京佳の死、そして綾羽は……。
祝!100話達成です!
最初は一話書けたら即投稿した消したい過去。ですが、今ではこんなにも書いていました。
ここまで書き続けてこれたのは、ひとえに読んで下さる読者様のお陰です!
ありがとうございます!
少しの間沈黙が流れた。それを打ち切ったのは京佳と言う名の少女だ。俺の言葉は心に響いてくれたのだろうか?
「……アヤハよ。……先生は怒るじゃろうな。いや、むしろ我は怒って欲しいのじゃ」
「キョウカちゃん、何を言って……まさかっ!」
綾羽は京佳が何をしようとするのかを察したようだ。それを止めようとするが、アクシオスさん、ルナの《水拘束》は外れない。
両腕の関節、肩、手首、両足の関節、足首、胸の間など、ほとんどの部分に巻かれているのでうまく力が込められないのだ。
……胸⁉︎……やばい、気づいたら目を合わせづらくなってきた。アクシオスさん、ルナ、二人は無自覚か?そうだよな?そうだと言ってくれ。これも性癖の一種……に当てはまる、のか?
他には、俺との戦闘で力が戻っていないってのもあるらしい。俺が回復したらしいが、そこら辺は考えてあるらしいので良かった。
「先生の目的のためには、人の命……魔力が必要なのじゃ。そのために、色々な人を殺して周り、魔力を集めてある。最も、これを知ってあるのは我らや3人目の最高幹部、ボスの秘書ぐらいのものじゃがの……ゲフッ!」
「キョウカちゃん!」
「お、おい!大丈夫か!」
京佳が突然血を吐いた。なんだ?未来の俺の回復が出来ていなかったのか?
「……これは代償じゃ。組織に関する事を口走った裏切り者への」
京佳がそう口を開く。……そう言うことか!口封じなのかっ!この後一度殺した俺が、この子を死なせたくないと思うのはおかしいだろう。でも、それでもこの子を助けたい!
「ハズクさん!私は強制的に情報を割る場合は全身を火炙りだったはずです!一度私自身を見ました!」
チワがハズクに鬼気迫る勢いで尋ねる。
「私のような末端は肉体ごと消しますが、彼女は情報を知りすぎているので、話をした時点で死ぬようにしてあった……と考えるのが妥当です。肉体については……分かりかねます」
ハズクは悔しげに、下唇を噛みながらそう言う。
「アクシオスさん!回復魔法か何かありませんか!」
「無駄じゃ……これは呪い。……今この場に《呪術解除》の魔法を使える者はおらぬ。我はもう助からぬ」
俺はアクシオスさんを頼ろうとして、それを京佳自身に止められた。まじでか!……もう、無理なのか?……いや、諦めるな!人を生き返らせるほどの力を、俺は仮にも持っているんだぞ!それを使えば……使え、ば……。
その力を使えば助けられるはずだ。だが、今の俺にはその踏ん切りがつかない。未来の俺なら使ったかもしれない。いや、間違いなく使っただろう。
「うるさい!怪我人は黙って回復魔法でも掛けてもらえ!アクシオスさん!」
「わ、分かった!」
俺は京佳の言葉を無視して、アクシオスさんに回復魔法を掛けさせる。実際に効果があるのかなんて分からない。でも、掛けなければ、絶対に効果は出ないし、後悔する。そう思ったからそうしたのだ。
「アヤハよ。お主は好きなようにしろ。情報は我の命と引き換えに話したのじゃ。アヤハの生き様ぐらいは我に決めさせろ。代わりに、我の知る情報を全て話す」
「キョウカちゃんっ!なんでっ!なんでこんな事をっ!」
京佳の提案を聞き、綾羽は必死に暴れて京佳の元へと向かおうとするが、アクシオスさんたちの《水拘束》は解けない。
「あなたが!あなたたちが居なければっ!」
綾羽は俺たちをすごい形相で睨みつけながらそう叫ぶ。
「やめよアヤハ。間違っているのは我らじゃ」
「でもっ!」
「アヤハ、いい加減自分で考えて行動できるようになるのじゃ!命を賭けた戦いの時も結局、我に二択を問い詰められてやっと答えを出したではないか!我が居なくなった時、お主はどう生きるのじゃ?……我からの、最後の願いじゃ……自由に生きよ……ゴフッ!」
「キョウカちゃん!」
京佳がまた血を吐いた。……チワの話だと、末端の敵は焼死体となるらしい。だが、何故この子はこんなにも長く生きていられるのだろう?
