全滅
「ここでいいか」
暫く進むと魔物はそう言って一つの部屋に入って行った。
何か罠が在るかも知れないと警戒したセリスは距離を取り、油断無くその入り口を潜る。
その部屋は迷宮内に無数にある部屋の一つで特に仕掛けもなく、三方から出入りが出来るようになっている以外は何の変鉄もない。
二人が全力戦闘をするスペースとしても充分である。
しかし、そこには先客が居た。
それは5人組のパーティで戦士の様な格好の男女と魔導師の様な格好の女と僧侶の様な坊主頭の老人と、弓を背負った少年だった。
彼等は休憩をとっているのか各々座り込んだり壁に寄り掛かったりしていた。
「おお!また人間が」
それを見付けた魔物が嬉しそうな声を出すと走りよる。
「待ちなさい!」
自分が連れてきてしまった魔物が彼等に襲い掛かる、そう思いセリスは急いで聖剣を抜くとそれを追って走り出した。
しかし数歩も行かぬ内に魔物はその速度を緩めてそして、止まってしまった、セリスもそれに釣られて歩みを止めた。
魔物のピンと立っていた牛の尾が、しんなりとへたれる。
どうしたのだろうと、いぶかしんだが直ぐに原因は解った。
そのパーティは既に全滅していたのだ。
「あんたが殺ったんじゃないの?」
違うと解っていたがセリスはそう聞いていた。
全員遠目から見てもガリガリに痩せていて、外傷は在るものの治療した形跡があり。
食料が無くなり餓死か衰弱死したのだと推察出来た。
死肉を魔物に漁られなかったのは、部屋が通路から孤立していたからだろう。いや、だからこそこのパーティーは餓死したのかもしれない。
しかしこの様な殺し方がこの魔物に出来ないとも限らなかった。
「俺じゃねぇよ」
それだけ答えると魔物はノシノシとまた歩いて戦士の男の死体に近付いた。
男の死体は刀を杖代わりにして壁に凭れていた。その刀を手から外してやると身体を抱き上げ、そして魔物はそっと戦士の死体を地面に横たえる。
「何をしているの?」
見開いたままだった戦士の瞳に手を翳す、魔物を見下ろしてセリスは言った。
「え?…なんだって言われても」
魔物は男の刀をきちんと鞘に仕舞い傍らに置いてやりながら困ったように目線をさ迷わせ、そして答えた。
「このままじゃ可哀想だろ…?」
死者の冥福を祈って、魔物の癖に、父を殺した癖に、その戦士とてこの魔物が居なければこんな所に来る事も無かったはずなのに。
セリスは噛み締めていた唇をいつの間にか噛みきっていた。
「やっぱりあんたが殺したのよ」
「そうかもな」
二度目には、魔物は何でもないように、同意した。
魔物が全員を寝かせ終えると、セリスは必死に祈りの言葉を思い出して唱えた、こんな所では他に供養の方法もない。
「燃やすぞ」
それが終わるのを待って、魔物はセリスに離れる様に言って手の中に焔の塊を造り出し死体に向かって放った。
炎球が業と唸りを上げて着弾すると5人の死体は高温の炎に包まれ真っ黒な炭へと変わる。
煙も上げずに死体を焼き終えると消えた炎に魔物の魔法の熟練度が伺えた。
これまでの旅で魔法を使う魔物と闘う事もあったが間違いなく今までて一番の使い手であろう。
「さて、やるか?」
「ええ、もちろんよ」
二人は距離を取ると身構えた。