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上:あるいは澤田透依

初投稿になりますよろしくお願いします。

意見ください。

目を覚ますと、青い空が見えた。

空はどこまでも透き通っているがどこか暗く、見続けているとその奥に何か見えそうな気がして目線を下げる。周りにはくすんだ黄色の枯れ草が草原のようにまき散らされ、乾いた風を運んでいる。


(そういえばなんでこんなところにいるんだっけ......?)


と疑問に思いつつ体を持ち上げると横には体育座りをしたまま動かない少女がいた、年場もいかない外国人の少女だ。もしかしたら幼女といえる年かもしれない。その目はうつろにもかかわらず視線をそらさずどこかをじいっと見続けている。

恐る恐るその視線の先を追いかけると、そこには強い光を放つ太陽が目に刺さり、慌てて少女に顔を戻した。

なぜ彼女はこれを見続けているのか、とか、失明するかもしれないのに、と不思議に感じているとゆったりと太陽の光が強くなり、空もまた青くなる。慌てて先の少女に振り向くが少女は太陽を見つめたまま動かない。


「おっおい、大丈夫か?」


肩をゆすっても反応を示さない少女にしびれを切らした僕は彼女の足と首の裏に手を差し込んでを抱きあげる、が持ち上げた瞬間地面がずれ腕の中から離れた彼女が空を舞った。すると、また同じような感覚が僕を襲い、天と地がひっくり返った。

故障したヘリコプターのような定まらない姿勢と意識のまま、くるくる回りながら空に投げ飛ばされた後地面に腰からたたきつけられた。


「ぐうっ......いてて」


三半規管が壊れて視線が定まらないのと体を突き抜ける痛みの中、太陽の光がより強く、世界全体が熱くなっていることに気が付く。現象の中心にいる彼女をくらくらする視線だけで探し、顔に視線を合わせる。僕に投げ飛ばされたはずの少女は仰向けの体制で、相変わらず太陽を見続けている。

次第に世界は太陽の白とそれ以外で分割され初め、日の当たる部位がオーブンのような高熱を持ち始める。


「暑い、熱い!!」


皮膚からたんぱく質の焦げるようなにおいが立ち始め、慌てて目をつぶって後ろを向き、彼女を連れて隠れられそうな場所を探す。しかし真っ黒い空と草原が延々と広がっているだけで木や岩などは全く見つからない。


「熱っ、熱.....って、え?」


そうだ、確か草原と空の色はこんなものではなかったはず。それだけでなく、自分を襲った想定外の感覚のせいで疑問符が浮かんだ。


「あっ、さ、寒っ!!! え、あっ!?? かっ.....」


太陽の方を向いた背中はじゅうじゅうと音を立てながら焼かれつつ、その裏では出た鼻水がすぐに凍り付くほどの極寒の台地が広がっていた。青かったはずの空、枯れていたはずの台地はまとめて黒に染まり、凍り付いた涙液と唾液が目と口を封じた。


(一体何なんだ?! 何が起きているんだ、痛いし! 熱いし! 寒い!)


体から皮膚やら何かがぼろぼろと落ち、きしむ音を聞きながら、元凶だろう仰向けの少女に目体を向ける。ぼろぼろの自分とは裏腹に、寒さや暑さを感じない様子でじっと太陽を見ている。


もう僕は持たないことが分かっている、それでもこの状況を打開できるものはないかと思考を巡らせて、ふと気が付いた。

『態勢が最初の時と違っているのにもかかわらず、少女は太陽を中心に見続けることができている』ことだ。


(もしかしてだけど、君の見たところが太陽なのか?)


