愛された聖女
メイド長は走る。
王都の4つの門を閉ざせと命令を受けたからではない。
寧ろその逆、4つの門を開けに向かっている。
レオン・アスティノーラ公爵が軍を率いてると聞き、メイヴィス様の事で怒っているのだと考えたからだ。
ならばメイヴィス様を敬愛していた自分が出来ることはこれくらいしかないと思い走った。
「門を閉ざせと命令が来ます。 ですが門を開けておいて下さい。 貴方方も薄々感づいているでしょう。メイヴィス様が処刑された直後から治安が悪くなっている事を。」
そう4つの門で話すと兵士達は皆何か思う所があったのかゆっくりと頷いてくれた。
あと私に出来ることはメイヴィス様の亡骸の回収だ…
「何故誰も助けに来ぬ! 私は国王だぞ。」
ノエルは自分の派閥の者が誰も助けに来ない事で怒りが増していた。
「だって車も無いのにそんなすぐには準備して来れないじゃん。ノエル。」
「うるさい! お前は黙ってろミヤコ。」
ノエルはとうとうミヤコまで怒鳴り始めた。
ミヤコは静かに自室へと戻った。
一人取り残されたノエルは机や椅子などに当たり、物を壊していった。
「王都の者達よ! お前達にもう逃げ場はない! 門を開けろ。」
その号令の後門が開け放たれる。
開けた兵士はレオンに刃向かうでもなく下を向いたまま門の側で待機していた。
レオンのところだけではなく全ての門が開け放たれ、レオン公爵派閥の者達は中央の王城へ進軍していった。
「近衛! 奴を連れて来い! あやつならばこの危機を脱出出来るかもしれん。」
「あ あやつを連れてくるのですか…」
「早くしろ!」
「はっ!」
何故か門が全て開き敵の兵がもう既に王城を取り囲んでいる。
幸い王城の周りには大きな湖があり橋をかけなければ渡れない。
だが取り囲まれている時点でもう逃げ場はない。
抜け道も父上が敵にいる時点でばれているだろう…
はっ!?
「執事長、抜け道を見て参れ! 侵入者がいるやもしれん。」
「承りました。」
近衛兵によって一人の男が運ばれてきた。
男の名はベルセル王都で起きた大量殺人の容疑者である。
当然ならば死刑になるところだがノエルが密かに匿っていた。
「大罪人ベルセル。 今王城の外には多数の敵がいる。 私を救ってくれとは言わないが、外の奴らを始末してきてはくれないだろうか。」
「皆殺しで良いんだな?」
「ああ。」
「ならばお前の手の中で踊ってやろう。」
「近衛、その者の鎖を解け。」
「承知致しました。」
ガランと音を立て落ちた重りは王城の床に減り込んでいた。
「門が開くぞ! 気をつけろ!」
そう兵士の者から声が上がる。
ニーナは降ろされた橋をみるそこには大罪人ベルセルが大剣を持ち獲物を見るように私達を見ている事に気が付いた。
「下がれ! 私が出る。」
「ニーナ騎士団長殿!?」
「危険です!」
騎士団以外の者がそう止める。
「皆の者私達の騎士団長を心配する事はない。 寧ろ私達が居ては邪魔なのだ。 下がるぞ。」
騎士団の副団長の男がそう言うと同時に騎士団の者が他の者を後退させる。
「女。 お前が最初の餌食か。 」
「はて餌食? 食われるのはそちらの方だがな。 ………まだ私が話している最中なのだがな?」
ベルセルはニーナが話している途中で大剣を鞘から抜き放ち肩から切捨てようと斬りかかるも、それ以上のスピードでニーナは剣を抜き放ち片手でベルセルの剣を止める。
「馬鹿な…」
