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出会い

地の底へと続く迷宮、そこはたった1体の魔物を閉じ込めるために存在している。

遠い昔、神の家畜を借り受けた王が必ず返すと云う、約束を破った。

怒り狂った神の、呪いを受けた王妃が産んだと言われるその魔物。


数年に一度のその迷宮への生け贄として少女の父が選ばれ、王都から来た騎士達に引き立てられて連れて行かれた。

仕方がない事だと皆言った、敗残国の義務であると、溜め息を吐いて。


その時、まだ幼かった少女には大人達の言葉は理解できなかった。

泣き叫ぶ彼女の手から唯一の肉親が奪われた、それだけだった。



「私は勇者セリス・インシグニス! 迷宮の魔王、父の敵よ覚悟なさい!!」

セリスは剣を魔物に突きつけた。


地下深く、照明器具ない石で組まれた迷宮内部は不思議な青緑色に光る苔によって辛うじて視界を保たれている。

その薄明かりの中、魔王と呼ばれた魔物がゆっくりと振り返った。


セリスがそいつを見付けたのは、運が良かったのだろう。


何しろダンジョンの最奥でも、思わせ振りな豪華な扉の中でもなく、普通に通路をノシノシと歩いて居たのだ。

彼らにも生活があるから、常に最後の部屋に待ち構えてくれているとは限らない、と聞いてはいたがこの旅の締め括りにしては少し拍子抜けである。


しかしその魔物自体は魔王と呼ぶのに相応しく、他と一線を画した威容を誇っていた。


二メートルを超える巨躯に蹄の着いた獣の足、簡単に布を纏っただけの衣服から覗く隆起した筋肉は後ろからでもその強さを伺わせる。

それを通路の先に見つけた時は背後から斬りかかる事も考えたセリスであったが、やっと見付けた父の敵、例え相手が理性のない魔物でも名乗りを上げ正々堂々と仇を打つ事を選んだのだ。


魔物はゆっくりとセリスを見ると不思議そうに角を傾けた。


「生きた人間か、珍しいな」

「!?」

それは綺麗な発音の公用語だった。


まさか魔物から返事が有るとは思っていなかったセリスは驚いて一歩後ずさる。


「なんだ? 言葉が通じないと思っていたのに話し掛けたのか?」


嫌みと言うより苦笑混じりの声音にも、此方を見詰める紅い瞳にもセリスは理性と知性を感じる。

驚く事にその魔物は顔だけ見れば精悍な青年だった、とても、男を嬲り殺し女を凌辱し快楽の限りを貪ると言われている様には見えなかった。


しかし視線を少し上げれば、黒い髪から突き出た2本一対の金色の角が鈍く光を反射させている。


「くっ!」

指摘された事ではなく、伝承などで調べた内容との違いにセリスは唇を噛む。知能が高いと言う事は想定よりこの魔物が強い可能性があると言うことだ。


「もっと牛っぽいかと思ったか?」


「な、なんで!?」


心の中を言い当てられセリスは思わず慌てた声を出して、そしてしまったと思った。

今度は明らかにその魔物はニヤニヤと面白そうな表情をしていた。


「ふむ」


何か言ってやろうと思案して居ると魔物が不意に組んでいた腕をほどく、セリスが気付いた時には数メートルの距離を一瞬で詰められ腕を捕まれていた。


「つっ!!」

十分に距離があると思っていたのが甘かった。


黒い爪が付いた大きな手が剣の柄を握るセリスの小さな手を包み込む。


力強いその感触は自分と比べるべくもなく、他人の体温に心がざらつき於曾毛立った。

反射的にセリスは腕を引こうとするが、逆に魔物の腕の中へと抱き寄せられる。


「何を…!?」


その時、セリスの立っていた場所を大質量の物が通り抜ける。彼女の髪がその煽りを受けて舞い上がった。

魔物腕の中で振り向くと、セリスが少し前まで居た空間が消えて壁に塞がれている。


もし手を引かれなければ、せり出した壁にセリスは押し潰されていただろう。


「今日は迷宮が動く日だ喧嘩すんならどっか小部屋に入ろうぜ」


唖然とするセリスの耳元に魔物が囁いた。


「離せっ穢らわしい」

「へいへい」


セリスが厚い胸板を押すと、魔物はおどけた様に舌を出しパッと手を離した。

この迷宮は常に動き、一定の形をもたない中に人が居ようがお構いなしに通路や部屋の配置が変わっていく、セリスは今目の前の魔物に命を救われた。

その事に苛立ちを隠せず睨み付ける。


「行くぞ」

セリスの視線を意に介さず魔物は無防備に背を向けると歩き出した。


今度こそ背中から斬り倒してやろうかと思ったが、セリスはそれをぐっと堪えてその後ろを追って行った。

二次で書いていたパロ×パロから二次成分を取っ払って此方に引っ越し


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