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プロローグ・オンライン:あるいは自分のためにゲームをする話  作者: 神尾鍋鍋
一章:あるいは彼の独立の話
4/6

1話始まりの地:あるいはその町の名前

脳の神経にいくつものプラグを突っ込まれたくすぐったさの後、カチリカチリと一本ずつ電流が流れ始めたような感覚とともに目が覚めていく。身近な感覚だとかけ布団を思いきり剥がされたような、ちょっと嫌なスッキリさを感じる。……今日で一体何度目かな。 

読み込み中のマークが入り、一瞬だけ目の前が急に暗くなった。ゆっくりと視界が明るくなり、ぼんやりとした茶色と緑色の塊が縁を作り始め、草原と森そして町の形を作り上げる。

一つの風景だけではなく、森に住むモンスターの様子や町の噴水、寂れた遺跡などの情景が写され、現実では見られない幻想的なところを冒険するのだと、強い胸の高鳴りが聞こえるような気がする。


「始まりの地」

(やっぱり単純な名前だ。右下のは説明文かな)

『始まりの土地:大体の物がそろう始まりの場所、しかし特化した分野のものは少ない。常に晴れている』


下のローディングバーが100%のところまで伸び切り、世界は再び町の形を作り上げる。軽い浮遊感を一瞬感じ、足への衝撃とともに着地した。やや距離感のつかめない体で少し倒れそうになってしまったが、バランスを取って顔全体を上の方に向けた。


「……すごい」


自分のいる広場の周りだけ高台になっているようで、中世風の街並みが一望できる。その赤茶色の屋根とクリーム色の壁のしっくい? の街並みが広がり、その周りには農業地帯と草原が広がり、冒険の始まりを予感させる。

さらに見上げれば、青いキャンバスに白をちょっとだけ足したかのような青空が広がっており、振り返ればまぶしい太陽が目に入る。太陽は目に見えるような速度で動いており、ちょっとしたゲームらしさを感じる。


(空がきれいだ。でもちょっと人工物らしいかも)


太陽だけではなく、そこには大きな噴水も存在し常に大量の水を吐き出し続けており、小さな虹を作り上げている。噴水の高さは慎重の5倍くらいあり、周りには水汲み場といくつもの水路が配置され、この町の水源となっているらしい。……そういえば身長が縮んでいるせいで実際より物が大きく見えているのかも。

あと、町の謎を解くことで入れるようになる特殊なダンジョンが中にあると事前情報で知った。

噴水に手を入れてみれば、しっかりと冷たさを感じる。ちょっと現実との腕の長さの違いを感じるが、それほど違和感がない。

また顔を上げれば、噴水の周りにぼんやりとした実態が現れたかと思ったら、水を汲んでいたり中で何かを探していたりするプレイヤーたちがゆっくり現れた。


(??! そうだ興味のある人や行動をする人は目の前に現れるんだった)


確かプロオンは自分の知りたい物や人だけを表示するようになるシステムを利用しているらしい、今の場合だと僕が噴水周りのことを思い浮かべたためにプレイヤーが現れたようだ。

見られたような気がして慌ててメインの通りを走り抜け、路地裏へと身を隠す。人目を気にしすぎたためだろうか、大通りには今までいなかった量の人々が行きかっているのが見える。ところどころ人と人の体が重なっているところもあるが、昔によく言われたという満員電車の中のような混雑具合だ。

人の目を気にしすぎて、『見られる』ということを気にしてしまったからだ。


「すぅ~、はぁ~」


あんな人の波を見たのは初めてではない。しかし、心臓がバクバクと鼓動しておりまずは落ち着かせることが先決だ。ゆっくり深呼吸をして心を落ち着かせる。人の視線を気にしたくはない場合、何か別のことを始めればよいと言う。

おそらく、人々は通行人を意識することは少ないと持っている。……それなら向こうが僕のことを認識しているかすら怪しいかも。


「装備やスキルを見るところは……」


目に見えるところにあるボタンは4つ、白い空間でも確認したとおり右上の方の剣と杖のマークがそれだ。

『ステータス確認』などと言えばすぐに展開するそうだが、恥ずかしさが先行してそのボタンを指で押す。


『名前:トシリ

 HP:100%

 SP:100%

 MP:100%

 満腹度:100%


 職業:死霊術師lv5

 サブ職業:なし

 魔法(最大2):黒lv5・水lv5

 

