バルトローンダンジョン担当妖精ピクシス
ハズクが食べ終わったので、片付けをする。その間も見張りは形のみ継続している。その後、中層で灰色狼を探すが、見つからない。
「トキヤ様、今変な音がしたんですけど」
「え?まじで?どこからどんな音だ?」
聞こえなかったぞ?『超聴覚』めちゃくちゃ有能。
「あっちです。扉が開く音みたいな感じでした」
「チワさんのスキル良いわね。私もスキル欲しいな」
ルナはそんな事を呟いていた。ルナはスキルを持っていないのか。『天は二物を与えず』……ルナってそう言えば、魔道具作る才能持ってたわ。
しばらくすると、不自然な横穴があった。俺は好奇心から進む事にした。目的の灰色狼では無いのにだ。チワは一度足音などを聞いているので、灰色狼とは高確率で違うと言っていた。こんな選択をしたのは初めてのダンジョンで浮かれていたからだろう。
ピカッ!
少し進むと何かが光っている。洞窟の中なので、少し眩しいな。
「何あれ?」
「とても……綺麗です」
ルナとハズクがそう呟く。俺たちは辺りを警戒しながら、それを近づいてよく見る。
「これは文字ですね。バロン語では無いですし、何語なんでしょう?」
「チワさん、私にもよく見して。……古代語では無いわね。それに見たことないわ。何かの暗号かしら?」
「暗号ならハズクが……分かりません。ですが、おそらく暗号では無く、なんらかの文字かと」
チワが初めにバロン語と言った。何それ?次にルナが見るが、分からないらしい。じゃあ終わったな。最後にルナの言葉を聞いたハズクが挑戦するが、ダメらしい。
「て言うか、俺にも見してくれよ」
「どうぞ、ご主人様」
まぁ、どうせ無理だろうけど。そう思いながらも見て見る。そこには日本語がこう書かれていた。
『日本で一番有名な女性アイドルグループの人数を答えよ』
と。え?冗談だろ?なんで3人とも読めないんだ?
「チワ、ルナ、ハズク、お前らから読めないのか?」
「え!トキヤ読めるの⁉︎なんて!なんて書いてあるの!早く教えなさいよ!」
ルナは自分が読めないものを俺が読めたのが悔しいのか、ブンブン揺さぶってくる。俺が書いてあることを言う。すると
「にほん?あいどる?何それ?トキヤは知ってる?」
「まぁ、一応な。それよりも、なんで読めないんだ?」
みんな普通に日本語を話しているのに。そう言えば、チワがバロン語って言っていたが。
「トキヤがおかしいのよ!」
ルナはそう怒鳴る。
「そうなのか?一応聞くけどさ、みんな何語喋ってる?バロン語?」
「当たり前じゃない。トキヤだって今も喋っているんだし」
ルナは嘘をついていないようだ。と言うことは……俺に対しては、勝手に翻訳機能が備わっているのか?
「それで一体答えは何か、トキヤ様は分かりますか?」
「おう、多分だけど」
チワはあまり興味が無いのか、そう聞いてきた。『日本一有名な女性アイドルグループ』ね。A◯Bだよな?あまり知らないが、アイドル総選挙とかあるくらいだし。
「答えは48人だ」
俺がそう言うと、今まで以上に文字が光る。
「なんだ?……うぉっ!」
「「きゃっ!」」
俺がそう呟くと同時に、急に浮遊感が襲う。いや、いつの間にか足場が無くなり、縦穴となっている。俺は、俺たちは落ちていると認識した。チワとルナは悲鳴をあげている。
「うわぁぁぁぁっ!」
「「きゃーーーーー!」」
俺とチワ、ルナは叫びながら落ちる。ハズクは慣れているのか、声は上げていない。
ってそんな事よりもこれ、墜落死するんじゃね?やばい!やばい!さっきのもしかして失敗か?あれ絶対好みの差含まれてるって!もも◯ロとか言う人もファンならいそうだし!
