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03.石の蛇姫は苛立つ(アイシャ視点)

前回のラストに遭遇しかけたアイシャ側の視点です。

次回からエステル視点の話に戻ります!

「はぁ……」


アタシは昨日からため息ばかりついていた。


―人間が魔王城に攻めて来た!―


ナインシュ全域に住む魔族達にその一報が届いた。


この報告を受けて、アタシ達魔族に激震が走る……という事は一切無かった。


魔王城に攻めて来た人間達は、魔王様の力によって一瞬で敗北したからだ。


アタシに魔王城の招集命令が来ることも無く、その襲撃事件は終わってしまった。


「せっかく襲いに来たんなら、もっと根性みせろっての」


その報告を受けてアタシは「ふーん、人間もやるじゃん」 って思ったのに……まさか数時間もかからずに負けるなんて情けない。


魔王軍の伝令役に聞くところによると、生き残った人間の兵士達はナインシュから逃げだしている最中とのことだ。


それと、この騒乱に乗じてナインシュに住んでる人間達もチラホラと逃げだしてるらしい。


ということでアタシは魔王軍から命令を受け、ナインシュから逃げていく奴らを狩りに向かったのだ。


……まぁ早い話、ただの残飯処理なわけなんだけど。


「久々に暴れられると思ったのになぁ……」


つい先ほども敗走する人間達をアタシは襲ってきた。 手負いの相手ばかりで手ごたえなんて一切無かった。


でも、収穫はあった。


「……ふふ」


アタシは先ほど手に入れた首飾りを掲げながらうっとりと眺めた。 首飾りの中心部には青色に輝く宝石が埋め込まれていた。


「凄い綺麗な色」


ただ、その首飾りには血が付いてしまっていた。


その首飾りに付いた血を洗い流すために、アタシは森の中にある川にまで来たのだ。



―数時間前―



アタシは魔王軍の命令を受けて、魔王城からコア地方へと続いている街道で人間達を狩っていた。


他の魔族達もそれなりに集まっていたけど、人間の方が数は圧倒的に多かった。


それでも人間側は負傷した兵士や戦う力を持っていない者達ばかりだったので、魔族側の方が少なくても問題は無かった。


当然逃げる奴らが大半なのだが、アタシ達はそれは追わない。 魔王様の命令だったからだ。


「我々の脅威を他の人間に知らせるためにも、逃げていく者は伝聞役として“それなりに”生かしておけ。 裁量はお前達に委ねる。 ただし……」


―歯向かってくる者達には容赦するな―


とのことだったので、刃をこちらに向けて来た兵士達を片っ端から殺して回っていた。


最初はアタシに攻撃をする奴もそれなりにいたけど……次第に剣を捨てて逃げていく兵士が増えていった。


そして最終的にアタシに刃を向けている奴は……目の前にいる男が最後の1人になっていた。


その男は雰囲気でなんとなくわかった。 それなりに強い剣士だと思う。 ……でもその男は既に満身創痍のボロボロな状態だった。


きっと道中にいた他の魔族達との戦闘で疲弊しきってしまったのだろう。


「はぁ……」


アタシはため息をついた。 こんな残飯処理ばかりじゃあ、ため息ばかり付いてしまう。


魔王様には逃げていく奴はそれなりに生かせと言われている。 でも……


「こんなんじゃあ……終われないよねぇ……」


アタシはニヤっと笑った。 もちろん内心はイライラしている。


コア地方に逃げていく奴らをチラっと見た。


甲冑を着て防具をしっかりと装備している兵士だけでなく、布の服を着てるだけの普通の人々もそれなりに見かけた。


