10.未来の魔法少女は夢を見る①(ソフィア視点)
ソフィア視点です(1/4)
思っていた以上に文字数が長くなってしまったので分割となります……
早くエステル視点に戻れるように執筆頑張ります!
懐かしい夢を私は見た。 それは家族でヤマウスに行った時の夢だった。 もう5年以上も前の出来事だ。
私はヤマウスに行くのはそれが生まれて初めてだった。 初めての場所に行くというのは私にとっては少し怖いなと感じてしまい、その日はずっと母の服を掴みながら歩いていた。
ヤマウスに着くと沢山の露店が広がっていて、私の住んでいる村なんかとは比べ物にならない程賑わっていた。 いつの間にか私は母の服を掴むのを忘れてしまい、そのまま露店を眺めていた。
……気が付くと私の近くに家族はいなくなっていた。 私は初めて訪れたその場所で迷子になってしまったんだ。
周りに知っている人が誰もいないというのがとても不安で……どんどんと怖くなり涙が出てきた。
「うぅぅ……お母さん……お兄ちゃん……」
私はそのまま動けずにしゃがみこんで、家族を呼びながら泣き出してしまった。 でもすぐに兄が私の事を見つけてくれたんだ。
「はぁ……はぁ……見つけた……!」
「……お兄ちゃん……?」
兄は急いで走ってきたようで、息を荒くしていた。 兄は私よりも一回りも年上だった。 年は離れているけど、いつも私と一緒に遊んでくれる優しい兄だった。
「うわぁぁん! お兄ちゃぁぁん!」
「よしよし……見つかって良かった」
私は泣きながら走って、そのまま兄にしがみついた。 兄のズボンには私の涙と鼻水が付いてしまったけど、兄はそんな事を気にせず、泣いている私の頭をポンポンと撫でてくれていた。
「大丈夫だったか? 見つけるの遅くなってごめんな」
兄は泣いている私に謝ってきた。
「ぐすっ……ううん、私がはぐれちゃったから……ひっく……ごめん……なざい……」
そんな兄に私は、自分がはぐれたせいだからと言った。 兄や両親に迷惑をかけてしまった事を思ったら、さらに涙が止まらなくなった。
「……」
そんな私の顔を見て兄はムッとした顔をした。 そのまま兄はしゃがみこんで私の顔を見つめた。 そして……
「とりゃあ!」
「ふぇ?」
兄は私のほっぺを両手で触りながら、ぐいっと持ち上げた。
「な、なにするの!?」
「ほら泣くな、笑顔笑顔!」
そう言って兄は私の口角を引き上げて、無理矢理笑ったような顔にしてきた。
「ソフィーはここに来るの初めてなんだし、それに出店も沢山あって面白そうだよな。 俺らの村にはこんな賑わってる所なんて無いから、こんなクワクする所に連れてこられたら誰だってはぐれちゃうさ」
兄はそう言って私の事を慰めてくれた。
「だからソフィーのせいじゃないよ。 むしろこんな面白そうな所に今まで連れて来なかった母さん達が悪いのさ、あはは。 だからさ、母さん達に会ったら一緒に怒ってやろうぜ」
「お、怒る!? そんなの出来ないよ! そ、それと……私の顔で遊ばないで!」
「あはは、悪い悪い。 でもさ、ソフィーは笑った顔が一番可愛いんだぞ?」
「か、可愛い……!?」
兄は私の顔をむにむにと弄りながらそう言って笑っていた。 そんな私は可愛いと言われて顔を赤くしていた。 気が付いたら私は涙は止まっていた。
「よし、それじゃあ母さん達の所に行くか!」
「う、うん……」
私が泣き止んだのを見ると兄はそう言って手を私に差し出してくれたので、私はそれを握って、両親が待っている所へと向かった。
歩いている道中、私の涙は止まったけど……それでも私の表情は暗いままだった。 それは一人ぼっちになって怖かったからとか、家族に迷惑をかけたとか、後で両親に怒られるんじゃないのかとか……色々な理由があった。
暗い表情を浮かべている私の顔を見て兄は、少しでも勇気づけようと明るい口調で色々と話しかけてくれていた。 でも私の表情が晴れる事は無かった。
