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愛された聖女  作者: キラ
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アスティノーラ公爵領は公爵領にしては王都からは遠かった。

理由は初代アスティノーラ公爵が自然を好み、王都から遠くの綺麗な湖の近くを気に入ったからである。

片道、馬で5日。

「メイヴィスが死んだ…… 何故だ!! す すまん。 気が動転して… して、メイヴィスが死んだとはどういう事だ。」

アスティノーラ公爵領 公爵の屋敷の書斎でメイド長からその報告を聞いた。レオン・アスティノーラは自分の愛娘が死んだと知り気が動転していた。

「はい。 ノエル国王陛下がメイヴィス様が罪を犯していた事が発覚した事を原因にメイヴィス様を処刑されました。」

「はぁ? それをネロは許可したのか?」

「いえ、ネロ・ベスティール前国王陛下は元王妃様、側室の皆様とアスティノーラ領北部の温泉地区に御隠居されておりメイヴィス様が処刑される事を知っておられないと思われます。」

「そうか。 下がってよいぞ。」

「ご主人様。 メイド長としてお願いがございます。 メイヴィス様が亡くなられ、屋敷の者皆悲しんでおります。 ですがご主人様まで居なくなられるという事は無いようにお願い致します。」

そういってメイド長は書斎から出て行った。

レオンは正妻が一人側室が一人と貴族にしては少なかった。

正妻と側室同士の仲もとても良く、メイヴィスは正妻が命を賭して産んだ子だった。

レオンはメイヴィスを甘やかして育てたかったがネロとの約束もあった為に心を鬼にして知識や技術を王妃になっても恥ずかしく無いようにと教え込んだ。

だが辛い時期でもメイヴィスはレオンや自分の兄のガルニ、側室のヨミ、屋敷の者の疲れが吹き飛ぶような笑顔や心配りで屋敷で過ごしていた。

「メイヴィスが… 死んだ… ううっ」

レオンはメイヴィスとの日々を思い出し涙を堪えきれず一人になった書斎で泣いていた。



「ネロ・ベスティール前国王陛下。 御隠居中に申し訳ございませんがメイヴィス・アスティノーラ様の処刑について領主様からお呼び出しが来ております。 同行して頂けますか?」

元王妃と側室の者と温泉に向かっていたネロは自分の目の前に現れた執事の様な男にそう言われ自分の耳を疑った。

「メイヴィス・アスティノーラ、わしの義娘の処刑と申したか?」

「はい。」

ネロはその執事の目元に泣いた後が付いている事を気づき、処刑が事実だと知り、親友のレオンの住む領に向かった。



アスティノーラ家の屋敷にネロが到着した。

「久しぶりだな。 レオ。」

「ああ、ネロ。 久しぶりだな。」

レオンとネロの二人は固く握手をした。

手が離れるとネロがレオンに向かって膝をつき、地面に頭をつけ謝った。

「すまなかった! 謝って済む事では無い事は重々承知だ。 メイヴィスを第二婦人にしていた事も処刑の事も知らなかった。 だが元国王として知らなかったでは許されない。 本当にすまない。」

ネロがレオンにむかって土下座をする。

「止めてくれ、ネロ。 私は一生お前達王族を許せない。 だがそれと同時にメイヴィスの処刑を防げなかった私自身も許せない。 私は一貴族以前にメイヴィスの父親だ。 ネロ。 私は国家反逆罪となろうともメイヴィスを処刑した者達を殺すぞ。」

レオンはそう言いながら書斎の壁に飾っていた愛剣を手に取り腰に差す。

「レオン。 許せないのは分かった。 だがわしを処刑するのは一番最後にしてくれ。 わしもメイヴィスの事は自分の娘だと思っていた。 それもあの愚息のノエル以上にな。 わしもレオンの国家反逆の手助けをさせてくれまいか?」

「いいのか? ノエルは殺すぞ、絶対にだ。」

「あぁ。」

レオンとネロは自分の腰に差していた剣を鞘から取り出し、刃と刃を打ち鳴らした。

「私は国家反逆ではなく、国家転覆を狙う。 犠牲が出るだろう。 領地にも迷惑がかかるだろう。 まずは領民に事情を打ち明け、此方の貴族にも秘密裏に連絡をしておかねばならん。 今より5日後に国家転覆作戦を開始する。 味方は分からん。 だがどのような人数でもノエルだけは殺してみせる。」



3日後

「良かったな。 レオン。 まさかこれ程の味方が集まるとは思っておらんかったぞ。」

「あぁ。 私もだノエル派の貴族以外は全て此方の味方となってくれた。 軍も準備出来ているとの事だ。 あと2日後に決行すると伝えている。」

「いよいよだな。」

「そうだ。 メイヴィスの亡骸も弔わなければならん。 まずはその前に領民に事情を打ち明けなければならんがな。」



アスティノーラ公爵家前広場

そこには領民の大半が集まっていた。

公爵家のテラスにレオンが現れる。

「領民の皆に聞いてもらいたいことがある。 8日前王都で我が娘メイヴィス・アスティノーラが処刑された。」

ざわざわと領民との間で声が上がる。

その声は驚きの声ではなく怒りの声ばかりであった。

「皆も知っている通り、このアスティノーラ公爵領はもともと栄えてはいたが今以上ではなかった。 今になった理由は紛れもなくメイヴィスのおかげだ。 そのメイヴィスを罪人として現在の国王、ノエル・ベスティールは処刑したのだ。 それも不確かな罪状ばかり並べてな。 私は貴族としてメイヴィスの父親としてノエル・ベスティールを許す事が出来ない。 私は今日より2日後の朝、私兵を連れて王都へ向かう。 皆にも迷惑をかける。 こんな領主である私を許してくれとは言わない。 だがメイヴィスの為にも私は行かねばならないと思っている。 こんな私の我儘を見過ごしてはくれないだろうか。」

レオンは頭を下げる。

領民から多くの少年少女が一歩前に出る。

「領主様。 僕達はメイヴィス様に救ってもらいました。 メイヴィス様は孤児院に食べ物や寄付金などだけではなく文字までも教えて下さりました。 僕達は何の力にもなれないかもしれません。 ですが領主様の軍に入れては貰えないでしょうか。」

少年少女達は全員でレオンに向かって頭を下げる。

「領主様! そいつらだけじゃねぇ! メイヴィス様にはこのアスティノーラ公爵領の皆恩がある。 俺は冒険者だ。 領主様の私兵程役には立つと思えねぇ! でも俺も手伝わせてはくれねぇか。」

領民達から自分も、と声が上がる。

「メイヴィスはここまで領民の皆からも愛されていたんだなぁ。」

レオンは未だ鳴り止まぬ領民達の声を聴き、メイヴィスがどれ程出来た娘だったかを痛感し、感動し、涙を流した。



2日後

「これより王都へ向かう。 争いになる。 だが! 誰も死ぬな。 これはメイヴィスの弔いでもある。 メイヴィスは人が死ぬ事を望まない。 ましてや領民のお前達が死ぬ事はよりメイヴィスを悲しませる。 だから死ぬな。 死ぬと思うなら全力で逃げろ。 最初にそう伝えておく。」

そう言うとレオンは自分の乗っている馬の腹を蹴る。



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