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01.奴隷少女に転生する。

始めまして、初投稿です。


完全に趣味全開で書いていきますが、良ければ楽しんでいって貰えれば嬉しい限りです!

エステル少女の冒険譚をお楽しみに!

「おいエステル!さっさと早く水汲みを終わらせろ!今日も飯抜きにされたくないだろ!」


エステルと呼ばれた少女はこくんと頷いて水汲み用の瓶を手に持ち、急いで井戸に向かった。


「お前らもだ!さっさと作業を終わらせろ!この奴隷共め!」


少女の周りにいた奴隷と呼ばれた人達も黙って頷き、各々の作業を進めていた。


「……っち、奴隷の数も随分と減っちまったな。また増員しないとだなぁ……」


そういうとエステルを怒鳴りつけた男は口を歪ませて笑っていた。


「ガルド様!」


「なんだ!うるさいぞ!」


ガルドと呼ばれたその男は、再び苛立ちながら呼ばれた方を向いて怒鳴った。


「し、失礼しました。魔王様がお呼びです!」


「なんだと? それをさっさと言えバカか貴様は!」


「も、申し訳ありません!」


「ふん、まぁいい。俺は魔王様の所に向かう、それまでここの管理はお前に任せるぞ」


「わ、わかりました!」


そういうとガルドは部屋から出ていった。


ここは魔王城予定地。


数年前に新しい魔王が即位し、その記念に建てられるお城だ。


魔族はこの魔王城を建てるために、奴隷達を集めていた。


素材を運ぶための奴隷、河川を引かせるための奴隷、田畑を耕すための奴隷など、多くの奴隷が必要なのであった。


完成は半年後を予定しており、ここ最近は完成させるために奴隷達への仕事量がドンドンと増えていった。


それだけじゃない、ここ一年で奴隷の数もだいぶ増えていってる。


この奴隷達を調達しているのは先ほど魔王に呼ばれたガルドという者であり、この魔王城周辺地域を担当する魔族の長だ。


奴隷の調達の仕方はシンプルだ。


近くにある人間の住む村や町を襲う。


そして生き残った人間をまとめて搔っ攫えば奴隷の完成だ。


この一年で奴隷の数が一気に増えたということは恐らくもう……と、エステルは思っていた。


ガルドはワーフルフと呼ばれる人狼であり、魔王の腹心として活躍している。


ガルドは策略をたてるタイプではなく、純粋に力で敵をねじ伏せる戦闘狂の魔族だ。


魔族の優劣は純粋な戦闘力で測られている。


その中でもガルドはトップクラスの戦闘力を誇る魔族で、数々の武勲を立てているため、魔王からの信頼も厚い。


だからこそ魔王城の建設という重大な任務を任されているのだろう。


数々の死地でも生き残り続け、武勲を挙げて魔王からの信頼も厚く、魔族の中でも英雄的存在がガルドなのである。


そしてエステルの住んでいた故郷であるソラド村を滅ぼした張本人でもあった。


---


今から4年近く前に魔族と人間の戦争が始まった。


長い間、魔族と人間は共存して生活をしていたのだが、魔族側に新しい魔王が誕生してからすぐに、魔族と人間の関係性は破綻した。


魔族は住む土地と、その土地から得られる資源を奪うために人間が住んでいる場所を侵略を始めた。


いや、侵略という名の惨殺であったが。


そしてその侵略の被害を受けた生き残りが、ここに集っている奴隷達であった。


彼らは罪を犯したわけでも何でもない。


ただ平和に村や街で家族や友人と過ごしていただけ。


そこに突如、魔族達が村や町を侵略してきたのだ。


魔族の侵略は、防衛が軍備やしっかりしている王族や貴族達が住まう大都市は狙わず、防備が手薄になっている地方や田舎の村や町に絞って侵略していった。


侵略が始まった当初は、王族や軍が集まる会議で都市部の軍備を地方に割く話が出ていたが、そこに「待った」をかけたのが貴族達。


「都市部の軍備を薄くしたら、今度は都市が狙われる」


自分達の住まう場所が魔族に狙われるくらいなら地方や田舎の町村は捨てろ、ということだ。


「そんな辺鄙な町村に金を割くよりも武器や魔具の生産を急げ。魔族が小さい勝利で喜んでいる今の内にこちらは本陣を叩くぞ!」


つまりここにいる奴隷達は皆人間なのに、同じ人間である貴族達に見捨てられた者達ということだ。


この戦争は4年経った今でも、決着はまだついていない。


