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制限、そんなのは無意味だ

第2章『再生――Reborn』開始

 


 ――北海道富良野ダンジョン、その入り口。



 二人とシカナラはゆっくりとした足取りで、公園にあるダンジョンへと向かっていく。

 その有名な二人の姿を視界に捉えた自衛官たちは、慌ただしく動き出し、各々精一杯の礼を尽くした敬礼をしていき、


「応援しております!」

「お願い致します!」

「私たちは君たちを歓迎します!」


 それぞれの言葉や願いを述べていくのであった。

 彼らには「ようやく警備から解放される」「日本が蘇る」「すげー、本物だよ。オーラがちげぇなぁ」などと、それぞれの思いが心の中には合った。

 一般人から見ると、二人は世界的なシンガーにも劣らないほどの有名人。

 まあ、その反応も仕方のないことだろう。


 しかし、好は未だにこの状況に慣れてはないかった。

 たまに俯き、表情をグッと堪えているのがその証だ。というか、元引き籠りにとって手放しの賞賛というのは少しばかり気持ちが悪く、体中がむず痒くなってしまうのだ。


 そして、祐奈はと言うと……。


「どうも~」

「どもども~」

「頑張るよ~」


 流石は元アイドル、扱いに慣れているというべきなのだろうか。

 深くフードを被り、マスクをしているため自衛隊からは「誰なんだろう」という印象が強い。

 しかし、彼女はずっと鏑木好と一緒に行動してきていたのは世界中ではそれなりに知られているのだ。


『謎の女』


 祐奈は密かにこう呼ばれており、複数の考察厨によって考察される対象だったのだ。

 ちなみに考察厨は睡眠人の可能性にすでに気づいており、謎の女の候補の中には――浅良木祐奈――の名前があることを、彼女はまだ知らない。もちろん好もだ。


 そんな調子で二人は封鎖された出入り口に到着していた。

 今回は物理的な破壊も行わなし、無謀な突破も行わない。

 というか、その必要がなかったのだ。


「通っていいか?」


 好は一際大きな建物を警備していた自衛官にそう言った。

 自衛官はすぐに敬礼し、ニッコリと笑う。

 恐らくあとでみんなに自慢するのだろう、有名人に声を掛けてもらったと。そんな魂胆が見え見えの笑顔であった。


「どうぞ、お待ちしておりました鏑木好様。不要かとも思いましたが、中に多少の力になりそうな物を置いてあります。お好きにお持ちください」


「別にいいよ」


 好は淡々とそう会話をし、真っすぐと建物の扉を潜っていく。

 中にはさらに厳重な鉄の壁が立ちはだかっていた。銀行の金庫、それをつい思い出すような分厚い壁だった。

 自衛官たちはその壁を開けようと配置に着く……が。


 好はその壁が開くのを待つことなく、素通りしていったのだ。

 というか、すり抜けた。


「は?」

「嘘っ!?」


 好にはもはや壁なんて意味がない。

 だって、固有能力により簡単にすり抜けられるのだから。


 その光景に、思わずその場にいた自衛官たちは驚きを隠せないでいた。

 まあ、仕方のないことだろう。

 この世界に未知のダンジョンが出現したとしても、世界はそこまで大きな変化を起こしていない。一部の国では、観光スポットとしての利用価値がないとまで言われているのだから。


