VS翼竜戦、ハズクの死
「全員!戦闘体制!」
ピクシスの言葉で一瞬固まったが、急いでみんなに声をかけて体制を整えさせる。
「うんうん、良いよ良いよ。君以外は全力でやらないと死ぬからね。さーて、いったい何人死ぬかな?ちなみに僕の予想は…………2人にしよう。君もせいぜい1人くらい守れるでしょ?」
ピクシスは俺にそう聞いて来る。
「いや無理だよ!俺、この中で一番弱いんだぞ!転移者は転生者と違ってチートスキルが無いって知らないのか⁉︎」
「え?マジ?……まぁ、がんば」
ピクシスは本当に俺だけを殺さないつもりなのだろうか?
「ピクシス、なんで俺は殺さないんだ?」
「え?だって君は転移者なんでしょ?だからだよ?」
意味がわからない。確かに珍しいからって死ぬ試練をだして、俺だけは死なせないなんて……狂ってる。
「トキヤ、さっきから意味のわからないこと言っているけど、それとあの文字が読めることが関係あるんでしょ?この試練が終わったら、話してちょうだい。その代わり、私も黙っていたわけじゃないけど……トキヤが知らない事を話すわ。約束よ」
ルナがそう言ってくる。
「分かった。だからまずはあの龍を倒す」
「話し合いは終わった?じゃあ行くよ。レディー、ファイト!」
ピクシスの一言で龍は迫ってくる。素早さとしては狼程度だ。それに龍と言っても、翼竜だ。
一応言っておこう。翼竜は龍の中でも最弱。一応ランクとしては……Bランクだ。死ぬよ!俺たち……俺以外絶対死ぬよ!絶対守るけど。
『風よ。矢に纏いて、敵を射て!《風付与》!』
『我が火よ。球となりて、敵を焼き尽くせ!《火球》!』
『水よ。球となりて、圧縮せよ。目の前の敵を貫き倒せ!《水球打》!』
チワは矢に《風付与》をして射つ。俺も同様に《火球》を放つ。そして、その間にルナが《水球打》の詠唱を終わらせ放つ、時間差攻撃だ。
だが《風付与》を付けた矢は、翼竜の硬い鱗に弾かれる。俺の《火球》はダメージが少しだけ入ったような感覚がするが、それでも1000発放ってやっと倒せるかって感じだ。効いているのはルナの《水球打》とハズクの体術だ。
「チワ!こいつに矢は通じない。短剣で直接、鱗の薄い場所を狙うんだ!」
「トキヤ様、少し試したいことがあるのでお時間ください」
俺はチワに近接戦を勧めるが、チワはそう言う。何か策があるのか?
「分かった。出来なかったらすぐに諦めろ」
「はいっ!」
チワはそう言って、再度《風付与》の詠唱に入る。
『風よ。矢に纏いて、敵を射て!《風付与》』
チワはそう言って矢を放つ。翼竜は先ほど効かなかった事で安心しているのか、見向きもしなかった。だが、《風付与》した矢が刺さり、翼竜は鳴き声をあげる。
「やった!成功ですっ!」
なぜ刺さったのか?チワは《風付与》の風の付与を変えたのだ。今まではただ風を付与して勢いが増していただけ。
だがチワはトキヤが居ない時にも、クエストや鍛錬などで自分を磨いていた。その成果がここで現れた。チワがした事で、先ほどとの違いは、風を付与する時に回転をかけた事だ。
回転の力は侮れない。事実、銃などの弾も回転する事で威力が上がっている。そうする事で、チワの矢が翼竜に対してダメージが通るようになった。
「トキヤ様、成功ですっ!」
「ナイスだチワ!どんどん攻めてくれ!」
「はいっ!」
俺は勝機が少しずつ見えてくるのでチワにそう指示をした。それに対しチワは嬉しそうに返事をした。
ハズクに向かって翼竜の顔が迫る。翼竜は大きな口を開き、鋭い牙でハズクを嚙み殺そうとする。それをハズクは避けて横から蹴りを入れる。
でかいと言ってもそれは翼を含めてだ。胴体部分だけなら半分も無い。それにいくら強くて怖かろうと、白殺虎には劣る。突然、翼竜が口を大きく広げて停止する。まずい!
