プロローグ
彼らに負けた世界中のゲーマーは誰もが口を揃えてこう言うんだ。
「『α部隊』には勝てない」と。
それは大会で優勝するほどの腕前を持つプロゲーマーであっても同じこと。優勝者インタビューの第一声は誰もが同じことを言う。
「『α部隊』が出場してなくて良かったよ」と。
それはゲーマーにとっては一種の風物詩であり、当り前の枕詞として存在していた言葉だった。
例えば、対戦型格闘ゲームの優勝者であるアメリカ人のヨゼフ・コールトンはこう言った。
――『α部隊』が出場してなくて良かったよ、僕は彼らに一度も勝ったことがないんだ。でも、優勝したことには変わりない、心の底から嬉しいよ。だけど、一度でいいから彼らとこの舞台で戦ってみたいね。
例えば、FPSゲームの優勝者である韓国人のソン・ジフンはこう言った。
――『α部隊』が出場してなくて良かったよ、彼らにはチートを使っても勝てる想像ができないんだ。でも、実際にこの大会で優勝したのは僕たちのチームだ、そこは本当に嬉しいよ。それと同時に、彼らがプロのプレイヤーとしていつかこの場に出てくることを願っているよ。
例えば、MMORPGゲームのPvP部門優勝者である日本人の佐藤司はこう言った。
――『α部隊』が出場していなくて良かったよ。といっても、この大会で優勝できたのは俺だった、誰が何を言おうと結果は変わらない。だけど、願わくば……いつか彼らを倒してもう一度この大会で優勝したいですね。
こういった経緯もあり、彼らの『α部隊』という名は瞬く間にこの業界に広まっていった。
しかし、誰も彼らの素顔や年齢を知らない。
が、とある方法で彼らのプレイを見ることは誰でもできた。
一つは――。
ゲーム内で戦う、又は野良としてチームに偶然入る方法。
そしてもう一つ――。
彼らの超絶技巧や解説が人気の登録者数2000万人を超える、日本で最も大きな動画配信チャンネル――α部隊の日常――を視聴する方法だった。
主に後者の方法で多くのゲーマーが彼らを知った、そしてその変態的なPSの高さも。
生放送中に当たり前のようにやってのける超絶難しいパリィも、FPSで銃の使用を禁止するという縛りプレーの中まるで未来でも見ているかのように手榴弾で敵を圧倒する予測も、被弾ゼロでやってのけてしまうソロボス戦も。
全てが視聴したゲーマーを虜にしていった。
そのおかげで、彼らは動画を配信するだけで生計を成り立たせることが十分にできていた。
だから、大会などに出なくても別に良かったのだが……。
ネット民は今、大騒ぎだった。
――――――――――――――――――――
【第1回記念闘技大会】Thirteen Dungeon in the Endについて語るスレ
55:名無しのテイマー
初のPvPイベント、テイマーは適正低いけど俺は出るぞ。なお、先ほど対人最強職の格闘家にボコられてきたところ←
56:名無しの剣士
≫55
テイマーでも強い人おるよ
57:名無しの魔法師
うほーっ、楽しみすぎる!! 早く明後日になれ!
58:名無しの槍士
明後日、仕事や……
59:名無しの剣士
≫58
乙
60:名無しの武闘家
≫58
乙
61:名無しの聖職
≫58
乙
62:名無しのテイマー
≫56
誰や?
63:名無しの魔法師
≫56
α部隊の人のこと?
64:名無しのテイマー
≫56
α部隊?
65:名無しの魔法師
お
66:名無しのテイマー
お
67:名無しのテイマー
≫55
テイマーでイベントは無理ゲーよ
68:名無しの剣士
草、α部隊と俺らを同族にするな。あれは化け物だ
69:名無しの剣士
テイマーで対人できるのって、α部隊のヘータさんしか思いつかないんだが
70:名無しのテイマー
α部隊? ヘータ? 誰それ?
71:名無しの格闘家
≫70
おい、敬称をつけろ
72:名無しの槍士
≫70
敬称
73:名無しの剣士
≫70
呼び捨てゼッタイダメ
74:名無しのテイマー
≫70
様、付けろ、様。ヘータ様だ
75:名無しの冒険者
あの……ゲーム初心者なのですが、先ほどから言っているα部隊とヘータさんとは何ですか? 凄い人ですか?
