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07.奴隷少女は脱出する。

おそらく深夜だと思う。


私はとてつもない轟音と地響きで目が覚めた。


(な、なに!?)


今までの奴隷生活で聞いた事が無い程大きい轟音だった。


明日ここからの脱走を決意して、私は早めに眠りについていたのだが、その音を聞いて私は飛び起きてしまった。


何が起きているのか、私は耳を澄ましてみた。


―うおぉおおおお!―


―突撃ぃいいい!―


―死守しろぉおおお!―


(あ、争い合っている音……? いやでも待って……これって!?)


沢山の人の気配に、怒号が飛び交っていた。


キンッキンッ……という、刃物らしき物が打ち合う音。


ドォンッ……という、砲撃音や建物が壊れるような音。


この時私はすぐに察した。


人間達の軍がこの魔王城に攻め込んできたのだ。


(な、なんで……なんでこのイベントが今起きてるの!?)


私は知っていた。


そう遠くない未来に……この魔王城が人間に攻め込まれる事を。


それは、ゲームのソードファンタジア内でエステルが自身で語っていたから。


----


私は転生してから今までずっと、早くこの魔王城から脱出をしたいと思っていた。


それは奴隷生活が辛いとか、魔王とか魔族が怖いからとか、理由は色々とある。


でも一番の理由は、私……“エステル”のためだった。


エステルは以前から話していたように、ソードファンタジアで序盤に仲間になるお助けサポートキャラだ。


綺麗で、強いし、主人公達の頼れるお姉さんというポジションで、私にとっては超ドストライク級に大好きなキャラだった。


そして気が付いたら私はソードファンタジアの世界にいて、さらに大好きなエステルに転生していたわけなんだけど……私がすぐにそれに気がづいた理由は3つある。


1つ目の理由は私の名前がエステルだという事。


2つ目の理由は私のジョブがダークナイトだという事。


この時点で私は「あ、ソードファンタジアの世界だ!」って思っていたんだけど、あともう一つ理由がった。


その3つ目の理由は……私の家族が魔族に殺され、さらに私自身は魔族に捕らえられて奴隷生活を送っている……という状況がまさしくエステルの過去の話だったからだ。


そして、この状況はかなりマズイ状況と私は思っていた。


ゲームの序盤、エステルは主人公の仲間だったけど、途中で裏切ってパーティから抜ける事になる。


ただこれは途中で魔族側に寝返ったという事ではなくて、最初からエステルは魔族側に付いていたんだ。


エステルは人間なのに、何で魔族側に付いていたのか……それは、エステルの子供時代にある事件があったからだ。


ソードファンタジアでエステルが自ら語った内容はこうだった。


----


エステルは子供の頃、魔族の奴隷として魔王城で働かされていた。


とある日、エステルがいつも通り魔王城で奴隷作業をしていた時に……人間の軍が魔王城に攻め来んで来た。


そしてその時、魔王城で奴隷として働いていたエステルは殺されそうになったのだ……魔族にではなく……人間に。


魔族の元で働いている姿を見て、攻め込んできた人間達はエステル達奴隷の事を裏切者だと思ったのかもしれない。


攻め込んできた人間達は、エステルの事を殺そうとしてきた。


エステルは絶望した……魔族には命以外の全てを奪われ、そして今度は同じ人間に命を奪われそうになるというこの現実に……


―私はただ、家族と幸せに暮らしていただけなのに……何でこんな地獄に落とされなければいけないんだ―


エステルは抵抗した、生き延びるために、必死に抵抗した。


そして抵抗している時に、エステルは近くに転がっていた鋭利な刃物を手に取り、それで襲ってきた人間の1人を殺してしまう。


でも1人を殺した所で、エステルの周りには剣を持った人間達に囲まれてしまっていた。


―もう逃げる事は……出来ない―


エステルは魔族にも人間にも、そしてこの世界にも……何もかもに絶望し、そしてエステルは自分の命を諦めた。


……その時、辺り一面に閃光が走った。


―サンダーボルト―


それは魔王の雷魔法だった。


攻め込んできた人間達に無数の雷が飛んでいき、そして人間達は次々と倒れていった。


命を諦めたエステルを助けたのは……魔王だった。


結局この攻城戦は、魔王の強大な力によって人間軍の大敗で終わり、人間達は魔王に対して恐怖を抱き、二度とこの魔王城に攻め入る事は無かった。


そしてこの攻城戦後に、魔王はエステルを魔王軍に引き入れたのだった。


魔王は人間達が襲撃してきた時、必死に抵抗しているエステルの事を眺めていた。


同胞のはずの人間を殺したエステルの事を魔王は高く評価し、エステルを魔王軍へと誘ったのだ。


そしてエステルはその誘いを受け入れて、そのまま魔王軍に入る事にした。


エステルにとって魔族は家族や村人達を殺した仇敵ではあるけど、人間からも裏切られたエステルにとってはもはや全てがどうでも良くなっていた。


魔王軍は良くも悪くも強さが正義だった。


魔王軍では力さえあれば誰からも舐められない、服従されられる事もない。


だからエステルは魔王軍でひたすら力をつけていった、他の誰にも屈服しないために。


ひたすら力をつけて、つけて、つけていき……気が付いたらエステルは魔王軍の幹部まで上り詰めたのであった。


----


というのが、ソードファンタジアのゲーム内でエステルが語った内容だった。


実際にゲーム内でこの過去イベントのシーンが流れるわけじゃないから、この事件の詳しい内容はわからない。


でもこの事件が発端となって、エステルは闇堕ちしてしまう事は知っていた。


(今は前世の記憶があるから、絶対に私を闇落ちなんてさせない!)