「私もね始めはそんな気分だったよ。 いくら打っても打っても軽く止められ、流され、自分は何を相手にしているのか分からなくなった。 でもね。 今ようやく隣に立てるくらいまで成長したと思える。 だからあなた如きに私は斬られる訳にはいかない。」
「くそがぁ!」
ベルセルは剣でニーナを斬ろうと動くがニーナは全て止める、もしくは流していた。
ベルセルが渾身の一撃とばかりに上から大剣を振り下ろす。
ニーナは剣を横に構え防ぐと思いきやベルセルの剣を流し、隙だらけのベルセルの首を刎ねた。
「メイちゃんは何でそんなに強いの? 剣の練習ばかりしているわけじゃないのに。」
ニーナは半泣きになりながらメイヴィスに問う。
「だって私は王妃になるらしいもの。 王妃が自分の身を守れるようになってたら近衛兵に自分以外を守るように命令できるじゃない。」
「それで私以上に強いの?」
「私が足も出ないくらいニーナちゃんは強くなると思うよ。きっと。」
ニーナは目を瞑り過去のことを思い出していた。
「私、メイちゃんより強くなれたかな…」
そのニーナのつぶやきは騎士団や兵士の歓喜で風に攫われていった。
ノエル・ベスティールはミヤコと一緒に玉座の間にいた。
そこにレオン・アスティノーラ、前国王 ネロ・ベスティール、ゼルネ公爵、ニーナ騎士団長、ツヴァイク男爵、が入ってきた。
「ノエル・ベスティール。 私はお前を許す事はできない。 ここで死んでもらうぞ!」
そういってレオンが腰の剣を抜き放ちノエルを斬り捨てる。
「ぐはっ!」
「ノエル! 大丈夫? しっかりして!」
斬られたノエルをミヤコが抱き上げる。
「お前がミヤコか? お前もメイヴィスを処刑した黒幕出そうだな。」
そういってレオンはミヤコをノエルと同じように斬り捨てようとしたが、ミヤコの姿が突如消えた。」
すると頭の中に直接声が聞こえた。
「人間達よ。 本当にすまない事をした。 異世界の者がこちらに来た事でここまで大きな事になるとは想像もしておらんかった。 こちらのミスが引き起こした事だ。」
何の事かわからなかったレオンが周りを見渡すも他の者も同じようで状況が理解できていないようだった。
「どんな願いでも1つだけ叶えよう。 死んだ人間の蘇生でも亡骸があれば蘇生できるし、そこで死んでいる者の魂を完全に消す事もできるが何を望む。 人間よ。」
そう聞いた全員は自分の為に使う事を一切考えず、たった一つの願いを思っていた。
メイヴィス・アスティノーラの蘇生。
「メイヴィスを生き返らせて欲しい。 これが私達の願いだ。」
「聞き受けた。 メイヴィス・アスティノーラの蘇生を今回の謝罪としよう。 亡骸はあるか?」
「こ、ここに!」
メイド長はカートに乗せた棺を玉座の間まで運んできた。
「しかと確認した。ではゆくぞ。」
メイヴィスの体に徐々に血色が戻っていき、断頭台で落とされた首も傷すら残さず、元に戻った。
「うっ…」
「メイヴィス!」
「「「メイヴィス嬢!」」」
「メイちゃん!」
メイヴィスはゆっくりと目を開く。
「あれ、どうして。 私、処刑されたんじゃ…」
「メイヴィス… メイヴィス…」
レオンは泣きながら自分の愛娘を抱きしめた。
「メイちゃん… 本当に…本当によかった。」
ニーナはメイヴィスに抱きつく。
ネロもゼルネ、ツヴァイク、メイド長も皆んな涙を流しながらメイヴィスが復活した事を喜んだ。
この日、メイヴィス・アスティノーラは蘇った。
国民や貴族から好かれ、王国を最も発展させた聖女と歴史に刻まれる様になった。
楽しんで頂けたら幸いです。
もう一方の小説も進めてストックが溜まり次第お届け出来たらと思います。