中川瑠璃視点その1
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「また明日ね。」
「ああ。また明日。」
お互いわかっていたけれどそれ以上何も言わなかった。
私はあなたに一度だけ嘘をついた。
季節は春。暖かい日差しと共に雪が溶け学校が始まる。
瑠璃〜!今日から学校でしょ?起きなくて大丈夫?
この声は……お母さんだ。今何時かな、、7時半かぁ。もう一眠り……。学校何時からだっけ?
寝ぼけた頭が事の重大さに気づいてしまう。学校は8時15分に正門が閉められ遅刻扱いになってしまう。
ここから学校までは30分かかる。
やばっ!?
「お母さん起こすの遅くない!?」
「何度も起こしたわよ〜。6時半から15分おきに。」
そう言われて確かに夢の中で誰かがしつこく呼んでいたのを思い出す。
ここで文句を言っても悪いのは私。
「ごめんなさい。」
「素直に謝れるのはあなたのいいところよ。」
「朝ごはん食べる時間ないからもう出ちゃうね!」
「はいはい。そう思ってカバンの中に朝ごはん入れてあるからね。」
「ありがとう!いってきます!」
「いってらっしゃい。」
全力で自転車を漕げば間に合うはずっ!女子とは思えない形相で必死に学校へ向かう。
……2分前。ギリギリセーフ。
外靴を脱ぎ上履きへと履き替える。あれ?一つ知らない名前の下駄箱が増えている。『佐久間』さんなんていたっけ?まあいっか。
教室へ入るといつもの顔ぶれが並んで待っていた。
「おはよ〜。今年度もギリギリスタートだねぇ。」
彼女は幼なじみの上島加奈子。
「よぉ。初っ端から遅刻した方がおもしろかったのに残念だ。」
こいつは中学で知り合った友達の戸田貴之。
「二人ともおはよー!もう汗だくだよぉ……脇汗大丈夫だよね?!」
「本当にお前は女子か?」
「瑠璃らしいけどね……あはは。」
一年の時に同じクラスになり、クラス替えがあった去年もクラスが同じで、今年はクラス替えがないからやっぱり同じクラスだ。
「はい。お前ら席につけー。朝のホームルーム始めるぞー。」
先生も去年と同じ。三年になっても変わらない日々が……。
一つだけ変わることがあった。
「今日は転校生を紹介する。この時期の転校は珍しいが仲良くして欲しい。」
先生の紹介と共に男子生徒が入ってくる。
黒板に『佐久間獅音』と名前を書いて「よろしく」と一言。
席は私の隣か……。
「よろしくね。」
「?!」
「あの……どうかした?」
「……いや。よろしく。」
彼は何かにびっくりしていたが私にはわからなかった。
もしかして私に一目惚れとか?!……ないよね。あはは。
新年度始まってすぐということもあり授業はオリエンテーションばかりで退屈だった。
まあ普段通りの授業だともっと退屈だから別にいいんだけどね。
「ねぇ。佐久間君。」
「……やっぱり。」
「なにが?」
「なんでもない。どうかした?」
「昼休み一緒にご飯食べない?」
「断る。」
「えー!どうして?せっかく隣になったんだしお話しながら食べよーよ!」
「俺と一緒にいると嫌な気分になるからやめておいたほうがいいよ。」
チャイムがなりそのまま彼は教室を出ていってしまった。
気になる。あそこまで言われちゃうと後をつけたくなるよね。
彼を尾行していると不思議な光景を目の当たりにする。
「今日も可愛いね〜。」
「ゆかのほうが可愛いよ〜。」
よくある女子の褒め合い。佐久間君は通り過ぎようとしただけだったが、、。
「ねぇそこの男子。」
「……俺か?」
「あなた以外に誰がいるのよ!」
「私とゆかだとゆかのほうが可愛いよね?」
「いやいやあけみのほうが可愛いでしょ?」
これはウザイタイプのやつだ。普通なら適当にどっちか選んで嫌な顔されるんだよなぁ。
経験から心の中でそう思っていると彼は思わぬ行動に出た。
「私とゆかだとゆかのほうが可愛いよね?」『私の方が可愛いに決まってるでしょ。』
「いやいやあけみのほうが可愛いでしょ?」『こんなブスと比べないでよね。』
「俺にはこう聞こえたが後は二人の問題だ。」
そう言い残し立ち去っていく。少しの間ポカーンと口を開けていた女子二人だが、ふと我に返ると喧嘩を始めた。
「そんなこと思ってたの?絶交よ!」
「ゆかこそ!信じられない!」
それにしても「俺にはこう聞こえた」ってどういうこと?
単なる比喩?
それから彼と話した人は似たようなことを言われ、少なからず関係が壊れていった。
もしかして……。
そんなこんなで昼休みは終わり午後の授業。
食べられなかったお昼ご飯を教科書を盾にもりもり食べていると貴之が「本当に女子か?」と書いた紙くずを投げてきた。
言わないでよ。私が一番思ってるっつーの!
お腹がいっばいになる頃には下校時間になっていた。
気になっていたことを本人に確かめなくては。
「ねぇ佐久間君。」
「なんだ?」
「あなた……もしかして嘘が分かるの?」
「ああ。」
誤魔化したりしないんだ。意外。
「普通こういうのって信じて貰えなかったり馬鹿にされたりするから、誤魔化したり嘘ついて逃げたりすると思うんだけど?」
「俺は嘘が分かるけど嘘がつけないんだ。」
「それってどういうこと?」
「奇病らしい。産まれた時から他人の嘘が分かるし俺は思ったことをそのまま口に出してしまう。」
「私綺麗?」
「ああ。」
「即答って照れちゃうね。」
「思ったことは隠せないし嘘もつけない。そんなくだらない質問で試すな。」
「でも嬉しかったな。佐久間君も私に何か聞いてみてよ。」
「授業は好きか?」
「大好きだよ。」
「大好きだよ。」『学校無くなればいいのに。』
「説得力が0だな。」
「嘘つくとその時思ってた内容までわかるの?!」
「嘘ならな。」
「気をつけなきゃ……。あともう一つ聞いていい?」
「まだあるのか……。」
「佐久間君はどんな女の子が好き?」
本心から聞いているのか……やっぱり変わった奴だ。さっきのわざとついた嘘以外は嘘をついていない。
「俺に嘘をつかない人が好きだ。そんなやつに会ったことないけどな。もう帰る。」
「そっか!ありがとね。また明日!」
騒がしいやつだった。早く帰って一人になろう。
佐久間君は嘘をつかない子が好きなのかぁ。頑張らなきゃ!
私は彼に一目惚れだった。
それからなるべくたくさん話しかけた。
彼はいつも素っ気なかったけれど、どことなく時折嬉しそうな表情をしている気がした。
そして季節は恋する乙女の夏になる。