異世界人との遭遇
一体どんな人なんですかね。
30分ぐらい歩いたと思う。その間、景色は変わらず辺り一面が草原。
歩いている道の途中から、日本ではテレビとかでしか見ない、透き通るような綺麗な水が流れていたので、両手ですくって口へと流し込み、喉を潤していた。
「……暑いな。この世界の今の季節は夏か? はぁ、ついてない。あっちじゃ冬だからな。気温差で身体がついていかない。今着ているパジャマも長袖だし……」
と、愚痴っていた。それに夏と考えたのは暑いだけではなく、太陽の南中高度も確認したからだ。
その結果、この辺りは大体日本と同じくらいの場所だということも分かった。
「……そう言えばお腹も減ったな。果物とか木に成ってないかな?」
そう言って俺は街の近くに生えている木の下に行き、木を見上げて探してみる。
まぁ、もし果物が成っていても、毒とかあるかもしれない。食べるのは限界が来た時だ。
太陽がまだ上まで上がり行ってないところを見ると、今はまだ朝らしい。
「それにしても、1つも村がねぇなんて……過疎化かな?」
30分歩いただけでそんな言葉が出た理由は、廃村を2つ見つけたからだ。一応家の中を探索し、ボロボロになった靴だけ頂いておいた。ぐっ、心が痛む。
30分で二つの村を見つけるってことは、村同士の感覚が近いのかもしれない。それなら、残っている村もあるかも、と歩きながら探してみたはいいものの、人が住む村は未だ見つかっていない。
俺は腰を浮かして再び歩き出した。その5分後、さきほど俺の目の前を通ったのと同じ種類の動物? と、三十代後半ぐらいの歳をとった、坊主頭のおっちゃんを見つけた。
その人は、俺を怪しむような目つきでこちらを見てきたかと思った途端……。
「¥$→〒×<→」
と言った。……なんて? いや分からないよ。
ズキッ!
俺がそんなことを考えた次の瞬間、初めて経験する頭痛を発症した。
……風邪をひいたときのような感じか? と俺が考えていると……。
「おい坊主、お前さんどっから来たんだ? そんな変な格好して」
とおっちゃんが俺に向けてそう言っているのが聞こえた。「いやあんただろ坊主は!」と、心の中でノリツッコミをした。
それよりも……よしっ! とりあえず言葉はわかる 。
さきほどの頭痛……。あれはこの世界に慣れていなかった俺の頭に、この世界の言葉を無理やり詰め込んだからとかかな?
それよりも、質問されたのに黙っているのもあれなので、俺は日本語で話しかけてみる。
「……すみません。俺、実は記憶喪失なんです。とりあえず……ここってどこかわかります?」
と、内心めちゃくちゃ緊張しながらだが、俺はおっちゃんにそう尋ねて見た。
「記憶喪失? ……そうか。ならその格好も頷ける。見た所何も持ってねーし。……とりあえず、すること無いならこっちを手伝ってくれ。後で金はやるし、色々説明もしてやる」
おっちゃんには少しの間があったが、そう答えられた。ここで日本語が通じることも確認できた。
それにお金もらえるのか。ありがたい。今の俺は右も左も分からない無一文。
おっちゃんのご好意に、ありがたくお手伝いさせて頂こう。
「わかりました。俺は何をすればいいですか? 言っておきますけど、力の無さに関しては自信がありますよ?」
正確には、約半年前まで部活で剣道をしていたので多少は自信があるが、ここの基準がわからないため、一応保険でそう言っておこう。
「俺の仕事はここらになっている果実 『パパパの実』の収穫だ。こいつは食べてもいいし、ちょっとした治癒効果もある。あれがそうさ」
と指をさして、木になっている『パパパの実』を見た。それは、さっき食べるかどうか検討していた実だった。
「ヘェ〜、あれって、『パパパの実』と言うんですか。……すごく言いにくいですね」
俺がそんな反応を示すと、おっちゃんはしゅんと反省したような顔つきになった。
「……悪りぃ、本当に記憶喪失なのかどうかを試したんだ。あれは本当は『パラパの実』って言うんだ。すまねぇな」
おっちゃんはそう言って頭を下げて謝ってきた。さっきの顔つきはそれが理由か。
「えっ! 別にいいですよ。記憶喪失なんて急に信じれるわけないですから」
そうか……俺は試されていたのか。まぁ、しょうがないか。
知らない奴にいきなり「自分、記憶喪失なんです」なんて言われても、それを素直に信じるなんて馬鹿みたいだしな。
「わかりました。パラパの実を収穫すればいいんですね。わかりました」
俺はそう答えて、おっちゃんと共に一時間ほど時間を掛けて、この辺りの木に成るパラパの実を収穫した。
「あんがとよ坊主。ほら、これが報酬の金だ」
と、布袋に入った銅貨を三枚枚渡されたのだった。これが初めて働いて手に入れたお金だった。
そう考えると心が熱くなっていた。
普通のおっちゃんでしたね。
ちなみに銅貨は百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚です。