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ホネホネホネ~

 


 この階層は赤紫色の空気に満たされていた。

 それは毒が蔓延しているわけでもなく、特殊効果のある靄でもない、色の付いた奇妙な霧でもない。

 ただ彼らの目にはそう見えているだけ、色付きサングラスを強制的に掛けられているように。


「ちっ、挟み撃ちか。後方の群れは夜空と柚に任せる!!」


「りょりょっちよ」

「ん」


「正面は俺たちで片づけるぞ、菜津」


「あいあいさー!」


 幅七メートルほどの狭い通路に彼らが差し掛かった時、待ち構えていたかのように前と後ろからモンスターの群れが押し寄せてきた。

 牛と同等に大きな体、そしてその体を構成するのはやはり骨のみ。まるで異形の動物の白骨死体が動いているような、そんな形容しがたい敵の姿。


 その数、およそ九体。

 内訳、正面四体、後方五体。


「始めるっちゃよ」


 夜空は腰に引っ掛けていた藍色のベルトを手に取り、それを二本放り投げた。

 それはまるで意志を持つかのように、柔軟に、ときに硬質になり、モンスターの骨を砕き、あっという間に三体の敵を殲滅した。


 蛇使い、そう形容するのがしっくりくる。


 武器の名称は『藍蛇』。

 その武器は自我を持たない、だが所有者の意思を読み取る。


「ん」


 まるでエンジンでも付いていると思えるほどの加速を決めた柚は、手に持っている斧の側面で牛骨モンスターを地面に叩き潰し、粉砕した。


「大人しくしててだっちゃ」


 そこで柚に向かって二本の巨大な角を突き出し突進しようとした敵を、夜空は藍蛇でぐるぐる巻きに捕縛した。


 柚はそれを目で見るまでもなく、態勢を崩しながらも自らの体幹を上手く扱い、無理矢理斧を右前方へと投げ飛ばした。

 まるでそれが当たり前だと言わんばかりの『α部隊』特有の阿吽の呼吸。


「モッ!?!?」


 斧は牛骨モンスターの頭をかち割り、そのまま体内にある水晶型の急所を破壊した。


 そして、後方側から襲ってきた五体のモンスターはいなくなった。




 ――前方の敵は四体。


「おらぁっ!」


 好は最初の突進を片方の剣で相殺し、もう片方の剣柄で思いっきり牛骨モンスターの頭蓋骨をかち割った。

 彼がこんな戦い方をする理由がある、ゾーンに入るまでもない敵だから。ただそれだけ。


 そのモンスターの割れた頭蓋骨の隙間から、赤い水晶が姿を現した。


 ――五連撃。


 好の腕は動いていない。

 動いたのは菜津の持つ細剣、レイピアだった。


 好の背後で好機を待ち、後ろから刺突を放ったのだ。

 仲間の脇と胴の間から刺突、肩上から刺突、もう片側も同様に刺突二回、最後に跳躍し、好の頭上からトドメの刺突。


 これで一体の敵が倒れた。


 それは『α部隊』特有の呼吸感、というよりも強い兄弟間の絆からなる呼吸のような戦闘だった。


 ふと、好は悟った。


 ――あっ、この戦い方は時間かかる。面倒くさい。


 好は連携を無視して、その場から駆け出した。


 右横を通り抜けようとしたモンスターを一閃。

 左側から迫ってきたモンスターを寸でのところで回避し、一閃。


 最後に、剣を投擲。


 一撃で、正面のモンスターを殲滅したのだった。


「あー、お兄ちゃん嘘つき! 連携高めようって言ったのお兄ちゃんでしょ! ズルイ、ズルイ、ズルイ!!」


 後で、呆然と立ち尽くす菜津はそう言った。

 少女の言い分はもっともな内容だった。


 この階層に入る直前、好はこう言ったのだ。


 ――そろそろ個ばかりじゃなくて、連携も見直しておこう。


 と。


 それを率先して破ったのが、張本人だったのだ。

 納得である。


「いや、ダルかった」


