イオンが最強だと思っていました
「さて、どっちに向かったものか……」
フラジール・オンラインには、特に目的がない。
魔王がいるわけでもないし、囚われのお姫様も残念ながら存在しない。
ただ、この終末世界を楽しむだけ。
「だから、イイんだけどね」
この誰もいない世界に、私はひとり。
もちろん、他のプレイヤーもどこかにいるだろう。
人が嫌いというわけではないんだけどね。
まあ、セーブポイントというのが点在しているらしいので、まずはそこを探すことにしよう。
一度ゲームを終了するには、セーブポイントにいないといけないみたいだし。
ログハウスのあった大きな公園の敷地をぐるっと回ってみると、商店街の入り口のようなアーチを見つけた。
アーチに書かれた地名には見覚えがないから、少なくとも知っている場所ではない。
「私は田舎生まれでー、田舎育ちだからーっ、こんな街は知らないぃ~」
なんとなく口を衝いた歌をうたいながら、私は商店街を先に進む。
コンビニの電気が落ちてるって、現実では見ない光景だよね。
あと、なぜか道路の端を歩いてしまっていたことに気付く。
車なんて走っていないから、堂々と真ん中を歩けばいいんだけど。
駐車場とか道ばたに、いくつか車は放置されている。
しかし、鍵がないとドアが開かないようで、車を運転することはできない。
「……ログハウスも電気通ってなかったし、たぶん車もダメかな」
21世紀半ばぐらいまでは、ガソリンで走る自動車もあったみたいだけどね。
「アイス……」
喫茶店だろうか、アイスを模した看板が置いてある。
このゲームでは、食べるという行為に意味がない。
なにかを食べてHPが回復する、ということがないからだ。
いちおう味わうことは可能だが、こんな荒廃した世界で美味しいものが食べられるかは疑問だ。
「ログアウトしたらー、アイス食べよ~」
うん、美味しいものは現実で食べよう。
いまは、探索だ。
商店街を抜けた先に、線路の高架が見えた。
やった、たぶん駅があるんだ。
「おお、おしゃれな建物だ」
高架に向かって進むと、前面ガラス張りの円筒形の建造物が現れた。
なにかのお店なのかな……?
気になって中に入ってみたけど、荒れ果てていて足の踏み場もほとんどない。
軽く探索したが、一階部分にも二階部分にも使えそうなアイテムは見つからなかった。
でも、二階にあった外に通じる扉を抜けたとき、目の前がチカチカと瞬いた。ロストメモリーだ。
さっきまでの静寂が嘘のように、行き交う人々のざわめきが耳に飛び込んでくる。
家族連れとか、カップル、学生のグループなんかが多い。
人の流れに沿って進むと、大きな吹き抜け構造の屋根に覆われた空間にたどり着いた。
「えっ、これが駅舎なの?」
私の驚きの声に反応したのか、ロストメモリーは消えていった。
一気に閑散とするから、たまらなく寂しい。
ここは、駅の改札にデパートが直結しているみたいな施設だったようだ。
吹き抜けの側面はガラス張りになっていて、洋服屋さんとか携帯ショップとかの広告が掲載されたりしている。
「都会って、すごいな……」
とりあえず、この駅直結巨大商業施設を探索してみよう。
ロストメモリーもあったし、なにか良いアイテムも見つかるかもしれない。
「イオンモールよりも広そうだけどね」
どこから回ればいいのか、田舎者は二の足を踏んだのだった。
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【名前】マリア
【レベル】2
【HP】29
【ステータス】
最大HP:32
筋力:6
敏捷:6
幸運:6
【持ち物】アニマルハグリュック(パンダ)
HP回復薬《10》
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探索の途中でステータスを確認したら、HPが1だけ減っていた。
HP減少の原因が時間経過か移動距離なのかはわからないけど、ちゃんと回復薬を集めておいた方がよさそうだ。
【後書き】
お読みいただき、ありがとうございます。
ブクマと評価、そして感想がなによりの回復薬となります。
作者がゲームオーバーにならないように、なにとぞよろしくお願いいたします。