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さて、この物語の本筋の話をしようか【Second Half】

 


 ――認証完了…………攻略者名「α部隊」…………攻略人数、計1名――


 そのアナウンスに不思議がるように、ここにいる五人全員が首を傾げ、目を見合わせた。


 確かにそのアナウンスは――攻略人数、計1名――と言った。

 しかし、ここにいるのは五人であり、たとえかずっちを除いたとしても計4人。そんな足し算、日本人の高校生ならば誰にでもできる間違いようのない算術。


「いや、それも違う。攻略人数は計5人だ」


 好が再び指摘するように、実体のないアナウンスに向かって話し始めた。


 すると、次に聞こえた声は機械的な先ほどまでの声とは明らかに異なっていた。


『間違いではありません、このDungeon No.78の攻略者は計1名です』


 感情と抑揚の伴った女性の声が聞こえてきた。

 その「真実だ」と言い張る言い方に、再び全員が戸惑いを見せた。


「おい、何の間違いだ? 誰がどう見ても攻略人数は5人だろう」


『いえ、攻略人数1名は覆らない事実です』


「……事実、ね。で、誰が攻略したことになってるんだ?」


『攻略者は「鏑木好」……以上、一名。攻略報酬の贈呈フェーズに入りますね』


 全く話の聞かないそのアナウンス女性に、好は折れる形で話を進めた。

 そして、攻略したと認定されたのは好だけだった。

 全員が少し残念がるようにしょぼんとした表情を浮かべ、「まあ、いいか」という感じになった。



『鏑木好、あなたに贈られる攻略報酬は「No.78eyes」』



 アナウンスが言い終えた、その瞬間だった。


「うっ……」


 好がその場で崩れ落ちるように膝をつき、両目を押さえ始めた。

 押さえているというよりも、もがき苦しみ、今にも自分で自分の目を抉ろうとしているほど切羽詰まった行動をした。


「お、お兄ちゃん!?」

「好!?」

「好ちん!?」

「好ちゃん!?」


 他の四人が慌てるように好の下に駆け寄り、声を掛ける。

 しかし、好は俯いたまま唸るだけ。


 そして――。


「ああ゛、あ゛ーー※◇△〇$※ーーッァ!?!?!?!?!」


 天を仰ぐように好は突然顔を上げ、声にもならない悲痛の声を出し始めた。


 好の瞳。

 黒目の中心からジリジリと焼けるように、火の波が広がっていき、その瞳を変えていった。

 日本人特有の黒目と白目の部分に、淡い銀色で刻まれる『No.78』の文字。それが好の瞳に焼き付けるように、両目に描かれていく。


 その変化が終えたとき、好の叫び声が止まった。

 そして、心配していた彼らを見上げたときだった。




「――誰だ? お前ら」




 まるで化け物でも見ているかのような目をした好が、唐突にそう言った。

 恐怖、驚き、焦り、疑問、そんな感情を前面に押し出すような敵意剥き出しの声。


 ――好らしくない。

 ――何を言っているんだ。

 ――お兄ちゃんどうしたの?