やがて兄は足を止めて、少しトーンを落とした口調で私に話しかけた。
「……なぁ、ソフィー」
「う、うん? 何?」
やっぱり怒られるのかな? と思い、私はビクっとした。 ……でも違った。 兄は少しだけ悲しそうな顔をして私の方を見てきた。
「ソフィーが泣きそうな時は兄ちゃんが必ず助けに行くからさ。 だから泣きそうになっても笑っときな。 笑っていれば、少しの間くらいは辛い事も悲しい事も忘れられるだろ?」
兄はそう私に喋りかけてくれた。
「それに兄ちゃんも母さんも父さんも皆、ソフィーの笑ってる顔が一番好きなんだ。 ソフィーが悲しい顔をしていると、俺も母さん達も一緒に悲しくなるんだよ」
兄はそう言うと、私の手を握ったまましゃがみこんだ。 そして私の目を見てから続けてこう言ってきた。
「だからさ、そんな悲しい顔なんかしないで、ソフィーには笑顔でいてほしいんだ。 どうだ、これ約束に出来ないか?」
兄はそう言いながら、手を繋いでない方の手の小指を私の目の前に差し出してきた。 私はまだ悲しい気持ちが残っていた。 でも……
「……うん、約束する。 その代わり……お兄ちゃんも約束守ってね」
まだ悲しい気持ちは残っているけど、それでも兄がそう言ってくれたのが嬉しかった。 だから私は兄に向けて笑いながらそう答えた。
「あぁ、ソフィーが悲しむ前に……ソフィーが笑ってる間に兄ちゃんが必ずを助けに行くよ……約束だ」
そう言って私は兄と指きりをした。 私が笑顔を見せた事で、兄もホッとして優しい笑顔を私に見せてくれた。
「よしそれじゃあせっかく都市部まで来たんだし、何かソフィーに買ってあげるよ!」
「え、本当!?」
「あぁ本当さ。 ソフィーは何か欲しい物あったか? 露店は沢山あるし、欲しい物があったら教えてな」
私は露店周りをキョロキョロと見渡した。 そしてすぐに欲しい物を私は見つけた。 それは綺麗な首飾りだった。
「あれ……凄い綺麗だなって」
私は近くの露店に置いてあった首飾りを指さした。 兄は私が指さした方向にある首飾りを見た。
「首飾りかぁ。 はは、ソフィーもそういうのが気になるお年頃なんだな。 売ってるのは……ちょうど二個だけか、よし!」
そう言って兄は売られていた二個の首飾りを買ってきた。
「ソフィーはどっちの色がいい?」
「うーん……じゃあ赤色!」
私は赤色の首飾りを指さした。
「赤色だな? じゃあ……これでよしと!」
そう言って兄は私に赤色の首飾りを付けてくれた。
「いいか、この首飾りは御守りだ。 俺がいない時はこの首飾りが俺の代わりにソフィーの事をきっと守ってくれる。 だから大切にしてくれよな! ……ちょっぴり高かったし……」
「うん、大切にする! ありがとう!」
そしてもう一つの青色の首飾りは兄の首に付けた。 兄妹でお揃いの物を身に着けるのはこれが初めてだった。 兄とお揃いの物を付けれるのが、ちょっと嬉しかった。
「じゃあ母さん達も心配してるだろうし、もうそろそろ行こうか」
「うん!」
手をつないで歩いている道中、私は気になった事があったので聞いてみた。
「……ねぇお兄ちゃん。 そういえば、なんで私を見つける事が出来たの?」
泣いている私を兄はなんで見つける事が出来たのかを尋ねてみた。
「……っぷ。 あはは、そんな当たり前な事聞くなよ。 妹がピンチな時にすぐに駆けつけるのが兄ちゃんの役目なんだよ」
兄は笑いながらそう答えてくれた。 それが私には本当に嬉しかった。
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「……夢……?」
私は目を開けると……辺りはもう真っ暗闇だった。
「……あ……」
そして目の前には女の子が眠っていた。 ずっと膝枕をして貰っていたようだ。
その女の子とは初めて会ったはずなのに、何故かそんな気がしない不思議な女の子だった。
(だから懐かしい夢を見れたのかな?)