武器:小鎌・こん棒

頭防具:なし

胴防具:始まりのローブ

腕防具:なし

足防具:始まりのズボン

手  :なし

靴  :始まりの靴

装飾(最大2):本質のアクセサリ


設定済能力(3/5)

:小型武器lv5、精神lv5、農業lv5

未設定能力

:なし


ステータス

物理攻撃20+0(貫通0)

魔法攻撃20+0(貫通0)

物理攻撃20+15(装甲0)

魔法防御20+3(装甲0)


運 57/100

移動速度40-0(積載0/20)     』


名前はちょっと前に考えていたもので、ある魚の名前をもとにした。職業や魔法、スキルなどは本質をもとにして設定されたもので、最初からレベルが5になっており、新しく設定するよりも使いやすい。

とりあえず、『能力』の小型武器のところを押してみると、『lv5段階Ⅱ:物理+2.5、魔法+2.5』と書いてあり、これはステータス値を表しているのだろう。しかし下の方に『+銅関係』のような何かが入りそうなスロットがあり、首をかしげる。

すかさず、小型のウィンドウが飛び出て、能力についての解説が入る。


『能力には大きく分けて3つの種類があります。武器・体質・補助の3つです。

 それぞれステータスやHPなどに関係がありますが、体質はその値が2倍になります。

(lv5まではすべての値が一定に変化します)

 武器は攻撃系コマンドが実行できます。

 体質はステータス補正値が大きく、体の動かしやすさや五感にも関係します。

 補助は戦闘補助や生産業など多岐にわたります。

 また、職業や魔法にも言えますが、能力はlv5ずつアイテムをスロットに入れることで、次段階に進ませたり、さらに補正値を得ることができます。

 高品質のアイテムだと……?』

(攻略サイトで素材集めのページが人気なのはそういうところもあるのか)


取りあえずステータスウィンドウを閉めて、職業や魔法の技の欄を見る。魔法は青と黒、職業は紫、武器系能力は黄色で示されており、ちょっと混乱する。

しかし全部に斜めの線が入っており、今は使用できないみたいだ。一応メールボックスを開いてリリース記念やユーザー数記念などのアイテムやお金を受け取る。その中にあったアイテムを適当に『能力』へと入れていく。

このまま街並みを眺めながら移動するのもいいけれど、せっかくなので試してみたい。

路地裏から頭だけを出してちらっと通りに顔を向けて、人が少なくなっていることを確認して通りを駆け抜ける。そこで再び人が増え始めるが、緊張するドキドキよりもワクワクなドキドキの方が大きく上回っている。

予想よりずっと足が速く動き、顔にびゅうびゅうと風圧がかかる。そして移動中はSPがわずかずつ減っており、またそれについての解説が飛び出る。攻撃系スキルや大きな体の動きはSPを消費するようで、満腹度を少し消費して回復するそうだ。


(MPよりSPの方が回復がずっと早いのかも)


そうこう、ウィンドウが出たり消したりを繰り返していると、農業地帯を超え草原に出る。ぷにぷにした青い丸い透明なモンスターやウサギなどの小さな動物が跳ねている。

少しワクワクしながら球体のモンスターに相対する。モンスターの上に『スライム』とタグが入りHPや有利と不利な属性、得意攻撃などが書いてある。

武器を取り出して、まず死霊術師の技を試す。


「え、と、『霊召喚』」


名前を技だと意識して発音する。すると胸の奥から黒紫色の塊が飛び出て逆雫状の煙のような実体が一体生まれる。大きさは自分の身長と同じぐらいでその中に目のような二つの発光する楕円が浮かんでいる。

実体は動き出す様子はないが、さっきまで僕の方を向いていたスライムが急に霊の方を向いて体当たりをした。


(おとりとして使うのがこのスキルなのかも)

「もう一度、『霊召喚』」


新しく表れた霊に向きなおろうとしたところを横からこん棒で殴りつける。

転がったスライムを追いかけてもう片方に持った小鎌の先端を突き立てる。すると破裂する音と一緒に液体がはじけ、アイテムが回収されるとともに青い光が飛び出て僕の周りを公転し始めた、


「はあ~」


思いっきり体を動かすことは少ないため、新鮮な体験で少し心拍数が上がったまま戻らない。

『霊召喚』のウィンドウが少し派生したような形となり、モンスターの魂を利用した召喚が可能になっている。魂を吸収してMP回復ができたり、召喚して共に戦ったりできる。……ただし時間制限で消えてしまうらしく、早いうちに決めないといけないかも。

