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世界の切り札

 


 忙しくパソコンを操作する作業音。ソファの上で寝転がりながらパラパラと漫画を捲り、時折クスッと笑う祐奈の声。

 キャンピングカーの中ではそんな音だけが空間を満たしていた。


「あ~あ、この漫画も最新刊まで読んじゃった。続き出るのいつだろう……」


 最後のページを名残惜し気に読み終わり、その最新刊をテーブルの上に無造作に積み上げられた一番上に適当に置く。そして、徐に取り出したAR拡張端末で最新刊を検索するついでに…………。


「うわぁ、何か見るたび開くたびに一番大きい桁数が変わっていくね。好のフォローワーとチャンネル登録者数、もう1億3千万人だってさ。これもう日本で一位なんじゃない?」


 そう、あの動画投稿から好のSNSのフォローワーが飛ぶ鳥を落とす勢いなのだ。それも日本人だけじゃなく、日本語も充分に理解できないであろう外国人からのフォローも絶えない状態だ。

 彼らは全員が好という『α部隊』のリーダーに虜にされていた。

 未知のコンテンツを動画に収めたということ。そして、もっとも彼らを魅了したのは『憧れ』という欲求だろう。俺、私、僕もこんな風にカッコよく戦いたい、そして強くなりたいと。

 その最前線に立つのが、紛れもない彼なのだ。


 だが、そんな当の本人はというと…………慌てる様子も一切なく、冷静そのものだった。


「いいことじゃないか、計画に現実味が帯びていくからな。影響力ってのはそれだけで力だ。それに……折角ダンジョンの動画をフリー素材としてネットに流したんだ、もっともっと増えていくぞ。というか、そうじゃないと困る」


「どういうこと?」


「こんなPV数を稼げるコンテンツが無料で配布されているんだ、各国の日本語を理解する転載野郎どもが後は勝手に母国語に変換して拡散してくれる。そしたらもっともっと、俺の知名度が上がるってわけだ」


「ふ~ん」


 祐奈は素っ気なく返事をした。

 が、内心はさっぱり理解できていなかった。

 ――何のために?

 これがさっぱり分からなかったのだ。かといって、聞いても話を受け流されて答えてくれないのがオチなのは分かっている。


 そして、祐奈は立ち上がった。


「そろそろ買い物行ってくるね。欲しい物は?」


 そう好に向かって言いながら、ハンガーにかけてある上着を羽織る。


「エナドリ補充頼むよ。あとは……そうだな、そろそろあんた自身の服を買っといてくれ。普段着じゃなくて、運動着だからな」


「運動着? 何させられるの? 私……」


 栄養の一切行き届かない胸を意味ありげに押さえながら、祐奈は言った。

 しかし、そんな貧相な体では好という思春期真っ盛りな男の子を惑わすには不十分だったことは言うまでもないだろう。


 祐奈という国民的美少女に魅力がないとは言わない。

 ただ、「性」という欲求を刺激するには少しばかり物足りなかっただけなのだ。


「安心しろ、フルマラソンしろとかは言わない。ダンジョンに行くだけだ」


 好はただ素っ気なく返事をした。


「りょうか~い」


 祐奈は気の抜けるような返事をし、キャンピングカーの扉をガチャリと開く。そのまま外へと一歩踏み出そうとした時、はっと気が付いた。


「…………ねえ、今なんて言った?」


 まるで本場のノリツッコミだと言わんばかりの間に、好は思わず笑いそうになったが我慢した。そして、敢えて素っ気ない返事で返す。


「フルマラソン走れとは言わない」


「違うそこじゃない」


 食い気味に祐奈が言う。


「ダンジョンか?」


「そう、そこ」


 右手をピシッと前に突き出し、「それだよ!」と言いたげな、物申したげな顔をした。


「それがどうした?」


「……私ダンジョンに行けるの?」


 祐奈は「行くの?」ではなく、「行けるの?」と質問した。それは彼女が少しばかりダンジョンという未知のシステムに興味を示していることを表していた。

 そして、好もそこにすぐ気が付いた。瞬時に、なだめる作戦より興味を引かせる作戦へとシフトする。


「もちろんだ、むしろあんたを雇ったのは一緒にダンジョンに潜るためとも言えるぞ。残念なことにこの世界に現れたダンジョンでは、一人で楽々攻略なんて単語これっぽっちもないからな」


 しかし、そんな好の言葉の後半部分は彼女の耳に一切届いていなかった。


「……私が……サン様と二人きりで……ダンジョン……やったぁ!!」


 すぐに「あっこいつ何かを妄想してやがるな」と分かるような表情を浮かべた祐奈は、そのまま妄想を続け、一人キャンピングカーを後にした。そして、スクーターで買い出しへと向かったのだった。


