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佐久間獅音視点その3


秋が来た。読書の秋、スポーツの秋、食欲の秋……。


彼女が貴之のことを思い出すことは無く、俺が貴之と話すことも滅多に無くなった。


思い返して見れば瑠璃がいない所で貴之とは遊んでいない。それどころか会ってすらいないことに気がついた。


加奈子ともこの前の一件以来二人で会ってはいない。

特に会う理由もなかったしそんなものだろう。



昼休みは三人で昼食を食べるようになった。最初は悲しさや切なさが込み上げていたが、今では会話を楽しみながら過ごしている。


もちろん今でも貴之を誘って四人で食べたいが、彼は誘いを嫌がっていたし、瑠璃のことを頼まれてしまっているから気持ちを無下にするわけにもいかない。


加奈子と貴之は何かを隠しているが、言えないことは誰にだってある。深く追求してはいけない。



「ねえねえ!加奈子のミートボールちょーだーい!」


「こらっ!タダではやらんぞー?欲しいなら唐揚げと交換だー!」


「えー!?ケチ!」


「それはおかしくない?!」


「ふふっ。」


「獅音君何笑ってるの!!」


「いや……おかしくて。」


「正直でよろしい!」


「いや嘘つけないから……くくくっ。」


「あんたは相変わらず天然だねぇ。」


「もー!二人してからかうんだから!そんな悪い人達にはお仕置だからねーっ!」


彼女は素早くミートボールとエビフライを弁当箱から盗み取り口の中へ入れた。


「「あーっ!!」」


「ごちそうさま♪」


「瑠璃には敵わないな……。」


「ショック……なんて言うと思った?」


「加奈子の負け惜しみ〜!……あれ?私の唐揚げ二つ無くなってる、、。」


「いい攻めだったけど守りがまだまだだったね〜!はい獅音君にもおすそ分けっ。」


「あ、ありがとう加奈子。」



唐揚げは少ししょっぱかった。



「ところでさ〜。二人はどこまで進んだの?」


「ぶっ。」


危なく口の中の食べ物を撒き散らすところだった。



「どこまでって何が?」


「あー瑠璃にはどうせわからないから獅音君答えてくれなーい?」


「具体的に言ってくれなくてもわかる。」


「獅音君が答えないなら瑠璃に聞いちゃうぞー?」『さっさと白状せい!言葉がおかしくなってるよー?』


「うっ。」


加奈子はこういう時嘘をよく付く。瑠璃にバレずに本心を伝えるにはとても良い方法だと思われてしまっている。


その方法が間違いじゃないのが厄介なんだよな……。



「その……瑠璃とは手を繋いだだけだ。」


「最近帰り道繋ぐようになったの!」


「へー。」『まだそこかよ!』


「興味無さそうだな。」


「いやいやーきょーみしんしんだよ?」『せめてチューはしとけ!』


「すまん。」


「なんで謝ってるの?!」


瑠璃には聞こえてないから不思議なのも無理はない。



「この話はここまでにしてくれ。」


「仕方ないな〜。勘弁してあげよう。」『デート連れてってあげなさいよ!』


「秋と言えば?」


「急だね〜?」


「食欲の秋!」


「自分で答えるんかーい!」


「ツッコミありがとう!」


「もう慣れっこだからね……幼なじみだし。」


「ということで食べ歩きにみんなで行こう!」


「え、今日か?」


「獅音君ノリノリだね!でも土日にしよー!」


「え、あっ。」


「顔真っ青だぞ〜。」『恥ずかしいねぇ。青春だね〜?』


「真っ青じゃなくて真っ赤じゃないの?」


「見ないでくれ……。」


「まあいっか!詳しいことは後で連絡するね!」


「りょーかーい!」


「……わかった。」



帰り道手を繋いで嬉しそうにする彼女。こんな姿見てしまったら貴之には悪いが瑠璃だけを守りたいと思ってしまう。


何があっても俺は瑠璃のそばに。



次の日瑠璃は学校を休んだ。風邪らしい。



その次の日も学校を休んだ。熱らしい。



「瑠璃が二日も休むなんて珍しいな。お見舞い一緒に行かないか?」


「……もしかして。だとしたら次は……。」


「聞いてるのか〜加奈子?」


「えっ。あ、ごめん。なんの話だっけ?」


「お見舞い行かないか?って話。」


「あー!うん!行こう行こう!プリンとかゼリーとか買っていこっか!」


「おう。」



コンビニで目当ての物を探している時、ふと気になることを口にしてしまう。


「瑠璃の家族って会ったことないな。」


「……もしかして家遊びに行ったことないの?」


「ない。」


「マジか……。瑠璃の家は二人家族だよ。」


「母親と?」


「そう。父親は瑠璃が小学生の時に交通事故で。」


「そっか……。」


「ゼリーとプリンあったしそろそろ行くよ〜。」




ピンポーン。


「はい?どちらさまでしょうか?」


「佐久間と申します。瑠璃さんのクラスメイトで風邪と聞いてお見舞いに来たんですが。」


「わざわざどうもありがとう。今鍵開けるからあがって〜。」


ドアを開けて出てきたのは母親だ。どことなく瑠璃に似ている、と言うより瑠璃が母親似なのだろう。



「あら?加奈子ちゃんも一緒だったのねー!」


「こんにちは。お邪魔します。」


幼なじみなのに随分真面目に挨拶するんだな……。俺が知らないだけでこれが普通なのか。



階段を上がると 瑠璃の部屋!と書かれた表札が目に入る。


「わかりやすいな……。」


「でしょ。先入ってて、私おばさんと話したいことあるから。」


「わかった。」



ドアを開けるとベッドで苦しそうに横になっている彼女が……いない。


「あれ?獅音君だ!」


椅子に座ってるのはどう見ても瑠璃だ。風邪どころか、とても元気そうに見える。


「風邪……じゃないのか?」


「あー……?風邪かも。」『違うけど。』


「……そっか。これお見舞いのプリンとゼリー。」


「え!!やった!」


プリンに伸びていく手を掴み()()()()()()()()()



「風邪じゃないのか?」


「……風邪。」『違う。』


「熱があるのか?」


「……うん。」『違う。』


「具合悪いのか?」


「……うん。」


「……俺が来て嫌か?」


「……うん。」『嬉しいよ。』


「そっか。俺は瑠璃の顔を見てほっとしたよ。」


「……そう。」


「加奈子も来てるんだがなかなか来ないな。」


「……?!」


「瑠璃のお母さんとなにか話すって言ってたんだけど、なんの用なんだろうな?」



「……っ!!」



ドンっ。


俺の肩にぶつかりながら急いで階段を降りていく。

凄い形相の彼女に俺は驚き立ちすくむことしかできない。



はぁ、はぁ、はぁ。



「……瑠璃。」


「何……話してたの?」



パンッ!


乾いた音が居間に響く。




「……どうして!……どうしてなの!!」






俺が階段を降りた時には頬を赤く染めた瑠璃と、走り去っていく加奈子の後ろ姿が遠くに見えた。



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