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さて、この物語の本筋の話をしようか【First Half】

 


「いつも通り! 俺と菜津が前衛で防御! 夜空は攻撃防御を様子見ながら! 柚は隙見て攻撃専念! 以上!」


「りょりょっちよ」

「ん」

「あいあいさー」


 そうして、最後の戦いの火蓋が……今、切って落とされた。


 正真正銘、この戦いは彼らの物語の始まり。

 いや、少し違う。




 ――鏑木好、彼の物語が始まるのだ。




 先に動いたのはボス、その九本の尾を縦横無尽に振るい、彼らの頭上へと振り下ろした。

 その数――無数。


 好と菜津はその攻撃に一寸も狂うことなく、己の武器を振るい相殺していく。

 それは彼らにとっては当たり前の技。

 しかし、常人からみればそれは異次元の繊細な技術の集大成だった。


「菜津、まだ行けるか?」


「朝飯前だよ、お兄ちゃんこそ押されているように見えるけど?」


 その兄弟はお互いに言葉で牽制しあえるほどには、まだ余裕があった。

 しかし、薄っすらと彼らは気づいていた。


 ボスは未だに台座から一歩も動いてはいないことに。


 夜空と柚も攻撃を加える。

 が、逆にボスの尻尾によってそれら全ては簡単に相殺されてしまう。


 膠着状態。


 それが今の状態だった。

 お互いに決定打がない、どうするべきだ?


 ボスは手を休めずに、そんなことを考えていた。

 同じく、鏑木好、鏑木菜津、七季柚も同様の考えを巡らせていた。


 ――打開策はないか?


 と。

 ただ、その場には一人、化け物がいた。


 ――赤井夜空。


 彼の思考だけはすでに、終わりまでのルートを導き出していた。

 自分の体で隠すように、かずっちしかいないはずの後方に『藍蛇』を放り投げる。


 それはまるで本物の蛇のように、地面を這い、遠回りをしながらボスの台座へと向かった。

 その姿は視認不可能の保護色に変わり、ボスの視界には何も映っていなかった。


 そして唐突に、この戦いは終わりを迎える。


「チェックメイトだっちゃ」


 後方でそう呟いた夜空の声を聞き、他の三人が一斉に防御姿勢を止め、走り出した。


 しかし、無情にもボスの尾攻撃は迫ってくる。

 彼らはそれをそれぞれの最適解で回避していく。


 ときに、薄皮一枚のところで回避。

 ときに、少し赤い血を流しながら。


「キュオォォォォォオッ!!」


 ボスが「小賢しい」と言わんばかりの雄叫びを上げ、さらに攻撃の速度を高めてきた。


「しゃらくせぇッ!!!!」


 好がそれに反応するように、右手に持っていた剣を言葉と同時に投げつけた。

 それは一直線に、ボスの台座へと向かう。


 ガシャンッ。


 ボスは一瞬、思考を停止した。

 その攻撃は明らかにボスへと向かうものではなかったから、それは自分の座る台座に向かっていた、と認識できたのはその剣が台座を破壊されたときだった。


 一瞬の思考の停止、それは彼らを前にしてはただの悪手に過ぎない。


 ボスは足場を失くし、体勢を大きく崩した。


 ――そして、その時が訪れた。


 タイミングを見計らっていたようにボスのすぐ側から現れる『藍蛇』。それが体勢を崩したボスの体を縛るように拘束した。


「キュオォォオッ!?!?」


 突然の拘束に、ボスは驚きの声を響かせた。

 そして、慌てるように超スピードで近づいてくる柚に向かって雑な尻尾攻撃を放つ。


 が。


「ん、雑」


 柚が振るうその斧は、全ての尻尾攻撃を粉砕した。

 それは武器破壊と呼ばれる技術、敵の意表とコツさえ掴めばできる、敵の戦意を削ぐ最高の技。


「キュオォォオッ!?」


 再び、響く甲高いボスの悲痛の叫び。


 そして、ボスに覆いかぶさるように無表情の柚がその手を振りかぶった。


 バキッ。


 その拳はボスの頭蓋骨を難なく貫通し、三つの赤い水晶を粉々にすりつぶした。


 そして、ここにもまた彼女がやって来る。


「ふっ!」


 ――五連撃の刺突。


 柚の後ろから突如として湧いてくる細剣、ボスにはこう見ているはずである。


 最後に決めるのは――。


「チェックだ」


 柚が起き上がるのと同時に、そのボスを後方へと放り投げる。


 為すすべなく、拘束されたまま、尻尾すら全て砕かれたボスが虚しく空を切る。


 そこに二本の剣が刺さった。


「キュ……ォ……ッ」


 ボスの体の中にあった、赤い水晶が全て消滅した。

 それはもちろん……。


「イェーイッ!」


 菜津の勝利の踊りが炸裂した。


 そして――。


 パチンッ。


 と、全員が無言で熱いハイタッチを交わし、勝利の汗が跳ねる。

 そのときの『α部隊』の表情は皆、笑顔だった。


 いつもは無表情な面々ですらも、この笑顔。


 彼らはそれぞれ――ダンジョン攻略――という余韻に浸る。




 と、そんな時だった。




『Dungeon No.78 CLEAR Strategy Name:「  」…………攻略者名を音声入力してください』


 ボスが鎮座していた台座のさらに奥にある、黒い大理石のような巨大な壁に光る文字が現れた。

 それは神が現在進行形で描いているような、そんな神秘的な光景だった。


 そして、それと同時に女性のような無機質な声がこのボス部屋に響き渡った。

 ここにいる全員のゴクリという喉を鳴らす音が聞こえた。


 好が徐に左手に持つ剣を、その壁へと向けた。


「α部隊、これ以外ない」


 その堂々としたリーダーの言葉に、全員が「さすが」と言わんばかりの笑みを浮かべた。


『アルファ部隊……でよろしいですか?』


 再び、響くそのアナウンス。

 それに突っ込む者が一人――。


「違う、αはギリシア数字表記だ」


『α部隊……でよろしいですか?』


「ああ、それでいい」


 好は慣れた様子で指摘した。

 彼らは良く間違われる、だから慣れているに過ぎない。


『認証完了…………攻略者名「α部隊」…………攻略人数、()1()()


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