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02 拾われたゴーレム

「……でね……なのよ……だと思わない?」


 声が聞こえた。聞いたこともない声だ。


「……だったのに……で最悪なの! ……らなあ」


 この声質は、男性のものじゃない。まだ若い女性の声だ。


「ほんと、よく生きて帰ってこれたものだわ。あんな山奥で置いてけぼりにされたら、いくら冒険者だからって普通死ぬわよ!」


 口調が少し早い。声のトーンからも興奮を感じる。おそらく彼女は、なにかとても怒っているのだろう。


「あーあ、証拠さえあればあいつら冒険者ギルドから永久追放してやれたのになあ。こんなことなら冒険者なんて目指さなきゃよかった」


 俺は少しずつ自分の体を認識する。五体は満足だ。魔力もかすかながら流れている。おそらく声の主である少女の魔力だろう。

 薄っすらと目を開けると、青い空と茜髪の少女が見えた。


「……はあ。ごめんね、こんなこと人形のあなたに言ってもしかたないのに。でも愚痴らずにはいられなかったの。聞いてくれてありがとう」


「いいえ、とんでもございません」


 俺はクロウリー様に教えられたとおり言葉を返した。少女の表情が一瞬でこわばる。


「……え? い、今しゃべったのあなた!?」


「はい。私はSSランク【人形術師ゴーレムマイスター】ムーン・クロウリー様によって制作されたゴーレムです」


「ク、クロウリーってあのクロウリー!? でもなんでこんなところに……」


 彼女はクロウリー様を知っているらしい。SSランク冒険者は王都にも十数人しかいないので、当然といえば当然だ。


「私はクロウリー様に廃棄されました。ところでここはどこですか?」


「ここはヒガナ村の私の家だけど……廃棄って、捨てられたってこと?」


「おそらくは、そうです」


「なにそれ酷い! クロウリーの功績って、ほとんどお供のゴーレムのものだって聞いてるわよ!? それってきっとあなたでしょ!? なのに捨てたの!? サイテーじゃない!」


「サ、サイテーですか」


「サイテーよ! 信じられない!」


 彼女はまるで我がことのように怒りをあらわにした。言われてみればそうだ。クロウリー様は、いや、クロウリーは最低だ。俺はずっと身を粉にして尽くしてきたのに、こんなあっさりと捨てるなんて。


「ところであなた、名前はなんていうの?」


「な、名前ですか? クロウリーは土塊ツチクレと呼んでいましたが」


「うわ、ひど……私の中でクロウリーの株が急転直下なんだけど。うーん、でも名前がないなんてあんまりだわ。ねえ、私がつけてあげてもいい?」


 それは嬉しい申し出だった。俺はずっと名前が欲しかった。


「お願いします」


「よしきた! それじゃちょっとまってね……うーん……何がいいかしら……あ、そうだ! "エメス"っていうのはどう? 古い言葉でね、正しい人のことを意味するの。クロウリーよりあなたが正しいに決まってるもの。だからエメス!」


「エメス……」


 瞬間、稲妻に撃たれたような衝撃があった。俺の中で何かが急激に覚醒していった。そして、頭の中で声が響く。


――「命名」が完了しました。個体登録が完了しました。成長機能を解除します。ステータス表示機能を解除します。ステータスを表示します。


 わけがわからないでいる俺の頭に、情報が流れ込んでくる。


―――――――――――――――――――――――――


名前:エメス

種族:ゴーレム


Lv:1

HP:999

MP:-

ATK:999

DEF:999


-パッシブスキル-


対炎完全耐性:あらゆる炎を無効化する

対氷完全耐性:あらゆる冷気を無効化する

対雷完全耐性:あらゆる雷を無効化する

対毒完全耐性:あらゆる毒を無効化する

魔力生命体:魔力で動き、魔力が尽きると活動が停止する

魔力感知:魔力の存在を感知できる

自己修復:欠損した部位が自動で修復する

不器用:武具が使用できない(デメリット)

口下手:魔法が使用できない(デメリット)


-アクティブスキル-


ゴーレムパンチ:強烈なパンチ攻撃

ゴーレムキック:強烈なキック攻撃

ゴーレムアイ:相手のステータスを分析する


―――――――――――――――――――――――――


「……どうしたの? ぼーっとしちゃって。名前、気に入らなかった?」


 少女が心配そうに俺を覗き込む。なんだったんだ、今のは。


「大丈夫だ。少しめまいがしただけ」


 少女が目を丸くする。


「……あれ? なんか、さっきより口調が流暢になってない?」


「そうか? 何も変わってないと思うが」


「変わってるよ! 人間みたいになってる! なんでだろう、名前がついたかな?」


「そういえば、頭の中に『命名が完了しました』って声がしたんだが……」


「ふーん、神父様に聞いたらわかるかな? でも、さっきよりずっといいよ! 話しやすくなった!」


「そ、それならよかった。なんだか変な感じだな」


「うん! あ、私の名前はフランシーヌ。フランでいいわ。よろしくね、エメス」


「ああ――」


 その瞬間ときだった。ざわざわという嫌な悪寒が全身を駆け抜けた。

 なにかが俺たちを狙っている。すぐ近いところに悪意のこもった魔力を感じる。


「フラン、一つ聞きたいんだが……この辺りに魔物って出るか?」


「魔物? 森の方まで行けばいるかもしれないけど、スライムや森蝙蝠くらいだよ」


 スライムや森蝙蝠はEランクの雑魚だ。しかしこの魔力は明らかにCか、それ以上はある。嫌な予感がした。


「フランはここによく来るのか?」


「うん。緑が綺麗だから悩みがあると来ることにしてるの。そしたら今日、たまたまあなたを見つけたわけだけど」


 決まりだ。この魔力の主は、度々訪れるフランを狙っていたのだ。とすると知能のある魔物だ。

 俺はなるべく落ち着いた口調でフランに告げる。


「単刀直入に言う。君はなにか厄介な魔物に目をつけられている。ここは危ない」


「……魔物!? で、でも大丈夫、私だってこう見えて冒険者なの! やっつけちゃうんだから!」


「ランクは?」


「……Eです」


「たぶん敵はCランク以上の魔物だ。俺の後ろに下がっててくれ」


「Cランク……まさか森林巨熊フォレストベア!? さいきん山から降りてきたって聞いたけど、まさかこんなとこまで!」


「大丈夫、落ち着いてくれ。俺がどうにかする。ただ俺は魔力なしじゃ動けない。君の魔力を俺に分けてほしい」


 今は彼女が垂れ流しにしている魔力でかろうじて動いているだけだ。本格的な戦闘になればすぐガス欠になる。彼女もなんとなく事情を察したらしい。


「わ、私の魔力で足りるかな」


「足りなかったら、その時は逃げてくれ。そして俺のことは忘れるんだ」


「そんなこと――」


 バキバキという破砕音が俺たちの会話を引き裂いた。

 土煙の上がる茂みからのっそりと、巨大な赤毛の熊が姿を現した。


本小説を読んでいただきありがとうございます!


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