76:名無しのテイマー
≫71
≫72
≫73
≫74
ビギナーをいじめるなww
77:名無しのテイマー
≫70
≫75
君たち初心者にはこれを授けよう、拝むがよい
<URL:******************************>
78:名無しの剣士
このスレα部隊の教徒多いな
79:名無しの格闘家
テイマーで対人強いとか意味不明なんですけど……。前に野良でヘータさんと当たって一方的にボコられた中の人です←
80:名無しの聖職
初心者のために、以下α部隊についてまとめたで
・四人組のアマチュアプレイヤー
・男2女2の混合チーム(リアルでも仲いいらしい、同居説もある)
・ノンジャンルで数多の伝説を残している連中
・動画配信チャンネル登録者数2000万人越え(尚、日本で一番多い)
・収入源は動画の広告費用と思われる
・プロの大会には頑なに出ないことで有名、てか出る必要ないほど稼いでる説
・無敗説あるやつら(とあるユーザー調べ)
・もちろんこのタイトルでも最前線で戦っているで
以上、あとはみんなで捕捉してくれ
81:名無しの聖職者
連投失礼する
【速報】α部隊、イベントに参加決定!
82:名無しの剣士
ファ!?
83:名無しの格闘家
は?
84:名無しの魔法師
え?
85:名無しの剣士
≫81
情報は早、これは信者だな
86:名無しのテイマー
≫81
どこ情報!?
87:名無しの槍士
≫81
まじ??
88:名無しの聖職者
まじだ、α部隊の新着動画。リンク張っといてやる
<URL:******************************>
89:名無しの剣士
サンキュ
90:名無しのテイマー
仕事早くて助かるで、ほんまに
91:名無しの格闘家
優秀な聖職者や
92:名無しの格闘家
≫88
まじやww
93:名無しの槍士
≫89
ほんまやないか。これ、もう上位四人決定したも同然だろ。俺ら一般民で五位争いだな
94:名無しの聖職者
≫93
そうでもないで。今、運営から発表あったが、α部隊とのタイアップイベントにするらしいぞ。結構な大金を支払った説あるな
95:名無しの剣士
≫94
本当に優秀な聖職だ……うちのギルドに来ないか?
96:名無しのテイマー
何か凄い事態になったな。てか、聖職者タイピング早くね? 音声入力?
97:名無しの聖職者
さらに朗報、イベントはα部隊のチャンネルでも生配信するらしい。上位に食い込めば世界中にプレイングみられる可能性あり、なおスカウトも見る説あるでこれ
98:ヘータ
α部隊のヘータです。過去ログにもある通り、タイアップでイベントをすることになりました。よろしくお願いします。以下に詳細の動画リンクを張っておきますので、お時間あるときにでも見てみてください。それでは、失礼します。
99:名無しの聖職者
ご本人様!?
100:名無しの剣士
キャラ名投稿きたー!! ヘータ様、万歳!!
