07.元奴隷少女は駆け戻る。
(この街道は使えない……!)
私は直感で判断した。 逃げた所でナインシュを抜けるまでにいつかアイシャに捕まる。
(それなら……)
私は危険だと判断したら戻る場所を決めていた。 あそこはゲームの設定が生きていた安全地帯だった。
(モンスターが湧かないっていう設定は生きていた。 あそこだけはアイシャも他の魔族も来れないはず)
私は街道を駆け抜けるのではなく元来た森の中へと向かって走りだした。 アイシャはきょとんとした顔をしていた。
「へぇ? そっちに行くの?」
アイシャは私の走る姿を見てそう言った。
私は全速力は出さずに、それなりの早さで走った。 アイシャに少しでも私の事を弱い存在だと思わせるためだ。
「まぁ、頑張ってね」
アイシャはこちらを追って来る様子は全く無かった。 私達が子供だから本気で追おうとはしていないようだ。
(私はその隙を狙う)
私は森の中へと入っていった。
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森の中に入って私は全速力で駆けだした。
森に入る頃には女の子は気を失っていた。 痛みや恐怖などの様々な事が要因だったのだろう。 でも今は急いでたから気を失って貰っていた方が助かった。
(そういえば……血の匂いがって言ってたな)
森の中を走っている時に、私はアイシャの言葉を思い出した。そして少女の足を見る。
(とりあえず止血だけでもしないと……!)
靴から血がポタポタと落ちてしまい、靴も血で滲んでしまっている。 もう履物としては使えない。
私は一旦止まってから、アイテムボックスに入れていたローブの切れ端を取り出した。
(私に回復が使えたら……)
使えないものは仕方ない。 まずは血だけでも止めようと思い、ローブの切れ端を足にきつく巻きつけ、緊急的に止血を行った。
そして血で汚れてしまっている靴は適当に後ろの方へ投げ捨てた。
(すぐにでも人のいる街に行って、回復魔法かポーションを手に入れたいけど……)
でもここから川沿いのルートを走った所で、ナインシュを抜けるのにはどれくらい時間がかかるかわからない。
(魔王城から中間地点の精霊の湖まで行くのにだいぶ時間がかかったよね)
先日、魔王城から精霊の湖まで走った時は深夜から明け方になるまで走り続けていた。 だから、この地点からナインシュを抜けるのにも同じくらいの時間はかかるのだろう。
それに今は女の子を抱きかかえた状態というのも考慮しないといけない。 この状況だと逃げてもアイシャにいずれ追いつかれてしまう。
(でも魔族達は街道に集結しているのはわかった……!)
精霊の湖を離れた後も私がモンスターを見かけなかった理由は想像していた通りだった。
ということは、この森の中で遭遇する可能性があるのは後ろから追ってくるであろうアイシャだけだ。
(それなら精霊の湖に戻った後は日が沈むまでそこで待って、そして深夜を過ぎたら一気に川沿いに向かって駆け抜けるしかない)
私は魔王城から脱出した時の事を思い出した。 あの時と同じ作戦だなと心の中で少し笑った。
でもあの時とは状況は全く違う。 今回は明確にこちらを狙ってきている敵がいるのだから。
(とにかく、早く精霊の湖に行こう……!)
私は全速力で元来た道を辿り、精霊の湖へと戻った。
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「……うぅ……あれ……?」
(良かった! 目を覚ましてくれた!)
精霊の湖に戻って数時間が経過していた。 道中ではやはり誰とも遭遇しなかった。 ここに辿り着いた後も、五感を集中させていたけど誰かしらがここに来る気配は全く無かった。
(やっぱりここは安全地帯になってくれている)
「うぐ……こ、ここは……?」
足を抑えながら女の子は辺りをキョロキョロと見回した。 顔は辛そうな表情を浮かべている。
「あ、あなた……さっきの?」
少女は私の事を見た。 そしてそのまま立ち上がろうとしたので、私はあわてて静止した。
「ご、ごめんなさい。 それと……さっきはありがとう」
私に向かって申し訳なさそうな顔をしてそう言った。
そんな顔しないで、と言いたいけど言えないのがもどかしかった。
「……」
「ご、ごめんなさい……本当に……」
私が何も言わないから、怒っていると思われたようだった。 私も申し訳ない気持ちになってしまった。
(どうにかして意思疎通の仕方も考えないと……)
少女は自分の足に巻かれている布を見た。 そして辺りを見回しながら少女はこう言った。
「これ……あなたが巻いてくれたの?」
(私以外にも仲間がいるのかを聞きたいのかな?)
