佐久間獅音視点その2
「誰って……一緒に夏祭りに行っただろ!」
「私と獅音君と加奈子の三人で行った夏祭りの事?」
「貴之もいたから四人だ!加奈子は覚えているよな?」
「……。」
「なんで何も言わないんだよ……。言ってくれないとわかんねぇよ。」
「獅音君……ちょっと怖い。」
瑠璃は初めて見る彼の姿に少し脅えている。
「……俺が悪かった。なんでもないんだ。」
沈黙の中お昼ご飯を食べ終え午後の授業を受ける。
俺がおかしいのか?そんなはずはない。
だが、同じクラスにいる貴之は瑠璃とも加奈子とも話さなくなった。まるで今まで一緒にいなかったような振る舞いをしている。
別の友達と楽しそうに話すあいつは俺の知ってる貴之とは別人に見えた。
……よし。
授業が終わり下校時間。直接本人に確かめた方が早いと思い貴之に声をかける。
「貴之。」
「どうした?」
「俺の事覚えてるか?」
「獅音だろ?」
忘れられている訳ではないようだ。
「なんで昼来なくなったんだ?今まで通り四人で食べないのか?」
「それは……すまない。もう無理なんだ。」
「何が無理なんだよ!確かに瑠璃は忘れたような口ぶりだったが、喧嘩しただけなんだろう?謝って仲直りすれば……。」
「そうだったらいくらでも謝るんだけどな。」
「何か知ってるのか?」
「いいや何も。じゃあな。」『お前は最後まで一緒にいてやってくれ。』
貴之は俺の言葉を聞く前に駆け足でいなくなってしまった。
喧嘩した訳じゃない……加奈子と俺は貴之を覚えている。瑠璃だけが記憶が無い……。
瑠璃に何が起きているんだ?学校が始まるまでの間に原因があるのだろうか……。
帰りは瑠璃と話しながら様子を伺うことにした。
主に夏祭りが終わってから学校が始まるまでの話をした。
「俺は宿題も終わってたし、花火が凄かったから思い出してスケッチしてたんだ。」
「凄い!私が絵を描くと加奈子に、なにそれ?怪物?とか言われるんだよ!酷いよね!!」
「どんだけセンスないんだよ……。今度教えてあげようか?」
「ほんと?!教えて教えて!」
「わかったわかった。瑠璃は毎年あの夏祭り行ってるんだよな?」
「うん!去年までは加奈子と二人だったんだけど今年は三人に増えて嬉しかったなぁ。」
やっぱり貴之の記憶が丸々ない。教室ですれ違った時も瑠璃は何一つ反応を示さなかった。まるで他のクラスメイトと変わらないような。
「そっか……。」
何か四人でいたことを証明できるものでもあれば……。
「あっ!」
「どうしたの?」
「写真撮ったんだよ。加奈子が加工して送るから待っててって言ってたやつ。」
「そういえばそうだったかも?」『よく覚えてないなぁ。』
「俺加工終わったか聞いてくるよ。ちょうど瑠璃の家着いたしな。」
「あ、ホントだ!あっという間だねぇ。送ってくれてありがとう!また明日。」
「ああ。また明日な。」
瑠璃が家の中に入るのを確認してから加奈子に電話をかける。
「もしもし?」
「もしもし。俺だ、獅音だ。」
「どうしたの?」
「夏祭りに撮った時の写真って加工終わったのか?」
「あー……うん。」
「今から見に行ってもいいか?」
「……いいよ。」
写真を見ればきっと瑠璃だって思い出す。
加奈子の家に着きインターホンを鳴らす。
彼女はドアを開けて「入って。」と一言。いつも明るい加奈子のこんなに暗い顔は初めて見る。
「はい。これが写真。」
加工された写真データを見ると写っているのは三人だった。
「貴之を消すのが加工だったって言うのか?友達じゃなかったのか!!」
思わず声を荒らげてしまう。
「別に貴之を加工するつもりじゃなかったんだよ。私を消すかもしれなかったし、普通にみんなの肌を綺麗にしたり目を少し大きくしたりするだけだったかもしれない。」
「どういうことだよ。」
「貴之とは約束してたから。私は約束を守った。あの子が選んだ結末は私達も受け入れるしかない。」
「何を言ってるんだよ……。」
「ずっと私達はあの子を見てきた。親の次にあの子のことを私達は理解してる。だからもうそろそろかなとは思ってたの。」
「わかんねぇよ!わかるように話せよ!」
「そのうち分かるよ。瑠璃のこと嫌いになったりしてないよね?」
「当たり前だ。加奈子が何を言ってるのかまるで分からないが、俺には言えないことなのか?」
「あなたに嘘はつけないでしょう。私はちゃんと本当のことを伝えているわ。」
嘘じゃないのはわかっている。話している内容をもっと詳しく、瑠璃のことを詳しく聞きたいのに。
加奈子はそれを言う気がない。
「瑠璃のことは自分で調べてみるよ。」
「そう。」
三人の写真を見つめこれが間違っているのだと再度自分自信に確認を取る。
「……一つ頼みたいことがある。」
「何?」
「四人で写ってる写真も貰えないか?」
「見せても悲しくなるだけだよ。」
「それでもいいんだ。」
「酷いことするね。私は止めたからね。」
彼女はそう言いながら加工された写真と加工前の写真のデータを送ってくれた。
「ありがとう。俺はまた必ず来年四人で夏祭りに行く。約束したからな四人で。」
「行けるといいね。……そろそろ晩御飯の時間だから帰って。」
「ああ。突然押しかけてすまなかった。また明日な。」
「大丈夫。また明日ね。」
明日この写真を瑠璃に見せよう。思い出してくれ瑠璃。
次の日彼女は何も知らずいつも通りお昼ご飯を誘いに来る。
「一緒にたーべよ!」
「ああ。今日は一人なのか?」
ふと嫌な予感がする。
「うん。加奈子今日は用事があるんだって!」
良かった。加奈子のことまで忘れていたらどうしようかと思った。
「そうか。今日は見せたいものがあるんだ。」
「なになにー?」
「これなんだけど。」
加工された写真を瑠璃に見せる。
「あー!夏祭りの時の写真だ!楽しかったよねぇ。」
「ああ。これを見て何か違和感がないか?」
「違和感?ま、まさか幽霊が写ってたりするの?!探すの怖いなぁ、、。」
予想はしていたが貴之のことを思い出す気配はない。
加奈子が言っていた通り悲しくなるだけなのかもな。
「幽霊は写ってないよ。」
「よかったぁ。違和感特になかったけどなぁ。」
「もう一枚あるんだ。見てみてくれないか?」
「見る見る!」
加工前の写真を見せる。
「同じ……写真じゃないね。」
「ああ。四人で撮った写真だ。覚えてないか?」
「……覚えてない。」
やっぱりダメか……瑠璃は嘘をついていない。
「三人の写真をデータで送っておくよ。」
「……うん。」
写真を見ても彼女は貴之を思い出せなかった。
でも涙は止まらなかった。
こうして夏は過ぎ、思い出と別れの秋が来る。