スタンドバイミーごっこ
商業施設の中は荒れていたものの、建物自体が崩れていたりはしていない。
埃っぽさを我慢しながら、私はのんびりと探索を行った。
「なんか複雑な造りだったなぁ」
ぐるぐる回って、見たことあるところに遭遇すること数回。
あらかた探索しきった、と思う、おそらく。
それにしても、ほとんど物がなかった。
まあ、人間がいたときのまま全てが残っていたら、サバイバルも簡単になっちゃうから物がないのだろう。
「スカートだと動きづらいから、着替えぐらいは欲しかったんだけどね」
それに、いま着ているワンピースは膝上丈だから、どうしてもスースーするような気がして仕方がない。
現実世界では、短いスカートを穿くときはインナーに別のものを着けるのが普通だし。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【名前】マリア
【レベル】2
【HP】29
【ステータス】
最大HP:32
筋力:6
敏捷:6
幸運:6
【持ち物】アニマルハグリュック(パンダ)
HP回復薬《10》×2
サバイバルナイフ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
けっきょく、アウトドアショップに落ちてたサバイバルナイフと、HP回復薬ぐらいしか見つからなかった。
子ども向けのリュックを背負い、清楚な白いワンピースを着て、腰にナイフの納められたホルスターを引っ提げた女が完成した。
現実世界だったら、サイコパスだと思われても仕方ないだろう。
「さて、どこに行こうかな」
誰にともなくつぶやいてみたが、実は行き先はすでに決めてある。
駅の改札の横、切符売り場の上に路線図があったので、それを見たのだ。
「ふふっ、行ってみるしかないでしょ」
ここの駅も含まれる路線、田園都市線?
田園なのか都市なのかわからないけど、この路線の終点にあった――そう、渋谷が。
東京といえば、渋谷、ハチ公、センター街。
若者文化の中心で、音楽やファッション、最先端の街。
田舎暮らしの私にとって、憧れの場所でもあるのだ。
「大学も地元だからね」
ちなみに、修学旅行は大阪だったし、家族旅行も沖縄とか北海道に行ったことはあっても、東京に行ったことはない。
いや、こんな人類が衰退した世界の渋谷と実際の渋谷は違うのはわかっているのだが、それでも行ってみたい。
他に知っている地名もないし、とりあえず渋谷を目指すのだ。
私が通っても反応しない自動改札を抜けて、駅のホームに降り立つ。
この駅は、たまプラーザというらしい。
プラーザってどういう意味だろうか。プラザじゃないのかな。
「よし、電車はなさそう……」
いちおう確認してから、私はホームドアを乗り越えた。
ちょっと悪いことをしている気分になって、胸が高鳴る。
「えいっ」
ホームから、線路に飛び降りる。
近くで見ると、電車のレールって意外と太いんだね。
昔の映画よろしく、私は線路の上をのんびりと歩いて行った。
目指すは、渋谷! ハチ公っ!
二駅か三駅ぐらい、先に進んだ。
この地域は起伏が多いようで、線路が高架になっていたり、丘に埋め込まれるように走っていたり、周りの景色を見ていて楽しかった。
渋谷には、まだまだ着かない。
路線図を見る限り、10以上の駅があるようだ。
どんどん先に進もうと思っていたが、途中の駅で、電車とバスの博物館なるものを見つけた。
もしかしたら、ロストメモリーがあるかもしれない。
そう思って、途中下車することにした。
なににも乗っていないんだけどね。
電車とバスの博物館がある駅を降りると、すぐに博物館の入り口を見つけた。
博物館とは言っても、小さい子が楽しめるようなポップなものみたいだ。
電車の模型とか、実物大のバスの車両なんかが置いてあったりしていた。
可愛い緑の電車に乗り込んでみたとき、目の前がチカチカっとした。
目を開けると、小さい男の子がキラキラとした瞳で電車に乗っている。
「ふふ、男の子は、電車とか好きだよね?」
思わず声をかけたけど、男の子はなんの反応もしない。
しばらくすると、男の子も、電車の外に聞こえていた喧騒も、全て綺麗に消えていった。
残された私は、お腹にずしりとくる寂しさに悶えるのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【名前】マリア
【レベル】3
【HP】27
【ステータス】
最大HP:34
筋力:7
敏捷:7
幸運:7
【持ち物】アニマルハグリュック(パンダ)
HP回復薬《10》×2
サバイバルナイフ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
たまプラーザではレベルが上がらなかったけど、今回はレベルが3になった。
ラッキーセブンを揃えるために、ステータスポイントを均等に割り振ってみる。
うん、良いことが起きる……かもしれないね。