 ――変。


 いつもの彼ら、鏑木菜津、七季柚、赤井夜空、家田和近ならばそう思ったのだろう。

 しかし、その言葉をぶつけられた彼らは違った。


 特に驚く様子もなく、心配の表情からすんとした無表情へと変え、その場にゆっくりと姿勢を正し立ち上がる。


 その反応を見た好は、思わずステップアウトし、その()()()()と距離を取った。

 そして、剣に手を添える。


「おい、みんなをどこにやった? お前らは誰なんだ?」


 好の態度は完全に、その()()()()を敵として認識していた。


 それもそのはずだ。

 No.78eyesを手に入れた好には、その何かたち――鏑木菜津、七季柚、赤井夜空、家田和近――が異形の存在に見えていたのだ。


 黒いモザイクに全身を覆われた丸みを帯びた姿に、三日月型の白い目と口が辛うじてそれらを生物として認識させていた。

 それはただのシュミラクラ現象で人として形を成しているだけに過ぎなく、実際は人ではなく生物という定義にも似合わない存在たちだった。


「バレちゃったね」

「うん、どうしようか」

「帰る?」

「楽しかったね」

「もう帰るの?」

「帰らないの?」

「バレちゃったね」

「また邪魔されちゃったね」

「どうしようか?」

「まだ遊ぼ?」

「ダメだよ、怒られちゃう」

「帰ろうよ」

「遊び足りないよ」

「でも、楽しかったね」

「殺す?」

「遊び足りないね」

「殺す?」

「殺す?」

「殺す?」

「殺す?」

「殺す?」

「ダメだよ」

「ダメだよ」

「ダメだよ」

「ダメだよ」

「「「「…………帰ろっか」」」」


 突然、その()()()()は誰が話しているのかも、会話にもなっていない、短文をつらつらと半笑い言葉で言い続けた。

 そして…………彼らの体がふわりと浮かび上がった。


「じゃあね、好」

「好ちん、バイバイ」

「お兄ちゃん? また会おうね」

「好ちゃん、ちゃんとご飯食べるんだよ」


 その言葉に、好の表情が必然と引きつった。


「その姿でみんなの真似をするんじゃねぇ。さっさと失せてくれ、寒気がする」


 好は完全に怒っていた。

 みんなの真似をする彼らに。


 いや、この時の好は明確な確証はなかったのだ。これらが真似をしただけの存在なのか、これがみんなの本来の姿なのか、はたまた他の可能性なのか。

 だが、好の中では一つだけは何となくだが気が付いていた。


 ――こいつらはたぶん皮を被っただけの偽物だ、と。


 そして、その何かたちはまるでじゃれ合っているかのように空を自由に飛びまわり、最後はその姿が霧の中に掻き消えるように見えなくなっていった。


 好は剣に手を添えたまま、呆然とその場で立ち尽くしていた。


 ――その時だった。


『分かっていただけましたか? 間違いなく、攻略者は計1名なのですよ』


「…………ああ」


 好はそのアナウンスの問いに答えたくはなかった。

 答えてしまえば、彼らとの築いてきた絆を否定してしまうのではないかという恐怖から。


 でも、彼は前に進む決断をした。


 それが好の喉元に詰まっていた言葉を押し上げた。


『混乱しているあなたにいくつか、私が話せる範囲の情報を提供いたしましょう。鏑木菜津、七季柚、赤井夜空、家田和近、この四名はまだ生きています』


 その突然降って湧いた――希望――に、好は剣を握る手を血が出るほどにグッと強く圧迫し、『Dungeon No.78 CLEAR Strategy Name:α部隊』と書かれた黒い大理石の方にゆっくりと足を進めた。


「どこにいる?」


『どこかのダンジョンの最奥、ここまでしか私には答えられません』


「世界中のダンジョンを攻略すれば、いずれ見つかるってことか? でも、なんで?」


『見つかります。ダンジョン一つに対し、一人の人間が最奥に眠っています。理由は……答えられません』


「ダンジョンはいくつある?」


『答えられません』


「じゃあ、ここにも人間が一人眠っていると言うのか?」


『はい、現在睡眠からの覚醒フェーズを実行中です。あと30秒で起床しますよ』


「再度、確認だ。ダンジョン最終階層のボスを倒せば、そこに眠る人間が一人目覚める、で合っているんだな?」


『はい』


「その眠っている人間はその間、あいつらと同じようにあの気味の悪い黒モザイク野郎に体を乗っ取られているのか?」


『人によります。彼らはあくまで私たちのゲーム外の存在、干渉するのはお勧めしませんよ』


「ゲーム?」


『これはゲームです。それ以上は何も答えられません』


 そこで好は再び決意した。


 ――全てのダンジョンをクリアして、必ず俺があいつらを取り返してやる、と。


 これがゲームだとか、干渉するなだとか、正直どうでもいい。

 好は好なりの手段で、最速クリアを遂行するだけだ。


「やるべきことは分かった。それで……この目は何だ?」


 好は自分の瞳を指さして、そう問いただした。


『それはこのダンジョンの攻略報酬「No.78eyes」、別名――見抜く瞳――と私たちは呼んでいます』


「何を見抜くんだ?」


『それは鏑木好であれば、すぐに解を導き出せるでしょう』


「お前が誰だか知らないが……あくまで傍観者ってわけか」


『いえ、違いますよ。私はただ雇われただけの存在、雇い主は「傍観者」で合っていますが、私は中々に協力的だと思いますが?』


「……比較対象がないからな、何も言えん」


『さて……あっ、ちょっと待ってくださいね! 上司から連絡が来ました!』


 アナウンス女性は突然、慌てるようにそんなことを言い出し、ドタドタという擬音が似合う足音を好の耳に聞かせながら、どこかへ走っていった。

 その間、好は装備の内ポケットからAR端末を取り出した。そして、自分の目を鏡機能で覗き込む。


「……No.78」


 そう、瞳に刻まれた文字を見つめて呟いた。


『何ですか? お年頃何ですか?』


 そうしていると、急にあのアナウンス女性の声が響いてきた。


「いや、不思議に思っていただけだ。この文字が俺の目に焼き付けられたときは死にたくなるほど苦しかったが、時間が経った今、何の違和感もないことに」


『あら、違ったのですね。まあ、いいです。さて、先ほど上司から連絡がありまして…………私のボーナス増加が決定しましたよ!! イエーイ! ありがとうございます、鏑木好! いや、もう好ちゃん大好きっ!! 今すぐそっちに行けるのなら、チュッチュしてあげたいくらいですよ!!』


