また明日、静寂の世界で
駅の周囲を中心に探索していると、大きなビジネスホテルにセーブポイントが設けられていた。
建物に入った瞬間に、その内部にセーブポイントが存在することがわかる仕様のようだ。
入るだけでいいならば、もっといろいろな建物に入っていたら他にも見つかっていたのかもしれない。
「私は、そろそろ一度止めようかと思うけど、アキラちゃんはどうする?」
エレベーターは動いていなかったので、私は埃のたまった階段を上りながら、アキラちゃんに聞いた。
おっかなびっくり私の後をついてきているアキラちゃんは、ちょっと考えるような表情を浮かべる。
電気がついていないから暗いんだよね、ここ。
「私も、そろそろ……」
現実世界では、もう夜が更けるころだろう。
アキラちゃんも、いったんゲームを止めるようだ。
「じゃあ、いっしょに休もうか」
「は、はいっ……!」
薄暗くてわからないけれど、アキラちゃん、顔が赤くなっている……?
ホテルで休むって、なにか恥ずかしいことなのかな?
よくわからないまま、私とアキラちゃんはセーブポイントがある部屋に着いた。
ドアノブに手を掛けると、ガチャリと音がしてドアが開く。
「おー、広い部屋だね」
中に入ってみると、大きなベッドがふたつあるだけではなく、ダイニングテーブルやソファなども設置されていた。
もしかしたら、ちょっとお高めな部屋なのかもしれない。
「ここで寝ると、セーブできるみたいだね」
ベッドのひとつに座ってみると、埃っぽくもなく、座り心地はふかふかとしていた。
寝転がることで、自動的にゲームからログアウトできるみたいだ。
「あの、マリアさん……」
もう片方のベッドに座ったアキラちゃんが、おずおずと私の名前を呼ぶ。
「次、いつ来ますか?」
ちらちらと私の顔を窺いながら、アキラちゃんは聞いてきた。
ふむ、相互お気にをしているから、もしゲーム開始時間が合わなくても、合流できるとは思うけれども。
「明日も夜かな。たぶん、八時ぐらい?」
私が答えると、アキラちゃんはぱっと嬉しそうな笑顔を浮かべる。
独りを楽しむために、アキラちゃんはフラジール・オンラインを遊んでいるのではないかと、ちょっとだけ不安だった。
しかし、いまの笑顔を見たら、それが杞憂だったことがわかる。
「ふふっ、アキラちゃん、また明日だね」
人類が絶滅して荒れ果てた廃墟を探索し、言いようのない寂寥感を楽しむゲーム。
フラジール・オンラインは、そういうゲームだったはずなのだけれど。
「はいっ、また明日ですっ」
笑顔満開のアキラちゃんは、私が微笑ましく見ていることに気付いたのか、顔を隠すようにベッドに横になった。
すると、一瞬で寝息を立てはじめる。
おそらく、セーブしてログアウトが完了したのだろう。
寝顔、可愛い。
永遠に見ていられるかもしれない。
「……いや、なにもしないよ?」
誰にともなく言い訳するように、私はつぶやいた。
早くログアウトしないとつぶやきの通り、私は寝ているアキラちゃんになにをするかわからない。
「うん、楽しかった……かな」
やっぱり、一人よりも二人が、楽しい。
可愛くて仕方がないアキラちゃんといっしょに、私はゲームを続けるのだろう。
いつか、ゲームの仮想世界ではなく、現実でアキラちゃんと渋谷に。
そんなことを妄想しながら、私は、静寂だった世界からログアウトしていった。
【後書き】
やってみたいVRゲームを小説にしたら、どうなるのだろう。
そんな思いつきから書き始めてみた作品でした。
小説としては、ゴールが明確でないと少し書きづらかったですね。
読者の皆様に、お楽しみいただけていたならば嬉しいです。
お読みいただき、ありがとうございました!