アタシは前にいる男の方に目を戻した。 見た目は20歳くらいの青年だ。 服装は皮と布で出来た服を着ていて、装飾品は首飾りを身に着けているくらいだ。


その男は甲冑や防具などは付けておらず、軍人や兵士などのお堅い雰囲気は一切感じなかった。


だからそこら辺の村から抜け出した村人なんだと、アタシは思った。


「ねぇアンタ、魔王城を襲撃してきた兵士じゃないでしょ? そこら辺の村から逃げたのかな?」


コア地方に近い村は魔族に襲撃されてない所がまだ残っているので、そこから逃げだした奴らだろう。


その男は何も応えなかった。 アタシも何かしらの返答が来るとは思ってなかったので、そのまま喋り続けた。


「アンタも素直に逃げれば良かったのにねぇ。 1人や2人だけだったら確実に殺すけど……こんだけ逃げる奴らが多いと、流石に全員を始末なんて出来ないし」


アタシは不思議に思った。 多くの人間達は逃げていったのに、コイツはアタシに挑んできた。 しかも道中で既に満身創痍の状態になっているのにも関わらずにだ。


「ねぇ、何でそんなボロボロになってるのに逃げないの? 自分の命が大切じゃないの?」


「……俺がお前に勝てる可能性だってあるだろう?」


不遜にもその男は、アタシの事を倒すと、そう言ってきたのだ。


「……へぇ。 カッコいいじゃん。 そういう男は嫌いじゃないよ」


男はボロボロの体だったが、それでも目は死んでいなかった。


やっぱりこの男はそれなりに強いのだとアタシは思った。 きっとこの男は道中で出くわした魔族の何人かも倒して来たのだろう。


「それに……妹が……ソフィーが逃げ切れる時間を稼げれば……それでいい!」


そう言い終えると、その男は手に持っていた剣をアタシに突き刺そうと突進してきた。


「ふーん、色男だねぇ」


剣を突き刺そうとする心意気は認めるけど、所詮こんなものか。


突進と言っても、もうその男は体がボロボロだった。 こんな攻撃……そこら辺の子供でも避けれる。


アタシは自分の尻尾をムチのようにしならせ、その男が持っている剣の手元に尻尾を叩きつけた。


「うぐっ……」


男は苦悶の表情を浮かべ、剣を離して地面に落としてしまった。


その隙をついて、無防備になったその男の首元にめがけて尻尾を巻きつけた。 でもその男が身に着けていた首飾りは壊さないように喉元より上側を狙って巻きついた。


「ぐ、が………」


そのままアタシは尻尾を上へと持ち上げた。 男の足は地面を離れて宙を浮いた状態になっていた。


「あ……が……」


男は尻尾を掴んで離れようと必死に足掻くが、どんどんと男の顔が真っ赤になっていく。 アタシはそれを見てケタケタと笑った。


「もうすぐアンタは死ぬわけだけど。 ねぇ、今どんな気持ちなの? アタシに教えてよ」


ニコニコ顔のままその男に聞いてみた。 首を締められているその男は苦渋そうな顔を浮かべていた。


「だ……す、げ……」


かすれた声で男は助けを求めてきた。


「……っぶ……あは、あはは!」


そのかすれ声を聞いて私は吹き出さずにはいられなかった。


「あーっはっはっははははははは!」


先ほどまで凄いイライラしていたのだけど、面白いオモチャを見つけたアタシはそんな苛立ちの解消法を見つけた。


「……はぁ」


ひとしきり笑ったあとで、アタシは真顔になってその男に言った。


「命乞いなんてした所で止めるわけねぇだろ。 馬鹿か?」

「ぐが……」


その男の首を尻尾でさらに締め付けた。


「残念だよねぇ。 アンタが強ければこんな事になってなかったのにさ。 なんでこんな目に合っているのかわかる? アンタが弱いからだよ。 雑魚は雑魚らしく這いつくばって逃げてればいいのに。 ねぇ、わかる?」


