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ようやく手にした希望を握り締める

 


 それは突然降って舞い降りてきた希望だった。


 一切の手掛かりがなかった。

 分かるのは世界に無数に存在するダンジョンのどこかにみんなが眠っているということ。

 だから、好は分析と考察を繰り返し、ただひたすらにダンジョンを攻略するしか道がなかった。


 しかし、たった今。

 ツバキから発せられた言葉は間違いなく、天から差し込んだ光だった。


「それは本当か?」


「ええ、もちろんです。むしろそのために、ツバキちゃんがここにやってきたと言ってもいいんですよ?」


「いや、忘れてたろ、お前」


「いやん」


 なぜか頬を赤く染め、全身でフニャフニャと動き始めるツバキ。

 若干、引き気味の祐奈。


「さあ、ゲームだろ? 早くやろう」


 その中で好だけはやる気に満ち溢れていた。


 ゲーム?

 俺がα部隊以外のメンバーにゲームで負けるはずがない。

 だったら、どんな理不尽なゲームだって勝ってやる。

 そして、その光をこの手で掴むんだ。


 好はそう考えていた。


「好ちゃんったら、はしゃぎ過ぎだよ! こういうときは冷静に内容を聞いてから受けた方が良いよ?」


「俺がゲームで負けるはずがない」


「キャァッ!! さっすが好ちゃん、救世主と呼ばれるだけありますなぁ」


 突然、ツバキが意味の分からないことを口走った。

 救世主、確かに一部の報道ではそんな書かれ方をされたこともあったが、広く知られているものではない。むしろマイナーな部類である。


 いつもの好ならば、すぐに問いただすこと間違いないだろう。

 しかし、そんなどうでもいいことよりも、好はみんなの情報を優先させた。


「いいから、さっさと話せ」


「いいでしょう、いいですとも! ゴ、ゴホンッ……」


 敢えて間を置いているのだろう。

 静寂がこの場を包み、少ししてツバキが満を持して口を開いた。


「ルールは至って簡単、53枚のカードの中からジョーカーを引き当てればいいだけ。もちろん引くの一回一枚だけ。ね、簡単でしょ?」


 53枚のカード、そしてジョーカー。

 そこから導き出されるのは、トランプゲーム。


 すぐに分かった好は、首を縦に振った。


「では、レッツ……パーティーッ!!」


 パチンッ、とツバキが指を鳴らした。

 すると、何もなかった空中に突如トランプが出現したのだ。好を中心に周りを囲むように……まるで「かごめかごめ」のような状態だ。

 もちろんトランプの絵柄や数字は好からは見えないように、裏側を向いている。


 ただルールに助言はダメという項目はなかった。

 というか、ルールが節穴過ぎるのだ。


 好は急いで、トランプ円の外側にいる祐奈に向かって振り返る。


「ムー! ムー! ムムムーッ!!」


 祐奈が何かに縛られていた。

 黒い布のようなものに全身を固定され、口元さえそれで押さえつけられていたのだ。

 息だけはできるように、鼻と目だけは覆われてはいなかった。


「好ちゃん、そう簡単に助言なんてもらえませんよ?」


 すると、嫌みたらしくツバキが言ってきた。


「ああ、そう思っていたよ」


「さっすが好ちゃん」


 好は見栄を張った。

 しかし、その見栄はツバキには見破られているような気がした。今のツバキの言葉には、どこか含みがあるような感じだったから。


 しかし、そのおかげで好は全てに気が付いた。


「なるほど……そういうことかよ、ツバキ」


「キャッ! 好ちゃんがついにデレた! デレた!!」


 いつも通りの口調で喋りつつも、ツバキは確かにニヤリと口角を上げたのだ。

 それは「やってやった」というような、人を嘲笑う笑みではない。

 もっとずっと優しく、「そうだよ」と肯定してくれているような微笑み。


 そして――。


「これにする」


 好は特にトランプを観察することも、熟考することもなく。

 目の前にあった一枚のカードを手に取った。


 ゆっくりとそのカードの絵柄を確かめるために、裏返す。

 そこには……。


「俺の勝ちだな、ツバキ」


 好の手の中には、赤いピエロの絵柄が掛かれたカードが握られていたのだった。


 それは好の勝利を意味する。

 どんな経緯があろうとも、勝ちは勝ち。


 例え、()()()()()勝利だとしても。


「パッパラパーッ!! 好ちゃんの勝ち!!」


 どこからともなく現れた、パーティークラッカーとラッパが勝利を喜んだ。


 さすがの好でも、驚く。

 2nd世界の住人であるツバキは、この短時間で三度も何もない空間から何かを出現させ、それを操った。

 それは彼女が、別格の人間であるのだと。


 もし彼女が「私は神だ」と言われても、今の好には納得できるような気がした。

 それと同時に、2nd世界がどのような場所なのか、好は少し興味を抱いたのだった。


「で、誰の居場所を教えてくれるんだ?」


 好は急かすようにツバキへと聞く。

 わざとらしく顎に手を当て、考えるツバキ。


「これもトランプにしようかな。その方がワクワクして面白いでしょ?」


「教えてくれるなら、なんだって構わない」


「じゃあ、ツバキちゃんの可愛さ権限でそうしまーす」


 パチンッ、と再びツバキが指を鳴らした。

 すると先ほどと同じように好の目の前に四枚トランプが出現する。


 有無を言わずに、好は右から二番目のカードを掴んだ。

 すぐに裏返し、中を確認する。


「イェーイッ!! では、勝利報酬として好ちゃんには『赤井夜空』の眠るダンジョンを教えてあげましょう。場所は、北海道富良野市桂木町5-8にある総合スポーツ公園。そこに彼は眠っていますよ!」