――――――――――――――――――――
さて、そんな渦中のプレイヤーの実態はこうである。
「おーい、かずっちが編集終わったってさ。みんな降りてきてー」
一人の青年、鏑木好が階段の下から二階に向かって誰かに呼びかけた。
すぐにその声に反応する者が一人――。
「今ムリー!! 相手結構強いんだけど! お兄ちゃんがいいなら、私は良いよ! あとはよろ」
その青年を「兄」と呼称する人物、鏑木菜津の切迫するような声が響き渡った。
それに続いて反応する者がもう一人――。
「ぐかー……ブヒッ」
イビキという斬新な返事をしたその青年、赤井夜空の豪快な不快音が鳴り響いた。
そして、もう一人は――反応がなかった。
好はいつもと同じこの状況に呆れるように溜息を吐いて、リビングにいる「かずっち」こと、家田和近の向かいにあるソファに座った。
「あいつらは相変わらず見ないってさ」
「そっか。それじゃあ、好だけでも確認してね」
そう言って、かずっちから渡されたパソコンを手に取り、編集された動画の確認作業を始める。
重大発表、から始まりα部隊初の大会参加、そしてタイアップによる諸々の報酬についてが視聴者の興味を引くような構成で完成していた。
それを見た好は特に指摘をすることなく、非常に優秀で仕事の早いかずっちの顔を見上げた。
「問題なし、さすがかずっちだよ。いつも編集ありがとな」
「いや、いいんだ。僕にはゲームの才能はないけど、α部隊を支えることはできる。好たちは才能の代わりに重大な何かが欠落してるから、誰かが補完しなくてはならない、それがたまたま僕だっただけさ」
「ははっ、何も言い返せないな」
そんな少しむず痒い空気になり始めた時だった。
ジャーゴボゴボゴボゴボ、と水洗式トイレの流れる音がリビングすぐ側から聞こえてきた。
そこから現れたのはα部隊最後の一人、七季柚その人だった。茶髪の癖っ毛が朝は一層ひどくボサボサになっており、ホットパンツにキャミソールと非常にきわどい格好で欠伸をしながら、かずっちの隣へとふらふら座った。
「ん、おはよー」
柚はそう言って、三人掛けのソファの半分を占領し始めた。足を器用に丸め、そのおかげで豊満な胸や綺麗な太ももが妙に際立っていた。思春期の性に意欲を燃やした青年であるならば、瞬殺間違いなしの光景だろう。
だが、その光景にはここにいる好とかずっちは特に反応を示さなかった。
「ゆーちゃん、おはよ」
かずっちがソファの背もたれに掛けてあった掛布団を柚に被せながら、子供を見守るような優しい声で言った。
「おう、柚。タイアップの動画もうすぐアップロードするが、柚がゲーム内で告知するか?」
「……うん、柚がやりたい」
ムニャムニャと小さな声で返答する柚。
「それじゃあ、一度風呂入ってその寝ぼけた頭をスッキリさせて来い」
「……ん、分かった」
柚は一層眠たそうに返事をして、ぬくぬくゆっくりと掛布団から這いずり出て、再びふらふらと風呂場の方へと歩いて行った。
その後姿を見ていた好はある違和感に気が付き、少し赤面していた。
もちろんそんな細かなとこを日頃から見ていないかずっちには分からなかった、本当に些細なこと。
柚のキャミソールにブラの凹凸が刻まれていなかったのだ。
たったそれだけの事実、と思う人もいるだろう。
しかし、ゲームばかりに人生を捧げてきた鏑木好には赤面するに足り得る光景だったのだ。
それと同時に好はこう思っていた、もっと前を注視していればよかった! と。特に柚のその豊満の胸の山頂辺りを……と、ウッフムフフな妄想を膨らませていた。
鏑木好は案外、初心なのである。
「かずっちあとはよろしくね、俺もイベントのためにもう少しインして調整してくるよ」
「任せて。あとで部屋にご飯を持っていくよ」
「助かるよ」
好はそう言って立ち上がり、冷蔵庫を開ける。その中には隙間なく綺麗に整頓された緑色のエナジードリンクがまるで軍隊の如く入っていた。そこから二本の缶を手に取り、階段へと向かう。
二階に上がり、すぐ正面にある部屋が俺たち『α部隊』のゲーミングルームである。
中に入ると、簡易的な仕切りで部屋が四つに分けられており、向かって右側一番奥のデスクが鏑木好の遊び場であった。
そして、その部屋にはもう一人――。
「パリィ、パリィ、はいパリィ、そしてパリィ!!」