次に魔法の試し打ちをしてみたいので、吸収してMPを回復する。完全には回復しないのはまだまだレベルが足りないのかも。

こん棒を次のスライムに向けて魔法のコマンドに意識を傾ける。


「『黒玉』」


ブラックボールとかかっこいい読み方もあったが、少し恥ずかしいので、日本語の方の名前で魔法を放つ。少し棒の先端がはずれていたが、飛び出た黒い球がまっすぐスライムへ突き進んでいき、HPの2/3ぐらいを減らす。


(おおっ?! すごい魔法が出てる! HP減るけどMPの消費も大きいのかな)

「『水玉』」


興奮が冷めないまま追加で魔法の球を放つと、残っていたHPがすべて削り取られた。

今のでMPは71%まで減っており、ちょっと燃費が悪い。

武器系コマンドも試してみようと持ったが、少し興奮が収まらなさそうなのでセーフティゾーンと書かれているところのベンチに座り込む。

草原を眺めてみんなの戦う姿を眺める。一人の少女の持った杖から、赤い光が飛び出て周りを焼き焦がす。


(やっぱりこん棒は杖じゃなかったのか)


職業の魔法使いは魔法の強化やセット可能な魔法の属性数が大幅に増えるらしく、人気な職業でもあるようだが、魔法耐性の大きい相手にとって苦手と言われている。ただ職業と言えば……


「死霊術師、あの人たちめ……」


もう一度職業のところを見て確認をする。

『死霊術師』となる理由には何となくわかるのだが、少し嫌だ。別にその人たちが殺人とかそういう類のものに関係していないが、ゲームの職業に関係しているのは確かだ。落ち着くどころかふつふつと怒りがわいてくる。

下を向いていると腰のあたりについたストラップに気が付いた。黒猫のストラップで、名前と性格と過去だけは知っているキャラクターが思い出される。

実際にその猫が出てくる物語を見たことはないが、なんとなく知ったその情報にかなり同情をした。それでこのストラップが構成されたのかも。


(本質のストラップというアクセサリなのか。……でもよく見ていると少し違うような気も)


ストラップの説明を読むと、『著作権に該当する可能性があるため、少し改変を行っています』の文字。


(改変されていなければそのままの形になっていたのかも)


また顔を上げると一つのチームが道沿いに進んでいる。それを意識してしまったのか、次々とチームが平原に現れては消えていく。


(……やっぱり僕は仲間が欲しいのかな)


木村さんの予想通りのことをしているのは少し癪だが、右の真ん中のボタンを押してチーム募集のところを見る。

新人募集をしているチームは多いが、少し怖そうなところも多い。しかし、ここは本質という体でゲームをする場所であり、趣味嗜好などでしっかりマッチングができるようになっている。


(木村さんによると満足度はかなり高いらしい。脳波とかで100%ぴったりな相手を見つけるマッチングアプリもあるそうだし)


マッチングを起動させると、今までの候補がほとんど消えて5つほどに絞られた。その中でも一番よさそうなのは赤色で示されており、そのチームはまだ二人組で『甘い雲』というチーム名だ。

名前はマクルとサイプス。初心者募集中で、属性的に闇か光の魔法が欲しいそうだ。条件は特になく、エンジョイ勢? と書かれている。


(他のところはまだ1人だけだったり人が多かったりするしこのぐらいがいいのかもしれない)


じっくり見ると検索タグに『名前に魚』と書かれており、そこらへんも読み取られたのかもしれない、問題を起こした記録はなく、イベントランキングでは大体半分ぐらいの結果を残したようだ。活動拠点は『始まりの地』らしい。

それでもその中で一番気になったのは、二人の写真だ。活発そうな女性と優男、その二人が仲悪そうに、それでも信頼しあっているかのような写真が僕の心をつかんだ。


(よし、決めた)


二回目だからこそ覚悟を決めるのは意外と楽で、申請のボタンを押した。そして活動拠点の場所を確認すると、通りを抜けて活動拠点の場所へと移動する。

ちょっと大きめの公民館みたいな形で、中央に『組合会館』と書かれている。恐る恐るその中に入ると、大きなホールの中だった。クエストや大型イベントの勲章や証が掲示板や棚に飾られており、多数の人間がいる。

人の目に映らないように意識して、チームの場所を見る。


「ここ、かな?」


ついたのは1階の大きめの扉、隣には同じような扉が多数存在しており、明らかに違うチームの人たちが談笑しながら次々に扉へ吸い込まれていく。

恐る恐る扉に触れると、扉についた無地のプレートが『甘い雲』に書き換えられ、ガチャンと音がする。そしてドアノブを回すと、ゆっくり扉が開かれて……


(物置小屋かな?)