下は真っ暗で何も見えない。下はなんかの棘とか敷き詰めてあるのか?
うっすらと地面が見えた。見た所、棘とかは見当たらない。俺は咄嗟に目を瞑る。ハズク以外は同様になっただろう。
ボヨン!
下にはクッションみたいなのが敷き詰められていた。お陰で助かった。
「いってー、みんな無事か?」
「はい、怪我ひとつありません」
「私も」
「ご主人様こそ大丈夫ですか?」
全員が無傷だった。これは……当たりだったのか?とりあえず前には進む道がある。一本道だ。
「トキヤ様……」
「行くしか……なさそうだな。チワ、索敵頼む。絶対に逃すなよ?」
「はいっ」
周りはダンジョン同様に明るいので、明かりは必要がない。だが、中層から落ちたと言うことは、下層、もしくは最下層の可能性が高い。
「トキヤ、ここからは魔法も使って。じゃないとトキヤ一人じゃ確実に負けるわ。私も2匹以上くると危ないし」
その通りだ。ルナも純粋な後衛職だし、その意見は正しい。
「ハズク、早速だがさっきのルナの命令は絶対に守れよ。それがお前の罰だ」
「了解です。ご主人様」
ハズクは俺の言うことを素直に聞いて、ルナの近くにいる。
「さて、上は上がる階段を見つけることが最優先だ。チワ、索敵は基本的に戦わない。なるべく避けながらだ」
「はいっ」
灰色狼みたいに群れで来られると、最悪全滅の可能性もある。戦うのは1匹だけだ。
そう決意をし前に進む。幸か不幸か一本道が続く。依然魔物の気配はないらしい。この場合、迷うことはないが、必ず魔物と戦うことになる。どちらが良いのだろうか?
「トキヤ様、少し行くと場所が変わります」
「チワさんの言うとおりです、ご主人様。風の流れが少し変わりました。おそらく広い場所に出るかと」
チワは音の反響の違いを、ハズクは空気の流れ?を読んでそう伝えてくる。ハズクさん、あんたなんでもできるな。俺の存在価値がもうほとんど無いぞ。俺の存在価値ってもう、ギルマスと喋れるだけなんじゃ無いだろうか?
そう考えながら広い場所に出た。高さは100メートルほど、横も同じぐらいの幅だ。しかも物体としてみたら、角が不自然に綺麗な直角。ここだけみても人工物みたいだ。
ダンジョン同様に明るい。だが、中層のようなクリスタルではなく、壁に模様があり、それが青白く光っている。この仕組みが人工物であることを物語っている。
「なんだここ?バルトロールダンジョンはこんなところがあるって聞いてないけど……3人は知らないか?」
「私たちが読めない文字の正解を、何故かトキヤが解いたのよ。知るわけ無いし、多分私たちが始めてよ。つまり、ここから脱出できる保証はないわ。さらに言えば動物も居ないから、水も食料もいずれ尽きるわ。急いで上に上がる方法を見つけないと……ほとんど詰みの状態よ」
ルナの言葉は俺たちの心にとても重くのしかかる。
「そうか、なら急いで探さないとな。もしかしたら魔物がいるかもしれないから、二人一組で行動するように。俺とチワ、ルナとハズクのペアだ」
「「「はいっ(分かったわ)(了解です)」」」
そう3人が返事した瞬間、この空間の中心の地面からとても綺麗な宝玉みたいなものが出現した。宝玉は白く発光する。そしてーー
「ふぁ〜あ、久しぶりだね〜……あれ?君だれ?」
「それこっちのセリフ!」
なんか小さい……妖精みたいなのが現れた。その妖精の周りがピカピカ光っている。
「あ、そうだよね〜、ごめんごめん。僕はバルトロールダンジョン担当、妖精のピクシス」
「よよ!妖精って本当!」
ピクシスの言葉にルナが驚く。なんか珍しいのか?チワとルナも驚いている。あれ?これっておかしいのが常識?
