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04.元奴隷少女は焦る。

(な……なんでアイシャがこんな所にいるの!?)


私の頭の中は危険信号が点灯していた。 心臓もバクバクと鳴っていた。


派手な赤い髪と赤い鱗の尻尾、そして、ニヤっと邪悪そうな笑みを浮かべてるあの顔は、ソードファンタジアで戦った幹部ボスにそっくりだった。


その幹部ボスとはもちろん“石の蛇姫”アイシャだ。


ソードファンタジアに登場する幹部ボスは、私含めて5人登場する。 当然だけど、私以外の幹部は全員魔族だ。


幹部ボスは全員女性キャラで、それぞれに特徴を冠した“姫”の呼名が付けられている。


私なら、毒技が得意で剣がトレードマークだから“毒の剣姫”と名付けられた。


アイシャに“蛇姫”と名付けられている理由はその姿に由来している。 アイシャはラミア族と呼ばれる蛇の魔族なのだ。


ラミア族の見た目は上半身は人間の女性の体つきで、下半身は蛇の姿をしている。


また、他のラミア族は青髪に青色の鱗と、全体的に青色で統一されているのだが、アイシャだけは赤髪に赤色の鱗という、ボスユニット特有の特別カラーになっていた。 そして今私が見てしまったあのラミア族は真っ赤だったわけで……


しかもニヤっと笑っているあの顔。 8年前なので顔つきは少し若く見えるけど、それでもあの笑顔はゲーム内で見たアイシャそのものだ。


私にはあの笑顔は怖くてたまらなかった。 だってアイシャの性格的にあれは絶対に純粋な笑顔では無いだろうから……


個人的にはアイシャは絶対に遭遇したくない敵キャラの1人だった。


その理由は単純に怖いキャラだったから。 アイシャはゲーム内ではかなりドエスな性格として描かれていた。


メインシナリオでアイシャが人間を襲うシーンはたびたびあるのだが、相手が戦闘不能になるまで痛めつけたあとに、暴言を浴びせ続け、身も心もボロボロになる様を見て楽しむという……残忍かつ加虐思考の持ち主がアイシャなのであった。


そんな性格のアイシャが、ナインシュから逃げようとする私を見つけてしまったら……絶対に見逃すとは思えない。


もしアイシャと遭遇してしまったら戦闘は避けられないだろう。


(それに、アイシャと戦う事になるとしたら相手が悪すぎる……)


私はソードファンタジアのアイシャ戦を思い出してみる。


戦闘面については、やはり終盤のボスというだけあってかなり強い。


“石の蛇姫”という名の通り、得意技は石化技だ。


それともう1つ、アイシャは土技も得意で、ボス戦では石化技で行動不能にした後に土の上級技をぶち込むというセットプレーに散々と苦しめられた。


他にも特徴的なのはアイシャのステータスだ。 合計値で見れば今の私とのステータス差はあまり無いのだが、アイシャのステータスは魔法防御力が低い代わりに、物理防御力がかなり高く設定されている。


だから対アイシャ戦は物理攻撃によるダメージが通りにくいので、魔法攻撃主体で戦う必要があるのだ。


ゲーム内での攻略法は、バフアビリティで魔法使いキャラの魔法攻撃力を引き上げてから、魔法攻撃のアビリティで大ダメージを与える、というのが一番楽な攻略法だった。


私が覚えているアイシャとの戦闘データはそんな所だ。


物理攻撃には強いけど、魔法攻撃には弱い幹部ボス。 もしアイシャと戦う事になるのであれば、このゲーム情報が役立つかもしれない。


……まぁ、そんな情報を思い出した所で、私には違う問題が出てくるのだけど。


(……私、魔法攻撃なんて1つも覚えないんだよね……)


それがアイシャの事を「相手が悪すぎる」 と思った最大の理由だった。


ダークナイトは剣もしくは短剣を装備する物理攻撃型のジョブである。 レベルを上げてアビリティを覚えていっても……魔法攻撃系のアビリティは一切覚えない。


ダークナイトが覚える攻撃系のアビリティは全て物理攻撃技だし……そもそも覚える攻撃系アビリティの数も少ない。 だってダークナイトはデバフなど戦闘補助技ばかりを覚えるジョブなのだから。


(いや私の役割はデバフをばら撒く戦闘補助が主な仕事なわけだし……)


今の私はアビリティが使えず、装備している武器は短剣のみ……しかもアイシャは物理攻撃に強いというオマケ付き。 魔法攻撃が使えない私にとって相性はかなり悪い。


こんな状況で対策を何も考えずにアイシャと戦闘を行うのは無謀というものだった。


----


アイシャは川で何かを洗っていて、それが終わるとすぐに森から出ていった。 幸いにもアイシャは私の方には来なかった。


(ふぅ……焦った……)


もしアイシャが魔王城に行こうとしてたのなら、方角的に私の方に向かって来るかもしれなかったので、内心凄く焦っていた。


(あっちは……街道の方?)