― わ……ら……って ―
それは昔、泣いている私に兄がしてくれた慰め方と同じだった。
泣いている私を勇気づけるために優しい言葉を投げてくれた兄の事を思い出して、さっきはつい笑ってしまった。
(本当に……不思議な子だな……)
私は眠っている彼女の顔を見つめながらそう思った。
(でも、このままだとこの子の命も危ない……)
― お前だけは必ず殺す ―
「……」
先ほどから平静を装ったつもりだったけど、私の頭の中ではその言葉がずっと離れなかった。 私の事を絶対に殺すと言っていたあの蛇の化物の事を嫌でも思い出してしまう……
(あの化物は私の匂いを探知出来るって言っていた……)
この湖が先ほどの街道からどれくらい離れているのかわからない。 でも、この女の子が1人で連れてこれる距離だから、そんなに遠く離れた場所では無いと思う。
それにもう辺りは真っ暗だ。 正確な時間はわからないけど、あの街道での出来事から既に半日は経っているはず。 だから……あの蛇の化物に見つかるのも時間の問題だと思った。
(私と一緒にいたらこの子も殺されてしまう……)
それだけは絶対に嫌だ。 私のせいでこの子まで危ない目に合ってしまうのだけは……嫌だ。
(この子が眠っている間に……この子からなるべく離れないと)
あの蛇の化物は私を追っている。 そしてこの子のことは見逃すと言っていた。 でもその約束をちゃんと守ってくれるかどうかはわからない。
だから私があの蛇の化物に見つかるまでに、なるべくこの子から離れてあげたかった。 この子が少しでも危険な目に合わないようにしてあげたいからだ。
(一緒に殺される必要なんて無い。 この子は関係無いんだから……)
私はそう思い、この湖から1人で出ていくことを決めた。 私はゆっくりと彼女の膝から頭を浮かしながら体を起こした。
そして私は彼女の顔を見つめた。 年齢はほぼ私と変わらないのに、こんな危険な目に合わせてしまった事に申し訳なく思った。
(ありがとう……そして、ごめんなさい……)
私は心の中で彼女に向けてそう呟いた。 そして私はそのまま静かに立ち上がった。
「……っぅ……」
立ち上がった瞬間に足に激痛が走った。 でも声だけは出さなかった。 寝ている彼女の目を覚まさせないためだ。
「ふぅ……ふぅ……」
私は息を殺しながら立ち上がり、貸してもらっていたローブを脱いだ。
そして私はズボンのポケットに入れていた……赤色の首飾りを取り出した。
(これは私が持っている唯一の宝物)
それは兄が私に買ってくれた思い出の首飾りだ。
その首飾りは御守りとしていつも身に着けていたのだけど、今日は逃げる時に首飾りのチェーン部分が切れてしまったので、そのままポケットの中に入れていた。
あの蛇の化物は、私を殺した後にこの首飾りを奪うつもりらしい。 でも……あんな化物に奪わせるつもりは一切無い。
私はその首飾りをローブのポケットに入れてから女の子にそっと羽織わせた。
(これは私から君への贈り物だよ。 だから……良かったら大切にしてくれたら嬉しいな)
私は眠っている彼女に向けて、心の中でそう呟いた。
(兄さん……この子の事を守ってあげてね……)
そして御守りの首飾りに彼女の事を守って貰えるように祈った。
(ありがとう……本当に……)
私は最後にもう一度、眠っている少女に対して感謝の気持ちを心の中で伝えた。
そしてそのまま私は足を引きずりながらこの湖から出ていった。




