#2 アコガレ (1)
次の日の朝、いつも遅刻ギリギリにダッシュしてるオレたち双子は珍しく余裕で学校に着いていた。理由はただひとつ、小林真咲少年を案内しなきゃいけなかったから。
正門近くまで来ると、あちこちから主に女の子たちのざわめきが聞こえる。まぁ無理もない。オレたち双子が揃ってこんな時間に登校なんて、滅多に見られるもんじゃないからなぁ。なにせオレたちは栄子ちゃんいわく“稜星で一、二を争うアイドル”だし、おまけに今日は見慣れぬ男子中学生が一緒だ。…男子中学生、といっても制服が男物だからかろうじてそう見えるだけなのだが…。ホント、律とちょうど反対だな。
「なんか…いろんな人の視線が痛いんですけど…。」
真咲がつぶやく。と、律が笑って返す。
「無理もないよ。転校生なんてシチュエーション、このガッコでは滅多にないから。」
「…いえ、僕が転校生だから目立ってるんじゃなくて…なんか、なんとなく、お二人が両サイドにいるから目立ってるような…。」
真咲がオレと律を見る。ちょっと困惑顔。うーん、その表情、男にしとくのもったいないなぁ…じゃなくて。
「そりゃ仕方ないさ。だってオレたちほど目立つツーショットないもん。」
カラカラカラ…真咲の困惑顔を笑い飛ばす。
「? …お二人はこの学園内では有名人なんですか?」
ケラケラケラっ。さらに笑ってしまった。ゆーめーじん、ねぇ。
「あれ、言ってなかったっけ? オレ、稜星の生徒会長。んで、こっちは副会長。」
オレは笑いながら自分と、そして律を指差して言う。真咲は目を大きく見開いた。あ、口も開いてる。
「ええぇっっっっ!!! 稜星の、生徒会長と副会長!? …確かここって、生徒会役員は生徒からの投票で決まるんですよね?!」
「そ。だから生徒からの人望が厚い…つまり学園のスーパースタァしか選ばれないってコト。」
「…自分で言うなよ。」
律の乾いたツッコミはとりあえず無視しといて。
「ちなみに智史は会計だよん。」
そう付け加えると真咲はさらに驚いて、溜息のように呟く。
「陸上部のエースでさらに生徒会役員…すごいなぁ…。」
「ちなみにさらに付け加えると、智史、陸上部の部長でもある。」
律がさらにの上乗せをすると、もう無条件降伏、って感じ。
「早く会いたい?」
律が聞くと、真咲は目を輝かせて頷く。
「じゃさ、昼休み、生徒会室に来いよ。オレたちそこで昼メシ食ってるから。あ、弁当も持って、な。」
「はいっ!」
おーお、いい返事。
そうこうしてるうちにオレたちは靴箱にたどり着く。オレと律はそれぞれ自分の靴箱で靴を履き替える。…おっと、ここは高等部の靴箱だった。真咲は中等部だからこっちじゃなくて…。
「逸先輩、律先輩、おはよーございまぁす!」
廊下側から可愛く明るい声がオレたちを呼ぶ。目を上げると、きゃるるんっと元気な笑顔の女の子が二人。中等部3年2組の、志信ちゃんと比呂美ちゃんだ。
「おはよ。今日も元気いーねぇ。」
「もちろんですぅ! あれ、転校生、ですか?」
志信ちゃんがオレの隣の真咲に気づいて問いかける。あぁ、そうだ。真咲も中等部3年生だっけ。
「うん。二人と同じ、中等部3年。」
「そういえば先生が転入生が来るとかこないだ言ってた気がする…。」
「え、そうだっけ。じゃあ、うちのクラスかな?」
「だったらちょうどいいじゃん。志信ちゃんと比呂美ちゃんに案内してもらったら?」
律が靴履き替えながら横から口をはさむ。オレも今同じこと言おうとしてた。
そうと決まれば話は早い。
「真咲、この子達同じ中等部3年生。こっちが佐々西志信ちゃんで、こっちが森比呂美ちゃん。」
「小林真咲です。よろしくお願いします。」
「小林くん、ね。よろしくねっ。」
「んーとじゃぁ、先に職員室案内したほうがいいのかな?」
志信ちゃんと比呂美ちゃんは、きゃいきゃいと小鳥のよーにはしゃぎながら真咲に話し掛ける。うーん、適任に出会えてよかった。
「んじゃ志信ちゃん比呂美ちゃん、真咲のこと頼むね。あ、それと昼休み、真咲生徒会室に連れてきて。」
「はぁい。了解でーす。」
「じゃぁ、まずは職員室職員室っと。」
「よろしくねー。」
職員室に向かう三人にオレと律は手を振る。
さて、教室に行きますか。と踵を返す、と。
「今の…誰? 転校生?」
挨拶もなしにオレ達に問い掛ける声。声のした方向を見ると、朝練を終えてTシャツ・短パン姿の智史が、靴を履き替えていた。
「智史!」