 まさかとは思っていたが、好は内心でやられたと思っていた。

 元々向かおうと思っていたダンジョン、そこをまんまと報酬としてあてがわれたのだ。

 ツバキは……いや、2nd世界は確実に面白い場所だ。


 そう好は確信を持った。


 お互いにニヤリと口角を上げる。


「このクソツバキめ、いつかこの屈辱は返してやるからな」


「待ってますよ」


 二人はお互いに目で語り合うように、視線をぶつける。


 しかし、そんな二人に置いて行かれていた者が一人。

 祐奈だ。

 彼女は何が何だかさっぱり分からないといった雰囲気で、とりあえず二人の会話を大人しく聞いていた。


「とりあえず、そのチケットは置いていけ。気が向いたら使ってやるよ」


「うん、私たちは待ってるよ、好。チケットは破る物だよ? いい? 忘れないでね」


 そう言ったツバキは、どこかいつもと違った雰囲気だった。

 お調子者でもない、雇われ人の顔でもない。

 もっとずっと重く深い何かを抱え、待っているような。


 そうして……。

 瞬きの刹那にツバキの姿は無くなっていた。


 好はその驚きに多少慣れつつも、少しは驚いていた。

 そして、いつの間にか黒い布の捕縛から解かれていた祐奈を確認し、地面に落ちているチケットをポケットに仕舞う。


「やっぱり七月と言えど、ここの夜は冷えるな。家に戻ろう、祐奈」


「あ、えっ? うん、分かった」


 完全置いてけぼりだった祐奈は、好の後に続くようにキャンピングカーの中へと入って行くのであった。

 ドカッといつになく乱暴にソファに座る好。


 それを見ていた祐奈は、さきほど勝ってきた買い物袋の中からおにぎりを取り出し、


「とりあえず食べる? 私の夜食用に買ったやつだけど」


「太るぞ」


「うるさい」


「すまん」


 その会話で少しだけ気が落ち着いた好は、ぽつぽつと今起こったことを語り出した。


「祐奈はどこまで気が付いた?」


「えっと、えっと? 好の周りに浮いてたカード全部がジョーカーだったところまで」


 そう、実はあのゲームは仕組まれた勝利だったのだ。

 祐奈の言う通り、外から見れば一目で分かるものだった。

 ゲームと言いつつ、53枚のトランプの中には一枚も数字の刻まれたカードが含まれていなかったのだ。


 その意図は簡単だ。

 鏑木好に勝利を与えるため。


 それに気が付いた好は、特に選ぶことなく適当に一枚のカードを手に取ったのだ。


 では、なぜ好がそれに気が付いたのか。


「思い返せば、ツバキが現れた瞬間からゲームは始まっていたんだよ」


「ふーん……え? 今なんて?」


「ツバキの言葉の節々にヒントが散りばめられていたんだ。例えばそうだな、ツバキは一度も「トランプカード」とも言っていないし、53枚のカードの中に数字カードが含まれているとも、ジョーカーが一枚だけとも明言していなかった」


 首を傾げる祐奈。

 まあ、彼女には少しレベルの高かった会話だったということだろう。


