11.未来の魔法少女は夢を見る②(ソフィア視点)
ソフィア視点です(2/4)
湖を出ると森の中は昇りと降り方向に分かれていた。 私は足を引きずっているので、降り方向へと進んでいった。
目的地は特に無い。 あの子がいる湖から離れたい……ただそれだけだったから、私はただひたすらと森の斜面を降っていった。
「はぁ……はぁ……」
湖を出てから、もう1時間以上は過ぎたと思う。
今日は雲が一つも出ていない好天候だった。 そのおかげで今夜は月がしっかりと見えていた。 なので私はその月明りを頼りにして、足元を確認しながら前に進んでいた。
「……っう……」
それでも足には激痛がずっと流れている。 足が千切れそうな程痛い。
ふと私は足に巻かれた布を見た。 ……私の血で真っ赤に染まっていた。 そんな惨状を見て私は気失いそうになった。
「……ぐっ……!」
それでも何とか我慢して斜面を降りきる事が出来た。 そこから森の中は平地が続くようだった。
「はぁ……はぁ……」
痛みに絶えながら進んできたけどもう限界だった。 喉はカラカラだし、体力も残り少ない。 その時、近くから水の流れる音が聞こえた気がした。
「……川……?」
それは川の流れる音のようだった。 遠くからは滝のような音も聞こえた。 水分補給が出来ると思い、私はそちらの方向へと進んでみることにした。
茂みをかき分けてなんとか川に到着することが出来た。 するとそこには……
「あら、久しぶりだねぇ……待ってたよぉ……!」
「……っ!」
そこには……私を殺すと言い放った“蛇の化物”が川の前で待ち構えていた。
「あれぇ、もう1人の子は何処行っちゃったのかな? うーん、もしかして……置いてかれちゃったのかなぁ?」
化物はぷぷぷと笑いを堪えながら私の方を見てきた。
「あの子は……もうナインシュにはいない。 私を置いて先に逃げたんだ……」
私はとっさに嘘を付いた。 嘘だとバレないように、私は苦々しい顔をしながらそう言った。 足の激痛のおかげで、今の私にはそんな辛い表情を作るのは簡単だった。
「あ、そうなんだぁ。 可哀そうにねぇ……妹ちゃん、捨てられちゃったんだぁ。 ぷ、ぷぷぷ」
蛇の化物は私の事を憐れむような事を言いながらも口はずっと笑っていた。 そして血だらけになっている私の足を見て、さらにこう言ってきた。
「あー、でも仕方ないよ! 妹ちゃんをずっと担いで逃げるなんてそりゃ無理に決まってるし、そんな血だらけの足じゃあさぁ……足手まといになっちゃうよねぇ! 逃げるのに妹ちゃんは邪魔でしかないもん、うんうんわかるわかる! 妹ちゃんを見捨てたあの子の選択は正しいよ!」
そう言いながら、蛇の化物は腕を組みながらうんうんと1人で頷いていた。
「でも残念だなぁ、あの子も一緒に殺してあげるつもりだったのに。 まぁコアまで行っちゃたんなら諦めるしかないわ。 それに本命は君だけだったわけだから別にいいんだけどねぇ」
やっぱりこの化物は、あの子も殺す気でいたようだった。 でも私の嘘のおかげで、もうあの子は逃げ切ったと思ってくれたようだ。
(あとは……)
私はそのまま後ろに振り向いて蛇の化物から逃げた。 でも私は足を引きずっているので、走ることは出来ない。 こんな速度では蛇の化物にすぐに捕まってしまうだろう。
(でもそれでいい。あとは少しでも長く……この化物を引きつけれる事が出来ればそれでいいんだ)
私は1秒でも長く時間を稼ぐために、出来る限り逃げようと思った。
「うーん? なぁに? 鬼ごっこの続きでもやるのぉ? 別にいいよ? でもその足でよく頑張るねぇ、ふふふ」
そう言いながら蛇の化物は私の後ろを付いてきた。 でも捕まえる気は無いようで、あくまでも私と同じ速度で追いかけてきた。
「ねぇ、妹ちゃん、せっかく再会したんだし、もう少しお話したいなぁ。 ねぇってば。 そんなにアタシの顔見たくないのかなぁ?」
「……」
私は黙々と逃げ続けた。
「でも不思議だよぉ。 君の事を探してたんだけど全然匂いが反応しなかったんだよねぇ。 だから何処に行ったのかわからなかったんだぁ」
「……」
蛇の化物は私にずっと喋りかけてきた。 後ろを向いているからわからないけど、どうせニヤニヤと笑いながら話しているんだろう。
「そしたらさぁ、なんでかわからないんだけどね、ついさっき……本当についさっきからなんだよ? いきなり匂いがしだしたんだよねぇ……妹ちゃんの匂いがさぁ!」
「……」
私は蛇の化物が喋っている言葉を全て無視してそのまま茂みの奥に進んでいった。 もちろん蛇の化物も私にずっと付いてきている。
「ふふふ、何か不思議な魔法でも使えるのかなぁ? ……まぁでもどうでもいいや、見つける事は出来たわけだしね、あははは……ねぇ!」
「……」
