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#6 タガタメ (3)


 二十分ほどでS駅に到着。人通りの多いスクランブル交差点の向こう、真咲に指定されたスタバが見える。けっこう人がいるなぁ…。


 信号が青になる。オレはまっすぐスタバを目指して歩く。ようやく太陽の日差しも西に傾きかけ、幾分涼しい風が交差点を通り抜ける。


 店内は混み合っていて、席もなさそうだ。とりあえずオレは真咲の姿を捜す。…店内ぐるりと見渡してはみたものの、真咲の姿は見当たらない。


 …まだ着いてないんかな?


 そう思った、その時。


「…新藤逸様、ですね?」


 大人の男の人の声と共に、肩を叩かれてオレは振り返る。オレを呼んだ男の人は、このクソ暑いのにぴしっっとスーツを着こなした、落ち着いた感じの…あぁ、この人見たことある…何処で会ったんだったっけ…。


 思い出せずにぽかんとしていると、その人は困ったように微笑んで口を開く。


「あぁ、すみません。小林真咲の後見人の、湯浅と申します。一度、お会いしましたよね?」


 …思い出した。真咲の後見人…前に、智史がストーカーと間違えて捕まえた人だ。


「覚えてます。その節は、失礼しました。」


 今更だけど慌てて謝罪すると、湯浅さんはまた微笑んで首を左右に振る。…なんつーか、温和な人、だなぁ…。


「お呼びだてしてしまってすみません。真咲様ももうすぐこちらに到着すると思うのですが…。」


 湯浅さんはオレに申し訳なさそうに言う。あんまり丁寧なので、こちらこそ先に着いてしまってすみませんと謝ってしまいそうになる。


 目の前の席が空いたので、とりあえずオレと湯浅さんはそこに座る。湯浅さんはオレに注文を聞くと、ぱきぱきとカウンターにオーダーしに行く。う〜ん、真咲、いつもこんな待遇なのかぁ…なんか、どっかの王子様みたいだな。


 しかし…。


 オレはぼんやりと店の外を眺める。学生やらサラリーマンやら買い物中の女の人とか…あらゆる種類の人々が、スクランブル交差点を横切ってゆく。


 …湯浅さんまで来るってことは、真咲の言う「姉のことで相談」って何だろう…。よほど大事な話なんじゃないのか…? お姉さんに会える♪…なんて浮かれてる場合じゃないのかも…。


 さっきまでの自分をちょっと反省していると、湯浅さんが戻ってきた。オレの頼んだアイスのキャラメルマキアートをオレの前に置いて、自分のエスプレッソをテーブルに置きつつ、座る。


「飲んで、待ってましょうか。」


 にっこり、湯浅さんがまた微笑む。柔らかい表情は、人を和ませる力がある。


 オレはキャラメルマキアートを一口飲む。が、あまりに暑かったので、すぐに半分以上一気に飲んでしまった。喉が渇いていたのだ。


 湯浅さんは柔和な顔のまま何も語らずそんなオレを見ている。


 …あれ…、おかしいなぁ…なんか、急に、眠気が…?


 こんな時になんでオレ、眠くなっちゃうかなぁ…。ぶんぶんぶんっっ…と頭を振って睡魔を追い出そうとするが、到底かなわない。


「すみ…ません…、なんか、…眠くて…」


 コーヒーって、目を覚まさせる効力があんじゃないのか? でも全く正反対に、オレの瞼は今にも勝手に閉じようとする。


「真咲様が来るまで、少しお休みになってはいかがですか?」


 湯浅さんの優しくささやくような声が、どんどんフェードアウトしていく…。


 とうとう、オレは、意識を手放した…。それ以降のことは、次に目を覚ますまで、何も覚えていない…。




 逸の腕がだらり、とスタバのソファの外に落ちる。…すっかり熟睡しているようだ。湯浅は逸の腕を戻してやる。が、全く起きる気配はない。


 にっこり。湯浅はその口元にまた笑みを浮かべ、自分の胸のポケットから携帯を取り出し、どこかへ掛ける。


「…加藤? 大至急、車を回してくれますか? …そう。S駅前のスターバックスまで。」




「栄子、あれ…お前の友達じゃないか?」


 時は十数分後、S駅前スクランブル交差点、スターバックスの横の雑貨屋でローズクォーツの指輪に目を奪われて手にとって見ていた栄子は、彼氏のその声に振り返る。


「え? なに?」


 栄子が指輪を元あった場所に戻して彼のそばに行くと、彼はスターバックスの入口付近に目を向けている。つられて栄子もそのほうに目をやる。


「…逸くん?」


 …制服は、稜星の制服。うなだれているので顔はよくわからないが、褐色がかった茶色い髪の色とかほっそりとした体のラインとか…逸に似ているといえば似ている。かちっとしたスーツ姿の三十代半ばの男性が、その肢体を抱えている。もう一人の、スーツの男性…こちらはノーネクタイで、ちょっと堅気っぽくはない感じの男が、横付けしてあるワンボックスの車のドアを開けている。


「意識、ないような感じだな…。」


 栄子の彼氏が呟く。…妙な胸騒ぎが、栄子の体を駆け巡る。…なにが、起こったの?


 はっとして栄子は逸の元へと駆け寄っていく。しかし逸はワンボックスカーに乗せられて、車は発進していってしまった。


「なんか、嫌な予感がする…。」


 栄子は去っていってしまった車の方向…綺麗過ぎる夕焼けの方向を見つめて、そう呟いた。




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