アイシャが進んだ方角にあるのは、魔王城からコア地方に続いている街道のはずだ。


(ということは、アイシャはコア地方に何か用事があるってことなのかな?)


そもそもアイシャがこの森の中に入ってきた理由もよくわかってないのだけど……もしかしたら街道の方で何かしら事件が起きているのかもしれない。


とりあえず私は魔王軍の幹部ボスと遭遇してしまう危機から回避する事は出来た。


でもそれは“今”回避出来ただけだ。 すぐにまたアイシャと遭遇する可能性は高い。


(ナインシュを抜けるまでにアイシャとまた出会う可能性はある……)


アイシャがいるということは、他の幹部ボスもいるのかもしれない。 そうなるとレベリングなんてしている場合じゃないのでは……?

それなら今すぐにでもナインシュを脱出した方が良い。 いやでも今すぐにナインシュから出ようとしたらすぐにアイシャに見つかる可能性も……

だからといって後ろには引きさがれない、後ろは魔王城なわけだし……


(な……なんでこうも上手くいかないんだ……!)


上げて落とすとは、まさにこの事だった。


あと少しでナインシュを抜けられるというゴール目前で、最大級に高いハードルが置かれるなんて思ってもいなかったわけで。


(なんで私の人生はこうもハードモードが続くんだろう……)


私は悲観的な気持ちになってきた。 思えば私は転生してからこの数日間、絶望したり悲観したりする事ばかりの日々だった。


それでも……


(考えろ……私が今できる事は何だ……!)


それでも私は悲観しながらも、考える事だけは止めない。


それは……母との最後の約束が、今の私にとっての信条となっているのだから。



―私達の分まで生きて―



だから私は考え続ける。 家族の分まで生き続けるためにも……私は考えるのをやめない。


(そういえば……)


アイシャは何で街道の方に向かっていったのだろう? 街道側で何か幹部ボスを呼び出す事件でもあったのか?


(……人間軍と……戦うため?)


私はハッとした。 つい先日、人間軍が魔王城を襲撃するという事件が起きたばかりだ。


結果は魔王の圧倒的な力によって人間軍は敗北したのだけど、私はひたすら森の中を走っていたので、その後の展開を私は知らない。


でも確か……私が魔王城から脱出した時、街道側に人間軍は沢山いた。


もし今、敗北した人間軍がコア地方に向かって逃げている最中なら、それを追撃をするために魔族が街道に集まっていても不思議ではないはずだ。


(もしかしてさっきから森の中にモンスターが出てこない理由って……森にいたモンスターは全員街道の方に行ってるから?)


精霊の湖付近はモンスターは湧かないといっても、もうそれなりに離れた場所まで私は来ている。 それなのにモンスターと遭遇しないのはちょっとおかしいと私は思った。


だってアイシャ……ラミア族もゲーム内では敵モンスターとして出現するわけなので。


だからラミア族のアイシャがいたのに、他のモンスターが出てこないのは……全員違う所に行っているのだと考えたら辻褄が合いそうだった。


(……少しだけ……様子を見に行ってみるのも手かな)


私もアイシャが向かった先……つまり、街道側の方に行ってみる事を考えた。


といっても森を抜けて街道に出るわけではない。 あくまでも森から街道の様子を探れる所まで近づくだけだ。


(かなり危険すぎる……でも……)


今の私にとって、前世で遊んだソードファンタジアの記憶は、何ものにも代え難い最強の武器になっていた。


アイシャの事も「メチャクチャ強い幹部ボス!」 という情報を持っているからこそ、今の私に出来る対策を考える事が出来る。


だからこそ“わからない”という今の状況は絶対に嫌だし……怖いんだ。 何もわからないと対策を立てる事すら出来ないのだから。 得体の知れないガルドという存在が怖かった理由もそれだ。


(危険だと思ったらすぐに精霊の湖に戻る。 これだけは絶対に守る)


私もアイシャが出ていった方向に行く事を決めた。 でもすぐに行くのは流石に怖いので、ある程度時間を置いてから向かう事にする。


そしてこの選択が、私が転生してから今までの間で一番の衝撃と喜びを私に与える事になる。


そこでかつての……いや、未来の仲間と再開する事になるのだから。

全然登場人物が増えない事に定評のある本作品ですけど、ようやく物語が少しずつ進んできました!

第二章の進み具合は今のところで25%くらいです。 まだまだ先は長いけど頑張れエステル!

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