「当たり前じゃん」
「なぁ、妖精って何?」
ピクシスがそう言う中、俺はそうルナに尋ねる。
「トキヤ、知らないの!……はぁ、妖精って言うのはね。昔、勇者様がパートナーにしていたの。不思議な力を使うって言われているんだけど……そこらへんは昔だから曖昧なのよね」
へぇ、勇者ここでも出てきた。後、ルナにため息を疲れた。俺が無知なのはもう既に諦められている。
「じゃあ、ピクシスって呼んで良いかな?」
「どうぞどうぞ」
ピクシスはそんなことはどうでも良いかのように言う。
「ピクシス、君が勇者のパートナーだったの?」
「違う違う、えっと……僕はそのパートナーの配下の一人だよ」
俺の問いかけにピクシスはそう答える。
「じゃあ次なんだけど、バルトロールダンジョン担当ってことは、他のダンジョンにも似たような妖精がいるってこと?」
「う〜ん、分かんない。それよりも、僕は君の方に興味があるよ。どうやってここまで来たの?」
分かんないって……。そしてピクシスに逆に質問をされた。
「そうだ。地上へ帰る方法を知らないか?俺たちは中層の横穴で、文字を見つけて答えたらここに落とされたんだ」
俺は自分の質問とピクシスへの答えを同時に答える。
「ふーん、つまり君はあの文字が読めたんだね?」
「まぁ、その通りだな」
なんだ?ピクシスの様子が変だ。
「つまり君はどっちなんだい?まぁ、高確率で転移者だと思うけど」
「てんいしゃ?何それ?トキヤ、てんいしゃって何?」
ピクシスの言葉に俺は少しの間、頭が固まる。ルナとハズクは聞いたことがないのか俺に質問してくる。一方、チワは知っているのか黙っている。何も喋らないのが正解だ。俺はピクシスに近づき、耳元に小声で
「ピクシス、その事は言いたくないから話してないんだ。悪いけど黙っていてくれないか?」
と言った。
「オッケー。そうそう、つまり君は転移者なんだね?だから、ここまで来れたんだ。君にはここにくる資格があったんだ」
資格?……転移者と転生者か。ピクシスがどっちと聞いていたからな。つまり、ハヤトも資格があるのか。
「それじゃあ、試練を始めようか」
「え?」
唐突にピクシスがそんなことを言い出した。試練って何するんだ?
「ちょっと待ってください。私たちは地上に帰らないといけないのです。悪いですけど、試練を受けている時間なんてーー」
「うるさいな。ここに来た以上、試練は受ける決まりなんだ。ガタガタ抜かすなら今すぐ殺すぞ?」
ハズクの言い分に、ピクシスは雰囲気を変えてそう言う。その言葉に、俺を含めたみんなは試練を受けるしかないと悟る。
「ピクシス、試練は受けよう。でも、その代わりと言ってはなんだけど、地上へ戻してくれないか?それか、帰る道を教えてほしいんだ」
「良いよ。ご褒美に地上へ転移させてあげる」
「約束だぞ?」
「うんっ」
俺の提案をピクシスは飲む。それよりも、転移か。俺を転移させたのは、妖精のうちの誰かのいたずらなのかも知れない。
「それじゃあ、試練の内容を説明するね。僕のペットの龍を倒す。以上」
ピクシスの説明は簡単だった。口で説明するならだが。
「分かった。肝心の龍はどこにいるんだ?」
「今から作る。ホイッと」
そうピクシスが言うと、宝玉の代わりに、目の前に龍が現れた。全長10メートルの、白殺虎と同じ程度の大きさのがだ。なるほど、このための広さか。
「あ、ちなみに君以外は死ぬ可能性があるからね?」
ピクシスの最後の一言に、みんなは再度固まった。
面白かったら感想、誤字脱字報告、ブクマ、ptお願いします。
あと、私のもう1つの連載作品の
『普通を求めて転生したら勇者の息子だった件』
も、是非読んで見てください。




