アランの心情〜チーズ乗せ黒パン、野菜と干し肉のスープ、焼き魚の塩焼き〜
50部の魔物の名前を変更しました。
俺はヘプトさんに試合で勝った。それは喜ぶべきだろう。でも、素直には喜べない。
まず途中での装備変更、それに俺に対するアドバイス、あとヘプトさんは魔法を使っていない。つまり、最後まで手加減をされた。最後に『怪我を負わせたら、反則負け』を使った、ルール上だけの勝利。
周りはそれを加味しても、勝利したことを褒めてくれたけど、やっぱり……これはあれだな。『試合に勝って、勝負に負けた』ってやつだな。
俺は試合を終えた後。魔法を使ったので、体が少しだるく感じたので少し休んだ。その後、王都を出発した。
出発したのは俺、ニーナちゃん、ガルーダさん、ヘプトさん、アランさんだ。
「それにしてもトキヤよ。昨日見たときから思っとったが、お前のハクニーは良いハクニーだな。もちろん俺のハクニーも負けておらんが」
ガルーダさんが、ハクニーに乗って走っている最中に、俺とは違うハクニーに乗って近づいてそう言った。
ガルーダさんのハクニーは、ハクちゃんの白色とは違う茶色だ。ちなみにこの世界に馬は居なかった。その代わりにハクニーがいる。
「はい、俺もそう思います。名前はハクちゃんて言います。すごく懐いてくれてるんですよ」
「確かにその通りだな。お前にすごく懐いている事が、要所要所で分かる」
俺がガルーダさんの意見に肯定すると、ガルーダさんは肯定してくれた。
「え?……どこからそんな事が?」
懐いてくれていると分かる部分を、ガルーダさんに尋ねる。
「どこがって……会った時の2人の距離感。トキヤと出会ったばかりのそっちの子の、ハクニーに乗る時の抵抗の無さ。ハクニーが、自分の主人の命令とは言え、その子を乗せるってことは、トキヤ自身が信頼されているってことだろ?あと、走り方が乗っている人に、あまり揺れが起きないように走っている……ぐらいか?」
「あ、あぁ……ありがとうございます」
ガルーダさんの説明を受けてショックだった。俺の方が付き合いが長いのに、俺が気づかず、出会ったばかりのガルーダさんが気づいたことにだ。
確かに俺に、ハクニーの知識は無い。自分からじゃ見えないところも、他の人の視点から見たら分かることもある。それでもだ。
ガルーダさんは離れていった。そしてヘプトさんの隣に行き、何かを話しているが、遠くて聞こえない。
「ハクちゃん、いつもありがとうな。あと、乗っている時、しゃべっていても舌噛まないのは、ハクちゃんのおかげか」
「ハクちゃん、ありがとね〜」
俺がハクちゃんにお礼を言い、ニーナちゃんもそれにつられて、お礼を言う。かわいい。
「おい、お前」
お前呼ばわり⁉︎後ろから声をかけられたので振り返ると、アランだった。アランも同様に寄せてくる。
「どうしました?アランさん」
俺が近づいてきた理由を尋ねる。一応さん付けして呼ぶ。
「……副隊長殿に勝ったからといって、あまり調子にのるなよ。お前よりも俺の方が強いんだからな?」
テングだな。ヘプトさんが言っている通りだ。
「確かに俺は弱いよ。それは恥ずかしいけど自負してる。あと、俺の名前はトキヤだ。名前で呼んでくださいよ、アランさん」
俺はアランの意見を認めた上で、自分の要求を出す。そうすれば一方的に言うよりも効果があると思ったからだ。
「……分かったトキヤ。その代わり、俺の事はアランと呼べ」
などと言った。自分だけさん付けや様付けは無かったか。
「分かったよ。アラン」
「ふっ、分かればいい」
