俺の罪
その夜も俺は夢を見た。
元の世界の家族と楽しく過ごす夢だ。
ここ一ヶ月はこれしか見ない、幸せな時間の夢。
だが、それも最初だけだ。
途中から俺が殺した男やダイガスが出てくる。
登場の仕方はいつも変わるが決まって俺の家族を奴隷にして死体で帰ってくる。
岩で潰れたダイガスとかと同じ状態で。
「はっ……はっ……はっ……またこの夢か」
いつもこうなる。
これのおかげで寝不足だ。
「うにゃ〜〜?トキヤしゃま〜〜?」
おっと、どうやらチワを起こしてしまったらしい。
「あぁごめんチワ。起こしちまったな」
「どうかしました?」
チワが聞いてくるが
「なんでもないよ。おやすみチワ」
と言いチワの頭を撫でて再び眠る。
寝不足のせいで眠るのはすぐだ。
そしてまた同じ夢を見た。
「……様!…ヤ様!トキヤ様!!!!!」
チワに起こされた。
「一体どうしたんですか?ずっとうなされていましたし、私にできることならなんでもしますよ」
チワが聞いてくる。
「だ、大丈夫だよチワ」
俺は嘘をついた。
「でも私は!と、トキヤ様がこんなになっているのに耐えられません!話してください。どうしてこうなっているのか。奴隷の立場でこんなことを言うなんておかしいし、処分していただいても構いません。それでトキヤ様が安心できるのなら。ですからお願いします!話してください」
「何で?……チワ。どうして……そこまで……?」
「トキヤ様は私を助けてくださいました。理由はそれだけです。亜人奴隷の私に服や食事、装備をくださり、私の境遇を知り怒ってくださった。前の人とは全然違いました。ですから今度は私がトキヤ様を助ける番です」
知らなかった。
自分をこんな風に思ってくれていたなんて。
「チワ。俺は……人殺しなんだ」
チワの顔がわずかに強張る。当然だ。
俺を信頼していたんだ。
出会って1日経っていなくとも。
俺は元の世界からいきなりこの世界に来てからチワとの出会いまでをすべて話した。
愚痴もあった。怖かった。
自分の気持ちをすべて話した。
チワはそれを黙って聞いていた。
すべてを話し終える。
チワは俺の話を聞き終えそして、俺を抱きしめた。
「ち、チワ?」
突然のことに俺は戸惑った。
「辛かったですねトキヤ様。安心してください。私が必ずそばにいて差し上げます。私はトキヤ様の奴隷です。決して裏切らず、トキヤ様に忠誠を誓います。どんな理由があってもトキヤ様は人殺しは悪い。そう考えるは否定しません。ですが自分を責めるのはやめてください。そのことで悲しむ人もいます」
涙が出た。不思議な気持ちだ。
こんな気持ちになったのはハクちゃん以来だろうか?いやそれ以上だ。
俺はチワを抱きしめながら泣いた。
そしてチワは俺を抱きしめ続けた。
***
「チワありがとう」
抱きしめるのをやめる。
チワは何故か不満そうな顔をしていたが、多分自分の主人が泣いたのが気に召さなかったのだろう。
そういえば武器屋のおっちゃんも休めと言っていた。このことだったのだろう。
人殺しはどんな理由があれ悪いことだ。
その信念は変えるつもりはないし変わらないと思う。人を殺したことも変わらない。
称号もある。
俺はこれからはこの罪を背負い続けなければならない。
それが俺の罪だ。
だから俺は殺した人の分まで生きなければならない。
そして今度は俺がチワを守る。
チワは今朝、助けてもらったと言っているがそれもこちらが楽をするためだ。
亜人奴隷で安くて幼くて扱いやすいと、そう思っていた。
そんな自分が今はとても恥ずかしい。
決してチワを助けたかったから助けたわけじゃない。
チワが助けてもらったと思うのは良いが俺はそんなことなど微塵も考えていなかった。
ただ仲間が欲しいと思った時、偶然雪と重なった。
それだけだ。
俺はただ助けてもらっただけだ。
だから今度は俺がチワを守る。
チワの両親もきっとそうしてチワを助けて死んだのだろう。
なら今度は俺が親代わりになる。そしてチワを害そうとするやつがいたら……殺す。
そう決意をし、眠りについた。