だから私はその事件が起きてしまう前に、何としてもここから脱出したかったのだ。


この事件は、魔王が魔王城に居る時に起きた話だと、ゲーム内で語られていた。


……だから私は完全に油断していたんだ。


(魔王が不在の間には絶対に起きないと思ってたのに……!)


そしてまた轟音が鳴り響いた、今度はほぼ頭上からだった。


続いて激しい地震も起きた。


(魔王城が……崩落でもしているの?)


立っているのもやっとなくらいの強い揺れだった。


バキンッ!!


その時、檻の鉄格子から破壊音が鳴った。


(こ、今度は何!?)


揺れが収まったのを確認して、私は鉄格子の方に近づいた。


すると……鉄格子の鉄棒が折れていた。 先ほどの破壊音は鉄格子が壊れる音だったようだ。


折れた箇所を見ると、数日前に私が引っ張ってしまい、亀裂を入れてしまった所の鉄棒部だった。


どうやら思っていた以上に亀裂が入っていたようで、今の激しい振動で、バキっと折れてしまったようだ。


折れた鉄格子の隙間はおよそ……20センチ以上はある。


これなら……私はこの隙間から抜け出せるのだが……


(わ、私は……どうすればいい?)


私は悩んだ……


今なら地上で起きている争いが原因でこの檻が壊れた、という事に出来る。


そして今なら……この壊れた檻から私は抜け出せる。


(でも地上が今どうなっているのか全くわからない……)


それが、私が檻から出るべきか留まるべきか悩んでいるポイントだった。


ゲームでは、この争いは魔王が一瞬で制圧した、とエステルは語っていた。


そしてこの魔王城に人間軍が攻撃をしかけたのは、これが1度きりだった、とも語っていた。


だからエステルが闇堕ちする事件というのは、今起きてる魔王城への襲撃の事なのだろう。


でも、今現時点で、この魔王城には魔王は不在だし、腹心のガルドさえも不在だ。


なので、この争いの決着の行方がどうなるのか……私にはわからなかった。


もしかしたら今、人間軍が圧倒していて、魔族を制圧している最中なのかもしれない。


いや、もしかしたら魔族の幹部ボスが援軍に来ていて、人間軍が打ち負けている最中なのかもしれない。


どちらもあり得る展開だし、それならいっその事、地上の争いが落ち着くまで、この地下の檻で待機しておくのも手だと思った。


(答えが……わからない……)


この争いの混乱に乗じて今すぐに脱出するべきか……


それとも地上の混乱が収まるまで、この地下の檻で待機するべきか……


私は目を瞑ってほんの少しだけ悩んだ。 悩んでいる時間も惜しいから、ほんの数秒だけ悩んで、私は目を開けた。


私が選んだ答えは……


(……今すぐ脱出しよう!)


地上に出た瞬間に、恐ろしい光景が辺り一面に広がっているのは何となく察せれる。


安全面を考慮するのであれば、争いが終わるまでこの地下の檻に留まっておいた方が良いのかもしれない。


でもこの地上で起きているイベントは……私が闇堕ちする要因のイベントだ。


だからこのまま何もせずにじっとしていると、私はゲームと同じ道のりを辿るのかもしれない。


(それだけは……それだけは絶対に駄目だ……!)


私は頬を両手でビシっと何度か叩いた。


頬が少し赤くなったが、眠気は完全に飛んだ。


(目は覚めた! あとは……勇気を出すだけ!)


私は折れた鉄格子の隙間に自分の体を突っ込んだ。


そしてそのままスポっと体が抜けて、私は檻から脱出する事が出来た。


(でもまだこれで終わりじゃない)


私は念願だった檻からの脱出に成功したわけだが、これはゴールではない……まだスタートしたばかりなのだ。


私は地上へと続く階段の前で止まった。


(ここを昇れば地上に出れる)


しかし地上では争い真っ最中の地獄が待っている……そしてその地獄を駆け抜けなければ魔王城からは脱出する事は出来ない。


私は階段の前でアイテムボックスを開いた。


(アイテム、オン)


そして階段付近についていた火のついた蝋燭を1つ手に取り、アイテムボックスに入れた。


(火種はとりあえずこれだけあればいい)


アイテムボックスを閉じて、私は一度深呼吸をする。


(すーはー)


怖くない……なんて言ったら嘘になる。


この先がどうなっているかはわからないし、心臓はさっきからバクバクしている。


チート能力でステータスが向上していると言っても、もし今魔王軍の幹部ボス級が出張ってきてたりしたら……


……でも私は覚悟を決めたんだ。


だから……あとは勇気を出して前に突き進むのみだ。


(……よしっ!行こう!)


そうして私は地上へと続く階段を駆け上って行った。

本文で語られてたエステルの過去話ですけど、これは1章が終わったら、おまけ編として投稿する予定です。

前回の春奈津子さんがエステルに転生するまでの話みたいな感じで、補足話だと思っていただければ大丈夫です。


ただ……エステルが闇落ちする所の話になるので、若干鬱っぽい展開にはなるかもしれません。

そういうのが見たくない人は見ないで大丈夫ですよ!というアナウンスでした。


1章ラストまであと少し!最後まで頑張っていくぞ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 元のエスターさんがパーティーを裏切った理由についてのこの説明が好きです。彼らはずっと魔王のスパイでしたか?そのようなダイナミックで彼女が「有毒な王女」であることは、多くの主題的な意味を持っ…
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