 好が少しだけ事故らないか心配している、なんてこと、祐奈はまだ知らない。




 ******************************




『――要するにだ。これは地球という世界規模の盤上を使った何者かによる()()()だったというわけだ。ここからは推測も入るが…………俺たち人類をダンジョンへと向かわせる動機として「睡眠人」という人質をとったと俺は思っている』


 その拡張型AR端末からは好の声が聞こえていた。


 それは好の更新した――α部隊の日常――の105本目、最後の動画の内容だった。

 もちろん作った当の本人は内容なんて知っているため、見ていない。

 見ていたのは、別荘のソファで横になりながら、チョコレート菓子片手にネット巡回をしていた浅良木祐奈だった。


『そして、気が付いているとは思うが…………『α部隊』のメンバー三人に、サポートメンバーのかずっちが「睡眠人」となった。俺はリーダーとして、何としてでもあいつらを一秒でも早く救いたい。だから、その為だったら何でもする。しかし、一人では無理なこともある。だから、これを見ているみんなはこの動画を見ることによって、最初の一歩を踏み出して欲しい』


 へぇ~、こんな人情に任せたようなことも言えるんだな好って。あのザ素っ気ない、冷徹な好がねぇ。

 と思っていた祐奈だった。

 そう思われている当の本人はと言うと、車の奥のベッドでスヤスヤと眠りについているのだった。


『最後に、各国の指揮を執る人たちへ。この動画を削除しないで、ネットに公開を許可しているということは俺への協力体制があると考えている。動画を見て分かり切っているとは思うが、今の俺は誰よりもダンジョンを制覇するという一点に限っては世界最高の人材の一人であることは間違えようのない事実だ。それにこれを見て欲しい』


 動画内の好はそう言って、一枚の写真を提示した。

 それはダンジョン最終階層のボス部屋にあったコンソール、そこに映る鏑木好という人間の能力値を示すような画面だった。所謂、ステータスというやつに近しい。



【Status】

 Name:鏑木(かぶらぎ) (こう)

 Level:2

 Number’s:No.78eyes



 その写真には確かにそんな内容が書かれていたのだった。

 そして、切り替わるように次の写真が提示された。


『これは俺のダンジョンで眠っていた「睡眠人」のステータスだ。比較対象にしてほしい』



【Status】

 Name:※※※※※

 Level:0



 それは名前だけはモザイクで伏せられていたが、浅良木祐奈のステータス画面だった。突然、動画に現れた自分の情報らしき写真に、思わず祐奈は「私!?」と声を上げたのだった。

 そして、基本的に眠りの浅い好はその大きな声で目を覚ますこととなった。


『さて、これで明確に理解してもらえたと思う。戦闘動画でもわかるように、俺は普通の人間とは明らかに異なる身体能力を手に入れた。それにこの「No.78eyes」があれば、この不毛なゲームを終わらすことができるはずだ。――誘致人(アトラクター)の死――という方法で』


 動画内の好はそう言って、カメラに自ら近づき瞳に刻まれたNo.78の銀色文字を視聴者に見せつけた。


『さあ、ここまで言えば頭の良い人なら分かってもらえただろう。俺は協力を申し出てくれた国のダンジョンをひたすら攻略し、閉じて見せよう。こっちも情報の共有に、共闘を惜しまないつもりだ。連絡先は動画の概要欄に張っておくので、確認して欲しい。では…………いい連絡を期待して待っているよ』


 ブチっと、動画はそこで途切れるように終了した。


 それとほぼ同時に祐奈の目の前に現れる、頭をポリポリと掻き欠伸をする当の本人。

 祐奈は目を細め、ジッと好を見つめた。


「ねえ、連絡確認しなくていいの?」


 祐奈は「こいつまじかよ」と思っていた。

 動画内ではこうも高圧的に視聴者に向けて話しているのに、今目の前にいる世界中での時の人は怠そうに寝ていた状況に。


「あ? ああ、動画か。……いや、これ見てから言えよ」


 そう言って、好は自分の端末の連絡ツールを表示した。そこには一秒も間を置くことなく、ひっきりなしに更新されていく文章がつらつらと流れていた。


「えっ、なにこれ? …………ここまでの未来はサン様でも想像できてなかったの?」


 そこで好は自分の端末をポケットに仕舞い、電源を切った。


「まさか、端から期待していないぞ」


「えっ?」


「目的は別にある」


「別?」


「それぞれの国が押さえているダンジョンのより詳細な警備計画に、警備カメラの増設だ。やっと始まるんだよ、俺たちのダンジョンゲームがな」


 そうして、好が立ち上げたパソコンの画面には、いくつもの警備計画書やどこかの洞窟やその入り口のカメラ映像が映し出されていたのだった。


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