少女は何も語らない、やがて世界のすべてが極端なコントラストに二分され、その二つに僕もまた分割された。


◇ ◇ ◇


「はっ! 痛くない?」


ふと目が覚めた。

慌てて手で体中を触ったり引っ張ったりしてみるが今先ほどまでの痛みはなくなっていた。しかしその不安よりずっと頭が痛い、強制シャットダウン後すぐに起動されたパソコンみたいに大変な処理をしているみたいだ。


「お、ようやく起きよった澤田」


ここは確か教室のはずだ。真っ白な教室に何人かの生徒が座っている。そして少し白髪が目立ってきたぐらいの先生がじっと僕の方を見ている。電子黒板には数式や問題文などが書かれており、ぼやけた頭では理解できない。


(危ない、減点されてはかなわない)


焦りながら電子本をめくり、黒板がさしているページと同じところまで移動する。しかし、先生は板には向きなおらず、僕の席へとゆっくり歩を進めてきた。


「さて、電脳空間での睡眠についての検証データはもう必要ない程集まったそうじゃが、特に夢についてのデータは集まっておらん」

(いらないとか言っているけど実はしっかりとっていたな?!)

「さてこの教室、何か分らんか?」

「わかるって何をですか?」


言われたまま教室を見回すと、白い教室に授業中の様子、みんなは熱心に書き物をしている姿勢のまま止まっ.....あ。

自分の顔が青くなると同時ぐらいに、教室の改変が開始される。僕の机と椅子以外のものがスッと透明になり教室が茶色くなりながら縮小していく。平坦になった壁が盛り上がったかと思えば多数の本棚と大きな机が形成された。......これは先生の自室だ。


「も、もしかして、授業終わりました?」

「そうじゃ、グースカピースカしとるうちにもうとっくに終わっとる。じゃが、わしはその分面白いもん見れたから満足じゃ」


と言うと天井に細長いでっぱりが発生したかと思うと部屋に不釣り合いなほど大きなプロジェクターが下りてきた。


「うむ、ちょっと設定ミスじゃな」

「あの、面白いもんって何ですか」

「あ、やっぱりお主にとってはトラウマものだったかもしれんから、やめておこう」


おどけた様子の先生だったが急に何か考慮した様子で、スススっとまた元との天井へと戻した。トラウマってあれか。


「もしかして夢の内容ですか?」

「う、うむ。なかなか面白い悪夢じゃったから、いいデータが取れたと喜んだのじゃが。今回ばかりは了承が必要だったかもしれん。別に断っても良いぞ」


......。若干白目をむきながら、昔『脳欠陥者の電脳空間の睡眠中データ利用』に小遣いがもらえるとかの軽~い気持ちでサインしたことに後悔していた。

少し申し訳なさそうな先生が面前にデータ利用についての電子証明書が差し出し、右下の確認印を指で示す。


(まさか、見られているとは思わなかった)

「思い出すのもつらいかもしれんが、おそらくこのデータで数千円は下らんじゃろうし。今後の発展のためにも確認印を頼む」


両手で頭を抱え込み、悩む。確かに数千円は欲しい、しかし灼熱と極寒に皮膚をはがされ、死ぬという状況を研究者たちに見られると思うと恥ずかしいし、思い出すだけでもキツイ。なんだか皮膚の下で何かが蠢いているような感覚も思い出すし。個人情報だって絡んでくるかもしれない。いや殺される悪夢に個人情報なんてあってたまるか。......それに彼女のことだ。彼女は「保証料など加算されて数万じゃぞ」......!

僕は一度もためらうことなく確認印を押した。


「はい、お願いします!」

「授業を受ける必要がある分、金銭が絡むと......。いずれその調子で個人情報を盗まれたりせんとけよ」

「いえ、今は後悔していません!」

(これまでの経験だと振り込まれるのはたぶん6日後! それまでに買いたいものをいくつか決めておかないと!)


6日後の期待を胸にささっとログアウトしようとしたが、先生に肩をがしっとつかまれた。顔を上げると先生のひきついた顔が目に入った。これはちょっとまずいかも。

やっぱり寝てしまったことはうやむやにはできないよね。


「データ利用と学習中に寝出したのは別じゃぞ、しっかり授業を見直して、ついでにこのレポートも追加じゃ!!」

「そんなぁ~」


レポート課題に夢の痛み、そして6日後のお金を胸に僕は今日4回目の覚醒をする。

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