「ブレスが来る!全員避けろ!」
俺がそう言うと同時に、翼竜の口に《水拘束》が付いた。《水拘束》を使ったのはルナだった。
「ルナ、ありがとう!」
「喋る暇あるなら攻撃して!」
はい、その通りです。翼竜はブレスを出すことが出来ず仕方なく尻尾で攻撃をしてくる。俺はそれをジャンプしてギリギリで躱す。危なっ!
そして突っ込む。俺は死ぬ危険性がないなら、一番危険な事をしてでも勝つ。先ほどから少しずつ斬ってはいるが、ほとんどかすり傷程度だ。もっと速く!重い一撃を!
そう考えて走り、お尻あたりで滑りながら翼竜の腹に潜り込み、剣を腹に刺して勢いで斬っていく。勢いが弱まると立ち上がり、前に飛ぶようにして腹全体を真っ二つに斬る。
血が少し掛かった。つまり鉄剣でも効いてるって事だ。チワの矢は青銅製だ。前までは石製だったので、これでも進歩している。矢は飛ばすから基本使い捨てだ。鉄製にしたら破産する。これはチワ自身から言われた事だ。
急いで翼竜から離れて再度攻撃を仕掛ける。今度は邪魔な尻尾を斬り落としてやろう。幸い翼竜はチワ、ルナ、ハズクが頑張って抑えてくれている。
「はぁっ!」
俺は尻尾に鉄剣を振り落とす。一度では落ちないのでもう一度。そう思った時に千切れかけの尻尾で攻撃された。
魔法を使うため盾は持っていなかった。いや、持っていても防げなかったが。だが、その衝撃で尻尾は千切れる。俺は吹っ飛ばされる。
「がはっ!」
「トキヤ様!」
「はぁ……はぁ……俺は気にせず戦え!」
「っ……はい!」
チワは俺が吹っ飛ばされた事で、集中を解いてしまい、こちらに駆け寄ろうとするが、俺の言葉で再び戻る。尻尾で攻撃された部分と、地面に着いた時の尻が痛い。
『命の源、水よ。俺を癒せ《水癒》』
痛みが無くなる。良し!それと同時に翼竜に向かって走る。考えろ!今、翼竜に届くまでに!……。
「チワ!ルナ!目を狙え!チワはもしもの時はルナのサポート!ハズクはチワとルナが作戦を成功させるまでサポートを!俺も入る!」
「「「はい(分かったわ)(了解)!」」」
ハズクと俺で左右に別れて攻撃をする。その間にチワとルナは目を狙う作戦だ。右と左2人の攻撃に対して先に対処をしようとするので、ルナとチワは狙われなかった。
「出来ました!」
「出来たわ!いけー!」
チワの少し遅れてルナも魔法詠唱が終わったらしい。それを聞き、俺とハズクは離脱する。そのすぐ後に、チワとルナの魔法が放たれる。
チワの矢は左目に、ルナの《水球打》は右目に直撃する。その結果、翼竜は両目を失った。それで翼竜の鳴き声が響く。
その後は、暴走して無作為にブレスを吐かれる可能性を考えて、俺とルナ、2人で《水拘束》を口にする事で、ブレスを封じる。翼竜は翼を使い上に飛び立とうとする。
「させません!」
チワが空かさず矢を、翼竜の翼めがけて放つ。バランスを崩し少し高度が下がった所で、ハズクが壁を使い翼竜に向かって飛ぶ。そのまま、翼竜の背中に向かって両足を使って爪で引っ掻く。肉がえぐれる音がする。翼竜の鳴き声が上がる。
そのまま、翼竜は落ちてくる。と言っても大して高くまでは上がっていなかったのですぐだ。その後みんなで攻撃をして傷つきながらも翼竜を倒した。
「お、終わりました〜」
「つ、疲れました。ご主人様」
ハズクはそう言って地面?に寝そべる。チワも壁にもたれ掛かる。地面?は冷たくて気持ち良さそうだが、ちょっと遠慮したいな。まぁ、一番動いていたのは間違いなくハズクだしな。
「もう、魔力が少ないからあまり使えないわ。かすり傷とかならトキヤに治してもらって。どこか怪我した人はいない?」
ルナも消耗していた。魔法は唱えて撃つだけに見えるが、体力も心も消耗する。見た目に現れにくいのが欠点だな。
「うんうん!とっても良かったよ。みんなで連携して頑張って倒すなんて……君も本当に強くはなかったけど、決して弱くもなかったよ?」
ピクシスは今までどこにいたんだ?