アタシはそこまで言って一呼吸入れた。 そして尻尾の力を更に締め上げながらその男に怒鳴りつけた。


「雑魚が戦場に出て来んじゃねぇよ!」


その瞬間、男は苦悶と絶望に打ちひしがれた顔を浮かべた。 アタシはそれが見たかったんだ。


「あはは、いいねぇ……その顔。 アタシ、人間は嫌いだけど、2つだけ好きな所があるんだ」


イライラしていたアタシは、この男を死ぬ最後の瞬間までアタシの玩具にしてやろうと思い、わざと暴言を浴びせていた。


「1つ目はもちろんその顔。 絶望とか苦悶の表情は大好きだよ。 特に自分の事を強いって思ってる奴とか、自信に満ちあふれてる奴の顔を打ち砕く瞬間が愛おしい程好きなんだよね」


少なくともこの男は弱くは無いはずだ。 手負いの状態じゃなければもしかしたらそこそこ良い勝負が出来たかもしれない。


でもそんなのアタシには関係無い。 ボロボロな姿でアタシに立ち向かったのが悪いんだから。


「そしてもう1つは……その首に付けてる宝石だよ。」


アタシはその男が身に着けていた首飾りを指さした。


「凄いよねぇ、石っころをこんな綺麗にする技術はアタシ達持ってないから羨ましいよ」


そう言ってアタシはその首飾りに付いていた宝石を指で弄った。 男は何か言いたそうだったが、もう喋れる状態では無かった。


「だからさ……どうせアンタもう死ぬし、その首飾り……アタシが貰っとくね」


そう言い終えるとアタシは尻尾を更に高くまで持ち上げた。 男は自重によってさらに首が絞まり、酷く悶え苦しんでいた。


「じゃあね。 その妹さんとやらも近い内あの世に行くだろうから、そっちで仲良くしてね」


アタシは尻尾の力を一気に込めて……その男の首をねじり切った。


そしてそのまま動かなくなった“男だった物”を、アタシはテキトーに放り投げた。


尻尾に返り血がかかったけど気にしてない。そんな事よりも……


地面に落ちてしまった首飾りを尻尾で拾い上げた。


「ふふふっ、これこれこの輝き! 宝石を作り出す技術だけは本当に凄いと認めるわ」


ただ、首飾りの宝石部分に血が付いてしまっていた。 ちょっとだけ苛ついた。


「まぁ仕事はそれなりにやったし、もういいでしょ。 それより早くこれを綺麗にしなきゃ。確か……森の中に川が流れてたよね」


そう思ってアタシはこの街道を離れて、すぐ近くの森の中に入っていった。


----


それなりに時間がかかったが、森の中に流れている川にたどり着くことが出来た。


そのまま川の前にまで進んで、アタシはもう一度首飾りを掲げて見つめていた。


「凄い綺麗な色」


そして首飾りを川の流れる水に入れて、付着していた血を洗い流した。


自身の体にも返り血はついているけど、こっちは気にしない。 どうせすぐに血が付く事になるし。


「……ん?」


森の中の川で首飾りを洗っているその時……“誰かに”見られた気がした。


でも辺りを見てみたけど……誰もいない。 川から流れる水の音と、遠くの方から滝の音が聞こえるくらいだ。


「うーん、気のせいか」


アタシはそう思い、洗い終えた首飾りをもう一度見直していた。


「ふふふ……本当に綺麗」


アタシはそのまま首飾りを自分の首に付けてみた。


やっぱり宝石は凄い。 綺麗な石っころはアタシも集めたりするけど、それをこんな綺麗に加工する技術があるのは本当に凄いと思う。


「そういえば……」


さっきの男。 殺す前になにか面白そうな事を言ってたな。


「妹がいるって言ってたけど……もしかしてそいつも宝石を持ってるんじゃない?」


こんな綺麗な首飾りをもう一つ手に入れる事が出来るとしたら……


「……ふふ。お兄ちゃんに約束したからね。 妹ちゃんもそっちに行かせてあげないと可哀そうだよね」


アタシは笑みを浮かべながら、再度、元来た街道へと戻っていった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 彼女はねじれていてサディスティックです。 私はすきです。 それは、悪魔の王が引き付ける悪魔がどれほど冷酷であるか、そして彼女の性格と彼女が人々を石化する理由を示しています。 死体が石ででき…
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