだ!


目の前にいる化物は、そんな私の気持ちを“馬鹿”なものだと笑い飛ばしてくるのかもしれない。 でも私にとってそれは小さくても立派な絆なんだ。 だからこれはもう理屈じゃない。 私があの子を助けたいと思うこの気持ちは! だから私は……!


「お前の言う通り私達人間は弱いし、お前は強いよ。 だからお前はその力で人間を簡単に屈服出来るだろうし、 簡単に殺せるんでしょう? 私達の事が馬鹿にも見えるんでしょう? お前がそう思うんなら勝手にそう思っとけばいい! でもね……私の、私達人間のこの誇りだけは、お前に殺されたとしても絶対に屈することはないんだよ!! さぁ!わかったんならさっさと私を殺してみろよ化物!! ねぇ? ねぇ! ……ねぇってば!!」


鬼気迫る私の姿を見て、化物は再び狼狽えた姿を私に見せた。

次回でようやくソフィア視点終わります、本当に長々とソフィア視点書いちゃってすいません……!

もうすぐエステル視点に戻ります!

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