「そ、そうだっけ?」


「ああ、それにツバキは俺が仲間を救うまではチケットを受け取らないと最初から予想していた。しかし、どうにかして2nd世界は俺を勧誘したい様子だった」


 好はツバキが一度帰り、すぐに戻ってきた行為も演出の一つだと予想していた。

 そうすると、ツバキのキャラの範囲内で自然と俺にヒントを与えることができるのだ。


 それと永久招待チケットの存在。

 俺は確実に2nd世界に招待されるべき存在ということになる。そこがどんな場所にしろ、俺の何かが上にとっては必要なのだ。

 さらに言うと「永久招待チケット」という名前の通り、頭に「永久」という言葉が付いていた。これは好の予想であるが、「永久」じゃない招待チケットの存在を匂わせている気がしていたのだ。


「それとゲームの勝ちがなんで関係してるの?」


 祐奈にしては飲み込みが早く、好は感心していた。


「俺がゲームに勝てば、仲間を救出できる。全員救出すれば、俺が2nd世界に行く可能性が今よりも少しだけ高くなる。そして、それをどこの誰かはしらないが望んでいるらしい」


「む、難しい話?」


 祐奈は首を傾げるように、そう言った。

 さすがにこの辺りまで話が深くなると、祐奈には厳しかったようだ。


「ま、まあ、そうだな。簡単に纏めると、俺はゲームに勝ったが、ツバキの思惑にまんまと乗せられた形になってしまった。全く、ツバキの一年も掛けた演技に騙されたよ」


 今、思えば。

 一年前、最初に会った頃からツバキはこれを予想し、キャラを作ってきたのかもしれない。

 彼女が何を思い、好という人間を欲しているのか。

 そこまではさすがの好でも計り知れてはいなかった。


「思惑?」


「ツバキにとって最高の形は、二つ。俺に仲間の居場所を教え、身軽にさせることで2nd世界へ行きやすくすること。二つ目、俺に2nd世界を匂わせ、面白そうな場所だと認知させること。理由は分からないがな」


「うん、分からない! けど、好が2nd世界の誰かに気に入られているんだということだけは分かった!」


「ああ、それでいいよ」


 好は、祐奈のその緩い空気に少しだけ和ませられることになった。


 そして、すぐに気持ちを切り替えた好は――、


「よし、早速行くぞ。北海道富良野市!」


「美味しい物たくさん食べるぞーっ!!」


 祐奈の私欲をまるで隠さない姿に、好は優しく頭を叩いた。

 下を出しながら「てへっ」と言い出す祐奈。


「私欲は目的を果たしてからにしろよ」


「はーい」


 そうして、好たちはすぐに目的な場所へと向かい始めたのであった。


 ようやく手にした手がかりを握り締めながら。

 『赤井夜空』という、α部隊の真の頭脳を取り戻すために。


第1章『1年契約――One-Year』完結。

次話より、第2章『再生――Reborn』が始まります。

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