俺がそう返すと、アランもそう返した。上から目線だけど、ちゃんと言うことも聞いてくれているし、悪い奴じゃ無いって言ってたヘプトさんの言葉も信用できるな。でも、テングになるのは良く無いよ。
そうトキヤが思っていた。その時アランは
(あいつ……トキヤは、副隊長殿に勝ったことを喜んでいないのか?しかも、自分から弱いと認めて……へんな奴だ。……俺はあんな奴、認めんけどな)
などと考えていた。アランは内心戸惑っていたのだ。自分よりも上だと思っていた副隊長殿が、出会ったばかりのEランク冒険者に負けた事に。
アランは、トキヤが自分よりも上だと言ったように感じた。だから、釘を刺しておこうと近づいた。そしたら、自分は弱いと言いやがる。『お前は弱い俺以下だ』と、アランからしたら、そう感じるような言い方をさせたアラン。
だが、アランはそんなことよりも、自分から弱いと言うトキヤの異質さを感じたのだ。アランからしたら、他よりも優れている事は誇るべき事なのに。
例えトキヤが、魔法を使っていなかったヘプトさんに勝ったとしても、勝ちは勝ちだ。なのに、それを自慢をカケラもしないトキヤに対して、アランは異質さを感じたのだ。
だが、アランがそんなことを考えいる事など、全く考えていないトキヤは平然としている。
トキヤの内心は、あんな実戦とは程遠い勝ちなんて、勝ちとは思っていないのだ。むしろ手加減された事に落ち込んでさえいる。
だが、トキヤはそんな気配を微塵も出さない。ニーナちゃんがいる事が大きいだろう。今から自分の育った、壊滅した村を見るニーナちゃんの方が辛いのに、自分は曲がりなりにも勝ったのに、落ち込んでなんていられない、と考えていたからだ。
そんな事情を考えていないアランは、トキヤに対しての、異質さがより増していた。
時々、色々な動物が出てきた。危険ならば、ガルーダさんらが追い払ってくれた。ニーナちゃんは、村長の娘と言うこともあって、ほとんど村から出た事がなかったのか、それらを見るたびに喜んでいる。まるで前のチワみたいだ。
そして、日が暮れてきたので、今日は川が近くにあることもあり、ここら辺で今日は一夜を過ごすこととなった。
俺は夏で暖かいとはいえ、最近は秋が近づいてきたのか、夜になると、少し寒く感じた。チワとハズクは毛があるから、まだ大丈夫だ。
だからスープを作るため、あたりの小枝を拾い、火を付ける。チワに教えてもらったからな。ちなみにニーナちゃんもできなかったため、もしものために教えておいた。
スープは色差しの骨から出汁を取り、様々な野菜を入れる。あと干し肉も。
「ニーナちゃん、スープに浮いている灰汁を取ってくれないかな?」
俺はニーナちゃんにメッシュタイプ(網状)のおたまみたいなものを渡す。
「う、うん!頑張る」
ニーナちゃんは料理もした事がなかったのだろう。初めてで緊張はしているが、頑張ろうと言う意思が熱意が伝わってくる。
俺はその間に川に行き、魚を捕るために水拘束を使う。うまく一匹捕まえた。
「よしっ」
捕まえたのは初めてだ。いつもはチワが取ってきたからな。口でではないが。
「トキヤさん、魚は捕れましたか?」
後ろを振り返ると、ヘプトさんだった。
「はい、ヘプトさんも魚ですか?」
「それもいいですね。ですが、あいにく私も含めて、料理できるものが誰もいないので、諦めています。携行食は持ってきていますので、大丈夫です」
そう言って、ヘプトさんは肩をすくめる。
「ヘプトさん。俺、塩はあるので、魚を捕って塩焼きにでもしたらどうですか?」
俺がそう提案する。
「あっ!それも良いですね!では……はっ!」
ヘプトさんはそう言って、模擬戦では使わなかった剣を抜き、声を出して川に剣を刺して、引き抜く。
ピチピチ!
