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打ち上げ花火は申請を

 


 導火線に赤と橙色の二色の火元が点火された。端からジリジリと火が燃えていき、導火線の繋がるその先へと着火される。

 そして――。


 ヒュ~~……ドーンッ。

 ヒュ~~~~…………ドカーンッ。

 ヒュ~~~~………………ドカーンッ。


 空にいくつものカラフルな牡丹型の火華が花咲いたのだった。




 空港の滑走路に鳴り響いた火薬の爆音に、その場にいた自衛官や警察官たちは慌ただしくなり始めていた。

 好と祐奈は骨伝導小型イヤホンを耳に装着し、その無線内容を盗み聞きしていた。


『状況を報告せよ。音の原因を確認した者は状況を報告せよ。繰り返す――』


『こちら管制塔内警備隊、今の音は計三発の打ち上げ花火が原因と確認。場所、北側、南西側、東北側からと思われる、以上』


『了解した、至急フェンス外を巡回していた自衛官は原因の特定に当たれ』


『『『了解』』』


 そこで好はイヤホンを取り外し、ポケットに仕舞い込んだ。そして、隣で耳に選択的思考を向けていた祐奈のイヤホンを勝手に取り外した。

 いきなりのことで驚き、好の方に顔を向けた祐奈。


 そこで好は小さな声で言った。


「行くぞ、イヤホンを外しとけ」


「……うん」


 祐奈はふいのその行動に、思わずときめきを覚えたのだった。


 だけど、この時彼女はまだこの感情の正体が何だったのか分からないでいた。 


 すぐに我を取り戻し、慌ててもう片方のイヤホンを自分で外し、物陰から立ち上がる。

 そこで再び、好が祐奈を持ち上げた。もちろん言うまでもなく、お姫様抱っこだ。

 好がこの持ち上げ方を選んでいるのには訳があった。いつでも手放せるから、ただそれだけだった。背中に張り付かれでもしたら、行動が鈍るし、自分の選択肢が狭まってしまう。


 夜の暗闇に紛れつつ、明りができるだけ届かない場所を走り出した。

 普通の人間では見逃してしまうほどのスピード。

 鏑木好の身体能力は明らかに、通常とは言えないレベルになっていた。これもダンジョンによる影響だと、好は考え結論付けていた。

 オリンピックに出れば圧倒的一位を取ること間違いなし。


 と、その時だった。


 カチャリ、と銃を構える二人組の自衛官が二人の前に立ちはだかった。

 何かが走り、こちらに向かってくる影をその目に捉えたのだった。自衛官は銃の先についたライトでその謎の影を捉えようと、その後を銃身で追い続けた。


「な、何か来る!」


 片方の自衛官がもう一人に知らせるように、小さな声で言った。

 その言葉に、もう片方の自衛官も暗闇が濃い方へと銃身を構える。


 しかし、時すでに遅い。


 好は敵意を向けられていることになんてお構いなしに、ただひたすらダンジョンを囲うフェンスに向けて走り続けていた。そのライトに捉えられないように、自由に走りながら。

 分かっていたのだ、この短時間で発砲の許可が下りないことを。だから、銃を向けられたところで好は怯むことはなかった。


「ひ、人か!? 動物じゃないのか!?」


 その自衛官はライトに映し出された好の姿を見て叫び、すぐに無線で連絡を取り始めた。

 好はすぐに方向を九十度転換し、ジグザグとひたすら進み続け、彼らの範囲から掻い潜ることに成功した。


 自衛官は好を見失っていたのだが、未だに後方で銃身を右往左往させていた。


 もう、ダンジョンは目の前だ。

 近くまで進むと、その警備体制が手に取るように分かった。


 一番外側には高さ二メートル以上もある金属製の網型フェンスが侵入者を拒み、その中には二人一組で巡回する自衛隊員が五組以上いた。

 そして、肝心のダンジョンを囲っているのはプレハブ構造の簡単な建物に、コンクリート製の分厚い壁が覆っている様子だ。

 他にも侵入を拒む塀などを建設中のようだが、今の段階では完成してはいなかった。


「とうッ」


 好は少しだけ本気で跳躍し、最初にフェンスを乗り越えた。


『侵入者を確認、発砲は許可しない! 繰り返す、発砲は許可しない!』


 それと同時に、自衛官側の大きなアナウンスが鳴り響き、警報も鳴り始めた。

 大ジャンプをしている好の眼下では、慌てるように周りをキョロキョロと確認する自衛官の姿があった。


 しかし、どんなに目に力を入れてまっすぐ前を見ても見つかるはずがなかった。

 好がいるのは彼らの真上。

 それに気がつく者はいなかった。

 まあ、それも当たり前のことだった。

 誰が生身で二メートル以上もある塀を乗り越え、さらにはそのまま真っすぐダンジョンへと空を駆ける人間がいると想像できるだろうか。残念ながら、今の状況では誰一人としていなかったのだ。