そして人間の奴隷は年々増えていってるのであった……


---


エステルも元々は地方にある小さな田舎村であるソラド村に住んでいた少女だった。


母と父と弟の4人家族で毎日幸せに暮らしていた。


その幸せな日々は突然の魔族の襲来で壊された、まだエステルが6歳の頃の出来事だ。


父と弟は魔族に殺された、一瞬の出来事だった。


母は私の腕を引っ張って村から逃げようとした。


それでも魔族の刃は母の体を貫いた。


「エステル、アナタだけでも逃げて……」


「で、でもお母さん……」


「私はもうダメ。だからアナタだけでも逃げて……いつか必ず救われる日が来るか、ら……私達の分まで生き、て……」


それが両親との最後の会話だった。


エステルは泣きながら村から逃げ延びる事は出来たが、その後すぐに魔族に捕まった。


そしてそのままエステルや生き残った村人達は、その日から今まで奴隷として働かされた。


奴隷達は各地で集められているようで、数百人規模はいるようだった。


命じられる仕事は老若男女問わず、全員力仕事が与えられて、動かなくなればそのまま捨てられる。


ご飯の配給もパンが渡されればマシなほうで、味のしないスープのみの日や、炒った豆だけの日もある。


しかも作業が遅れてしまうと、罰としてご飯が抜きになる事もあった。


栄養が全く足りなくて力仕事を行う程の力は出ずにまた作業が遅れて、ご飯が抜きになる悪循環。


そしてそのまま餓死か力仕事中に倒れて死ぬか、もしくはこの地獄に耐えきれずに自死してしまうか。


この4年間の間に奴隷達の多くは死んでいった。


それでも魔族達は死にゆく奴隷達を見た所で心は痛まない。


奴隷達が死んでいくと、毎回決まって、「あぁ……替えの奴隷を調達しないとな」と言うだけなのだから。


奴隷達は魔族にとって、単なる使い捨ての道具としてしか見られていなかった。


エステルは最初の頃はこの地獄のような環境で毎日泣いていた。


辛い、悔しい、悲しい、色々な感情が渦巻いて涙が止まらなかった。


家族は死に、強制的にやらされる仕事はきつく、ご飯も満足に与えられない、死にゆく者達をただ見ている事しか出来ない。


心が壊れるには十分すぎる環境だった。


気づけばエステルは10歳になっていた。


エステルと同じ村に住んでいた生き残りはポツリ、ポツリと減っていき、気づけばソラド出身者はエステル一人だけになっていた。


今となっては流す涙は一滴すら流れない。


この4年でエステルの感情という機能が完全に壊れてしまったのだ。


それはエステルだけではない。


ここにいる奴隷達全員の心はもう完全に壊れてしまっているのだ。


ここに来た奴隷達は最初の頃は皆泣いたり、叫んだり、中には魔族への復讐心を持っていた奴隷達だっていた。


でも今となってはエステル含めて誰一人もそんな感情は湧いていないし、何も考えない。


魔族の命令を受けて、ただそれを従うだけの完全なる虚ろな状態。


動く間は魔族に好き勝手遊ばれて、動かなくなればそのままゴミ箱に捨てられるだけの人形。


それがエステル達だった。


---


エステルは井戸に辿りついた。


足取りはとても重く、フラフラな状態だった。


ここ最近は仕事量が増えており、睡眠時間もかなり削られている。


それにエステルは昨日はご飯を与えられていない。


理由は昨日城の窓ガラスを拭いている最中に、そのガラスを壊してしまったからだ。


その結果ガルドに大目玉を食らい、罰として昨日のご飯は抜きとなった。


井戸に到着したエステルは、急いで井戸の水を汲んで水瓶に注ぎ込んでいた。


ふと水瓶に溜まった水に私の顔が映った。


酷い顔がそこに映った。


頬はやせこけ、目の下にクマが出来て、髪もボロボロ。


それが今のエステルであった。


ソラド村にいた頃は笑顔を絶やさない可愛らしい少女だったのが、今では無機質無表情でボロボロな姿。


もしソラド村の人が今の私を見たら「……誰?」と言うに違いない。


でももうソラド村の生き残りは私一人だけ。


昔の私を知っている人はもうこの世には誰もいない。


この地獄に取り残されたソラド村出身者は私一人だけになったのだから。


そしてこの地獄の日々がいつ終わるのかは誰にもわからない。


明日なのか明後日なのか……それとも1年?10年?それよりももっとかかるの?