そこには二匹の魚が剣に刺さっていた。
「すげ〜!」
「いえいえ」
その後もヘプトさんは何匹か捕る。そして俺はヘプトさんと共に、魚を持って元の場所に戻る。
ガルーダさんとアランは先に携行食を食べていた。ガルーダさんはヘプトさんの剣に刺さっている魚を見て
「ヘプト、俺たちの中で料理できるやつなんて……アラン、お前もしかして料理できたのか⁉︎」
と言った。
「出来るわけがないだろう。強さに関係が無いことを覚える時間などあれば、剣を振るだけだ」
アランは携行食を口に放り込み、そう言い返した。
「焼き魚の塩焼き程度なら誰でもできますよ?調味料も基本的なものは持ち歩いているので、塩ももちろんありますし」
「なに!トキヤ、今すぐ作ってくれ!携行食だけじゃ物足りんのだ!」
俺がそう言うと、ガルーダさんがすごい勢いで立ち上がって、肩に手を置いてそう言った。
「は、はい」
俺はその勢いに飲まれて、そう言うしかなかった。
元々そう言うつもりだったけど。
俺はヘプトさんから魚を受け取り、ニーナちゃんの元へと戻る。出来るだけ急いだつもりだった。
「あ、トキヤお兄ちゃんおかえり。……それってお魚さん?」
ニーナちゃんは俺の手に持っている魚に興味津々だった。それにしても、鍋を見るがほとんどスープが減っていないのに、灰汁がたくさん取れている。ニーナちゃんには料理の才能あるかもな。……俺も親バカか?……親じゃないけど。
「魚の塩焼きをするんだよ。ニーナちゃんも食べる?」
「食べるーー!」
俺が聞くと、ニーナちゃんは大きい声でそう言った。
「そうかそうか。ちょっと待っててね」
俺はそう言って、大きい皿に川の水を入れて、そこに塩をいれて、塩水を作る(この世界の水は綺麗で、普通に飲める)。
その塩水に急いで内臓を取り、綺麗に水洗いをした魚を入れる。塩水に漬けることで魚の臭いを抑え、身が引き締まり、旨味が上がる。
そして15分ほど漬けて、水気を取り串で刺して、スープの入った鍋の火の、周りの刺して並べて焼く。
その間にスープも出来上がる。2つ皿を用意して盛りつける。そして魚も焼き上がる。後は、黒パンにチーズを乗せる。
チーズ乗せ黒パン、魚の塩焼き、野菜と干し肉のスープの3品で、今日の晩ご飯の完成だ。
「ふわぁぁ〜〜、いい匂い〜。頂きます」
ニーナちゃんは焼き魚を手に取り、そう言いながら魚を頬張る。そして魚の汁が飛び出す(肉汁みたいなもの)。
「あふっ、でも美味ひい」
ニーナちゃんはそう言って、魚をすぐに食べ終わってしまった。
「ほう、いい匂いだなトキヤ」
「そうですね。こんな風に料理できる人が、うちにも1人欲しいです」
「……確かに、悪くは無い」
3人が近づいてきて、それぞれ感想を言う。チーズ乗せパンは、俺たちの分しか無いが、魚の塩焼きは人数分あるし、スープも2人じゃ余るぐらいあるから、ニーナちゃんが一番最初に飲み、パンを食べて、ごちそうさまをする。
その後はみんなで、俺が追加の皿を出してみんなで飲む。魚の塩焼きもみんなが頬張る。
「ヘプト!これすごく美味しいぞ!トキヤ、お前にこんな才能があったとはな」
「そうですね。店で出てきてもおかしくは無いかと。体が温まりますし、ちゃんと3品が、『こんな場所で作ったのか』ってぐらいバランスよく作られていますし、そこのあたりも考えてありますね。さすがですねトキヤさん」
ガルーダさんとヘプトさんはそう言って褒めてくれる。
「これは……うまい!」
アランもそう言ってくれた。黙々とスープを飲み、魚を食べている。時々熱いのかごくごく水を飲んでいるのが面白かった。
「食事は大事ですよ。栄養を摂るための他にも、いろいろありますが、どうせ食べるなら美味しい方がいいじゃありませんか。そうすれば、みんなの楽しみが出来ますし、全体の士気も上がるんじゃありませんか?」
「そうだな。……うちにも料理が出来るように習わせる一定の兵士を作るべきか?」
俺がそう言うと、ガルーダさんはそう呟いていた。
そしてみんなで食べ終わる。ニーナちゃんは川の水を汲み、俺が火属性魔法で温めてお湯にする。これが初めはできなくて苦労した。宿では火事になる可能性があるので、やっていない。ニーナちゃんと俺はお湯で体を拭く。
3人は元々慣れていたのか、そのまま寝ようとしていたが、それを見て3人とも同じように体を拭いた。俺たちは寝袋を用意して寝ようとする。しばらくして、ニーナちゃんとアランは既に寝てしまった。さてと……。
「ガルーダさん、ヘプトさんのお二人にご相談があります」
まだ起きていたガルーダさんとヘプトさんと俺。3人の話し合いが始まった。
面白かったら誤字脱字報告、ブクマ、ptお願いします。
あと、私のもう1つの連載作品の
『普通を求めて転生したら勇者の息子だった件』
も、是非読んで見てください。