「お褒めに預かり光栄だ。……で、試練は終わった。さっさと帰らせて欲しいんだが?」
俺はそう言うと、ピクシスは意味がわからないって顔をしてこう言う。
「ん?何を言っているのかな?僕は一言も翼竜が試練の相手とは言ってないよ?あれは竜であって龍じゃない。所詮前座さ。次が本番だよ?もしかしてあの程度で試練だと思っていたの?君、滑稽で面白いね。ん?君のその表情……なに?僕に文句でもあるの?今すぐ君以外の全員を消し去ってやろうか?この場所では僕がルールだ。でも、試練だからね。帰らせるのは当然だけど……そうだな。1つ僕にできる事なら何でも願いを叶えてあげるよ。これでどう?まぁ、選択肢は『はい』しかないんだけど。それじゃあ……魔黒龍にするよ。ホイッと……」
ピクシスの一言で、ワイバーンの3倍程度の大きさの黒いドラゴンが現れた。この威圧感……白殺虎に同等だ。震えが……止まらない。
「じょ、冗談でしょ?私たちもうクタクタなのに……魔黒龍って言ったら……『空飛ぶ悪魔』の異名をもつ、獣魔皇の一角じゃない!」
なに?龍って獣に入るのか?じゃなくて……獣魔皇を一瞬で作った?いや、呼び出した、召喚したの方が正しいのかもしれない。
「君が言ってたランク?だっけ?あれに当てはめたなら……SSSランクかな?じゃあ……がんば」
そう言うと魔黒龍は襲いかかってくる。ピクシスの合図で動き出したことから、制御されているのは確かだ。そして襲いかかってくると言ったが、厳密には襲いかかり終わっていた。
俺が気付いた時には、ルナとハズクがふっ飛んでいた。ハズクはルナを庇ったのか、覆いかぶさっている。チワは動いていない。恐怖で固まっている。
俺はチワを揺らして正気に戻し、走って2人の元へと駆け寄る。ルナは頭から血を流し、気を失っていたが、命はまだあった。だが、ハズクは……体が半分になっていた。
「ご主、人、様……ハズクは、ちゃんと、約束を……守りまし、た」
ハズクはそう言って動こうとするが、俺がそれを押さえる。ハズクは有言実行したのだ。ルナを命に代えても守ったのだ。俺は涙がダラダラ出てきた。
「ハズクさん!もう喋らないでください!」
チワはそう忠告するが、ハズクは言うことを聞かず
「最後に……1つだけ……ご主人様、出会った時、から……好き、でした。どうか、ハズクのぶん、まで、生きて、ください。それとチワさん、ルナさん……ニーナさん……幸せに、して、ください。あと、ハズクの、最後のお願い……聞いてくれますか?」
「きぐ!なんだ!」
変な声になってしまった。酷い顔だろうな。今のハズクには見せたくなかった。
「キス……してください。今度は……ご主人様、から」
俺は、ハズクは初め、自分から俺の頬にしたことを思い出す。そして俺はなにも言わずハズクと口づけをする。初めてのキスは、暖かくて冷たい血と死の味だった。
「大好き……です」
ハズクはその言葉を最後に眠った。永遠に。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺はそう叫びながら、ひたすら1つのことだけを考えていた。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す、と。
その時だ。頭に突然あの声が流れる。
【スキル『狂化』が強制解放されました。強制発動します】
その声を最後に俺の意識は暗い底へと沈んでいった。いや、確かその後に『トキヤ様!』とチワの声で聞こえた気がした。
「すごいよ。やっぱり君は4人目の……ふふっ、早く伝えなきゃ!この結果を。ユウ君の見立ては間違ってなかったって!」
ピクシスがそう呟いたのを、チワは確かに聞いていた。
面白かったら感想、誤字脱字報告、ブクマ、ptお願いします。
あと、私のもう1つの連載作品の
『普通を求めて転生したら勇者の息子だった件』
も、是非読んで見てください。