 そんな中、一人で合計十七個の固有能力を手に入れた男はやはり異質だろう。

 もはやそれを人間と呼ばないものまでいるくらいだ。

 まあ、当の本人は全く気にしていないが。


 そして、彼に続くように顔の見えない女性が――。


「あっ、今回は二週間くらいで終わると思うのでよろしく~」


 ぶらぶらと手を振り、自衛官らにそう言ったのだった。

 そうして、『修羅』と『謎の女』はダンジョンへと入って行った。


 そんな姿を見て、自衛官たちが格の違いを感じたのは言うまでもないだろう。

 感嘆の声がそこら中から漏れていたのだった。





「これで六個目だね、完全スルーしてくれたダンジョンの人たち」


「そうだな」


 好と祐奈はそんな他愛もない会話をしながら、ダンジョン初めにある暗闇の中をひたすらに歩き続けていた。

 しかし、もうすでに祐奈にとってもそれは暗闇ではなくなっていた。とあるアイテムの力によって。


「クマァ~ッ!!」


 突然、暗闇の中でそんな気の抜ける声が木霊した。


 彼らは分かっていた。

 今までの経験でここには別にモンスターたちが来れないわけではない。

 来ることはできるが、彼らにとってもここは暗闇。

 あえて来ようとは思わない場所だったのだ。

 普通の人間にとっても、モンスターにとっても、ここは暗闇で戦いづらい場所。


 まあ、この二人に関しては例外だ。


 ドカッ――。


 好の足元から轟音が鳴り響いた。

 そして、その地面は大きくひび割れを起こしていることに熊ちゃんはまだ気が付いていない。


「ここも楽勝だな」


 スーッ、と熊型モンスターの体の中に冷たい鉄の塊が抵抗なく入っていく。

 好はそれを難なく振り切った。


「……クマぁ? ……ァ」


 ようやく熊は気が付いた。

 痛みもなく、姿を明確に捉えることすらできずに、自分は斬られたのだと。

 そして、モンスターはその場で溶け、消えていったのであった。

 二人取っては見慣れ過ぎた光景、敢えてそれを観ようとはせずに素通りである。


 トコトコと走る音が聞こえてくる。


「もう……衝撃に私も巻き込まれたんですけどぉ!!」


 プンスカと怒りながら好に駆け寄っていく祐奈だった。

 そうは言いつつも、祐奈は特になんの怪我もなく、土で汚れていることもなかった。祐奈は躱していたのだ、事前に察知しスッと横に避けて。

 しかし、好が思ったよりも力が入っているのを予測していなく、彼女自身も衝撃の端に触れただけ。


「ちょっと力入り過ぎたわ」


 好は何ということもなく、そう言い放ち再びダンジョンを進んで行く。


 力が入るのも仕方のないこと。

 ここには好が望み続けた仲間、赤井夜空が眠っていると分かっているのだから。

 今すぐ、休みなく進み続けたいと思ってしまうほど、好の体には力が入っていたのだった。

 とは言いつつ、好は自分の緊張を解す方法を熟知している、すぐに己で力を抜く。


 そうして、五分ほど歩くと彼らの体を灯りが照らした。

 ここまで来れば、あとは突き進むのみ。


「行くぞ、祐奈」


「うん!」


 二人は猛スピードで駆けだした。


 走り、モンスターを見つけては通りすがりに斬っていく。

 正直、好にとって一介のモンスターなど敵ではなかった。ゲームで言うスライムをバッタバッタと倒していくような感覚、それに近いのかもしれない。

 祐奈も負けじと、好のあとをピタッと離されずについて行く。


 進む、進む、進む――。


 一切スピードは緩めない。

 一秒でも早く、仲間を救うために。


 そんな時だった。


 彼らの前に三股の通路が現れた。

 今回のダンジョンも迷宮型、普通の人は正解の道を探さなければならない。

 まあ、普通の人はだ。


「祐奈、どっちだ?」


 好は息一つ乱さずに、隣を走る祐奈に尋ねた。

 祐奈は静かに目を瞑り……カッと目を開ける。


「左の道!」


「了解ッ!」


 ついでと言わんばかりに、好は目の前にいた赤く大きな熊を胴体から真っ二つに叩き切っていった。


「クマァ?」


 後方からは熊の阿保らしい鳴き声だけが響いている。

 何に斬られたかも、自分が死んだのも、ようやく今理解できたのだ。

 それでも好は一切振り返らない、その声すらも好には届いていなかった。


「次は?」


 再び目の前に現れた、今度は五ルートに分かれた分かれ道。


「左から二番目!」


「了解!」


 こうして好と祐奈は一度も止まらずに、たったの一時間でこの一階層の最奥まで到着していた。

 一度、息を整えるために小休憩を挟むことに。


「はい、好」


「おう、サンキュ」


 祐奈から手渡されたスポーツドリンクを好は数口だけ飲み込む。

 そのまま扉の前に立ち、それを見上げた。


 描かれていたのは、もちろん熊型モンスターの絵。

 しかし、いつもとはどこか違う。


 それに好はすぐ気が付いた。


「なるほどな、対俺用のボスってわけか。久しぶりに楽しめそうだ」


 そう呟き、好はとある文字の羅列を指でなぞっていく。

 久しぶりの笑顔だ。

 そう、鏑木好としてではなく、『α部隊』のサンとしての不敵な笑顔。


「何が?」


 少し嬉しそうな祐奈が後から現れる。

 そんな祐奈を一瞬見た好は、


「ここの文章を見てみろ」


 先ほどの文字列を指さす。

 そして、祐奈と好が場所を入れ替わる。


「うんと、どれどれ~『この部屋に入りし者。一切のナンバーズ使用を禁じ、レベルを一時的に1とする』…………まじで?」


「らしいな。2nd世界もただただ俺を眺めているってわけでもなさそうだな。もう少し早く動いてきてもおかしくないとは思っていたが、ようやくか」


 それは今まで好が取得してきた十七の固有能力の使用を制限すると言ったものだった。

 要するに、この部屋で好が使えるのは己の体と武器だけ。


「まあ、最初となんら変わらない。俺対策としては少し雑だがな」


 ゆっくりと好が扉に手を掛けた。

 いつも通り、扉は勝手に開いてゆく。

 そして、青き光が進むべき方向を指し示し――。


「行くぞ、祐奈。今回も逃げに徹しろ」


「分かってるよ」


 そう強がった祐奈ではあったが、内心では緊張していた。

 確かに好なら大丈夫だと分かっている。

 しかし、それでもこの制約は些か厳しすぎると思っていたのだ。


 と、好が祐奈の頭をガシガシと撫でたのだ。


「心配するな、俺は負けないよ」


 そうして、祐奈は平静を取り戻した。

 間を置かずに、獣声が鳴り響く。


「グマァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」


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