中には木材や煌めく石、透明な石、瓶などで埋め尽くされた棚が並んでおり、通路には糸や紙が散らばっている。


「急げ急げ、せめて通路だけは確保!!」

「初心者は移動速度が速いんだから、すぐ来るでしょうに!!」


憶からとんでもなく焦った男女二人の声が聞こえる。どうやら彼らも相当焦っているようだ。


「こんなことなら積載系スキルを取っておくべきだった!!」

「もう駄目でしょ!」

(来るのが早すぎたかな)


しかし少し入っただけでも、足の踏み場もないほどのアイテムで埋め尽くされている。まだチームメンバーではないため、回収はできない。



「あの……」

「「あ!」」


がさっとおとっを出してしまったのか、あるいは声が届いてしまったのか、ふたりがギラギラした目のままこっちを向く。はっきり言って怖く、少し後ずさる。


「ひ、」

「「……」」


そして再び顔を合わせる二人、手に大量のアイテムを持ちつつ、飛び出るぐらい膨らんだ背負いバッグで移動しようとしていた二人が顔を見合わせる。そしてさらに顔がすごい形になっている。


「あんなかわいい子を泣かせちゃダメでしょ!」

「だいたい、常日頃から片づけをしていなかったのはマクルだろうが!」


どう見ても仲が悪すぎる。しかし、長い間チームを組んでいた以上、こんなことは珍しいのかも。

でも少し喧嘩できるような関係は憧れる。少しではないのかも……。


「だ、大丈夫です」

「「……」」

「ごめんね、ちょっとこの人怖かったでしょう」

「待て諸悪の根源」


大量に荷物を持ちつつ、二人こちらに歩んでくる。

女性の方はは普通より目が大きいややアニメよりの見た目で、大きめの明るい茶色のポニテが特徴的だ。

男性の方は肉付きが良いような気もするが、それでもなよっとした印象を受けるこげ茶の優男だ。


「えーと、ここは『甘い雲』という拠点なの、いつもはこんなふうに散らかっていることはないのだけれど……」

「言ったな、次からはいつも通り片付けろよ」

「それでこのこわ~い男はサイプス、基本的に前衛を担当してて、よく私の矢が頭に刺さるの」

「は、はい」

「そんなにまくし立てて話しちゃだめだ。……緊張しているんだから。ゲーム始めたばっかりなんだから、そんな調子だと辞める可能性だってあるぞ?」


マクルさんの方はかなり興奮して話しており、僕の緊張がものすごいことになっていたが、サイプスさんの宥めはありがたかった。

彼女は手に持っていたアイテムを適当な棚に押し込むと、反省した顔で向きなおった。


「は、はい。さっき申請しました透、間違えたトシリです。少し人見知りなので……」

「……緒音興奮しすぎてた、ごめんね」

「落ち着いたようで良かった。マクルは少し暴走することが多いから」


サイプスさんの方も安心したようで、胸をなでおろすためアイテムを床に置こうと後ろを向いた。その瞬間、マクルさんの目が光ったような気がしたと思ったら、彼女が私の胸に飛び込んで……いや体が小さくなっているから、覆いかぶさろうと飛び込んできた。


「わわわ!?!?」

「かわいい! 女の子? 男の娘? どっちでもいい。こんな小さい子が着てくるなんて思ってもみなかったの!!」

「おい、待て待て! トラウマを植え付けるな!!」

(胸が!?)


事態に気が付いたサイプスさんが追加で駆け出して覆いかぶさった両手をはがしにかかる。

今までの経験上こんなことはない、いや、今までの経験を合わせてもこんなふうに赤の他人と体をこすりつけあったり、こんなにも価値観の違う人たちと出会ったりぶつかり合ったことは決してない。

それに緊張で興奮しているのか、それとも柔らかい胸を押し付けられたり、女性の果実のような甘い香りを体中で感じたりして性的に興奮しているのか。


「この馬鹿、あほ、変態!」

「へーん、少しでも反省したかと思ったか!」

「……」

「トシリ、しっかりしろ!」


サイプスさんは優しいなあ……。

トシリの名前の由来はある魚のある地方における別の読み方です。20/11/7には少しニュースになっていた魚でもあります。

一体なんでしょう? 

ちなみに『透依』は『トウイ』と読みます。

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