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傷口

魔王がどんなつもりで自分を助けたか解らない。


あんな全力で殺し合いをした相手と何故、普通にすごせるのか解らない。


魔物と人間の感性は相容れないモノなのだろうか、言葉は通じるのに、会話は噛み合わない。


「兎に角現状を打破しなければ、このまま慰みものはごめんよ」


ダメもとでした要求がすんなり聞き入れられ、やっとセリスは一人の時間を確保する事が出来たのだ。

これはチャンスだと彼女は思った。


「いったたた…」


セリスはなんとか片手で立ち上がると辺りを見回す。

「何か、何かないの? 彼奴の秘密とか弱点とか……」


今セリスが居る部屋は明らかに他の部屋とは違っていた。


正円の広い空間で、地面は土になっている。また天井は吹き抜けているらしく、遥か高みに空が見えた。

時間までは判断出来ないが太陽が昇っているのが解る。


そして僅かに注ぐ光で育ったのか弱々しい枝葉を伸ばす植物が部屋の中心に植えられていた。

ここはなんと言えばいいのか、枯れた井戸の底の様な場所だ。


それは、なんとも奇妙な事だった。

迷宮の中には、それこそ玉座やそれに類する豪華な部屋もある。セリスはそれを何度となく通り抜けて来たので、知っている。


だというのに、魔王がこの場所を居住空間にしている意味がセリスには解らなかった。


「獣の気持ちなんて、私には解らないけど」


ふらつく身体を支えようと、手を付いた壁面がザラリと指先に触れる。


「模様…?」

それは不規則な壁の傷のような模様で、縦が四本を横が一本、それを貫いていた。

大きな爪で引っ掻いたような、傷にセリスも爪を立ててみるが壁面は硬い石壁でとてもではないが生身の人間の爪で跡などつかない。


ふとセリスの腕を掴んだ魔王の手を思い出す、その黒く鋭い爪を思い出す。


「あいつが付けた…これ全部? なんのために?」


セリスはもう一度部屋を見渡した、部屋の壁はこの傷で埋め尽くされていた。

目が届くところ、手が届くところ全て。


永遠と何かを数えたそんな痕に、胸の奥が悪くなるようなそんな嫌な気分に襲われる。


「起きて平気なのか?」

「きゃぁぁああ!!」


突然耳元で声がして、セリスは反射的に平手を繰り出していた。

それは過たず、屈んでいた男性の顔にヒットする。


「てっ何すんだ」


「それは此方の台詞よ!」


セリスが振り向くと、叩かれた頬を擦りながら拗ねた様な表情を魔王はした。彼はすぐ後ろに立っていたらしい。


いつの間にか、帰って来て居た。

千載一遇のチャンスを逃した事と、驚きでついついセリスは荒い口調になってしまった。


「急に後ろに立つんじゃないわよ! ビックリして心臓が止まるかと思ったわ」


「それは、すまなかったな、今度から気を付ける」


セリスが文句を言うと、魔王はとても申し訳なさそうに頭を下げた。

ふざけている様には見えず、セリスは言葉に詰まる。


「あんた……まぁ良いわ、それでどうしたのよ?」


「ああ、言われた通り獲ってきてやったぞ」

セリスが直ぐに戻った理由を聞くと、ほれと魔王は手にしていたモノを差し出した、それは大型犬程もあるウサギだった。


否、ウサギではなかった、似て非なるものだ。

身体は白い体毛に包まれ耳が長いが、足が奇妙だった。足が甲殻類だった。いいや足が百足だった。


それが魔王に首を捕まれたまま、何本とも数えられない足をセリスに向けてワシャワシャワシャワシャワシャ……と蠢いていた。


「ひぃぃいいいーー!!」


勇者の悲鳴が迷宮に木霊した。

ウサギに擬態した甲殻類です。


ウサギに擬態した虫です。


ウサギに擬態した何。

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