部屋に入ってすぐ右側のデスクで、なぜか無駄にパリィばかりする鏑木菜津の引き籠り感丸出しの姿があった。パーカー一枚だけしか着ていないようにも見える服装に、自分専用のヘッドセットにあらゆる動物をデコレーションした、動物好きな菜津。相手を嘲笑いながら対人戦をする少し性格に難を持つプレイングをする女子だった。
まだぎりぎり女性と言えるような年齢ではなく、女子と表現するのが正しいだろう。
好やかずっちから見た菜津は、華奢な体で、女性らしい魅力に欠けると言った印象だ。しかし、その実は服を脱いだら童貞如き瞬殺できるほどの美乳を持ち合わせていたのだった。
アイドルにも引けを取らない可愛らしい小顔に、150後半にも届かない小さな体、その隠れ美ボディが世間に公表されれば一定のファンがつくこと間違いないだろう。
そんな妹の姿を、好は後ろから覗き見ていた。
「菜津、お前少しは舐めプ控えろよ。対戦相手が可哀そうだろ」
「舐めプじゃないよ、パリィの練習だよ」
その言葉に一切の動揺を見せずに冗談風に言い返した菜津は、彼らにとって攻撃になり得る隙を敵が見せても一向に攻撃に転じず、ずっとパリィばかりをし続けていた。
それに見かねた好は、手に持っているキンキンに冷えたエナジードリンクを菜津の裏首筋にコツンと当てた。
「ひッ!?」
突然、猫のようにゾクゾクと体を緊張させ、敵に大きな一撃を食らう菜津。それを見た好は満足そうに自分のゲーミングチェアへと腰を掛けた。
「くっそ、お兄ちゃんの責任だからね。あと一撃で死にますよ? いいの? 可愛い妹がこんなどこの馬の骨とも知らない下手くそ野郎にヤラれてもいいの!?」
そんな妙に含みの加えた言葉遣いで兄に罵声を浴び続ける菜津は、そこから本気を出し、結局完封試合を果たしたのだった。それなのに、それからもずっとぐちぐちと兄に対して文句を言い続ける妹の憎たらしい姿がそこにはあった。
と、好がゲームを起動し、数十分が経った頃だった。
「チーっす、チャチャッス、おはよっす」
ゲーミング部屋の扉を開け、一人の青年が妙に語呂の良い挨拶をしたのだった。もしその青年に相応しい声の掛け方があるとするならばこうだろうか――ねえ君、芸能界に興味ない?――と、言うかもしれない。それほどまでにイケてる顔した青年なのにどこか透き通った美しさがある。
その青年の名は――そういえばもう言ったかな。
「おはよ、ヨー兄ちゃん」
「おそよう……だな、夜空」
菜津と好がそれぞれ野良のプレイヤーと対戦しながら、そう答えた。もちろんそのフワッとした返事に反して、その両手は機敏に動いていた。
ちなみに二人は今、兄はキーボードとマウスを使って、菜津はコントローラーを使ってゲームを行っているが、元々このゲームタイトル――Thirteen Dungeon in the End――はVR機を想定したフルダイブでの遊びを推奨している。だが、近年日本で新しく制定された『フルダイブ型遊機の制限』の法律は、年齢により一日のフルダイブ時間が制限されるというものであった。そのため、ほとんどの人気ゲームタイトルはフルダイブせずにゲームを楽しめるようプログラムを新しくし、パソコンでの遊びも可能になっているのだ。
「チャチャッスよ、鏑木兄弟」
夜空は気の抜けるようでそれでいてチャラい返事をその場でして、すぐに好の背後にある自分のデスクにあるパソコンを起動する。そして、デスクのすぐ隣にある設置してあるフルダイブ専用のスワン型チェアへと腰を深くかけた。
「夜空、もうダイブするのか?」
それを横目で見ていた好が、後ろに振り返りそう言った。
「うん、そうだっぴょ。どうせみんなイベントに向けて個々で調整するんっしょ? だったら、今日はみんなで時間合わせてダイブする必要ナッシングナッシングよ」
夜空はそういつも通りのよく分からない口調で説明をした。
それと同時に、再びゲーミング部屋の扉が開いた。
「ん、今日も柚は頑張るぞ」
先程までの眠そうな柚とはまるで違うやる気に満ち溢れた……と思ったのも束の間、すぐにふらふらと歩き出し、入ってすぐ左にある自分のダイブ専用スワン型チェアに猫のように丸まって転がり込んだのだった。
それを見ていた好は少し残念そうな顔をした。それもそのはずだ、柚はすでに着替えを終えており、ブラは装着済みなのだから。
しかし、そんな鼻の下を伸ばそうとした兄を、菜津は見逃さなかった。
