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#1 タソガレ (3)


「おーまーえーなぁっ! 栄子ちゃんよりゲームのほうが大事かっ!」


 ばすんっ。オレはソファに鞄を放り投げる。オレの双子の片割れは、視線を画面に戻して言う。


「だってオレ、一昨日と昨日、二日連続栄子んちまで送ってったんだぜ? 今日は彼氏呼ぶからいいよって、あいつが言ったんだし。」


「用があるって言ったそうじゃねぇかお前っ。」


「二日連続逸にゲーム先越されるの悔しいからつい。」


 律はぺロッと舌を出して笑った。こーいーつーはっっっ。


「つい、ってなぁっ!」


 言いかけて止まってしまった。テレビの画面見て、愕然としてしまう。オレが二日連続ゲーム占拠して辿り着いた画面、通り越してやがる!


「何でオレより先進んでんだよっ!」


 律の首しめて揺さぶる。がーっっっ、悔しいっ!


「ぐぇ、やめろ逸バカっ…」


「しかもそのTシャツ、オレんじゃねぇか! 勝手に着んなよ!」


「…苦しいって! 放せよ!」


「いいかげんにしてよ二人とも!」


 律の声より大きく、怒った声がオレたちの背後から飛んできた。二人して振り返る。由が、仁王立ちしていた。オレははおとなしく律の首から手を放す。


 あ、忘れてた。オレは由の後ろにさっきのストーカー少年の姿があるのを見て、思い出す。そーだ、由とこいつ、どうなったんだろ。由と一緒に家の中に入ってきてるってことは、こいつの想いは成就したってことか?


「誰これ。」


 律が少年を指差して問う。


「あぁ、由のストーカー。」


 オレが答えると由が即座に否定する。


「違うのいっちゃん。話聞いてあげて。」


 そう言って由は少年を振り返る。少年はおどおどして話し出す。


「あ、のぉ…、僕、小林真咲(こばやしまさき)と言います。えと、新藤先生に、ここに来るように言われて…それで。」


 新藤先生。ウチで“先生”なんて呼ばれ方するのは親父くらいだ。親父、弁護士だから。


「親父が? 何で?」


 問うと少年は今にも泣き出しそうな表情で言う。おいおい、男だろ。


「…新藤先生に、聞いてないですか?」


 オレたち兄妹は三人とも首をかしげる。ここんとこ親父の顔見てないんで聞くも何も…。だいたい最近親父、家帰ってきてるのか? それすら知らんっつーの。確か母さんの話では今けっこう厄介な仕事を抱えているとか…。母さんは親父の事務所で事務をしているから、要するに母さんも忙しいのだ。ゆえに今日のように由が夕飯を作っているとゆーわけ。ま、それは余談だけど。


「…ひょっとしておとーさんの今やってる仕事に関係あるのかな…。」


 由が呟いた。うん、今オレもそれ思ってた。うんうん、って頷いている律もきっと同じだろう。


「ま、由の今言ったことはあながち間違いでもないが。」


 突然ドアのほうから声がした。オレたち三人と少年はその声のしたほうをいっせいに見る。


「親父!」


「おとーさん!」


「新藤先生!」


 オレと律、由、そして少年が同時に声をあげる。居間のドアにもたれかかって、親父が立っていた。


「早かったんだね、真咲くん。」


 親父は少年に笑いかける。少年はホッとした表情で少し笑い返す。


「で? こんな時間に突然帰って来て、見知らぬ少年家に呼んで…」


 律が短く溜息をついて言ったので、オレもその後を続ける。


「どーいうことなんだよ? ちゃんと説明してくれよな。」


 と、親父は首をかしげる。


「あれ、言ってなかったか?」


「聞いてねぇよ。」


 即答。律とハモってしまった。そうだったっけ、と親父はまた首をかしげたが、まぁいいかってな感じでやっとこの状況の説明をし始める。


「今日からウチで預かることになった、小林真咲くんだ。」


「はぁ?!」


 またオレと律はハモってしまう。思わずあんぐりと口開けちまったぜ。…前言撤回。状況説明なんかじゃ全然なかった。


 律を見る。と、オレとまったく同じ表情で律もオレを見ていた。由もちょっと困惑した顔をしている。オレたち双子はまた同じタイミングで親父と少年…小林真咲を交互に見つめる。


「ちょ…それ、どーいうコトだよ。いきなり帰ってきていきなりそんなコト言われても…わけわかんねーよ。」


「そーだよ。だいたいウチで預かるって…ウチには年頃の女の子が二人(・・)いるんだぞ? ふつー預からねーだろーが。」


 オレが親父に文句を言い始めると続けて律もそう言った。…ん? ちょっと待て。ウチのど・こ・に年頃の女の子が二人もいる?


「年頃の女の子が二人って…由と、ひょっとして…まさか律、お前のこと、か?」


 オレが今ひっかかった点について、親父が聞き返す。すると律は鬼のよーに怒る。


「ったり前だろオレだって女なんだから!」


「律…その口調と態度じゃまぁぁっ…たくその台詞、説得力ねーぞ。」


 はぅぅ…。溜息まじりにオレが言うと、親父も頷く。


「逸の言うとおりだ。…ほら、真咲くんが驚いてるじゃないか。」


 親父の言ったとおり、小林真咲少年はただでさえ大きな目を、飛び出してポロリと落ちてしまうんじゃないかっていうくらいに見開いていた。律とオレをその大きな目で見比べて、呟くように弱々しい声で言う。


「…お、んなの人、なんですか…? ごめんなさい、僕…お二人とも男だと思ってました…。」


 ぶすっ、としてる律の横でオレは大笑い。小林少年は間違ってない。初対面で律のこと女だってわかる奴なんかいるわけねーよッ。外見もオレと同じ(いや、オレのほうが格は上だけど)美少年ッ! だし、声だって口調だって、女らしさのかけらどころか細胞もない…これで一発で女だって言える奴の顔が見てみてーよ…っっうぐっ。…あんまり大笑いしてたんで、律に殴られた。


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