私がちっとも反応しないから、蛇の化物はイライラしているようだった。 でも私は化物とと話す事は一つも無い。 だから無視してこのまま逃げていく。
「せっかく再会したんだからさぁ、そんなに無視しないでさぁ……私の話も聞いてよぉ。 あ、そうだっ! お兄ちゃんの最後の言葉とか聞きたくないのかなぁ?」
「!?」
その言葉で私の足は止まってしまった。
「……ふふ。 足、止まっちゃったねぇ……」
「……ッ!」
私は顔だけ振り返って蛇の化物の方を見た。 蛇の化物は満足そうな笑顔を浮かべながら私の方を見ていた。
「ふふ、そんなに聞きたいんなら教えてあげるよ! というか聞いて欲しいしね! お兄ちゃんったらさぁ、妹ちゃんを逃がすためだとかなんとか言ってカッコつけてさぁ。 私に剣を突き刺そうとしてきたんだよね! ……あぁ今思い出しても……ク、クソ雑魚すぎて笑いが止まらないよぉ、ぷ、ぷぷぷ!」
(……やめろ……)
「ぷ、ぷはは! それでさぁ、あ兄ちゃんがさぁ……あんまりにも弱かったからアタシ苛ついちゃって苛ついちゃって……お兄ちゃんの首を締めあげちゃったんだよねぇ。 そしたらさ、お兄ちゃん……何て言ったと思う?」
(……やめろ……やめろ……)
「擦れた声でさ、“助けて”……って言ってきたんだよねぇ。 あまりにも馬鹿すぎて大笑いしちゃったよ! クソ雑魚のくせに戦いに挑んでくるんじゃねぇよ! 馬鹿かよ! ……っていう話だよねぇ。 ……ぷ、ぷははは、あの時のお兄ちゃんの表情が面白くて面白くて……あぁ、妹ちゃんにも見してあげたかったなぁ」
そう言いながら蛇の化物は、首に付けている兄の首飾りを触りながら笑い続けていた。 もう……我慢が出来なかった。
(……もう……無理だ……)
私は逃げる事をやめた……そして私はそのまま蛇の化物の方に全身を向きなおした。
「あれ? 鬼ごっこはもういいのぉ? アタシとしてはまだ逃げて貰っても全然いいんだけどさぁ」
「……さい……」
「でも人間ってさぁ、弱いクセに、なぁんで戦おうとするんだろうねぇ? 何なの? 皆死に急いでるの? 馬鹿なの? 素直に逃げてればさぁ、運が良ければ生き延びれたかもしれないのにさぁ。 本当に……人間って馬鹿しかいないんだろうねぇ?」
「……るさい……」
「あぁでもあの子は馬鹿じゃなかったねぇ! 最初は他の馬鹿と同じなのかと思ったけど、そうじゃなかったんだねぇ、あははは! だって他の馬鹿共と同じだったらさぁ、妹ちゃんを見捨てないで、私に殺されてたはずだもんねぇ! あの子は人間にしちゃあ、まともな思考をしていて良いと思うよ、うん! ……その点君のお兄ちゃんだよ、あれは一体何なの? ただの馬鹿でしか無いでしょ?」
「……うるさい……」
「あ! ねぇ妹ちゃん! 妹ちゃんならわかるかな? 弱い弱いアナタのお兄ちゃんが死に急いだ理由! いやそんな理由あるわけないよねぇ。 君のお兄ちゃんはただの馬鹿だった……っていうだけでしょ? あははははは!!」
「うるさいうるさいうるさい、うるさああああああい!」
私は怒りが爆発した。
(ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな……ふざけるな!!)
兄の事を馬鹿にされるのが本当に悔しかった。 嫌だった。 屈辱だった。 しかも兄を馬鹿にしている相手は……兄を殺した奴なんだ……!
「なんでそんな怒ってるの? 意味がわからないんだけど。 もしかしてアタシの事が嫌いなの? 憎いの? でもさ、そんなの弱いアンタらが悪いわけでさぁ、アタシは何も悪くないでしょう?」
蛇の化物はきょとんとした顔で私の事を見てきた。 どこまで私を馬鹿にしたら気が済むのだろうか。 私は怒りで頭がどうにかなりそうだった。
「でもそうだなぁ……あ、そうだ!」
蛇の化物は何かを閃いたようで、手をポンと打ってきた。
「ねぇ。 私って妹ちゃんにとってはさ、兄の仇ってやつでしょ。 可哀そうだからさ、一発だけ……ふふ、一発だけ私の事を殴っていいよ。 私は避けないからさ、好きなように攻撃してみてよ」
そう言って蛇の化物は私にゆっくりと近づいてきた。 そして、私の目の前で止まった。
「ほら、お兄ちゃんの仇だよアタシ! あの世でお兄ちゃんが見てるよぉ……俺の仇を取ってくれってさぁ! ほら、こんなチャンスもう二度と無いよ? 早く殴ってみなよ、ねぇ? ねぇ! ねぇってば!! ……あぁでも、あんなクソ雑魚の妹の攻撃なんてアタシに効くわけないか、あはははは!!」
ぷつん。
私の中で何かが切れたような音がした。 そして私は拳を強く握りしめた。
「ふざけるなぁああああああ!」
私はその拳をおおきく振りかぶって、蛇の化物の頬に目掛けて全力で殴りつけようとした。
エステルーー!頼むーー!早く来てくれーー!!