 しかし、何を言っているんだ、とでも言いたげな顔して平然とそう言ってのける好。

 その返答にプクッと頬を膨らませて、ジト目を向ける妹の可愛らしい姿がそこにはあった。


 と、そこで後方で戦っていた二人が合流した。


「終わったっちゃよ」

「ん、楽勝」


 それは歴戦の戦士を思わせるほどの貫禄を身に纏った姿。

 一人は世界最高の暗殺者を思わせるような、一人は西洋の騎士長を思わせるような。


「んじゃ、この13階層ももうそろそろ終わりだ。進もう」


 好のその言葉に、全員が頷く。


 そう、彼らはあれから1か月半ほどダンジョンに潜り続け、第13階層へと到達していた。

 彼らはダンジョンにも慣れ、心構えや考え方も少しずつ順応していった。


 変わったのはそれだけではない。


 服装。

 要するに、彼らはまともな装備を入手していたのだ。


 防具にまともな武器を手に入れた彼らは、それぞれの得意分野での戦闘を行えるようになっていた。

 それは、彼らの戦闘がまた一段階上へあがったことを意味していた。




 ******************************




 ダンジョンが出現し、約三か月。

 地上での避難生活を強いられていた国民が各々の家へと帰り始めた頃――。


 彼ら『α部隊』の面々はついに辿り着いていた。

 そのダンジョンの最下層、そのボス部屋の前に。


「エンド……終わりって書いてあるっちゃね」


 その扉をじっくりと解読していた夜空がそう言い放った。

 彼はここまでに描かれていた謎の文字を写真として記録し、ここまでの道中で暗号解読を完了していたのだ。

 だから、彼らは知ることができたのだ。

 ここ、第30階層が最終階層なのだと。


 そして、これまた同じく。

 青銅製の扉には、このボス部屋の奥に眠るボスの姿絵が描かれていた。


 スケルトンに九狐を掛け合わせたような、骨型モンスター。


「骨骨ダンジョンももう終わりなんだね……」


 菜津がぽつりと呟いた。

 しかし、好はその言葉に反論した。


「違う、終わりじゃない。俺たち『α部隊』はここから始まるんだ」


 その言葉に全員が思わず笑みを浮かべ、一歩進もうとした。


 その時だった。


「あっ、ちょっと待って!」


 突然、慌てるようにかずっちが全員を止めた。

 それに思わずズッコケそうになる四人。


「ちょ! タイミング悪すぎぃー、かず兄ちゃん!」


 すかさず菜津が反応した。


「いやー、ごめんね。長期戦になる可能性も踏まえると、カメラのバッテリーが心もとなくてね。変えるからちょっと待ってて、お願い!」


 そして、背負っていたバッグを下ろし、ゴソゴソとその中から予備のバッテリーを取り出した。


「お待たせ! それじゃあ、行こうか!」


 その言葉に全員が笑い、呆れ気味ながらも彼らはボス部屋へと踏み入った。


 いつもと同じ演出。


 青銅独特の金属音がこの空間に木霊し、完全に開いた時、進むべき道は灯される。

 青く輝く光球が両脇にズラッと列を成し、ボス部屋の中へと向かっていった。


 ボス部屋奥には、神殿のような台座に丸まるように座る、一匹の九尾狐と人を合わせたような骸骨。


 ボスの赤い目が光る。


 それも一つや二つなんて数じゃない。


「こ、これは……」


 好がそう言った。

 彼が驚くのも無理はなかった。


 赤い水晶は十を優に超え、そして……その九尾の尻尾がまるで骨という物質を無視しているかのように、滑らかに蠢いていた。

 それはもはや、6本の縦横無尽な鞭と表現しても差し付かえないほどに。


「キュオォォォォォォォオッ!!!!!」


 最終ボス、九つの尾を持つ骸骨が甲高い雄叫びをあげた。


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