このままいつ終わるかわからない地獄に居続けるくらいなら、自ら死を迎えた方が楽なのではないのだろうか。


家族に会いたい。


それならいっその事……


そんなことを思ったら、ふと母の最後の言葉を思い出した。


―いつか必ず救われる日が来るから―


もう四年も経っちゃったよお母さん。


救われる日なんて来ないよ。


エステルはズボンの中に仕込んでいたのはガラスの破片を手に取った。


昨日エステルが城の窓を割った際にくすねた破片だ。


実はエステルは昨日わざと窓を壊して破片を入手したのだった。


理由は当然それを自分の首に突き刺すために。


ガラスの破片は大きめかつ鋭利なものを選んでおいたので、私の首に突き刺すには十分だ。


これで家族に会える。


もう私は十分頑張ったよ、皆に会いたい、褒めてもらいたい。


今まで頑張ったね、って。


私は目を瞑って両手に持ったガラスの破片を首に突き刺そうとした。


その瞬間。


―私達の分まで生きて―


エステルの手が止まり、閉じていた目を再び空けた。


手に持っているガラスの欠片を突き刺そうと決心しているのに、手が動かない。


死を覚悟したエステルと、それを踏みとどませようとするエステル。


力を入れすぎてしまい手に持ったガラスが手に食い込んで、そこから血が出てしまっている。


っふー、っふー、と息を荒立てながら、それでも首にガラスの欠片を突き刺そうとするエステルだったが……


それでも突き刺す事は出来なかった。


両手からガラスの欠片は抜け落ちてそのまま井戸の底にポチャンと落ちてしまった。


自死は失敗した。


それだけでなく、自死の道具も失ってしまった。


エステルは今、失望感や絶望感を感じたが、同時に死ななかったという安堵も生まれていた。


エステルの死を踏みとどませたのは、望んだ死を迎えられなかった父と母、弟の事を思い出したからだ。


そして最後に母は言った、「私達の分まで生きてくれ」と。


エステルはぺたりと座り込んで、数年振りに涙がこぼれ落ちた。


そしてエステルは涙を流していることにビックリした。


感情なんて既に壊れていたはずなのに、涙なんてもう枯れたはずなのに。


涙が止まるまで待ってからエステルは立ち上がり、決心をした。


(死んでしまう最後の最後まで、私は這いつくばってでも生きてみせる)


それが家族との、母親との最後に交わした約束だから。


(それに……)


自死を選択してしまったら、きっとあの世に行っても家族には会えない。


会えたとしても、喜んでくれはしないだろう。


それなら死ぬ最後の時まで無様でもいいから足掻いて生きてやる。


そしていつかあの世に行ったら、家族に誇らしくこう言うんだ。


「皆の分まで頑張って生きたよ。」


……って。


エステルは涙を拭いて、水瓶に水を入れる作業に戻った。


水瓶に水を汲み終わったエステルは、その水瓶を持ち上げようとした時に眩暈がした。


手から血を流し過ぎたから?


一瞬そう思ったが、そこまで血は出ていない。


じゃあ何が原因だろう?


と思ったその時……








エステルが意識が飛んだ。



---


私は目を覚ますと、辺りをキョロキョロとしだした。


先ほどまでは無表情だった少女の顔が、僅かに困惑した表情を浮かべていた。


(……あれ?)


そしてそのまま自分の顔をペチペチと叩いた。


(……え?)


もう一度ペチペチと頬を叩いた。


(……あれ?)


今度は頬をつねった。


(痛い!)


夢だと思い頬をつねってみたけど痛かった。


水瓶に注いだ水を覗き込んで、私の顔を映してみた。


(な!?)


驚愕した。


(なんで少女になってるんだああああああああああ!?)


いや声をあげようと思ったんだけど声が何故か出せなかった。


何か喋ろうとしても口がパクパクするだけで、声は出なかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] それは興味深いスタートです。彼女が自分の反省を見て絶望がやってくるのを見る瞬間、状況の絶望に感謝します。テイルズオブアライズを思い出します。奴隷制は大きなテーマであり、キャラクターはそれが…
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