 そこで祐奈が好の首元にギュッとしがみついた。

 すぐに好が腰に引っ掛けられた黒い鞘に手を掛ける。


 念じるのは二本の剣。


 好の体は重力に従い、ダンジョンのあるプレハブへと一直線に落ちていく。

 タイミングを合わせて。


 剣を交差するように一閃。


 プレハブの壁の一部ががガシャンと崩れ落ち、人二人がギリギリ通れるくらいの穴が開いた。


 プレハブの中には、二人の常駐自衛官。

 彼らは突然のことで驚き目を見開き、思わず椅子から腰を上げた。

 好はそんな奴らに挨拶することなく、そのままダンジョンへと降りる階段に滑り込んでいった。


 階段の凹凸がお尻にガタガタと衝撃を与えてくるが、そんなことは一切気にせずひたすら勢いに任せて突き進む。


「はっ?」

「今……」


 そんな微かな声が好の耳には届いていた。意表を突かれたことによる放心状態、好にとっては最高の出来だった。

 階段が終わり、平坦な道に差し掛かったところで踵を使いブレーキを踏みつつ、体勢を立て直してダンジョン内部への侵入に成功をした。

 そして、そのまま祐奈を抱きかかえながら、ひたすら全力疾走で一本道を突き進む。


 内部は、予想通り真っ暗闇だった。

 しかし、好の瞳にはそんなこと関係ない。今の彼には『No.78 eyes』がある。


 後から急いで追ってくる自衛官の足音が聞こえてくる。ライトの灯りが上下左右にぶれながら、数秒に一回だけ好の後ろ姿を照らした。が、自衛官の目にはその姿が徐々に遠く、小さくなっていくのが見えていた。

 レベル2となった好に追いつける人間は、今はまだこの世にはいなかったのだ。


 どんどんと距離を放していく好と祐奈。

 気が付けば、自衛官のライトが届かなくなるまでには、その距離を離すことに成功していた。


 そのまま休むことなく走り続けること、約十五分。

 距離にすると、数キロは走っていた。


 祐奈の瞳に、ようやく明りが届いたのだった。


「ま、眩しい……」


 祐奈は目を細めながら言った。

 それを少し可笑しく見ていた好は、ゆっくりと自分の腕の中から祐奈を地面へと降ろす。


「そっか、あんたの目にはずっと暗闇だったんだよな」


 そう言いながら、二人同時にグッと背伸びをした。

 あまりにシンクロした動きだったため、二人してクスッと笑ったのだった。


「どういうこと?」


「No.78と刻まれた俺の目に暗闇は、薄く灰色な世界に見えているんだ。ぼんやりとだが、明るく見える感じだな」


「何それ……」


「まあ、無駄話はここまでだ。あとは自分で歩いてくれ。たぶんあの人たちはもう追ってこないだろう、一度帰って上の指示を仰いでから再び追ってくるはずだ。そして、監視カメラで俺の姿を確認して、追うのを諦めるはずだ」


「ふ~ん」


「それじゃあ、お望みのダンジョン攻略開始だ」


「よっしゃー! やるぞー!」


 好の冷静なる静かなる闘志とは裏腹に、祐奈は鼻息を「ふんす」と鳴らし、腕まくりをする仕草をしたのだった。

 そして、好に向けて気合の入った掌を見せた。


「はい、武器ちょうだい!」


 なぜ?

 好はそう思っていた。


 だが、すぐに護身用の武器は必要かと思い至り、鞘の中から一本の剣を取り出した。

 それはスケルトンを倒した時に手に入った西洋風の剣だった。好にとっては、それは消耗品の一つでしかないため、手放すのは惜しくなかった。


「ほら、これでいいか?」


「うん、完璧! これで祐奈も冒険者だね!」


 祐奈は元気よく言うと、剣を頭より上へと掲げた。

 やる気は十分らしい。


「あっ、うん」


 荷物持ちも冒険者の内か、と内心で納得した好だった。


 そう、好はまだ言っていなかったのだ。

 祐奈に対し「あんたは荷物持ち要員だから、あまりでしゃばるなよ?」と。

 まあ、それを言うことになるのは当分先になりそうだった。


 再び歩み始めて約20分。


「うぇ~……肩外れそうなんだけど」


 祐奈はバッグの肩ひもをだらんと下げ、先ほど貰ったばかりの剣を杖代わりに地面につき刺しながら歩いていたのだった。

 まあ、彼女は元アイドル。

 荷物持ちという、役回りには少しだけ不十分だったのだ。


 それに中に入っているのは約四ヶ月分の食料に、こまごまとした生活用品。重さとしてはかなりの物だろう。とはいっても、それなりに中身を軽くする工夫はしていた。宇宙食を入れたり、完全食や軽めのクッキーを中心にしたりと。


 好は「仕方ないか」と思いつつ、自分の見通しの甘さに少しだけ後悔することになった。


 そんな時だった。


「モヒッ」


 ついにこのダンジョン初のモンスターに出くわしたのだった。


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