 明らかに性格……というか、人格が変貌したその音声に呆気にとられる好。


「で? なぜ俺がお前に感謝されるんだ? 覚えがないぞ」


『もーう……私のことは「ツバキちゃん」って呼んでくださいよ~。ボーナスの仲じゃないですか~』


「ボーナスの仲って何だよ、意味が解らん」


『まあ、要するにあれです。好ちゃんが私の管理するこのDungeon No.78を最初に攻略してくれたことで、私のボーナスが増し増しってわけですよ。やったー』


「なるほど……やっぱり分からないな」


『ま、そうなりますよね。あっ、でもボーナスの条件があるんです。てことで、はいこれ!』


 アナウンス女性がそう言うと、台座が元々あった場所に一筋の光柱が舞い降りてきて、一つのアイテムを降臨させた。

 それがカランッ、という音と共に崩れた台座の間に挟まる。


「これは?」


 そう言って、好はそれを拾い上げた。


 ――剣の鞘。

 特に何の変哲も装飾もない、真っ黒な鞘。


『それは「てでんっ! 世界初攻略だぜ、ひゃっはーっ! おめでとうで賞」だそうです』


 その声はまるで二人の人格が宿っているような言葉だった。前後はアナウンス女性の透き通りつつも親しみのある雰囲気で、半ばのテンションがおかしい言葉はそのままイカレたテンションのままの雰囲気で。


 好は何となく、一本の剣をその鞘に仕舞ってみた。


「おっ」


『「おっ」って、だいぶリアクション薄いですね』


 その女性にツッコまれつつも、好は内心で非常に驚いていた。


 入れたはずの剣が突然、掻き消えたのだ。

 そして、「出てこい」とその剣を思い浮かべると、その鞘に収まるように再び剣が現れた。


「いや、十分驚いているよ。……剣専用の収納アイテムってところか?」


『残念! 武器全般で使えるみたいですよ、それ』


「なるほど、それはありがたい」


『さてさて……長話もこれくらいにしましょうか。最後に好ちゃんには二つ、お話があります』


 ようやくきたか、と言わんばかりに好は力強く頷いた。


「話してくれ」


『ダンジョン最奥に眠る人間の解放の方法は次の二つがあります。


 ――1つ。

 ダンジョン最終ボスの攻略。


 ――2つ。

 誘致人アトラクターを殺すこと。


 前者は全てのダンジョンを攻略する必要がありますが、後者はそれ一つで全てのダンジョンに眠る――睡眠人――の解放が実行されます』


誘致人(アトラクター)……それは一目見て分かるものなのか?」


『あなたのその瞳があれば』


「そうか」


 好はそう言って、自分の目じりを触った。


『さて、これで本当に最後です。Dungeon No.78に眠る――浅良木(あさらぎ)祐奈(ゆうな)――の覚醒フェーズを実行致します』


 その言葉。

 いや、その名前を聞いたとき、思わず好はその目を見開いた。


 それもそのはずだ、その名前は日本のほとんどの若者が知る有名人。


「びっくりした、そんな有名アイドルグループ最前列メンバーがここに眠っていたのか」


『では、また会いましょう……鏑木好』


 その言葉を最後に、好は何かが遠ざかっていくような不思議な感覚に襲われていた。


「お、おい! また会いましょうってどういうことだ!?」


 慌てるように、聞き返すが。

 もちろん答える者はすでにそこにはいなかった。いや、この言い方では少し語弊があるだろうか。リンクが切れた、これが正しい。

 だが、そんなこと好はまだ知らない。


 そうして、再び台座の上に降り注ぐ光の柱。


 そこには――。


「……スー……スー……スー……」


 一定のリズムで心地よさそうに眠る女性、浅良木祐奈の綺麗と可愛いを兼ね備えた寝姿があった。

 恐らく、ここに性の欲に満たされていない青少年がいたならば、悪戯すること間違いないだろうそんな状況で、好はその女性を無視して落ちていた物を拾い上げていた。


 菜津の細剣。

 柚の斧。

 夜空の短剣と藍蛇。


 そして、かずっちの背負っていたバッグにカメラ。


 武器は先ほど得た武器収納アイテムに、バッグは自ら背負い、台座に眠る――眠り姫――の下へと向かう。

 その愛らしい寝姿を見て、好は思った。

 ――菜津の方が可愛いな、と。


 そして、その女性を姫として扱い、台座奥にいつの間にか出現していたコンソールに触れた。


 その後、少しだけ操作した好は――。


 黒い大理石の壁に現れた奥へと繋がる真っ暗な通路を見つけ、そこを進み始めた。


 五分ほどだろうか。


 好は見覚えのある場所へとたどり着いていた。

 そこは初めてみんなでスケルトンを倒し、消し炭にした場所。


 そう、第一階層の光の届かない真っ暗な通路だったのだ。

 不思議にも、今の好はライトを灯してはいなかった。いや、不思議に思うのはほんの1秒程度の短い時間だけだった。

 その瞳――No.78――と刻まれた好の目には、その暗闇が暗闇ではなかったのだ。


 彼女を起こさないように、好は気を使いながらゆっくりと階段を上へと昇る。


 徐々に光がその目に映り。




 鏑木好は、眠り姫と共にたった二人でダンジョンから帰還した。


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