私は頷いた。それ以上私が何も言わないので、少女は喋り続けた。
「そう……何から何まで本当にありがとう……」
私は気にしないでほしくて顔を横に振った。
(……そう言えばこの子の名前ってなんて言うんだろう?)
意思疎通の仕方もそうだけど、この子の事を何て呼べば良いのかも気になった。
(まぁでも名前を知った所で呼べないんだけど)
試しに私はその少女の事を指で差してみて、私は顔を斜めに傾けてみた。
(あなたの名前は何ていうの?)
「な、なに? ……私?」
(……流石に伝わらないよね)
まぁ無理だとは思ったけど……
「え、あ、そうか。 名前……」
(伝わってくれた!?)
と思ったら伝わってくれたようだった。 少女は自分の名前を答えてくれた。
「私はソフィア。 ソフィア・フォールレイン。 さっきは本当にありがとう」
(ソフィアちゃんって言うのかぁ……ってあれ?)
私はその少女を二度見……いや五度見はした。
(ソフィア……フォールレイン!?)
私は驚愕した。 何故ならその名前はソードファンタジアに登場するキャラたったから。
(ソフィア・フォールレイン!? え、ソフィアってあのソフィア!?)
ソフィア・フォールレインという名前は、ソードファンタジアに登場する仲間キャラの名前だった。
魔法攻撃に特化した魔法使いことソフィア。 中盤に仲間になるキャラで、最後まで頼りになる魔法アタッカーだ。
(え、ちょっと待って! ほ、本当にあのソフィアなの!?)
私は興奮気味にソフィアの事をまじまじと見続けていた。 ソフィアはちょっと怖そうな顔でこちらを見ていた。
(た、確かに……! 言われてみたらソフィアじゃんこの子!)
顔はもちろん幼い子供だけど、この髪型に髪色、顔の形に声質とか、まさに私の知っているソフィアだ。
(う、うそ……! こんな所で仲間キャラに会えるの!? しかもソフィアって! 私最初にカンストまで上げたキャラだよ!)
ソフィアは仲間キャラの中で一番魔法性能が高いので、ボス戦で採用する場面が非常に多いキャラだったのだ。 アタッカーという意味では主人公のアークよりも重宝したキャラだった。
(……あっ、だからあの首飾りに見覚えがあったのか!)
そしてソードファンタジアのソフィアは首飾りを身に着けていた。 先ほど見た首飾りは、それに形などのデザインが似ていたのだ。
(でも色が違ったよね。 確かソフィアが身に着けていたのって赤色だったし)
そんな事を考えながらジロジロと見続けていたらソフィアと目が合ってしまった。ソフィアは怪訝そうな顔でこちらの事を見ていた。
(あ、やばい……)
焦った私はすぐに目を反らした。 明らかに不審人物すぎる私であった。
「そ、それで。 アナタは何ていう名前なの?」
(あ、そうだよね! 私の名前は……)
私の事を怖がりながらもソフィアはそう尋ねてきたので、私は急いで応えようと……
「…………」
応えようとした私の口はパクパクと動かすだけで声は出ない。
(……あっ!?)
興奮しすぎて自分がサイレンス状態なのを一瞬で忘れかけた私。 私は無言でずっと口をパクパクさせているだけだったから、ソフィアはさらに渋い顔でこちらを見つめてきた。
(な……なんでや!)
私は恐怖やら興奮やら喜びやら色々な感情が混ざりあって、結果なんかよくわからなくなって最終的に自分自身に突っ込んでいた。
第二章の主要人物はこれでほぼ全員です。
そして(多分)もうすぐ喋れるようになるぞそれまで頑張れエステル!