「あー、お兄ちゃんのエッチ、変態、すけこまし! 柚お姉ちゃんのお胸がそんなにいいの? そうなの? 私の美乳じゃ飽き足らないの?」
「前半は認めよう。だが柚の格好が悪いのであって、俺の性欲は正常に働いているんだ。むしろ俺の欲求が仕事をしていると言い換えて欲しいね。それに菜津が美乳とか何いってるんだよ、ちゃんとブラジャーのお店のお姉さんにサイズ測ってもらえよ、と兄は思っているぞ」
そう、兄の鏑木好は妹が脱いだら凄いということをまだ知らないのだ。
「……ムニャムニャ、柚はどうでもいいの」
そんな兄弟痴話喧嘩をしている中、柚は興味なさそうにボソッと呟いたのだった。
「ほら、柚は嫌じゃないと言っているぞ。むしろ見て欲しいとばかりに胸を強調して、丸まっているじゃないか」
少し言い訳がましいとも好は思いつつ、やたらめったらと頭に浮かんだ反論を言葉として口に出していた。
と、そんな時だった。
再びゲーミング部屋の扉が開かれた。
「みんな朝ご飯出来たよ! 今日はスパムのサンドイッチにしてみました、野菜もたっぷりです!」
かずっちが元気なエプロン姿で四人分の朝ご飯を持ってきたのだった。
「柚は野菜いらないの」
「私はむしろお肉はいらない! 野菜だけでいいよ!」
「チャチャッス、かずちん。夜空くんは朝ご飯いりませーん」
「おー、ありがとうかずっち。今日も栄養満点だね! さすがみんなのお母さん!」
四者四様である反応。
だが、それはいつもの光景であるためかずっちは特に言い返すこともなく、四人のそれぞれの朝ご飯を配っていく。
七季柚には、野菜の入っていないスパムとソースだけのサンドイッチを。
鏑木菜津には、お肉の入っていないソースと野菜だけのサンドイッチを。
赤井夜空には、これだけでもと野菜ジュースとエナジードリンクのスペシャルドリンクを。
鏑木好には、そのまんまのサンドイッチを。
それぞれに配ったのだった。
しかし、それは見た目だけ。中身はそれとはまるで違っていた。
柚にはソースに細かくみじん切りにした野菜を隠し入れ、菜津にもソースにこっそりと少しだけお肉を混ぜ、夜空にはドリンクに少しだけ完全食と呼ばれる栄養価の高い液体を混ぜていた。
もちろん好き嫌いのない好には特に細工などはされていない。
そうしてかずっちは一度、部屋を後にした。
その30分後に、いつもかずっちは食器を片付けに来てくれるのだが、今日はなぜか違った。
再び扉が開いたのは、そのわずか30秒後だったのだ。
バンッ、という音と共に部屋にいた全員が食事の手を止めた。
「み、みんな、大変だよ!! すぐ下に来て!!」
今までに見たことないほどに顔を青くし、焦った表情を浮かべるかずっちを見て、全員がただごとじゃないとすぐに予見した。
そして、眠そうにしていた柚までもが慌てて立ち上がり、全員で一階へと駆け降りた。
リビングには特に変化はなかった。
しかし、慌てるかずっちが指さしていたのは、テレビの画面だった。
すぐに全員が内容を確認する。
そこでここにいる五人全員が、まるで石化してしまったかのように思わず固まってしまったのだった。
彼らを石化たらしめたその報道の内容は――。
『緊急避難命令が政府より発令されました。日本に住む全ての国民が対象になります、至急家より避難し、近くの自衛官および警察官、消防官の指示に従ってください。人口密集地帯にお住まいの方は車での避難ではなく、徒歩での避難を優先するよう心がけてください。また車を乗り捨てる方は必ず車のキーを刺したまま、降りるようにしてください。また――』
延々と報道アナウンサーが、緊急避難命令を読み上げている慌ただしいい報道フロアの光景だった。しかし、それはただのワイプ映像。
本命はもっとずっとテレビに大きく、映し出されていたのだった。
東京都渋谷区、代々木公園の中を我が物顔で闊歩する一体の謎生命体、それが大きく映し出されていたのだ。
それから蜘蛛の巣を散らすように四方八方に走り逃げ惑う、若者や大人、そして小さな子供までもがその映像には映し出されていた。
それはまるで宇宙からの侵略行動にも捉えられるような奇怪千万な現象に思えただろう。
しかし、そのうち彼ら四人は考え方が一般人とはかけ離れており、ゲームという文化にその考え方が汚染されていたのだった。
『このビッグウェーブに乗らないわけにはいかない』