……仮にも結構な戦力のはずだ。なら、呪いが間違って発動した場合に、緊急措置を行える可能性もあるのではないか?……そのためのこの長い時間だとしたら……。
いや、今考えたのは自分にとって都合が良いだけのただの妄想だ。第1、そのための時間があったところで、ただ京佳を苦しませるだけで、呪い自体を解く方法は無い。……いや、俺が『狂化』を使ったなら、もしかしたら……。
なんで、今ここにいるのは俺なんだろう?未来の俺なら出来たかもしれない。でも、それでも……今の俺には決められない。その覚悟が無い。だから、こうして京佳が死ぬのを見ていることしかできないのだ。
「……先、生は……スキルを使って……自身を強化……できるのじゃ。他にも……物凄い装備品……が、いくつもある。……組織の……構成員は……約80名……。その内戦えるのは……約30名じゃ……ガハッ!ゲホッ!ゲホッ!」
京佳の口から次々に組織の情報が出てくる。だが、それを話す体力にも限界が近づいている。現に今も、吐血を繰り返し、体が痙攣し始めている。
「トキヤ君!やはり私の回復魔法も効かない!このままでは……あと30秒、持つかどうかだ」
アクシオスさんが悔しげにそう言う。魔法騎士団団長とも言われておいて、少女一人を助けることすらできないのだ。この悔しさは計り知れない。
「くそっ!せめてヘプトがいたなら!」
ガルーダさんが、ヘプト?と言う人がと言う事を言っていた。その人なら《呪術解除》も出来るのだろう。
「お主……名前は……?」
京佳はそんな事を聞いてきた。
「……トキヤだが?」
俺はとりあえずそう答えた。
「トキヤ……アヤハを……頼む。……最後に……ギルドマ……」
「キョウ、カ、ちゃん?……キョウカちゃん?……ねぇ、本当は起きてるんでしょ?いつもみたいにからかっているだけなんでしょ?……ねぇ、目を開けてよぉ!……お願いだからさ……」
綾羽は先ほどまでの暴れていたとは思えないほど大人しくなった。少しずつ京佳の元へと近づいていく。俺は京佳の亡骸を抱きかかえて、綾羽の元へ近づけようとするが……。
「触らないでっ!……私のキョウカちゃんに触らないでっ!」
綾羽は親の仇でも見るような目で俺を睨みつける。俺はその気迫に圧倒され、硬直したように動けなくなってしまった。
「トキヤ、少しの時間離れておこう。……俺もこう言う場面には何回か遭遇しているからな。今のトキヤでは、いるだけ邪魔だ……言い方は悪いがな」
「あ、あぁ……」
クラディスの忠告を聞き、俺はぎこちないながらもその場を離れる。それに合わせて、他のみんなも離れた。今のあの場には、綾羽と亡骸の京佳、眠った白い虎だけだ。……なにあの白い虎?
「トキヤ、あれは白殺虎よ。獣魔皇の一角で、トキヤがボッコボコにしたの。一応最強の魔物の一角なのよ?物語にも出てくるし」
ルナは俺が疑問に思った事をそのまま教えてくれた。
「そう……なんだ……」
俺はそう上の空で答えた。その様子をチワ、ルナ、ハズクは見逃さなかった。
***
(……キョウカちゃん……私、どうすればいいのかな?キョウカちゃんは私の意思で行動しろって言ったけど……私、何をすればいいのか分からないよ)
綾羽の場合、昔は先生に、現在はボス、京佳の命令や言う事ばかりに従っていた。でも、綾羽はそれを苦とは思わなかったし、制限などもされていなかった。いや、正確には命を、自分の意思を制限されていたが。
綾羽は京佳の亡骸の顔に手を当て、髪を少し触れる。サラサラとしていて、とても触り心地がいい。口元の血も、綾羽は自分の服で拭いているので、寝ているようにしか見えない。
(キョウカちゃんはあの男に私を託した……だって、頼むって言った。……だから、次に私はあの人の言う事を聞けばいいの?)
綾羽は京佳の思いを探っていく。
(……でも、それならそこに私の意思は介入できない。自分で考えて行動しろとキョウカちゃんは言った。……だから、私はあの人を頼りながら、自分で生活しろって事?)
(でも、それなら私は先生……ボスの元に帰りたい……はず。だって先生は私の命の恩人だもの。……でも、ならどうして先生はここに来てくれないの?呪いが発動したなら、先生ならわかるはず……。そのための長い時間を、キョウカちゃんは苦しんだのに。先生は私たちを見限ったの?だって、あの男は私たちと同類なのに、なんで戦っていたの?私たちはもう、用済みだったって事……?なら、今更私が戻ったところで……)
綾羽は知らない。自分たちが死んだ後に、そのボスが現れ、その死体を見ても眉ひとつ動かさず、生きかえらそうともしなかった事実を。
綾羽の心は実に不安定だ。もともと不安定だったが、ボスや京佳に半端依存していた。その依存対象を、同時に失ったのだ。
今の綾羽に残っているのは、京佳の最後の言葉だけだ。綾羽はそれを自分なりに、初めて自分で考えて行動を開始した。
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あと、私のもう1つの連載作品の
『普通を求めて転生したら、剣の勇者の息子で杖の勇者になっちゃった〜剣技と魔法で最強〜』
も、是非読んで見てください。