この正体はなんなのだろう
あろうことか、泣きながら前方へと走り出した祐奈に驚き、動揺し、好はどうすることが正解なのか分からなくなっていた。
なぜ、これくらいのことで泣く?
女子だからか? 女子だからなのか?
俺が女子の心を分かってないとでも言いたのか?
分からない、と好は同様を隠せないでいた。
なんだかんだ言って、好は他人を泣かせるようなことは今までしたことがなかった。だからなのか、正解を導き出せないでいたのだ。
その場で佇み、追っていいのか、今は追うべきではないのか思考を巡らせていた。
その時。
「モヒヒィ~ン」
「うわぁぁぁん!! 来ないで~!!」
泣くのを止めずにこちらに向かって戻り走ってくる祐奈の姿があった。
その背後から押し寄せてくる三体のモンスター。
呆れるように一度溜息を吐き、鞘から二本の剣を取り出す。
「地面に伏せろっ!」
好が大声で叫んだ。
祐奈は安堵と驚きの混じった表情を浮かべ、「えっ? 今!? 今なの!?」と呟きながら、ズサーッと前のめりに地面へとダイブした。
その祐奈のすぐ上をヒュン、ヒュンと二本の剣が横切った。
「モヒッ!?」
「モモヒヒッ……ヒッ……」
襲ってくる二体のモンスターに直撃、行動を停止させたのだった。
「モヒヒィ~ンッ!!!!!」
残った一体が可愛らしい雄叫びを上げ、その短い脚で精一杯の跳躍、祐奈へと襲い掛かった。
首だけを上げ、その光景を見ていた祐奈は思わず、「来ないでぇ~」と内心で叫ぶ。
すると、ふっと祐奈の目に映る黒い影。
続いて見えた、祐奈を飛び越えようとする好の姿。
目にも留まらぬ速さで、イノシシモンスターを真っ二つに斬り伏せる好の後姿。
それは動画内でよく見ていたサン様の戦闘姿と重なって見えた。
再び、妙な胸の痛みに違和感を覚える祐奈。
好は着地と同時に鞘へと剣を仕舞い込み。
「何受け身になってんだ、せめて避ける努力はしろよな」
そう祐奈に言いながら、地面に落ちた自分の剣を拾い上げ始めた。
「避けたもん! いつでも避けれたもん!」
「ああ、そうか。それならいいんだ」
なぜか反抗してくる祐奈に、好は一歩引いた対応で流した。
そこで祐奈は普通に会話をしているこの状況に気が付いた。
――そうだ、私。好に対して怒って、泣いてたんだっけ。
「ごめん……」
「なぜお前が謝る? 悪いのは俺の言い方なんじゃなかったのか?」
「そうなんだけど……好の気持ちを考えてなかった。分かってたつもりだけど、まだ分かってなかった」
「意味が解らん」
「好がみんなを救いたいって気持ちのこと、考えてなかった」
「ああ……気にするな」
好は少しだけ口元を緩め、祐奈に背を向け、一人で歩き始めた。
それを見た祐奈も徐に立ち上がり、小走りで好の後を追っていく。
これが今の二人の距離感で、心の温度差で、歩む速さの違い。
それでも少しづつ、二人の心は確かに近づいていた。
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それからの道中は全て好が戦闘を行い、モンスターを簡単に屠っていく。
祐奈はようやく自分の立場をサポート要員だと認識し、自分のできることを考え全力で好を支え始めた。
重いバッグを背負い、タブレットとペンを片手にどんな道を歩んできたのかマップを作成し始めたのだ。それに加え、好が水を欲するタイミングを少しづつ掴み始め、彼女が「かずっち化」し始めていることに、好は嬉しく思っていた。
小走りで祐奈は好の後ろをついて行く。
好はたまに後ろを振り返りつつ、祐奈の表情を確認し、歩く速度を調整する。
「大丈夫か? 少し息上がってきたな」
「だ、大丈夫!」
やはり少しだけ吐く息の量が多いその言葉に、好は歩みを止めた。
そして、徐に近くの壁に腰掛けるように座った。
「休もう、俺が疲れた」
「うん、分かった!」
少しだけ嬉しそうな表情を浮かべ、祐奈は好の向かい側に座った。
あれ以降、祐奈は決して好の隣に座ろうとはしなかった。そんな些細なことを疑問に思いながらも、好は手渡されたドリンクを飲み始める。
そして、端末で現在の時刻を確認してみると。
「もう十二時回ってたのか。交替で五時間ずつ睡眠取るぞ。先に寝ておいてくれ」
「いいの?」
「ああ、俺は剣の手入れをしなくてはならないから構わない」
「それじゃあ、お先に」
祐奈はバッグから小さく折りたたまれたキャンプ用品のマットを取り出し、地面に引き始めた。そして、薄めの毛布を一枚取り出し、自分の体に掛け瞳を閉じ始めた。
「……襲わないでね?」
「誰が襲うか」
「そっか、おやすみ」
「おやすみ」
そうして、祐奈は瞳を閉じ、疲れていたのかすぐに深い眠りへと入り込んでいった。
一人になった好は、全ての剣を一度鞘から取り出し、地面の上へと並べる。その数、三十以上。それらを全て間近で確認し、あとどれくらい耐久出来るかを頭の中へと入れ込んでいった。拭きとれそうな汚れは、注意を払いながらクロスで拭きとり、明日に向けての準備を行っていくのであった。
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そんな日々を過ごし始めて、三日後。
「ようやくボス戦か」
「だねぇ」
二人は、例の青銅色の巨大な扉の前に立っていたのだった。
そこに描かれたボスの姿は、モヒモヒの角が螺旋しただけしか変化のない至って予想を裏切らない彫刻だった。
もちろんこの道中で好がモヒモヒに後れを取ることなんてなかった。
このボスも苦戦はしないだろう、と好はこの時思っていた。
しかし、それは祐奈という荷物を考慮していない考えだったのだ。




